リソース管理や稼ぎプレイが嫌いなゲーマーいる? 作:はめるん用
「……それで? コレオが私の仕事を、子どもなりに理解しようとしてくれていることは父親としても領主としても嬉しく思うのは確かだ。しかし、それを報せるためにわざわざこんなモノをお前が持ち込むとは思えんが」
子どもの工作にしては武器らしく丈夫にしようという気持ちが汲み取れる、2本の枝を組み合わせて縛っただけのソレから目を離し────屋敷の主である領主貴族にして、金の獅子を国旗として掲げる【フォルティス王国】がその実力を認める錬金術士ロジャー・ホーエンハイムが侍従長シーマに真意を問う。
親として子の成長の兆しを喜ぶ気持ちに嘘は無く、領主としても錬金術を用いて領民を護るための力になろうと努力する様子は好ましいものである。
が、仮にシーマがそれを口頭だけで伝えたとしてもロジャーは決して疑うようなことはしなかっただろう。貴族の屋敷、それも錬金術士の身の回りを世話する執事やメイドの管理を任される侍従長という肩書きは、能力だけでなく人間性の面でも信頼できる者にしか与えられないのだから。
「あらあら、まぁまぁ。錬金術士として大成したのはよろしいことですが……どうやら
「むぅ……。お前がそういう言い方をするときは、あまり良い思い出が無いのだがな」
使用人が主人に見せる態度ではない。
が、ロジャーはそれを咎めない。
多くの権力者は自身に媚びる者、従う者を好んで周囲に侍らせようとする。だが真に価値ある人材とは、主人に対しても臆することなく苦言を呈することができる者だと知っているからだ。
もっとも、シーマの態度からは“とても楽しんでいます”といった雰囲気が露骨なほどに伝わって来るのだが。ただでさえ書類仕事で疲れているところに渋い表情で深刻な報告を重ねられるよりは……気分的には何倍もマシではある。
それはそれとして、改めて我が子の意欲作をじっくり観察してみるもののロジャーには特別なにか注目するべき事柄があるとは思えなかった。まだ指先に力が入らないのだろう、紐のかわりに何重にも巻き付けた植物の繊維から息子なりの努力は感じるが。
「……はぁ。旦那様」
「ここまで込められた感情が読み取りやすい溜め息もなかなか見ないぞ」
「コレオ坊ちゃまのお立場であれば、欲しいもの、必要なものは我々にお申し付けてくだされば簡単に揃えることができます。もちろん、ナイフなどの刃物やFAの武装などの危険物でなければという前提条件の中で、ではありますが」
「まぁ、そうだな」
「ですが、コレオ坊ちゃまはそのサーベルを生成するにあたって、誰かに紐を用意するよう求めるのではなく、紐として利用できるモノを自らご用意なさりました。細い枝を選び、柔らかくする方法を……試行錯誤の中で、水に浸してから叩いて潰すという方法を思いついたのでしょう」
「……なるほど。必要なモノを、手に入る素材から、自らクラフトする。我が子は、コレオは、正しく錬金術士としての1歩目を踏み出したワケだ」
「錬金術のことは詳しく存じ上げません。他家の錬金術士のやり方も含めて。そして、領主として旦那様が判断しなければならないことについても、私ではお力になれることなど些細なことばかりではありますが……どうか、コレオ様の可能性を潰してしまうようなことだけは」
「あぁ、そうだな。このサーベル、私が貰っても構わないか?」
「でしたら、コレオ様とのお約束についてもお伝えしておきましょう。そのサーベルの素材となった枝は庭で集めたものだから、きちんと庭に還して感謝の気持ちを忘れずに……とのことです」
「わかった。ひとりの錬金術士として、必ずそれを実行しよう」
「それがよろしいかと。では、失礼します」
シーマが退室し、静けさを取り戻した事務室で。ロジャーはもう一度、我が子コレオがクラフトしたサーベルを……魔力にも錬成陣にも頼らない、試行錯誤と創意工夫の結晶である結び目を撫でた。
「整った工房の中で、必要な素材が揃っているのが当たり前の環境から始まった父親と、足りない素材は自ら汗を流して調達するところから始めた息子……か。子どもの成長は早いと聞いていたが、まさか最初の1歩目から先を行かれるとは思わんかったな」
魔力の扱い方を教え、基礎となる錬成陣の組み立て方を教える時期には専用の工房を用意する。それはフォルティス王国に限らず錬金術士にとっては当たり前の常識であった。もちろん、錬金術のクラフト素材となる木材、石材、金属、そして魔石類なども揃えてだ。
当然ロジャーも父親から不自由のない工房を与えられて錬金術を学んできたし、同じように息子のコレオにもしっかりと準備が整った工房を用意するつもりであった。
それはそれでコレオにとって成長の糧となるだろうが……さて、狭い部屋に押し込めることが本当に我が子にとって良いことなのか? そんな悩みの種を新たに抱えることになったロジャーだが、その表情は実に楽しげであった。