ほー、いいじゃないか。
人が生活するために増改築を繰り返して“こうなっちゃった”感に溢れた町並み。軽トラがギリギリすれ違えるかどうかしかない道端で、両脇には雑多なお店から活気のある声が聞こえてくる。
なにより意外だったのは。
「煙突からでる煙……魔力の流れを感じる……いや、どちらにせよ不安定な波長だ。人体にとってはあまり良いモノではなさそうですね」
「果樹の育成には役立っているようですがね。もっとも、由来がこの有り様ですので輸出産業としては歓迎されないでしょう。汚水で育てた麦がどれだけ大粒に実っても、それで焼き上げたパンを喜んで食べたいかは別の話というワケですな」
それでも知らなければ食べられるのが人間なのだ。素晴らしきかな雑食動物人類、なるほど食糧事情が明るいなら活気があるのも納得できる。生物が争う理由の半分なんてほとんどが食事だもんな。
屋台の匂いもホーエンハイム領とは違う気がする。こっちはより味付けの濃いジャンクフードのような、より労働者向けの塩味が強そうな匂いがする。そら串焼き片手に麦ジュースをガブガブ飲むオッサンも大勢おりますわ。作業着に着替えてなかったら浮きまくりやったぞ。
「失礼、自分は次の仕事がありまして。後日、また、改めてご挨拶させていただければと思います」
「はい、こちらこそ。なにも知らないところを親切に色々教えていただきありがとうございました」
「ハハッ、小ホーエンハイム卿は皮肉もお上手でいらっしゃる」
「船長のように悪事で手を汚すことを躊躇わない善人には、この野郎よりもありがとうのほうが心に刺さるでしょう?」
「それは……いやはや、なんと申しますか……参りましたな、これは……では、自分は急ぎますので」
背中を向けても、帽子で目元を隠す動作に動揺が出とるぞ船長。
フフンッ、一本取ってやったぜ。ざ〜まぁ〜!
こういうモノローグで地獄に落ちるかもしれないが、どれだけ恨まれても構わん! みたいな自分語りしてそうなヤツにとっては不満をぶつけられるほうが逆に許しみたいなところあるから。だから俺はさらにその逆! 感謝の言葉で殴ってやるぞ!
▲▼▲▼
「それではコレオ様、仕事場に案内させていただきます」
「仕事場、ですか。錬金術士として働くなら、せめて素材は────鐘の音? 起床の合図かなにかでしょうか?」
「いえ、これはただインセクトの襲撃を報せているだけです」
「そうですか、インセクトの……いや、なんて?」
「襲撃です。少なくともこの街ではいつものことですよ? 防衛都市ですから」
「たし、かに……誰も気にしている、人が、いない……か?」
「あの叩き方はムカデが来た合図ですね。それも、緊急性のない。えぇ、いつものことです。せいぜい10メートルほどしかない小型の可愛らしいサイズが出たのでしょう」
いや、知ってるよ?
勉強してるから。
この世界のムカデは普通に50メートル級とかいるから。よくある25メートルプールに折り畳まないと入らないレベルのデカいヤツが普通に敵対生物として存在するの勉強して知ってるのよ。
でもね?
その上で、目線が同じ程度の身長の美少女から体長が10メートルしかないムカデは小さくてカワイイねって言われてみ? 脳がバグるで。……虫だけにバグ、ってねッ!
「日に何度か、いつものことです。小型のムカデですからね、外骨格も素材として加工しやすいですし、大型の個体と違い身もそれなりに美味しいのでムダがありません」
ムカデ食べるの?
さっきの串焼きって、そういうコト?
でも俺も田舎のおじいちゃんおばあちゃんの家でイナゴの佃煮食べたけど、そんなに悪くなかったし……友だちと一緒にスズメバチの料理を出す旅館に泊まったときも見た目はアレだったけど味は良かったし……蜂の子の入ったきりたんぽみたいなのが美味しかったんだよな。
いや、そんなことより。
「畜産の代わりになるほど頻繁にインセクトの襲撃が……ホーエンハイム領とはなにが違う? なにかインセクトを引き寄せる……そうか、これも工場の煙が」
「おや? おやおや……そのような話は誰からも、中央政府からも……どうやら常識や認識の違いを確かめる、という点でもコレオ様のご助力は我々に必要だったようですね」
オイオイオイ、急にきな臭いじゃないの。
いやなに言ってんだ俺。ここに連れてこられた時点で脳ミソが鼻から垂れ流しになるレベルでクセェんだよ夜勤明けの飲み会の空気に惑わされんなって。
ふぅ、危ない。
俺は冷静さを取り戻したぞ!
さぁ、見せてもらおうか。ギフテッドとして連れてきた俺に用意された仕事場とやらを!
▲▼▲▼
「その、疑問の声もあったのですが……船長が、コレオ様を案内するのに相応しい場所はここしかないと……決して、コレオ様を侮辱するような意図は無い、はずなのですが……その」
「いや、大丈夫。船長は正しい選択をしています。さすがはギフテッドだと、感謝を伝えておいてください」
案内されたのはゴミ山でした。
コレ全部好きに使っていい、ってコト?
最高かよ。