火の気配が燻っている……のとも違う。
地面の下が燃えている流動性とも違う。
これは……火の魔力の……なんだろう、土が覚えている記憶? なに言ってんだ俺は。
「コレオ様?」
「残り火を感じる。パイロットには」
「……申し訳ありません」
感じ方は違ってもパイロットだって魔力の流れは掴み取れる。そうでなければ戦いにならないし、その感覚を繊細に引き伸ばしてひろげるのがレーダー装備の役目だ。
よほど小さい、いや旧い? ……インベントリの、スキルの反応だから感じ取れた? 人間に理解できないレベルの微粒子でも、そこに存在するならスキルは反応できる、と。問題は分析を担当する使い手の頭がお粗末なことぐらいか。
「高熱で溶かされた跡、と言うにはサラサラとした土と岩の……いや、仮に一年放棄されただけでも風が表面を削るか。誰かが意識して現場を保存したワケでも無し……」
奥底のほうに熱源があるような感触ではない。例えるなら、焚き火とかバーベキューのあとを歩くと靴底がほんのりと温かいような微かなモノ。
十中八九、インセクト由来。だけど虫が火属性の攻撃を使うのはズルくないか? でも虫の中には化学反応で高熱ガスみたいなの噴射するヤツがいたりもするし、この世界なら炎ブレスもあり得るか……。
「スティーリアさんは、地下での戦闘経験はあるの?」
「はい。そこまで多くはありませんが、なんどか配置換えで。日光の届かない地下で長く過ごしていると気が滅入るのはもちろん、実際に体調を崩す方も出てきますので」
「じゃあさ、50メートル級の成虫のムカデのなかに火を吹き出してくるようなヤツっていたりした?」
「火、ですか? いえ……そのような特殊個体が出たのであれば、すぐにフラメル領で、いえ防衛都市全域で共有するはずです」
「それもそうか……」
う〜ん、わからん!
ムカデが土を溶かすようにして巣穴を掘った可能性。溶解液のような毒液を吐き出したりして、魔力反応でドロドロに熱融解。からの、金属だけは半端に溶け残って鉄鉱石や銅鉱石になった。
もしくはムカデ以外にそういうことができるインセクトがいる。そんで、そいつらの用心棒としてのポジションにいるのがヨロイムカデという可能性。あるいはそいつらの天敵がヨロイムカデで益虫だから手を出すなと警告を残した。
いろんなパターンは思いつく。
でも全然絞り込みができない。
やっぱり奥に進んで確かめるしかないか。なんかハーディ王子も自信満々だったし、実は彼もギフテッドかもしれないし。案外、普通に調査をして終わるかもしれないし?
先入観のせいで親衛隊の騎士たちにはあまり期待していないけど、部下の騎士の皆さんは俺の挨拶に対して丁寧なお辞儀を返してくれたからな。頑張ってくれるんじゃないかと勝手に思ってる。
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考えても答えが出ないことに脳のリソースを使うのは時間のムダ。それなら早寝早起きで疲労をしっかり抜いて思考をクリアにするほうが建設的ってなモンだ。
目覚めの空気はいまひとつだけどね! 地上での戦闘のときのような頭痛はいまのところ無いけれど、寝起きで上見て真っ暗なのが地味にメンタルにくる。おぉ、マイサン……太陽万歳。
せめてもの救いは道が整備されていること。
表向きの、上層部への報告は前向きに侵攻するため。
裏側の、現場の意向としては素早い撤退のため。
拠点に置いてある車両系の乗り物たちは全て後ろ向きに駐車してあり、常に運転席にひとり、護衛のパイロットがふたり配備されている。
戦闘国家を名乗っておきながら情けないと思うか、それとも戦闘国家を名乗るからこそ戦いに関しては現実的な判断を優先する集団なのだと受け取るか。
もちろん俺は素晴らしい配慮だと思ってるんだぜ! 生きている限り次はある。人には夢や理想も必要だけど、俺は誰かに惜しまれながら死ぬより嗤われながらでも逃げ延びたい。
なのに、なんで俺は危険が待っている穴底へ向かってるんだろうね?
まったく、朝食にと用意されたソーセージとソテーされたオレンジのサンドイッチが美味しくなかったら不満が爆発していたところだぞ! もぐもぐ。お肉とフルーツの組み合わせも11年も転生者やってると慣れるもんだな。
「それで、遊撃隊は大本命であらせられるハーディ王子殿下が安全に最前線の基地へ赴けるよう先行して安全を……ですか」
「フフン、コレオくん? 優秀な軍人は、上官の命令より先に動くのさ!」
「いや勝手に持ち場を離れるのはダメでしょう」
「私はテナクス戦闘国家の軍人であると同時に、独自の行動権を持つ領主貴族なので問題ありませ〜ん。いまの国王はそのへんしっかりしてるよ。母から聞いた話だけど、会議の場でね。まだ周囲に王子と呼ばれていた陛下は、物資の輸送を盾に意見を通そうとしたクソ通商貴族をニッコリ笑って殴り飛ばしたこともあるって」
「急に戦闘国家らしさ出してくるじゃん」
「他人の命を金貨と一緒に天秤に乗せようというのなら、キサマも自分の命が天秤に乗せられて試される覚悟はあるんだよな? というのが当時の我らが鉄拳王子の決め台詞だったそうな」
「俺も父ロジャーの思慮深さは全く受け継いでいないので文句を言える立場ではありませんが、その国王陛下の第一子が……ハーディ王子、ですか」
「行動力はしっかり父親譲りなんじゃない?」
「ハーディ王子にご自身の拳を痛めるだけの気概があるなら、それでも良かったのかもしれませんけどね」
いまごろ優雅に朝食を嗜んでおられるのか、それとも優雅に美女の温もりと一緒に微睡んでおられるのか。いっそのこと、そのまま後方で報告だけ受け取ってくれるなら楽なんだけど……どうせ前に出てくるよなぁ。