「彼女たちは勇敢に戦った、防衛都市より内側で発生したジグモを見事駆除した。我々は戦死したパイロットたちに感謝するとともに、永遠の安らぎを願うばかりで……と。誰でも思いつきそうな面白みのない誤魔化し方ですね。こういう陳腐な記事も私は嫌いではありませんが」
「大衆向けにゃ〜わっかりやす〜いほうがウケるからね〜。仕方ない、仕方ない……で。まぁ〜終わるワケなかったんだ〜けどな〜。コレオちゃんがギフテッドかもよ〜って参加したこと、そ〜れなりに広がっちまってっからさ〜。評判は……いや、オレ様、いっぺんロジャーにブン殴られるのも覚悟してたんだ〜けんどな?」
「私がお前を殴ってスッキリするよりも、コレオに対する貸し借りの話に持っていったほうが利益になると判断したまでのこと。それに、私にも落ち度がある。コレオなら、逃げることを躊躇わないなら……多少、ホーエンハイムの家名を貶められたところで問題ないと軽く考えていた」
大事なことから順番に。
まず俺のギフテッド疑惑。こちらは保留扱いになっている。理由は新聞に書かれている通り、少なくない死者を出してしまって評価どころじゃないから。
ヴィッシュおじさんも多少の被害は覚悟していたが、どうやらパイロットだけでなく錬金術士と観測基地のスタッフまで犠牲になった人がいるそうだ。
素行が悪くても技術はあるし装備は本物、だから戦えばそれなりに戦えてしまう彼女たちが慎重さを保てるはずがなかったのだ。
窮鼠猫を噛む、草食動物だって必要なら肉食動物に立ち向かう。いくらジグモがインセクトの中では臆病だとしても、巣穴を荒らされて反撃しないワケがない。
さて、それで今回の作戦は俺がギフテッドかどうか確かめるための茶番でしたなんて公表できるだろうか? そんなことしたら遺族はキレるし国民も不信感を抱くに決まってる。そりゃ誰だって誤魔化そうってなる。俺だってそーする。
次、ヴィッシュおじさんについて。
明らかに暗殺計画でした本当にありがとうございます。でもチートスキルが運命変わったって言ってるからもう大丈夫なのだろう。
違ったとしても俺は知らん。我が身可愛さでも日和ったのでもなく本気でなにも知らないんだから手助けのしようがない。
それに事情がわからないのに、まさかどストレートに今回の任務はヴィッシュおじさんを殺すのが目的だったみたいですよなんて言えねぇンだわ。何処で誰が聞いてるかわかんないし、そもそも見せられるような証拠も無いし。
レーダーのジャミングに関して報告したときに一瞬だけだが飄々とした態度が硬直していたので、任務の裏側で悪巧みをしていた連中がいましたよ〜って訴えは届いているはず。
それはそれとして想定外の危険地帯に向かわせてしまったことは普通に謝罪されたので、結局どこまで知っていて俺を動かしたのかはよくわからないままである。
もしかしたら本当になにも知らなかった可能性もあるかな? 俺の評価はそれはそれで本物で、暗殺計画はまったく別に仕組まれていた。それぞれが独立した計画だったのに、偶然にもガッチャンコしてしまったのが今回の騒動に……みたいな。う〜ん、迷惑! ちゃんとコンセンサスしとけや。
そしてホーエンハイム家の評判だが。
落ちました〜! 人の口に戸は立てられぬ、それが他人の失敗大好き貴族社会ならなおさらのこと。
だって出世するなら自分で努力するよりソッチのが楽だから。人間なんてそんなもんだ、だが許し合う気はないからな?
もちろん一番風評被害を食らうのは当事者である俺。外向けにはなにも宣伝してないのにアイツなんかギフテッドらしいぞと勝手に騒いで、ただ王命なら全力で頑張りますと応じただけなのにアイツ自分でギフテッドを名乗っておきながらなにも活躍していないと失望された。
不幸中の幸いは父ロジャーはこの部分に関しては想定済みであったということだ。繋がりのある貴族たちへの根回し、というか子育て雑談で俺のことは話していたので特に何事もないのだとか。
なんか好奇心旺盛で言葉遣いを含め物覚えが早いこと、遊びの延長で錬金術の練習をしていること、鉄が地面の下から採れると知って庭に大穴を空けたこと。早熟であることをギフテッドと呼ぶなら我が子も当てはまるな〜ぐらいの話は普段からしていたらしい。
問題は繋がりの薄い貴族たちのほう。なんか俺のせいでギフテッドの可能性がある子どもは今後、危険な方法で判別されることになってしまったと不満をぶつけてくる輩がいるとのこと。
俺から申し出たのならまだしも、俺だっていきなり上からなぁお前ギフテッドだろ! ギフテッドなら証拠置いてけ! されたのに、いつの間にか責任転嫁されてやんの。
俺だけピンポイントに狙われるならそれでも耐えられたが、ホーエンハイム家として批判されるとなると……ルカニまで巻き込まれるのはちょっと許せんよなぁ?
「自称ギフテッド、今後は名乗り出る人も減るのでしょうか?」
「どうだろうな。いままでは実害が無ければと放置されていたが、今回の一件で能力を証明できなければどう扱われるのか示された。普通に考えれば、我が子に不必要なリスクを背負わせるなどあり得んのだが」
「むしろ、自分たちなら失敗したコレオ・ホーエンハイムより上手くやれる、より優秀で有能であると証明できれば……ですか?」
「大人しくても危険なインセクトはいくらでもいる。大森林壁の、いや、この話はもう少し大きくなってからにしよう。まぁ、なんだ。いまのお前には閲覧権限のないインセクトがいて、それは決して手出ししてはならないと大陸条約で各国が同意している個体なんだが」
「なにも知らないバカがそういう個体に手出しをするリスクが少し増えたかもしれない、と。なんなら、なぜ危険なのかを考えるより先に、そんな危険な個体を討伐できれば成り上がり大成功! みたいなことですね」
「ちなみにだ〜けんど、それ、マジでや〜っちまったらよ? 国家反逆罪、適用されっから。学校に通えば習うけ〜どよ、大陸条約って、タダのお約束じゃねぇ〜んだわ。コレオちゃんも逃げないとダ〜メだかんね〜?」
「戦いませんよ。死にたくないので」
でもどうせ遭遇することになるんだろうなぁ。
だって運命の輪なんて大層な名前のスキルツリー出てきたし。
せめてもの救いは、行儀見習いに出されている間は強制的に大人しくするしかないってことだ。俺たちはルールを守っているんじゃない、ルールに守られているんだ。平穏が約束された2年間、大切にしながら勉強を楽しまないとな!