「変態と天才は紙一重って言うじゃん?」
「バカと天才な」
「変態と比べたら紙一重じゃなくない? 私ら凡人から見ればどっちも一緒じゃん」
「それな〜! でさ、例の錬金術士の少年」
「おぅ、上のひよっ子どもの武器を作ったってヤツな」
「どっちだと思う?」
「ん〜、天才ってコトでいいんじゃね? 見てみ、ムカデのほう」
防衛陣地でムカデの大群を迎え撃つ。
彼女たち正規の守備兵にとっては何年も続けている日常業務であり、各々が展開している武装の射程距離に侵入してくるまで雑談に興じるのもいつも通りのことだった。
そこに変化があるとすればひとつだけ。いつの間にかゴミ山に住み着いていたひとりの錬金術士の少年がクラフトしたというライフルの弾丸により、押し寄せるムカデの波に楔が撃ち込まれているということだ。
長距離狙撃そのものは珍しくない。
ただ、それをパイロット候補生たちが担っていることが異常。
一発ごとにムカデの動きが止まり、後続に引き裂かれる。正規の守備兵ではない候補生が、一発につき一匹仕留めているのだ。
なんと素晴らしいコストパフォーマンスだろうか。手の空いた守備兵が前に出られるぶん、防衛陣地を突破されるリスクを減らせるのもありがたい。
「自分たちで街を守っている実感を、という話だったが……目に見える成果が嬉しいのはわかるが、調子に乗らなければよいが」
「少しぐらい大目に見てやれよ。アタシらだって上のヒトらには迷惑かけて育ってんだからさ」
「それでダメなら〜、センパイからの愛のあるキョーイクの時間ってヤツじゃん? ウチの場合はママのゲンコツだったけどね! アタマ割れるかと思ったし……」
「バカども、雑談はそのへんにしておけ。……戦闘用意ッ! ひよっ子どもが張り切っているんだ、無様を見せるなよッ!」
『『『『了解ッ!!』』』』
▲▼▲▼
「フッ……だろうな。まさか後輩たちに情けない姿は見せられまい。もっとも、それは我々も同じだがな。遊撃隊、準備はいいか?」
『『『『イエス、マイロード』』』』
「よろしい。スティーリア」
「はい、カテリーナ様」
「新型ライフルの状態はどうか?」
「問題ありません。いつでも、戦闘命令を」
「うむ。……ところで」
「はい?」
「お姉ちゃんのぶんの新しい武装とか、コレオくんから預かってたりしないの?」
「しません。貸しません。お断りします」
「まだなにも言ってないよ!?」
「これから言うつもりだったでしょうに」
「むむむ〜! ちょっとみんな〜? スティが反抗期なんですけど〜!」
『『『『カテリーナ様が悪い』』』』
「なんでッ?!」
「日頃の行い、ですかねぇ……」
「戦闘面では信頼してますけど、普段がちょっと」
「頼りにしてますよ? 一応ね、一応」
「自分の屋敷から脱走するような領主でも見捨てない程度には期待してますよ〜」
「執事のトラックスさんとライムさん親子に1回と言わず100回ぐらい土下座して誠心誠意感謝しろよオメーとは思っていますが、ちゃんとお慕いしています」
「ねぇスティ、お姉ちゃんこれでもフラメル領の領主なんだよ。そこで好き勝手言ってる連中に合わせてウンウン頷いてる遊撃隊の皆を率いる隊長でもあるんだよ? 酷くない?」
「皆さん。いつも通り、フラメル領に暮らす人々の安心と安全のために、どうか本日もご協力のほどよろしくお願いします」
『『『『了解ッ!!』』』』
「お、おのれ〜! ……っと、頃合いだな。総員、今回の戦闘はスティーリアが託された新型ライフルの戦闘評価も兼ねている。
テナクス戦闘国家は豊富な鉱物資源に恵まれている。
しかしそれは、国内にそれだけの鉱脈が────インセクトの住処となる山岳地帯や渓谷が点在しているということでもあった。
故に、FAも複雑な地形での戦闘を想定した設計に偏る。
それは充分な広さの戦場でムカデの大群を相手にするフラメル領でも同様であった。
本来であれば、構築した防衛陣地で戦うのであれば機動力よりも火力に特化したFAをパイロットたちに分配するべき……なのだが。
「────甘いな。その程度の速さで」
「────、────ッ!?」
ムカデは前方への突進力に優れているが、その反面全くと言っていいほど後退することができない。
また、関節の多さから横方向への反応は速いのだが、頑丈な外骨格が互いに干渉してしまうので後ろに振り返ることも難しい。
それに対して領主カテリーナ・フラメル自ら率いる遊撃隊が展開するFA・ビショップ03は急加速と旋回能力に優れた機体である。
なればこそ、前進するばかりのムカデの背後に回り込むことなど容易いこと。
だからこそ、防衛陣地は最後の護りとして前に出て戦うことが最大の防御となる!
