古き良き手口。
貴族たるもの、失敗の責任から逃げてはならない。
貴族的に美しくないからね。
自意識過剰の咎人となってしまったコレオ・ホーエンハイムは、早急に反省を促す必要アリということでローゼンクロイツ領に行儀見習いとして送り出されることになりましたとさ。めでたし、めでたし!
なお、我が弟ルカニと専属メイド令嬢のリリー嬢とマリーネ嬢からはガッツリ不満が噴出した模様。それでも貴族教育のおかげか、これは政治的駆け引きで俺を守るために必要な措置だと理解はしてくれた。ま、理解できるからこそ納得したくないこともあるのが人生だよ。
ちなみにふたりはルカニの専属メイドにジョブチェンジしました。本人たちがまさに行儀見習い中なのに、まさか連れて行くワケにもいかないので当然の配置換えである。
そうでなくてもホーエンハイムの家の名に頼らないよう気をつけないといけないし、俺もうっかり誰かを使おうとしたり、偉そうな行動が出ないよう気をつけないと。
と、いうことで。
作業着を詰め込んだカバンを担いでホーエンハイム領を出発し。
首都グランマガザンで高速鉄道を乗り換えて。
やってきましたローゼンクロイツ領ってね!
ふむ、ふむふむ。
良い意味でクラシカル? 大人が本気でアレンジしたシル◯ニアファミリーのようなオシャレな街並みの……ダメだこりゃ。才能ナシ。俺の例え話のセンスはチートスキルでもフォローできないらしい。とりあえず紅茶とワッフルとかデニッシュが似合いそうな空気感だ。
で。
そんな空気感を真っ向から否定するような軍人スタイルの若い女性が3人ほど壁際に立っている。いうてこの世界、パイロットやってる女の人って皆見た目が若いから年齢なんてアテにならないんだが。母メルティナも大学のキャンパス歩いてたら見学に来た高校生に間違われるんじゃなかろうか?
あ、目が合った。
とりま会釈だけしとこ。
……って、コッチ来たぞ?
「失礼します。コレオ・ホーエンハイム様ですね? ようこそローゼンクロイツ領へ。行儀見習いの件で、ゼノビア様よりお世話を任されております」
「あ、わざわざどうも。本日からお世話になります」
「お車へご案内します。荷物を」
「ハッ。コレオ様、どうぞ」
「いや、あの、私は勉強のために来たのであって、そうした扱いはあまり適当ではないのでは……?」
「はい、いいえコレオ様。我々にとって貴方は大切なお客様ですので。どうぞ、ご遠慮なく」
「は、はぁ……」
軍人としての立場とか、俺がまだ知らないルールがあるのかな? もしそうなら断るほうが迷惑になっちゃうし、ここは素直にお任せするとしよう。
「お騒がせして申し訳ありませんでした」
「いえいえ、お気になさらず」
わざわざ駅員さんに挨拶してる……なんて礼儀正しいんだ……ッ! あー、いいね。安心する。こういうのでいいんだよ、こういうので。
しかし代表して挨拶した女性、というか女の子? が一番階級が高いとか、小隊長とか、なんかそんな感じなのだろうか? なんとなく魔力の気配はウルフ隊やハウンド隊の人たちに近い強さを感じる。かなり小柄なのに。
「こちらです。小型の輸送車しかご用意できませんでしたが」
「いえ、大丈夫です。むしろ高級車のほうが不慣れですので」
「そうでしたか。では、お先にどうぞ。……ん? 失礼、1度、ドアを閉めます」
「あ、はい」
なにやら話し合いが始まったな。トラブルって感じでもないし、出発前の安全確認とかだろうか?
なんか本格的に貴族扱いされてんな……泥塗れでオッサンたちと一緒に荷台に乗って移動してた日々のほうが間違ってたと言われたら反論できないんだけど。
……ふわぁ、っと。
なんか平和なせいか眠気が……。
「それでは出発を……おや? おやおや……コレオ様、短い時間ではありますがお休みになりますか?」
「いや……それ、は……ゼノビア様に失礼だから……」
「ここしばらくのご多忙さは聞き及んでおります。とうぞ、わたしの膝などで良ければお貸ししますよ。さぁ」
ん、んん……こりゃ、本当に……だ、な……。
挨拶中に、あくび……す、る……より……は……。
▲▼▲▼
「……さま。…………さま」
んん?
なんか頭の上から声が……って。
「うぉッ?! え、あ、す、すみません! なんか本気で寝てしまったみたいで────はぇ?」
「おはようございますコレオ様」
目の前に美少女の顔がッ! ……なんて驚いてる場合じゃないぐらい状況がおかしいんだが?
車の中で膝枕されてたはずが、全然違う施設の、いや、この振動は列車? なんで?
ベッド! 映画でよく見る、壁に鎖で引っ張る簡単な折り畳みのヤツ! なんでぇ?
「さっきの、なにが────フォルティス王国のパイロットスーツじゃない?」
「フフフ……コレオ様の好みには合いませんか?」
「いえ、似合ってます」
「おや、おやおや……迷いの無い即答でしたね。お褒めに預かり光栄です」
ペコリと頭を下げる女の子。
膝の上で両手を揃えているところがキュートで……じゃねぇッ!
「失礼。そろそろ目覚めて……おや? 丁度良いタイミングだったようだ。ごきげんよう小ホーエンハイム卿、粗末な寝台で歓迎する形になってしまい申し訳ない」
状況を理解する前に新キャラで畳み掛けてくるのはルールで禁止ッスよね? なんか急に戦艦の船長みたいな格好の老紳士が出てきたんですけど?
と、とりあえず、なんかフレンドリーな雰囲気だし……挨拶は返すのが礼儀だよな……?
「粗末だなんてとんでもない。最高級の枕を貸していただいたおかげで良く眠れましたよ。高級過ぎて利用代金としてなにを支払えばいいのかわからないのが心配ですがね」
「はっはっは! どうやら小ホーエンハイム卿は遊び心も嗜んでおられるようですな! なに、そう身構える必要はありません。ただ、そう……ギフテッドである貴方の錬金術士としての力を、我が祖国【テナクス戦闘国家】の未来のために少しだけ、お貸しいただけると助かりますかな?」
すみません、注文いいですか?
この“平穏が約束されていたはずの2年間”ってヤツください。大盛りでね!