危険区域への入り口が人々の生活圏の近くにあるはずもなく、以前のギフテッド証明騒ぎのように輸送車で揺られることしばらく。
深い谷底、いや渓谷って言うんだっけ? の、底のほうに見える大穴を目指して坂道を下って行く。遠目に見てもデカい。手前にある拠点らしき施設が小さく見える。
予定では10日ほど現地に滞在しての調査と言われていたが、なるほど入り口だけでこのスケール。よくあるファンタジー冒険モノみたいに日帰りダンジョン探索とはいかないらしい。
入り口にある拠点の役目は補給物資の管理と資源の移動。
多くのゲームでは手頃な素材として扱われていることが多い銅の輸送が仰々しいのはどうにも不思議な光景に見える。ぶっちゃけ不謹慎だが面白いとすら感じた。魔力伝達力に優れている関係で、この世界なら鋼の剣より銅の剣のほうが高級品になりそうだな?
そんで、王子様のお言葉一発目。
「内部の状況について報告は受けている。だが状況は刻一刻と変化するものだろう? なら、現地にいる者の言葉で直接説明を聞きたい。突入前に得られるはずの情報をあえて無視する理由もないからな」
おぉ!
言ってることがまともだ!
出発前の一人語りではなんか変な感じになってると思ったが、逆に一周回って冷静で的確な判断ができるようになったのか? 自国のクーデターに他国の貴族を当たり前のように巻き込もうとしていた人間と同一人物とは思えんな。
だからってコイツに対する俺の評価がプラスに傾くことはないが。初対面で毒を仕込んでくるようなヤツを簡単に許せるなら、それはもう許した側の頭がイカれてるだろ。もしかしたらハーディ王子本人は本当にそんなつもりがなくて、狂信する部下が勝手にやった可能性も否めないけど。
▲▼▲▼
「ハッ! 特に普段と変わった様子はありません!」
と返答したパイロットに。
「……本当に、なにも変わったことが起きていないのか?」
と念押しするハーディ王子。
そんなやり取りを終えて輸送車は最初の防衛拠点へ。巨大な空洞のなかにもうひとつの防衛都市が! なんて言うと大袈裟になるけれど、陽の光が届かない真っ暗な空間に人工の灯りが散りばめられてる様子はこう……男の子心に響くじゃん? くそぅ、不謹慎なのにワクワクが止まらねぇ。
ふむふむ。パイロットはシフトを組んで、本格的に休息するときはここまで後退する決まりになっていると。
食堂など各種設備で働いているのも様々な理由で退役したパイロットたちが中心で、基本的に一般人をここで働かせることはないらしい。
「基本的に。便利な言葉だな」
「危険手当を求めて男性の錬金術士が。採掘した鉄や銅からインゴットをクラフトして輸送の効率を高めるためですね。本人たちは、より効率的な輸送のために奥の防衛拠点へ移動することを希望しているのですが」
「危険を承知で働いてくれる人材だからこそ、危険から遠ざけたいワケか。こういう意見のぶつかり合いは前向きでいいね。解決しなけりゃならない立場の人にとっては頭が痛い問題だろうけど」
「自衛手段が無いのにパイロットに余計な負担を強いるのは間違いだ、ということで錬金術士側が折れたそうです。きっと自分たちより幼いコレオ様が前線へ同行する様子を見て、また彼らの主張は表に出てくることになるかもしれませんね?」
「文句があるなら船長に言ってくれ。常識の通用しない人間を後先考えずに連れてくるほうが悪い」
「おや? おやおや……。コレオ様はご自身の言動について、しっかり責任と向き合う方だと思っていましたが?」
「向き合うよ、もちろん。だから試運転もしていないカティさんの新型クレイモアの現地改修のため同行してる」
「フフフ、そうでしたね。就寝までの残り時間はどうされますか? 多少であれば周囲を見回るのも許されるかと思います。目ぼしい鉄鉱石や銅鉱石はあらかた採掘されていますので、あまり楽しい散策にはならないかもしれませんが」
「護衛をお願いするよ。少し気になっていることがあってさ」
ハーディ王子の言動が愉快なことになっていると、喋っている内容に気つけていればよかったと、そんなことを考えた影響だろう。ひとつのことが気になると連鎖的にいろんな細かいことが気になるってヤツだ。
ここは、ヨロイムカデの抜け穴と呼ばれている。
決して、ヨロイムカデの“巣穴”ではない。
土を掘って巣作りする虫なんていくらでもいるだろうけど、ムカデの造形ってどう考えても穴掘りに向いてないよな? 顎で土を噛んで運ぶこともできるだろうが、じゃあわざわざ抜け穴なんて呼び方をする必要あるか?
もしかしたら意味の無い言葉選びかもしれないけれど、なにか意図があって抜け穴と呼んでいるならば、当時の人々がそう名付けるに至った経緯があるはずだ。単にアリとかほかのインセクトが掘り抜いた巣穴にお邪魔している可能性も高いけどね。
場違いな子どもがいることを心配する大人の錬金術士たちに、それを言うならスティーリアさんだって年齢的に子どもだろと言い返しそうになるのをギリギリ我慢しつつ拠点の外へ。
んー、とりあえず魔力反応でも探ってみようか?
いうてアリの巣でさえもまともに入ったことがないから、探ったところで発見があるかというと……分析しようにもデータがなぁ。
だがしかし、先入観が無いからこそ見えるものもある。
それに変な物体を見つけても、俺にはインベントリ収納による鑑定もある。仮になにも発見できなくても“異常ナシ”という成果を得られるんだから、部屋でゴロゴロしてるよりはマシだろう。
どれどれ〜。
…………。
…………。
…………。
…………火の魔力?