「まず一匹」
「────ッ?!?!」
部下たちがどう思うかは別として勇敢なのは間違いない、カテリーナの大型ショットガンが一撃でムカデの頭部を吹き飛ばしたッ!
それを合図として、群の前方に並ぶムカデたちの動きが変化する。戦闘の興奮が伝搬したのだろう、獲物の気配を探す高速移動から、獲物を捕食するための低速移動に切り替わった。
当然、長年ムカデの駆除を続けてきたフラメル領のパイロットたちは余裕をもって変化に対応できる。気配が変化したところで外骨格による可動域の制限が緩和されるワケでもない、引き寄せて噛みつきを誘発すれば簡単に背後を取れる。
そんな中で。
「────、────ッ!!」
「フフフ……別に、いつも通りの戦い方でも良いのですが。せっかくですからね」
正面からの突進。
避けるタイミングを見誤れば良くて重症、最悪の場合胴体を両断される強靭な顎が迫る。
それを理解した上で、スティーリアは狼狽えることなく。
「────
知らないはずの決め台詞と共に引き金を引いたッ!
レーザーショットの着弾と衝撃音。
僅かにズレて外骨格を貫く金属音。
そして。
「なるほど、内側から全身が焼ける体験は初めてでしたか。奇遇ですね、わたしも“伝わってはいた”ものの実際に観察するのは初めてですよ?」
激しく噴き出す、といった様子ではない。
外骨格の隙間から漏れ出す、という程度の燃焼。
だが地面を抉るほどの勢いで暴れている姿からは、内部の破壊スピードを誰の目にもわかりやすく伝えている。
ときには胴体の半分が千切れても構わず襲い掛かってくるムカデが、獲物を前にして戦闘を放棄するほど悶え苦しんでいるのだ。
さらには。
「……家畜ですら、火の恐ろしさを本能で理解して近寄らないというのに。あぁ、なるほど。ムカデたちには穏やかに燃える魔力の火はエサに見えてしまうのですね。炎に誘われて群がる姿は……フフフ、どこか憐れみすら感じます」
「────集中砲火、撃てッ!!」
新型ライフル、1マガジン40発。
使用したのはたった1発の弾丸だが、それで仕留めたムカデは狙いを定めた一匹だけではなかった。
食欲という本能に抗えなかったムカデたちの無防備な共喰い、それを放置するような間抜けなどいるはずがない!
ふたつ。
みっつ。
スティーリアの新型ライフルから二重奏が響くたびに、残骸の塊が戦場にクラフトされる。
「威力も申し分なく、想定外の成果も得られました。コレオ様に良い報告ができそうですね。……そういえば」
最初の波が落ち着いたことを確認したスティーリアが、焼け死んだムカデに近付き足を1本掴んでへし折る。
パイロットスーツのパワーアシストによる筋力強化とは関係なく、魔力の火に焼かれた影響で脆くなっている感触だった。
ぺき……ぱき……と。
手にしたムカデの足から丁寧に殻を取り除き。
「……はむ。あぐ、あむ……んん、思ったよりもちゃんと火が通ってますね。大変結構、これなら体液の処理も必要ありません。この新型ライフルが量産できれば、インセクトの駆除もずいぶん楽になることでしょう。さて」
遠く、森の出口から次のムカデの群が這い出てくる。
それらを眺めるスティーリアの瞳には恐れも揺らぎも迷いも無い。
そんなモノを感じる余裕などない。
インセクトを一方的に狩れる力を手にした高揚感と、それを与えてくれた武器に込められた願い。
コレオ・ホーエンハイムという優秀な錬金術士が新型ライフルを組み上げるためにイメージしたであろう、スティーリア・フラメルが当然のように勝利する姿。
それらで全身を満たされているいま、余計な感情が入り込む余地など無いのだ。
故に、ただ。スティーリアの瞳には────新たに姿を見せた獲物を歓迎する、鋭くも怪しい光だけが宿っていた。
「おや、おやおや。食材持ち寄りでのご参加、心より歓迎します。それではグリルパーティーを始めましょうか? ご安心ください、しっかりとおもてなしさせていただきますよ。一匹たりとも逃さずに……ね」
少なくともコレオくんの周囲にはこんな感じの女の子が集まります。慣れてください。