「よぉお坊ちゃん。わざわざ賑やかな街中からこんな辺鄙なトコまでなにしに来たんだ?」
「ガキがひとりで歩くにゃ心細いだろぉ? 親切なお兄さんたちが道案内してやるよ」
「心配すんな、別に身包み全部剥ぎ取ろってんじゃねぇ。その荷物の中身をちょっとばかしいただくってだけさ」
出た!
チンピラだ!
「間に合っているので大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
「まぁ待てよ。そんな遠慮なんて────うぉッ?!」
「アニキッ?! テメェ、なにを────だぁッ?!」
「な、急に地面に────んがぁッ?!」
歩くだけで通路を掘れる土木の錬金術士にとって、即席の落とし穴ぐらい容易いことだ。
念のためアンロックしておいた危険察知が反応していたあたり、実は良い人ってワケでもないだろう。遠慮なく先手を打たせてもらった。
1度は断った喧嘩の買い取り、押し付けようとしてきたのはそっち。
だったら俺も問答無用で支払いを済ませてなにが悪い。
「おいクソガキッ!! いますぐここから出しやが────テメェ、なにをする気だ……ッ?!」
「俺の経験上、アンタらみたいな連中は手心を加えても反省なんてしないからな。だから逆にね? ハッピーな気分を味わってもらおうと思ってさ」
どこにでも、子どもに悪い遊びを教える大人はいるものだ。
工場のラインクラフト中に出る廃棄物には魔力石の粉末もある。それを水に魔力を流しつつ溶かして飲めば、アルコールと似たような反応が起きるのだとか。
それで酒をかさ増し、いやこの場合は水増しか? したり、果汁を加えて飲んだりするらしい。生活の知恵と呼ぶには物騒というか、由来が錬成廃棄物だからメッチャ体に悪そうだ。
が、しかし。
他人に飲ませる分には俺に被害はない。
どんな反応になるか楽しみだな?
…………。
…………。
「さぁさぁダンナ、遠慮なくドンドン飲んでくださいよ」
「おぁ……ありがとよ……あぁ〜、ウメェ酒だなコイツぁよぁあ? そういや、おまえ、だらだっくぇ?」
「やだなぁダンナ、つい先日助けてもらって舎弟にしていただいたキッチョムでさぁ。ほらほら、あにさんたちもグイグイっと」
「うぉるよぁ、きぃきくじゃねぇきゃろ……ろんろんそほげ〜」
「うま……んぐ……なんびょれものべるばぁ……」
────成敗ッ!!
こりゃ戦闘国家の荒くれ野郎どもさえ飲まないワケだ。極稀に度胸試しで少量加えたヤツを飲るぐらいとは聞いていたが、インベントリ換算で1個ぶんの量を3人で分けてこれだけへべれけになるんじゃな。
でも自衛手段としては上等だ。やはり暴力はイカンよ暴力は。貴族たるもの紳士的に酒でも飲んで明るく楽しくご退場いただくのが正解だろう。酔いが醒めたあとの健康被害? それは自己責任の範囲ってことで。
しかし簡単に作れる護身アイテムとしてはコスパ優秀な感じじゃね? なんでもいいから液体と魔力石の粉末を用意するだけで、人間をあっという間にベロンベロンにして潰せるんだもの。
つまり同じような素材で作れる魔導循環液はもっと危険な液体ってことですか? なんなら幼少期のバケツぐるぐる錬成もなにかの拍子に魔力が流れてたら悪酔いで意識を失ってた可能性ありました?
怖ぁ……。
でも悪用するのには便利だな。覚えておこう。
▲▼▲▼
「さて……良さげな物件は────」
「いでぇッ?!」
「どこから……あっちかッ!?」
いたッ!
転んでる、らしきお爺さんッ!
