テナクス戦闘国家について、ひとつだけ確信したことがある。
食べ物が豊富で誰も困っていないということは、テナクスの国王は有能な人物ということだ。
外敵から国民を守ることを第一としながら飢えさせない。国の政を預かるトップとして大事な2点をしっかり抑えている。
「顔も名前も知らない国王陛下に感謝しつつ……はむ。ンッン〜♪ やっぱり女将さんの作るお菓子は最高だぜ! このブルーベリータルトもまた絶品で……次に食べられる機会がいつになるかわからないと思うと余計に……」
「テナクスって工場の煙ばっかりのイメージだったけど、案外住みやすそうな気がしてきた。そんぐらい美味しいなコレ」
「素晴らしき自然の恵みに祈りを。そこから美味なる喜びを産み出してくれた女性にも感謝を。なのでもう1切れいただきます」
「あんまり欲張ってると、いい加減腹回りにも肉がつくぞ〜?」
現在、ホーエンハイム領から派遣されたお迎えの傭兵さんたち……ホワイトウルフ隊の方々と一緒に旅客鉄道で揺られながらのおやつタイムにて候。ちなみに隊長のトルメンタさんはジャンケンに敗北してお留守番とのこと。
テナクス戦闘国家にお邪魔したときは紆余曲折でコソコソ入国したが、正式に行儀見習いとして処理されたおかげで、帰りはこうして堂々と気を緩めることができるって寸法よ。それはそれとして護衛として傭兵が派遣されたのは妥当な判断としか。
「って、そういえば公務なのに領兵から選抜されるんじゃないんですね」
「ん〜? そりゃお前、アタシらもざっくりと事情は聞かされてるけど、デリケートなんだろ。イロイロとな」
「あぁ、それもそうか。始まり方が普通じゃなかったし。それを思えば、こうして普通に実家に帰れるほうが不思議なんでしょうね」
身構えているときは、フラグは立たないらしい。
ヨロイムカデを相手にゲロ吐いて逃げ帰ってから行儀見習い期間の満了まで、変わったイベントといえばリサイクル業務を街の子供たちに引き継いだことぐらいだろうか?
スティーリアさんやカティさんとの別れも実にアッサリと終わっている。何故なら俺は領主カテリーナ・フラメルから“正式に”依頼を受けてFAで扱う武装を納品しているから。
行儀見習いは公務。公務の最中に交わされた契約がなぁなぁで終わるはずもなく。今後もメンテナンスのために定期的にフラメル領を訪れなければならないという大義名分があるのだ。
ま、それ以外にもスタンライフルとアイスジャベリンを最終的に200丁それぞれ納品して各地の防衛都市に配備されてるから大義名分もなにもガチで仕事として行き来しないとイカンのだが。
皆さん、愉快な領主様だったな〜。
若いインテリの兄ちゃんが作業着でやってきたから工場関係の偉い人かと思って話してたら領主だったり。
唐揚げとかハンバーガーとかガッツリ飯をタップリ差し入れてくれた豪快な笑い方をするおばちゃんが領主だったり。
酔っ払いの爺さんがゴミ山に頭から突っ込んでるのを助けて錬金術について雑談を楽しんでいたら領主だったり。
なに? 防衛都市の領主ってキャラ濃くないとダメなん? どうしよう、俺なんてチートスキル持ってるだけで表に出せる個性なんて持ってねぇよ。やはり頼るべきはルカニだったか……。
「お食事中、失礼します小ホーエンハイム卿」
「船長、なにかトラブルですか?」
「いいえ。ただお別れの前に改めてご挨拶をさせていただければと思いまして。お邪魔でありましたかな?」
「まさか。俺も少し話をできればと思っていました。だから皆さん、威嚇しないであげて?」
「「ガルルルッ!」」
「わんわん」
「はっはっは! これは参りましたな、スッカリと嫌われてしまっているようで」
「ッたりめーだろボケ。上同士で納得したことと、アタシらの信用は別に決まってんだろボケ」
「こっちはロジャー様から依頼としてコレオちゃんの護衛やってんの。プロとして危険人物を警戒するのは当たり前でしょ」
「死んでください」
「清楚なお祈りのポーズしてる人が1番ド直球で辛辣なのなんなん? 申し訳ありません船長、プロ意識であって悪気はたぶん無い……と、思います」
「小ホーエンハイム卿の周囲には愉快な方々がお集まりになるようでありますな! 賑やかで結構なことであります」
「貴方もその愉快な方々のひとりですよ。それで、テナクスの未来は良いモノになりそうですか?」
「さて、どうでありましょうな……。少なくとも眉唾物だったインセクトのデータが事実であったと確認できたのは大きいかと。茫然自失としたまま一方的に敗走することは避けられる、と期待したいところでありますな」
「なんだよコレオ、お前そんなヤベェのとやり合ったのか? どんなヤツだよ、アタシらにも教えろって」
「それは……うん? そういえば船長、口止めとか、そういうのはしないんですか? いえ、閲覧制限のあるインセクトですから不用意に言い触らすつもりはありませんが」
「存在が確認でき、その脅威が発覚したのです。もはや秘匿する意味などありません。むしろ積極的に共有して然るべきであるかと。大陸条約は人命までは守ってくれませんので」
なるほど、で、いいのかコレは?
