インクリメンタル☆アルケミスト   作:はめるん用

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それらが【天敵】と呼ばれる由縁。

 なにも感じなかった。

 

 親衛隊の何人かが炭の人形に変えられた。

 

 それでも、なにも感じなかった。

 

 

 地上の襲撃に立ち会ったときには確かに感じていた死者の呼び声のようなものは、俺が転生者だから────死の先を行く者だから聞こえてしまうモノだと、そういうモノだと受け取っていた。

 なのに、目の前に並ぶ親衛隊だった人々からはなにも感じない。まるで、人間を構成する“そういう要素”まで焼き尽くされてしまったかのように、あらゆる感情がなにひとつ伝わってこない。

 

 

 ゆっくりと。

 

 また、ヨロイムカデの牙が開く。

 

 再び紅い魔力のラインが輝き出す。

 

 

 マズい。

 

 マズい。 

 

 だが死の気配は感じない。

 

 アレは。 

 

 俺たちは。 

 

 人間はまだ、敵と認識されていない。

 

 なにかある。

 

 どうにか、なにか、生きる手段を。

 

 攻撃じゃなく。

 

 ただの反射的な行動なら……ッ! 

 

 

 

 

 

 

「────コアの出力を絞れぇぇッ!!」

 

 

 

 

 

 

 もうハーディ王子はどうでもいい。

 

 ほっといても生き残る気がする。

 

 親衛隊には声は届かない。

 

 錯乱しているのか、もう次の攻撃に備えてコアが唸りを上げている。

 

 ならば。

 

 ならば、せめて、騎士のパイロットたちを。

 

 

「攻撃じゃないッ! 反応しているだけッ! 俺を見ろッ! なにもされていないッ! コアの魔力に反応しているだけだッ! 出力を絞って、パワーアシストで退避をッ!!」

 

 

 騎士隊の隊長っぽい人が頷いた、気がする。

 

 いや。

 

 伝わった。

 

 伝わったぞッ!! 

 

 さっきの熱波の影響で魔力の流れなんて全然わからんが、騎士たちの魔力ラインの輝きが落ち着いている。

 

 お? 

 

 おぉ。

 

 隊長っぽい人がハーディ王子を掴んで明後日の方向にブン投げた。

 

 まぁ、優先順位はそうだよな。

 

 

 2度目。

 

 来る。

 

 来た。

 

 まるで目の前に太陽のような星が産み出されたかと思うほど強烈な熱風。

 

 

 悲鳴は無い。

 

 誰も叫ばない。

 

 みんなも、本能的に理解しているのだろうか? 

 

 そんな感情的な行動は全てが無意味だと。

 

 

 生き残りは……ふたりぐらいか? 

 

 彼女たちの今後をお祈りしよう。

 

 

 気が済んだのか。

 

 興味が無くなったのか。

 

 ヨロイムカデが頭を動かし……俺を、見る。

 

 

「コレオ様……ッ!!」

 

「大丈夫。いやぶっちゃけ上からも下からも全部漏らしそうだけど大丈夫。危ないから離れてて」

 

 

 かち、かち、と。

 

 軽く牙を鳴らして俺に近寄ってくる。

 

 

「女の、パイロットの魔力は知っていても。男の、アルケミストの魔力は初めて見たか? 好奇心、旺盛だな……」

 

 

 目の前まで迫った牙に触れる。

 

 熱い。

 

 肉の焼ける音と臭い。

 

 だが、どちらも理解できる。

 

 自分の手の平が焼け焦げる現象ですら、自分が理解できる事象だと思えば痛みよりも愛おしさすら感じる。

 

 

 やがて、ピタリと動きを止めていたヨロイムカデが洞窟の奥へ向き直り────良かった、どうやら本日の営業はこれで終わりのようだ。

 

 後退できないムカデの性質はそのままらしく、ぐるりと曲線に銀の鎧が引き返していく。相変わらず魔力のラインが紅く光っているが、それも随分と落ち着いているように見えた。

