線路は続くよどこまでも、それこそ島国だった日本と違って外国までも。
「アグラヴェイン様のボンバストゥス領で1年済ませ、そしてこれから【聖教国パンタシア】に留学……留学? 行儀見習いだから留学ではないか」
「変則的な形ではありますが、おかげで出国前に兄上とお顔を合わせることができて良かったです。どうせなら一緒にパンタシアに行ければもっと良かったんですけどね」
転んでもタダでは起きぬ、俺という前例を最大限に利用してルカニの行儀見習いを外国へ。父ロジャーもなかなかアクロバティックなことをするもんだ。
どうせなら目の届く国内で、それこそアグラヴェイン様のところで行儀見習いを終わらせればいいような気もするが、将来的なことを考えると兄である俺だけが“外国で行儀見習いを済ませた”という特別扱いは好ましくないとのこと。
貴族社会の面倒なところ、出てるねぇ? だけどそれも理解できてしまうのが数々の娯楽作品を嗜んできた転生者の特権なのだよ。兄弟姉妹とかで贔屓されている者がいる、と周囲が感じれば、それは勝手に無言のメッセージとなって勝手に広まっていく定めなのだ。
「もう少し時間があれば、もっとちゃんとした御守とか作ってあげられたんだけど」
「僕にとっては充分ですよ、これで」
シャツとかの袖口に付ける飾りボタン、この世界ではカフリンクスと呼ぶらしいが……クラフトしてプレゼントしました。えぇ、もちろんヨロイムカデの外骨格で。
それしかクラフトできなかったんだよ。自力では魔力の通りがクッソ激烈に悪くて丸めることすらできなくて。
スキルのアクセサリー系の一部は自由な素材で作れるっていうから仕方なくさぁ。本当ならナイフとか、もう少し格好いい物プレゼントしたかったよ。
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「それでは兄上。僕はここで乗り換えなので」
「うん、また1年後に会おう。護衛の方も、どうか弟をよろしくお願いします」
ロングコートでパイロットスーツを隠した女性に頭を下げる。
帽子を深くかぶっているので目元は見えないが、明るいピンク色の口紅が柔らかく微笑んで人差し指と中指でピッと返事してくれた。イカしているですわ! クールビューティーですわ!
…………。
…………。
「さて、宿探しの始まりか。とりあえず近場は無しだよな。逆にね」
グランマガザン中央駅、首都と各都市を繋ぐ交通の要だけあって人が大勢集まっている。
ということは当然のように庶民だけでなく貴族も普通に……うん、いたいた。プライマリコースのエンブレムが入ってるネクタイしてる学生たち。
危険からは離れる。安全確保のための基本中の基本だ。若い頃であれば立ち入り禁止の看板にときめくこともあったけど。
大人になると安全や安心より優先されることなんて無いって実感することが多いからなぁ。チートと錬金術のおかげで青春には飢えてないし、落ち着ける環境を第一に考えよう。
「せっかくだし、少し離れてもいいから……あ、すみません」
「あいよ。ご利用かい?」
「はい。壁と天井があって安く寝泊まりできる場所に心当たりがあれば、そこまでお願いできますか?」
「なんだニイちゃん、新しい学生さんか。入学式までまだまだ時間あるだろうに、ずいぶん早い到着だねぇ」
「もしかしたら6年間お世話になるかもしれませんからね。やっぱり雰囲気のいい宿を探したいじゃないですか。寮生活ってなんか窮屈そうですし」
「ふ〜ん。わざわざタダで寝泊まりできんのに、別の寝床を探そうってか。素直に学生寮を使うほうがオススメなんだがねぇ」
「そうなんですか?」
「オレもニイちゃんみたいな若いのを何人も案内してやったけど、最初こそなんとも眩しいご立派なこたぁ言っても、結局はなぁ」
「一応、廃棄場に適当な小屋を建ててゴミ山を漁りながら2年間ぐらい生活していた経験ならあるんですけど」
「……マジで?」
「はい。おかげさまで錬金術は上達しましたよ?」
適当なゴミ箱はどこかに〜、お! あったあった。
空き缶をいくつか拾いまして。
コネコネして。
……ハイ完成!
おっちゃんの人力車をクラフトで再現してみました〜。ちゃんと車輪も回るこだわり仕様だ。Fメタルの加工難度に比べりゃペラペラに引き伸ばされた鉄板なんて粘土よりも柔らかい。
「ほぉ~! コイツはスゲェな!」
「よろしければどうぞ。もちろん料金を踏み倒そうなんて魂胆じゃないので安心してください」
「いや、気に入った。今回だけはタダにしてやる。ホレ、さっさと荷物載せて坊やも乗りな」
「そうですか。ではお言葉に甘えて。あ、ひとつ注文いいですか?」
「おぅ、なんでぃ?」
「なるべく貴族が近寄らなさそうな雰囲気のところをお願いします。ちょこっとね、トラブルを起こしたことがありまして」
「……任せな。グランマガザンの下町事情ならお貴族サマにも負けねぇ情報網があっからよ」
…………。
…………。
「自転車で30分。首都でも外周に近づけば落ち着いた雰囲気のエリアもあるもんですね。昼間から酔っ払いの歌声が聞けるのは俺的にポイント高いです」
「魔導配送施設で働いてる、夜勤明けの連中だな。水道やら灯りやら冷蔵庫やらを動かすにゃ24時間施設を止めらんねぇんだ、ありがたいことだろう?」
「勉強のために1日ぐらい体験してみたいところですね。蛇口から水が出る幸せなら知っているので、たぶん逃げ出さずに働けると思うんですけど」
「だっはっは! ゴミ山生活の経験者ってのがマジならどんな仕事だって大したこたぁねぇさ。そんときゃオレが適当なバイトでも紹介してやるよ」
「子ども相手の口約束だと甘く見てると痛い目見ますよ? 聞き込みをしてでも探し出しますからね?」
「心配すんな、本当に必要になったら協力してやっからよ。これでも商売柄、人を見る目はあるんだ。坊やはちゃんと労働を知ってる顔してんのがわかるんだよ」
ちゃんとした労働、かな〜?
いうてリサイクルも楽しんでやってたし、いざとなればチートがあるからって気楽さで作業してたし、あんまり褒められたようなアレではなかったと思うんだけど。
「っと、そろそろだな。ここから先は自分の足で探しな。下手にオレが案内しちまうと邪魔になるだろ? せっかく教えてもらったんだし、つってよ」
「ありがとうございました。落ち着いたら後ろのリヤカーの修理とか手伝わせてください。良い経験になるついでにお礼になりますので」
「礼より先にテメェの都合持ってくるか普通? まったく、坊やぐらい図太けりゃ本当に雨風さえどうにかしたらどこでも生きていけそうだな。ガンバれよ!」
「はい!」
さて、どんな宿屋があるんじゃろな?
本当ならどこかで見ている護衛の人たちのことも考えて探すべきなんだろうけど、そんなセオリーとか知らないしなぁ。
ま、自由に選べって言われてるし、適当にティンッ! ときた宿に決めてしまおう。