気まずい報告ほど急ぐべし。
フッ……故郷の空気が違うと感じるなんて、俺も随分と感傷的になるじゃないか。
もしくは工場が無いから物理的に空気が違うか。空に立ち昇る排煙が見えない環境が久し振り過ぎて逆に違和感あるのウケる。よし、今日は夜空を見あげて星でも眺めようそうしよう。
「────兄上ッ!!」
「ルカニ? わざわざ迎えにきてくれたのか」
「はいッ! 父上と母上はお仕事が忙しいので、せめて僕だけでも兄上をお出迎えできればと思ってッ!」
「そうか……わざわざありがとうルカニ」
「いえ、僕が勝手にやったことで」
「────だが甘いッ!! 甘いぞ弟よッ!!」
「兄上ッ!?」
「忘れたかッ! 我ら兄弟は領主貴族たる父ロジャーの息子ッ! それが衆人環視の中でこのような腑抜けた姿を見せるなど……行儀見習いはッ! 公務はッ! まだ終わっていないッ! 領主ロジャー・ホーエンハイムに報告を完了するまでが仕事なのだッ!!」
「……ッ!?!? そうだ……僕はなにを勘違いしていたんだ……ッ! 兄上は、公務でッ! 国の定めた決まりに従って外で活動していたというのにッ! 僕はそのことを知っていたのにッ! まるで、旅行から帰ってきたかのような気軽さで気安い態度で兄上をお迎えしてしまった……ッ! 僕はッ! 僕はッ!!」
「だがルカニぃぃぃぃッ!! お兄ちゃんは嬉しいぞぉぉぉぉッ!!」
「兄上ッ!?」
「遠い異国の地での行儀見習いッ!! いろいろあったッ!! いやマジでこの場では絶対に話せないような機密にも関わるレベルでいろいろあり過ぎたんだが……そんな日々の疲れもッ!! お前がこうして迎えにきてくれただけで完全回復元気100倍だぞルカニぃぃぃぃッ!!」
「僕のほうこそ嬉しいでぇぇぇぇすッ!! 待っていましたッ!! 兄上ならばきっと、遠くテナクス戦闘国家でもきっと錬金術士として活躍しているのだと信じていましたが……僕はまだまだもっと兄上から学びたいことがあってッ!! ようやく再会できて最高に嬉しいです兄上ぇぇぇぇッ!!」
「ルカニ!」
「兄上!」
「ルカニッ!!」
「兄上ッ!!」
「ルカニぃぃぃぃッ!!!!」
「兄上ぇぇぇぇッ!!!!」
「それじゃあ屋敷に戻って父様への報告が終わったら、向こうで覚えた錬金術について一緒に研究をしよう。少し厄介な事情もあって武器のクラフトもいろいろ試していたけれど、そのあたりは先に父様から許可をもらわないと危ないからな」
「そうですね。僕も簡単な仕組みなどは父上から教わって自分なりに様々な錬成陣を試していますが、やはり人を簡単に傷つけてしまえるのが武器ですから。扱えることと責任を持てることはイコールではありません、ちゃんと父上と相談してから決めましょう」
「ハハハッ、久し振りに見たな」
「やっぱりコレオ様とルカニ様は仲良しねぇ」
「あのテンションの落差が癖になるんだよ」
「領主様のご家族仲が良いのは嬉しいことじゃ」
「おふたり、いつまでアレ続くのかしら?」
「案外大人になってもやってたりしてな」
「それ未来の奥様とお子様に怒られそう」
「いやいや、逆にあのノリに合わせられる女性をだな」
「お帰りなさいませ坊っちゃん。さすが、この時期はぐんぐんと身長が伸びなさるようで、まぁ体格もご立派になりましたねぇ」
「うん、ただいま。一応、本来の予定に合わせて礼服も持って行ったんだけどね。残念なことにほとんど着ないうちにお役御免になってしまったよ」
「ハハハ、結構なことでさぁ。キラキラと着飾った服を重たそうに引き摺ってるぐらいなら、そうしてボロボロの作業着でも背筋をピンッと伸ばしてくださってるほうが頼もしいってなモンです」
「ありがとう。急ぎ確認しておくようなことは?」
「特には。一時期、お屋敷のほうに出入りするロジャー様のお客人が増えたぐらいですかねぇ。警備隊からご報告するようなことはありません、平和でありがたいことでさぁ」
それな〜。
住めば都とは言うし、人は慣れるものとも言うし、実際のところ毎日の警鐘にもすっかり慣れはしたものの……やっぱり平和が1番って、ハッキリわかんだね。
でも逆に、万が一のときに領民がパニックにならないかって不安が新たに芽生えてるんだけど。緊急時の避難誘導に関してはなぁ、自然災害大国日本で生まれ育った転生者としてはどうしても思うところが。
「兄上?」
「……ん、なんでもない。久々の地元の空気に少し浸ってた。いつまでも呆けてないで家に帰ろうか」
「はい!」
▲▼▲▼
お家に帰るまでが契約です。
ということで傭兵たちのバイクが並走するのを眺めながら車に揺られることしばらく。
「お帰りなさいませ、コレオ様」
「シーマ。わざわざ外で出迎えなくても」
「事情が事情ですので」
「それ、結構な範囲まで教えられてる感じ?」
「ローゼンクロイツ領に向かうはずが急にテナクス戦闘国家での行儀見習いに変更されたのです。旦那様が用意した建前を我々が台無しにしたのでは困るでしょう? 屋敷の者は一部を除き共犯者でございます」
「そうか。余計な手間を掛けさせて悪かったね」
「はい、いいえコレオ様。ご無事にお戻りになってくださった、それだけで充分です。それに、なにやら雰囲気も逞しくなられて……テナクスでの行儀見習いが結果的に良い経験になったのであれば、我々も多少の不満は飲み込めます」
「そこは大目に見ます、とは言わないんだ」
「……コレオ様の御命令とあれば」
「いや、いい。人の心模様にまで口出しするほど自惚れてはいないよ。心配してくれてありがとうシーマ」
「恐縮です」
いや〜、ルカニがいつもの雰囲気で合わせてくれたから油断してたわ。そうだよね、ホーエンハイム家に仕えている人たちにしてみれば全然笑って許せる範囲を余裕で仏恥義理してる案件だよね今回の。そりゃお迎えに来てくれた傭兵さんたちも船長に噛みつくわ。
まぁ、でも。
父ロジャーは領主らしく理性の人だし、母メルティナも公私の区別がしっかりしてる人だし、別に俺が悪いことしたワケでもないし、普通にね? 普通に報告するだけだから、うん。
…………。
…………。
なんだか変に喉が渇くなぁ。
あはは。