「爺さんッ! 大丈夫かッ!」
「っくぅ……。大丈夫じゃねぇ、誰か知らんが手ぇ貸してくれ」
「あら素直。余計なお世話だって舌打ちされる覚悟もしてたのに。いよっ、と」
「ありがとよ。あと、儂に言わせりゃ素直に礼も言えない年寄りなんざ枯れ腐っただけのガキだ」
「ありがとうって言える人はそれだけで尊敬できますよ。で、荷物も散らばって……いや、先に座れるところを……お爺さん、こっちに」
「おぉ、悪いな。……ケッ、膝まで響いてやがる。欲張らずに小分けにすりゃ良かったか」
あー、荷物。
よし。
どうせあとから気になるに決まってるし、助けるなら最後までだ。
「お爺さん、あそこのゴミ捨て場のスクラップって勝手に持ち出しても怒られないヤツですか?」
「うん? そんなものどうする……あぁ、その制服。セカンダリの学生か。おぅ、どうせ処分するだけのゴミだ。誰も文句なんて言わねぇよ」
「そうですか。それじゃ遠慮なく」
「ったく。儂も面倒だからって若いフリしねぇで、かごのひとつぐらいパパっと────」
スクラップの素材化、いや、お爺さんを待たせるのもなんだし、インベントリに収納してパパっと分解しちゃえ。
そのままスキルで台車をクラフトしてしまおう。いやぁ、開発スキルに武器だけじゃなく普段遣いできる道具もあって助かったわ〜。
「はい。じゃあ散らばった荷物、台車に載せちゃいますね」
「クラフト、し……て…………はぁッ?!」
「とりあえず重そうな物を下に……いや、重ねなくてもスペース足りそうだから別に」
「おい、坊主」
「普通に並べて……はい? どうしました?」
「お前ギフテッドか? いや、ギフテッドだな?」
「はぁ……。一応、そう言われることもありましたが」
「お前、父親は? 錬金術士か?」
「あ、はい」
「なにか言われたことは?」
「えっと……なにか、と言われても」
「……質問を変える。お前、そもそもこんなとこでなにをしてた? 学生が来るような用事なんてねぇだろ」
「あ、その……入学前に、6年間寝泊まりするための宿を探して……」
「なんで学生寮に入らねぇ?」
「貴族の、生徒と……あまり接触したくないと申しますか。なるべく、その、はい」
「あぁん? それはどういう────そうか、ギフト。ハッ! 時代が変わっても人のくだらねぇ部分は変わんねぇらしいな?」
「は、はぁ……」
え? なに?
なんで急に火が入ったのよ、この爺さん。
「確認だ。お前、あんまりギフテッドだって自慢したいって感じはしねぇが……合ってるな?」
「あ、はい。余計なトラブルを起こしたくないので。別に本物だってバレたらそのときはそのときでいいかな、ぐらいの温度感ですが」
「そうか。……よし、坊主。寝泊まりする宿を探してるって言ってたな? ひとまず今日のところは儂の工房に来い。お前がどれだけ普通から外れてるのか教えてやる」
「えっと、一応、父にも相談したりはしていて」
「残念だがお前の親父さんも常識っつーか、基準となる境界線がイカれちまってるぞ。その10秒もしねぇで組み上げた台車とかな」
「普通にどこでも誰でも買えるような、ただの台車ですけど……」
「完成された道具を瞬時に素材に戻すリバースクラフト、歪みのねぇ綺麗に回る車輪のハンドクラフト。片方だけならギリ許せ……いや入学すらまだならやっぱり許せるワケねぇだろアホンダラ。ともかく! 求められる技術の違う2種類のクラフトを誤差無しに繋げるなんざ、プロでもそう簡単にできるこっちゃねぇんだよ」
はい。
まさかのこんなタイミングで俺やっちゃいました? をやっちゃいました。
そっかぁ。別に武器とかじゃなくても、普通の日用品とか、そういうのでも迂闊にスキルを使うとこ見せるとこんな感じになっちゃうんだ。勉強になったね!