 っていうか、長ぇなオイ。数百メートル、納得しかない。ぎゃりぎゃりと鎧が擦れる音と、ごりごりと脚が岩肌を削りながら進む音だけが続く。あれほど神経を逆撫でてきた恐怖の音色も、状況が変われば心が安らぐようで……。

 

 

「────うぷっ。お、ごぉッ! うぼぇあ……ッ! ゲホッ! ゴホッ! おぇッ!」

 

「コレオ様ッ!?」

 

「あ……あー、大丈夫。汚いから……」

 

「そんなことを言ってる場合では無いでしょう! お水を」

 

「うん……ありがとう……」

 

 

 ガラガラ~、ブペヤァッ!! 

 

 ふぅ、スッキリ。

 

 

「少年、手を出せ。応急処置だ」

 

「あ〜、どうも」

 

 

 素晴らしきかな、魔法の世界の医療器具。いや医薬品? いつでもどこでも応急処置ができる【生体結合バンド】なる超高性能絆創膏のおかげで手の平の火傷もあっという間に! ……治りはしないけど、鎮痛剤も含まれているから楽にはなる。

 

 

「カティさん。一応聞きますけど、追撃とかします?」

 

「う〜ん、そうだねぇ〜。なんだかとっても疲れたし、今日はもう帰ろうか! 情報の共有が優先かな? ちょっとねぇ〜、さすがのカティお姉さんもアレと戦うのはイヤだなぁ〜って」

 

「向こうは戦ったつもりなんて無いでしょうけどね」

 

 

 部屋の中に虫がいた。

 

 とりあえず殺虫剤を噴射した。

 

 スプレーを片付けてから、まだ虫がいることに気がついた。

 

 でも面倒だし害も無いからどうでもいいやと部屋を出た。

 

 それぐらい。

 

 たった、それだけの出来事。

 

 俺たちは。

 

 人間は。

 

 敵としてすら、見られていない。

 

 

「本来なら、いろいろとこう……外交的な話を俺がするべきではありませんが、このことは父ロジャーにも報告します。よろしいですね?」

 

「私のほうからは特になにか言うことはないかな。あくまで領主貴族であって、法務貴族ではないから。だけど、コレオくんは行儀見習いでフラメル領でお勉強してるワケだし? だったら、どんな体験をしたのかはお父さんにちゃぁ〜んと報告しなきゃだよね」

 

 

 ハハッ。

 

 これ、俺もだけど報告を受ける父ロジャーも頭イタイだろうな。信じてもらえるかだけが心配だけど、まぁ、ダメならそんときはそんときだ。

 

 

 そういえばハーディ王子は……よしよし、騎士隊の人たちが回収してるな。やれやれ、お互いに情けない姿を晒してさ。男なんて偉そうにしてても戦場じゃ役に立たないもんだな? 

 

 

「総員ッ! 撤退ッ! 殿軍は必要ない、全員で速やかに退却するぞッ!!」

 

 

 その言葉が聞きたかった。

 

 えがった。

 

 カティさんが命令できる偉い人で本当にえがったよ。

 

 

 しかし、このまま無手で帰るのもアレだな。

 

 説明するにしても証拠品ぐらい……お? この銀の欠片はヨロイムカデの外骨格かな? コレを持ち帰れば父ロジャーも納得しやすいだろう。我が子だから信じたい、だけでは領主貴族として好ましい判断とは言えないだろうからな! 

 

 よし、何個か拾ってインベントリにも収納しとこ。

 

 

 

 

【ヨロイムカデの外骨格(未熟)】

 

 上質な魔力伝達物質である銀を豊富に含んだヨロイムカデの外骨格。まだ幼い個体のものなので比較的柔らかく、時間を掛けて丁寧に分解すれば素材として使える。ただし既に高純度の火属性を含んでいるため汎用性には乏しい。

 

 

 

 

 …………はい?

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