完成品が目の前にあれば、すぐに真似ができる。
そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました。
「……ムカデの残骸を回収するのも命懸け、ですね」
「む? まぁ、そうだな。大抵の場合、1度襲撃が落ち着けば2時間ぐらいは何事も起きないが、別に誰かがソレを保証してくれているワケではない。だからこそ、お前がクラフトした大型スナイパーライフルに価値がある」
属性バレルユニットの分析と再現を終わらせるよりも、試作ライフル25丁の納品を終えて防御壁の上に案内してもらう権利を得るほうが先でしたとさ!
銃身の内側に規則的に張り巡らされた属性ガラス繊維のパターンを紐解くのが想像より遥かに難しかったよ……。
銃身そのものはスキルでクラフトした物を使って、外側にFメタルを貼り付けて補強するほうが早いかもしれない。
もちろん自作を諦めるつもりはないが、さすがに試作ライフルの実戦投入に同行することを認められたとなれば優先順位も変わる。
マーテルさんが持ってきてくれた意見を参考に、改良を重ね細長くスリムになったこれがムカデ相手にどの程度効果を発揮してくれるのか。
牽制ぐらいはできるらしいが、所詮は人間用のハンティングライフルがベースだ。落ち込む覚悟はしておこう。割り切っているつもりでも、やはり期待を捨てるのは難しいからな。
パイロット候補生たちは配置についた。
予備のマガジンも注文通り用意した。
壁の向こう側では、ムカデの残骸を集めていた回収班が撤収を始めている。
酷く、臭う。
風に、空気に、不快な臭いが混ざっている。
ゲームなら、簡単に繰り返しが可能なゲームなら防衛陣地の配置も簡単に整えられる。
どうすれば効率的に敵を倒せるか、何度でも気軽に試しながら最適解を探すことができる。
だけど、この世界ではどうだ?
雑多に見える陣地だって、いまの形に落ち着くまでにどれだけの血が流れたのか……と、想像した。してしまった。
だから、酷く臭う。
傭兵たちに守られたまま“安全に”インセクトと対峙したときには感じなかった死の臭い。
ジグモの奇襲に焦っていたことなんて、可愛いモノだったと思い知らされる。
くそったれ。
あの命令は決して間違ってはいなかった。
この空気に比べれば確かに安全だよ、防衛都市の内側に残ってるインセクトの巣穴ぐらい。
そりゃ、騒がんよ。
トルメンタさんも、シェーネスさんも、傭兵の皆も、普通に協力してくれるわな。
そうだ。
この臭いを、この感触を。
知っているから、余計に。
俺は、確かに、1度────。
「む……ッ! 少年、大丈夫か?」
「正直、あまり。見学が防壁の上で助かりました。防衛陣地まで足を運んでいたら、死者の声に取り込まれていたかもしれません」
「そうか。優秀すぎるのも考えものだな。だが、不愉快だとしてもその感覚を忘れてくれるなよ。決してな」
「臆病でなければ、戦場では生き残れない……という類の話ですか?」
「違う。戦場がどういう場所なのか忘れるな、という意味の話だ。少年、お前のクラフトした武器が、いまを生きるパイロットたちを死者の声から護ってくれることもある。お前がソレを忘れない限り」
錬金術はイメージが大事。
なるほど、父ロジャーの教えは本当に
ただ武器の完成した姿形をイメージするのではなく、そこにパイロットの無事を重ねることが大事なんだな。真心をキミに、建前ではなく全力の本気で彼女たちの帰還を祈って。スティーリアさんに武装をプレゼントするときの参考にしよう。
「む、そろそろか」
「レーダーに反応が?」
「女の勘だ。それに森の向こう、微かに動いている。飢えたムカデどもが移動を始めた」
パイロットとしての経験則、というワケか。
実に頼もしい。
……俺も似たようなことできねぇかな?
なんとなく。
そう、リリー嬢とマリーネ嬢がトルメンタさんに挑んだときに“なんとなく”強さを理解できたみたいに。
イメージは……決まっている。
始めてアシナガバチと目が合ったときの、あの感覚を思い出して、引き伸ばすように、森の奥へ向けて────。
…………。
…………。
……ッ! 捉えたッ!
うわキモッ。
無機質でドロドロした魔力の塊がモゾモゾしながら押し寄せてくるの普通に気色悪いなコレ。
う、う〜ん……タワーディフェンス系は見下ろし型の視点が多いから特になにも思わなかったけど、一人称視点だとこうなるのか。
「用意はいいか? 少年、お前の役目はなんだ?」
「自分のクラフトした武器の働きを見ることです。予備のマガジンも候補生の皆さんにお任せしました」
「よろしい。────来るぞ。総員ッ! 構えッ!」
出た。
出てきた。
全長10メートル級の、それでもこの世界では小型のムカデの群れ……ッ!
やっぱり、ところどころ殻が変質しているんだな。魔力を餌として取り込んでいるうちにそうなる、って。
アシナガバチもジグモもそうだったし、そこが資源として利用価値が高いのは知っているが……魔力の流れを追いかけていると、そこだけグチャとしてて頭が痛くなりそうだ。
「訓練通りにやればいいッ! 忘れるな、お前たちはひとりで戦っているワケではないッ! 落ち着いて、冷静に狙えッ! ……放てッ!」
マーテルさんの号令に合わせて、俺も双眼鏡を構える。
火薬ではなく魔力で撃ち出される弾丸に派手な音はない。
風が空気の壁を切り裂きながら、一瞬で遠くまで、まるで飛行機雲のように一筋の線を残して。
俺のクラフトした武器が、インセクトに直撃した。