「大丈夫だ、全ては視えていた」
「銀のムカデは存在した」
「アレがテナクスの脅威となる」
「だから、私は、アレを討伐すればいい」
「ただのギフテッドなど必要ない」
「私には英雄たちがいる」
「大丈夫だ……まだ、視えている。私には視えている。私のテナクスを、私が、英雄たちと共に取り戻す」
「そうだ、選択を……私の役目を間違えなければいい……」
「英雄になるのは私ではない。遥かなる遠い世界から、大いなる翼の女神から祝福された英雄がやってくる」
「私の役目はその英雄を助けること……私が英雄になる必要はない……まだ、大丈夫だ……まだ、視えている……ハハッ、ハハハハ……ッ!!」
…………。
…………。
「ふむ。ハーディ王子がお戻りになったと聞いて馳せ参じましたが、思いのほか元気そうでなによりです。どうやら生き残った親衛隊の……公私別け隔てない献身により、屋内でも運動不足にはならずに済みそうですな!」
「……話はもう、聞いているのだろう」
「もちろんです陛下。まったく、ヨロイムカデが実在していたのであれば先に教えて欲しかったものです。やはり自分はギフテッドとしてはもう限界が近いのかもしれません」
「ハーディの未来はどうなった? 次の国王にはなれるのか? 貴様のギフトなら視えるのだろう?」
「……さて。どうにも、ノイズが混じるものでして」
「テナクスの存続に関わることだ。貴様がその力で我らに尽くしてくれていたことは知っている。父からも、先王からも聞かされている。勿体ぶらずに視えたモノを全て話せ」
「これはこれは……困りましたな。先ほどから申し上げておりますように、私のギフトは限界が近いのです。それに、私の力は未来そのものを視るのではなく、どちらかと言えばそこに至るまでの選択を選別するためのモノでありますので」
「だったらハーディが次の国王になるために必要な選択がなんなのかを教えろ。これは命令だ。貴様が望むのであれば中央政府に貴様の席を用意してやる」
「ハハッ、陛下は御冗談が上手でいらっしゃる。それでは名を棄てた意味がなくなってしまう。自分は裏方業務が性に合っているので必要ありません」
「テナクス戦闘国家の国王が貴様を優遇して側に置いてやると言っているッ!!」
「その暁には自分がハーディ王子を殺害することになりますがよろしいか?」
「な……ッ?! 貴様、なにを言うかッ!!」
「老いぼれは老いぼれなりに、使えないなら使えないなりに、様々な条件で私もギフトを行使してみたのですよ閣下。これでも我が祖国へ捧げる忠義は誰にも負けるつもりはありませんので」
「それでどうしてハーディをこ……ハーディを、貴様が支えるという言葉が出てこないッ!!」
「その場合、国土の半分が────特に大森林壁側が焼き尽くされ、いえ、大地ごと焼け落ちて大穴が穿たれることになりますが、それでもよろしいので?」
「なんだとォッ!? ……いや、ヨロイムカデが本当に存在するのであれば……だがッ!!」
「自分のギフトを頼りになさるのであれば、自分の判断を尊重していただかねば意味がありません。それに、王位継承権を持つのはハーディ王子御一人ではないと……そのための御子たちでありましょう?」
「……ハーディは、ギフトに、目覚めた。アレに国王の座を託すのが最もテナクスの未来に」
「特別に危険と定められたインセクトとの交戦は大陸条約で固く禁止されていることを知らないとは言わせません」
「だが、現場にはフラメル領の領主が」
「指揮官はハーディ王子です。陛下もそれを承認なさっています。そうですな……仮に、陛下や王子、そして此度の悪ふざけを提案した法務貴族たちがそうした方向で調整したとしても、防衛都市を預かる領主貴族たちは皆がフラメル卿に味方します」
「だがハーディはギフトにッ!!」
「……ふむ。陛下、そこまでハーディ王子のギフトを信頼しておられるのであれば、やはり自分は中央には必要ないでしょう。いままで通り、陰ながら
「まてッ!!」
▲▼▲▼
コツコツと乾いた靴の音が響く。
国家の中央都市でありながら、国家の政治を司る重要施設とは思えないほど人の気配が無く静かな通路を、皆から船長と呼ばれる男がのんびりとした歩調で歩いている。
「……ふぅ。困りましたな。目の前で、我が子を殺すとハッキリ言われ、怒りではなく困惑が先に出るとは。駿馬も老いれば芝に躓く、とはこのことですな」
国王の意気地を試すために挑発したのではない。
事実として、船長は本気でハーディを始末するつもりでいた。
テナクス戦闘国家の未来を動かすのが難しいのであれば、範囲と条件を限定的に絞り込んで視ればどうか?
そう考えた船長は防衛都市と、それらを任されている領主たちと、そしてコレオ・ホーエンハイムを中心に添えて可能性を探っていた。
まずは最も絞り込みが容易であるコレオから順番に……という目論見は早々に破綻する。ほんの一瞬だが視えた、視えてしまった巨大な歯車が大量に可動する謎の空間のようなモノ。アレを自分が動かそうとするのは不可能だと早々に見切りをつけて逃げ出したからだ。
ならば、と。それ以外を対象に祖国の未来に紐付けながら、少しでもノイズに邪魔をされない選択を探っていたところ……第一王子ハーディがギフトに目覚めたという報告が届く。それも、自分と似たような未来を見定めるギフトであるという内容で。
違和感はそこから始まった。
いや。
もう少し正しく表現するならば、ハーディがギフトに目覚めてから急に違和感を
テナクスの未来のためコレオの協力が必要だとして、あのようなリスクしかない強硬手段に頼る必要などなかった。中央に悟られては困るというのなら秘密裏に行動すれば良かったのだから。そのために自分は名前と引き換えに自由に動ける身分を手に入れたのだ。
それにスティーリアたちフラメル遊撃隊の人員を動かしていたことも意味がわからない。インセクトとの戦争の最前線から、領主が独自の権限で動かせる貴重な戦力を、僅か数人とはいえわざわざ引っ張ってくる理由がない。ほかに手段が無いのならともかく、自分の権限で動かせるパイロットは何人もいるというのに。
なにかが、おかしい。
それを自覚した瞬間、朝日が霧を晴らすが如く一部のノイズが消え────様々なカタチで祖国が半壊する未来が視えた。
船長のギフトは望む未来に必要な選択肢を提示するもの。そこに理由は付属しない。
ならば、これはテナクスの繁栄のため、1度は祖国が焼かれるのを黙って見逃せと命じているに等しい。
祖国のためなら如何なる手段も躊躇わない、つもりだった。
だが今回ばかりはとても許容できない。
故に探る。
様々な方向性で未来を。
そして船長はひとつの結論に辿り着いた。ハーディ・クロウリー・テナクスが国王となるとき、必ず祖国が1度滅びの危機に瀕すると。
「国家の未来のため、王族を排除する。いやはや、実に……裏方の仕事の極み、ですな。とはいえ、全ては小ホーエンハイム卿を無事にお返しするのが先決でしょう。まったく……自分のような人間が忙しいのは困ったものです」
このあたりの事情はちゃんとクッソしょうもない理由を用意してありますので、読者の皆さんも期待して落胆の準備をしていてください。