振り向けば隣に……隣に?
距離の詰め方が暗殺者のそれ。
「えっと、俺になにかご用でしょうか?」
「その制服、フォルティス王国の学園都市グランマガザンの男子生徒様で間違いありませんか?」
「それは、まぁ。というか、そういう貴女も同じ制服着てるじゃないですか。男子用と女子用の違いはありますけど」
「はい。実はわたくし、このたび入学手続きを始めまして。それが完了すれば、次節からグランマガザンの生徒として、正式にパイロットとしての教育を受けることができるようになるんです」
「それは……おめでとう、ございます?」
「ですが、そのためには活動の拠点となる場所が必要不可欠なのです」
「それは……学生寮では、ダメなんです?」
「はい。詳しい事情をご説明することはできないのですが、わたくしには学生寮を利用できない理由があるのです。そこで」
「宿泊できる施設の心当たりを、同じ学生の俺に聞くことにした……と」
「はい。できれば雨が当たらない屋根と、風を通さない壁がある施設をご紹介していただければ幸いなのですが」
できれば、の内容が最低限過ぎるだろ。
うーむ。
なんか喋り方が平民っぽくないし、学生寮では生活したくないって理由がもう怪しい。なにせ面倒な事情を抱えているせいで学生寮を利用したくないってヤツに心当たりがあるからな。そいつの名前、コレオ・ホーエンハイムっていうんだけど。
ぶっちゃけフラグ臭プンプンするから関わりたくない。でもリットン親方に一宿一飯の恩義があるこの俺が、同じように安息の地を探している人を見捨てるのは仁義に反する行いだよな……。
フラグ回避か。
それとも安全か。
ここは、やはり。
「えっと、それなら俺がお世話になってるお師匠様のところに案内しようか? たぶん、問答無用で追い返されるようなことはないと思うんだけど」
「まぁ、本当ですか? ありがとうございます。その、実はわたくし、街並みを眺めながらぼんやり歩いてここまで辿り着いてしまったものでして……ここが、どのような場所なのかも、その」
「だったら、尚更のこと案内が必要だな。わかった、明日以降をどうするのかはあとで考えるとして、俺も買い出しの途中だからさ。まずは親方のところまで一緒に行こう」
「はい、よろしくお願いします」
当方に人間の尊厳ありッ!!
心に余裕があるときぐらい人助けを優先できなくて、なにがチート転生者かッ!
知ってるんだ、俺。自分のことを。どうせ見捨てたって結局あとから少しぐらい助けてやればよかったって後悔するんだ。
賢いフリをしながら冷静に徹することができない半端物。だから天使様もどうせコイツなら大したことできないだろってチート与えてくれた可能性もワンチャン? ならいいか。
「そうだ。俺のことはコレオって呼んでくれ」
「コレオ様、ですね。わかりました。それではわたくしのことは……えぇと、そうですね……ディア、とお呼びいただければ」
いま思いっきり考えてから名乗ったな?
やはり事情があるのか。ネクタイにはセカンダリの紋章があるけど、トラブル対策として貴族でありながら周囲を欺くためセカンダリコースで入学手続きを進めているヤツを知ってるからな。そいつの名前、コレオ・ホーエンハイムっていうんだけど。
▲▼▲▼
「おぅ、お帰り坊主。どうやらお使いは無事には終わらなかったようだな。それで? その荷物を抱えたお嬢ちゃんはどんなワケありだ?」
「一方的にワケありだと決めつけるのはよくないと思いますよ。コインを100枚一斉に投げて全部表が出る確率だってゼロじゃないでしょう?」
「コレオ様。コイントスをなさるのであれば、1枚のほうが数えやすくて簡単ですよ」
「ほら親方。これでもディアさんを放っておけって言うんですか。俺でさえやっぱり早まったかな〜とかちょっと思ってるのに野放しにしてもいいって言うんですか」
「そうだな。その気持ちは儂にもよぉ〜くわかるぜ。厄介なアホを放置する危険性なら知識じゃなく経験として学んでる真っ最中だからな。……ディア、とか言ったなお嬢ちゃん。もう少し賑やかな区画の、もっとマシな宿屋を拠点にする気はねぇのか?」
「申し訳ありません、そういう場所はかえって追手の皆様に見つかりやすいから避けるように……と、国を出るときにお母様から言われていまして」
「だ、そうだぞ坊主」
「リットン親方、短い間でしたがお世話になりました。せめてもの恩返しとして、なにがあっても親方の名前は出さないと誓います」
「テメェのやらかしをテメェで片付けようって責任感は認めてやる。それにお前が合理的で効率的な判断とやらで困ってるヤツを簡単に見捨てるようなクズじゃないのは、誰かの幸せを支えることを生業とする錬金術士の師匠として鼻が高いぜ?」
知らなかったんだ……ッ!
中身が爆弾だなんて、知らなかったんだよォ……ッ!!
いやせめて国内で完結するっていうか、そもそも国外からの刺客を前提として予測するなんて無理だって! どこかのご令嬢だろうな〜、ぐらいは覚悟してたけどさ! ちょっとヤンチャをして家出とか、なんかそういうギリ微笑ましいレベルかなって思うじゃん! 制服着てるんだし!
「もっぺん言うが、あんまり年寄りをナメてんじゃねえぞ若造。頭ァ抱えているヒマあんなら腹ァ括れや。お嬢ちゃん、お前さん、パイロット候補生なんだよな?」
「はい。フォルティス王国では学生も勉強のため、そして生活の糧を得るために巣穴でのインセクト討伐が権利として認められていると聞きまして、楽しみにしておりました」
「なら丁度いい。コイツはFA用の装備は一式、装甲も武装もクラフトできる優秀なバカ弟子だ。せいぜいタップリ注文をつけてこき使ってやるといい」
「まぁ……。コレオ様はわたくしと同じ学生でありながら、プロフェッショナルとしても活動なさっているのですね。なにかと至らぬ未熟者ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」
テナクス戦闘国家とは、フラメル領とは違う。
今度は俺がフォローしなければならない側だ。
よし。
逆に考えるんだ。
出し惜しみをしなくってもいいさ、と。
大事なのはチートスキルを過信せず、ひとりで全てを抱え込まないこと。俺だけが勝手に先行するのではなく、ディアさんの話をちゃんと聞いて、リットン親方にちゃんと相談して、丁寧に仕事をすればいい。
まず最初に……落ち着いてから、なんて悠長なこと言ってないですぐにでも父ロジャーに報告しよう。
話しにくいトラブルほど迅速に報告を。ディアさんの部屋の掃除なんて後回しでも致命傷にはならん。
なんか実家に対して余計な仕事を増やしてばっかりだな俺……仮にも社会人経験者なのに……。
なけるぜ。