インクリメンタル☆アルケミスト   作:はめるん用

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パパはいつでも忙しい。

 ホーエンハイム家長男の行儀見習いが諸(・)事(・)情(・)により予定が変更されたため、現在ホーエンハイム・ローゼンクロイツ両家の協議により日程の再調整中である。そんな報告を受け取ったとある王族おじさんが嫌な予感に胃をキリキリさせていたころ。

 

 

「ロジャー。テナクスを探らせていた草が戻ってきた。やはり今回の一件、向こうの中央政府は関与していないようだ。それと、キミの大事な息子の居場所も突き止めた。コレオ君はいま、フラメル領で……あー、その、ゴミ山を実に楽しそうに切り崩しているそうで……これが、その映像なんだけど……」

 

「……間違いなくコレオだな。土ブロックを使って、今度は建設まで始めたのか……なにやっとんだアイツは」

 

「あぁ、やっぱり本人なんだね……部下もまさかとは思ったものの、特徴は一緒だったからと……いや、領主の役目を妻に任せていたとはいえ僕も領主貴族だからさ、責任を果たし領民を護るため自害するつもりでいた身としては、友人の息子が無事だったことは素直に喜ばしいことなんだけどね?」

 

「ルカニが自信満々で言っていたことは事実だったな。コレオにとっては世界そのものが工房のようなもの。工房で自由に遊ぶ錬金術士を心配する者はいない。だから兄上のことは心配無用です……と。何故、護衛をつけなかったのだと吐くほど後悔していた私はなんだったんだ……」

 

「そちらのほうも調べてある。と、いっても簡単な聞き込みだけでしかないけれど。少なくともローゼンクロイツ領では30年ほど前から国内の移動について、安全面での意識が露骨に低下している。信じられるかい? 王族の行儀見習いを受け入れたときですら、護衛を付けずに本人だけを送り出しているんだよ?」

 

「奇遇だな、ホーエンハイム領でも同様だった。護衛を軽んじているワケではないのに、何故か行儀見習いだけ当然のように必要ないと考えている。これで決まりだな、明らかに異常だ」

 

「テナクス側が……なにか、仕込みを?」

 

「コレオを連れ出すために、そんな昔から産まれるかもわからない子どもになにを期待してそんなことをする? それに、そこまで大掛かりな仕掛けを施すなら政府が関与していないのはどういうことだ? それなら知らぬ間にフォルティスに【クロアゲハ】が侵入していて精神が汚染されていたと言われたほうがまだ現実味がある」

 

「やめてくれ、縁起でもない。フォルティス王国どころか大陸が滅びてしまうよ」

 

「ん、すまない。冗談でも口にするべきではなかったな。だがやはりおかしい。フラメル領の現領主カテリーナ・フラメルが若過ぎる少女だという話は聞いたことがあるが、愚かな女だという話は聞いたことがない」

 

 

 連れ去られた、と主張するにはあまりにも楽しそうにゴミ漁りをしている我が子。

 その姿に目眩を覚えそうになりながらも、ロジャーは父親としての私情を押し殺し冷静に状況を分析する。

 

 仮にコレオの錬金術士としての能力に興味があったとして、それならば正式な手続きを踏めば正々堂々と送り出すこともできた。

 テナクス戦闘国家はロジャーの価値観とは相容れない統治の国ではあるが、大森林壁を監視する大陸の盾としての矜持は認めている。少なくとも交渉の余地すら無いほど嫌ってはいない。

 

 

「先方からの手紙の内容は実にシンプルだった。コレオを利用することへの謝罪と、2年以内に必ず無事に返す約束。そしてコレオの行動の決定権は常に本人にあることを……結果、テナクスが滅ぶことになるとしてもそれを保証し実行する、と」

 

「覚悟と決意は伝わるけれど、それでよくメルティナ夫人が納得したね?」

 

「パイロットだからな。煩わしい飾りの言葉も無かったし、私たち男にはわからないな(・)に(・)か(・)があるのだろう。そうでなければ私もここまで冷静になれない。もっとも、必要になればテナクスまで友人たちを連れて遊びに行くと言って、いまも倉庫で【ノクターン(専用FA)】と愛用の武装を磨いている」

 

「そのときは僕も全面的に協力しよう。罪滅ぼしとは言わない。失態の責任は別にある。メディアについても────」

 

「そちらは必要ない」

 

「しかし、今回のことは親子でも、いや、実の娘だからこそ領主から公務に関わる指示を出されていたのだから」

 

「責任を取らせるつもりがあるというのなら、私からはそのまま泳がせておくことを要求する。私とお前が曖昧なまま、馴れ合いでアレを許したと勘違いさせておくことで釣り出せる者もいるだろう」

 

「まぁ、キミがそれで良いなら僕は構わないが……」

 

 

 お咎め無し、とは許されることと同義ではない。

 

 それは謝罪の機会が与えられないということであり、名誉を取り戻すための機会を与えないということでもある。ただ静かに失態を犯した事実だけが残り続けるのだ。

 だからこそ撒き餌になるとロジャーは確信している。何者かがメディア・ローゼンクロイツを唆したのであればそれで油断を誘えるだろう。もしもただの愚かな娘であれば、いまは関わるだけ時間の無駄でしかない。

 

 

「……む、いかんな。領主として私情より国益と領地の安全を優先しなければならんというのに、どうも雑念が混ざるな」

 

「僕の首が欲しくなったらいつでも言ってくれ。ゼノビアには生きて責任を果たしてもらわなければならないのでね。ついでに義肢の研究も引き継いでくれると助かるなぁ。どうだろう? コレオ君に話したら僕の研究に興味を」

 

「やめろド阿呆。まったく……どいつもこいつも私の息子をなんだと思ってやがるんだ……ッ!!」




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