「ローゼンクロイツ卿は貴方の到着を楽しみにしておりました。だからこそ、ゼノビア夫人は信頼できる者として愛娘に出迎えるよう指示したようですが……パイロットではなく母親として判断を下すようでは未熟と言わざるを得ませんな」
「ゼノビア夫人のご息女、メディア嬢は特に射撃において素晴らしい才能の持ち主だと聞かされていましたが」
「それは我々のほうでも把握しておりますよ。ですが、それでも所詮は子どもです。平民同士のお出かけの約束でしたらまぁ、子ども同士の送迎だろうと別に気にするほどのことでもないのでしょうがね」
「……国内にインセクト以外に警戒するべき対象がいる可能性を少しでも考えていれば、そもそも私がひとりでローゼンクロイツ領まで赴いたことが間違っている」
「ですな。ちなみに、本来であれば貴方が到着する30分前にはメディア嬢は駅で待っている予定でしたよ。どうやら本物のギフテッドである自分が、偽物のギフテッドを時間通りに迎えに行く必要などないと、ご友人たちとティータイムを楽しんでおられたようですな。いやはや、相手側に責任感が欠落した無能がいると仕事が捗って助かりますなぁ」
「平和は人を腐らせる、なんて言葉は私は嫌いなのですが……少しだけ、自信が無くなりそうですよ」
「平和は尊いものです。それは自分も賛成ですよ。しかし、それは軍務に関わらない一般人に許された特権でありましょう。戦闘要員に危機感が足りないのはいただけません」
「だとしても、ずいぶんと大胆に私を連れ出しましたね? 結果的に成功したとはいえ、リスクも相当だと思うのですが」
「そこは、まぁ。少しズルをしました。自分は少しだけですが、都合の良い結果を引き寄せる力がありましてな。いわゆる“本物”というヤツです」
本物のギフテッド……だと……ッ!?
都合の良い結果を引き寄せる力、そういうのもあるのか! つまり俺のスキルツリーみたいに、本物のギフテッドはなんらかのスキルを持っているってコト? そんな話、1度も聞いたことないんだが。
情報漏洩を防ぐために秘匿する義務がある、なら父ロジャーが俺に注意なり警告なりしていなければおかしい。そもそもフォルティス王国では当たり前のようにギフテッドという単語が飛び交っていたので秘密もクソもない状態だったぞ?
んん〜。
なんか、まだ思い違いしてんのかな?
「それは、未来を先に知ることができる」
「残念ながら、そこまで強い力ではありません。それに、少々不親切な部分も多い。この度の計画が動き出した時点では、小ホーエンハイム卿がまさかギフテッドの証明のために巣穴調査を命じられるとは思ってもいませんでした。つまり、答え合わせが始まるまで“何故そうするべきだったのか”がわからないのです」
「軍隊という人も予算もロジックで動くべき組織としては有効であっても運用には問題がありますね」
「良いですな。ギフテッドだからと盲信するのではなく、冷静に評価してくださる。やはり不確定の危険を承知で貴方に接触したのは正解でした」
「その能力について隠さず話したことも、貴方が欲する未来のために必要な選択なのですか?」
「さて……どうでしょうな? そうそう、申し遅れましたが、私のことはひとまず【船長】とでも呼んでください。さぁ……そろそろ我が祖国が見えてきます」
疲れていたのは事実だったのか、窓から見上げる空は薄暗い色をしている。まさか12時間以上眠りっぱなしとはなぁ……。
なんだかんだ身体も心もストレスが凄かったのかもしれない。だからってお休み中の強制国外旅行は嬉しくないサプライズだが。
そんで。
「あれが……」
「如何ですかな?」
「工場? こんな時間まで明るい……それに、煙突が多い」
「お国柄の違いですな。優秀な錬金術士は15歳になると例外なく中央に栄転しますので、地方の防衛都市では機械加工に頼らねばならんのですよ」
「これはこれで人類の叡智ではあると思います」
「意外でした。笑わないのですな?」
「笑う理由があるんですか?」
「……はい、いいえ閣下。お褒めの言葉をいただけたこと、感謝いたします」
なんのこっちゃ?
ヨーロッパの産業革命もそうだけど、環境だなんだと言ったところで機械による大量生産が生活水準を大きく底上げしてくれたことは事実。その便利さに頼っておきながら文句を言う連中のほうがどうかしていると思う。
もちろんフォルティス王国の、ホーエンハイム領の雰囲気は気に入ってる。ただ、インセクトという脅威に対抗する手段を確保するために空気が悪くなるのを承知で工場建設しました、は選択肢として当たり前というか必要なことだろう。優秀な人材は安全な中央で独占とかいう、テンプレのようなアホやる連中が政府動かしてるなら余計にな。
「ご安心を。小ホーエンハイム卿を狭い工場に閉じ込めるようなもったいない真似はいたしませんとも。まぁ、少し予定が変わった行儀見習いとでも思っていただければ」
「その言い方だと2年後には帰れそうですね」
「もちろん。ご実家のほうにもその前提で感謝状を届けさせていただきました。いやはや、メルティナ夫人に大人しくしていただくための文面が完成するまで二ヶ月もかかりましたよ」
「……一応、聞くだけ聞きますが。私の家以外へのフォローは」
「そんな、とんでもない! 他国の貴族同士の話し合いに余計な口出しなど、国際問題になってしまうではありませんか」
あ〜、ハイハイ。この人、そういうタイプの人ね。イメージ的にはどこぞの機動兵器ウォーズ作品なら敵キャラなのにメンタルコマンドが本気のラインナップで優秀で厄介な人物だってプレイヤーが一発で気づくヤツね。
なら、メタ読みするなら2年以内に帰れるってのは本気で言っているだろう。戯けた調子ではあるが、船長のスキルで予測? した国際問題として騒がれないタイムリミットがそこなのかもしれない。逆に、チートを自重しなくていいって意味では逆にね? 確かに勉強にはなるんだけどさぁ……世界はもう少し俺に手心を加えろよ。