船長の言ってることが間違ってないのは俺でもわかる。
皆が成虫だと思っているであろうヨロイムカデが、実は幼虫だと知っているからな。たぶんフォルティス王国の地下深くにも普通に生息してるだろうし、万が一に備えて対策を考えておく必要があるだろう。
「では、遠慮なく父ロジャーに相談することにします」
「それでよろしいかと」
「ここで俺の判断を肯定するのも、ギフトによる最良の選択ですか?」
「はい、いいえ閣下。ただそうしたほうが面白そうだと思っただけです」
「ふぇ?」
「以前ご説明させていただいた通り、自分のギフトはそれほど万能ではありません。結局のところ、最後には己の判断力が……未来を欲する意志が試されるのです。で、あるならば、ですよ? ここはひとつ、賭けてみるのも悪くないと考えた次第であります」
「はぁ……?」
なんのこっちゃ。
いやね? ギフトを盲信するんじゃなくて、自分でちゃんと考えて行動するべきだって話をしてんのはわかるのよ。なんでそれが面白そうだから俺を放置するって話に繋がるのかがわからんのよ。賭けるってなにさ?
むむむ。
最後まで掴みどころのないというか、油断ならない人だぜ船長。
そっちがその気なら、少しからかってやろうじゃないの。
「船長」
「はッ。なにかご用でありますか?」
両腕の袖を捲り、黙ってポケットの中からコインを取り出す。
そのコインを持ったまま右手を高く上げ、左手をテーブルの上に。
船長も、傭兵たちも、視線はコインに集中している。
そのままコインを落とし、左手に握り締め────インベントリに収納する。
「船長、落下したコインはいま、どこにありますか?」
「は? それは、まぁ、左手の中であると」
「残念です」
「は……なッ?!」
「おぉッ?!」
「うぇッ?!」
「あら」
インベントリから取り出して、右手でコインを見せつける。
うん、これどっちかっていうと動体視力にパイロットスーツのアシスト効いてる傭兵さんたちのほうが驚くか。ガチでタネも仕掛けもない反則やってんだもんな。
申し訳ないがそっちは勝手に驚いててもろて。
「船長。俺が自由であることを楽しむのは貴方の勝手ですが、本来あるべき結果をデタラメにブチ壊したからといって文句は言わないでくださいね?」
「それは……いやはや、なんと申しますか……参りましたな、これは。閣下、そのコインですが。自分に……譲ってはいただけないでしょうか?」
「どうぞ。こんなモノでよければ」
「ありがとうございます。それでは閣下、次回、我が祖国をご訪問の際には、今度こそお客様としてご案内させていただきます。それでは、自分はこれで」
「こちらこそ、お世話になりました」
後ろを向いた船長、なんかやたらと帽子いじってらぁ。
もしかしてこの世界って手品とか珍しい? まぁ錬金術とか魔法の力とかあるもんな、トリックを楽しむとかそういう発想あんまり無いのかも。わざわざ袖を捲って見せたのも拡張空間の魔法文字が無いこと証明するためだったし。
でもコインを欲しがる程度には驚いてもらえたから良しとしよう。
「コレオ様、なにやら2年の間に愉快な技術を身につけられたご様子。よほどフラメル領での経験は良いモノだったのでしょう。きっと素敵な出会いがたくさんあったのですね」
「そうですね、面白い人はたくさんいましたよ。領主のカテリーナ様がインファイトを好む熱心なショットガン教徒だったりとか」
「前言撤回です。コレオ様、領地にお戻りになったら聖なる炎による甘芋焼きの儀式で散弾の穢れを禊ぎましょう。甘芋の豊かな香りは全ての過ちを赦します」
ルカニ、悪い。
父様、母様。ごめん。
家に帰るの、ちょっと遅れるかもしれない。