あれから偶然通りかかった四葉とらいはの二人と合流した黒瀬たちは、ひとまず五月を待たせている合流地点へ向かうことにした。
「おーい! 五月ー! ってあれ!? 二乃もいるー!」
四葉が手を振りながら声を掛けると、そこには五月だけでなく二乃の姿もあった。
二人が黒瀬たちの方を振り向くのはほぼ同時であったが、二乃が何かを言い出そうとする前に、五月が脇目も振らず駆け寄った。
「三玖!!」
そして、彼女はそのまま三玖の身体を強く抱き締めた。
「っ、五月……?」
困惑に目を見開く三玖の身体を、ひとしきりぎゅうっと抱き締めた五月は一度身体を離し、涙をいっぱいに溜めた瞳で彼女を見つめた。
「一体どこに行ってたんですかっ、本当に心配したんですからッ! 黒瀬くんが見つけてくれなかったら、私……ッ!」
「……心配かけて、ごめん……」
「本当ですよ……ッ! 本当に、本当に心配したんですから……ッ!」
そう言って、五月はもう一度三玖を力いっぱい抱き締めた。そして今度は三玖の方からも五月の背に手を回し、彼女を落ち着かせるように何度も撫でた。
黒瀬はそんな二人のそばから静かに離れ、腕を組みながら二人の様子をじっと眺めている二乃のそばに寄ると、彼女にだけ聞こえるギリギリの声量で声を掛けた。
「ありがとね、中野さん……五月さんを見といてくれて。もし探しに行かれてたら、また迷子になってたかもしれなかったし……助かったよ」
二乃は隣に並んだ黒瀬をチラリと一瞥すると、小さくフンっと鼻を鳴らした。
「……別に、アンタの為にやったわけじゃないわ。あの子方向音痴だし、探しに行ったら迷子になるのが分かり切ってたから止めただけよ」
「うん。まあ、そうなんだろうけど……感謝してるのは本当だから……ありがとう」
「…………」
お互いに目を合わさない横並びの静かな会話。
二乃からの返事がないことを特に気にする様子もなく、黒瀬がその場を離れようとした時……。
「……一応、アタシからもこれだけは言っとくわ…………ありがとう」
か細いながらもしっかりと、彼の耳に届いたお礼の言葉。黒瀬が思わずといった風に隣を見ると、そこには恥ずかしそうに頬を微かに染める二乃の姿があった。
驚いたように呆然と見つめる黒瀬の視線に気が付いたのか、二乃は不機嫌そうに彼の顔を睨み上げた。
「なによ……」
「あ、あぁ、いや……ふふっ……うん、どういたしまして」
黒瀬は二乃のその不器用な誠実さに思わず笑みをこぼす。それをバカにされたと捉えた二乃は、顔をカーッと赤く染めて彼を鋭く睨んだ。
「ッッ、言っとくけど! 別にアンタを認めたわけじゃないから! その辺勘違いするんじゃないわよっ!?」
「あははっ。うん、もちろん、分かってるよ」
「~~~ッ、アンタ全然分かって……ッ!」
「──みんなー! 上杉さんが近くの公園に各自集合だってー!!」
笑い声混じりに返す黒瀬に、顔を真っ赤にして怒気を滲ませる二乃。その二人のやり取りは、四葉の上げた声によって中断された。
「公園、ですか……?」
「公園で何するの?」
「それより一花は!? もうすぐ花火終わっちゃうじゃない!」
いつの間にか落ち着きを取り戻した五月を皮切りに、三玖、二乃からそれぞれ疑問の声が上がる。それらを受けた四葉は顎に手を添えると、わざとらしく笑った。
「フッフッフッ……私たちの花火は、まだまだ終わりませんよ~?」
「終わりませんよ~?」
まるで姉妹のように息の合ったポーズを取る四葉とらいはに、四人は頭の上に『?』を浮かべるのだった。
◆◇◆◇◆
花火大会の終了を報せる放送が響いたのは、ちょうどオーディションを終えた一花が髭のおじさん(社長)と共にビルの中から出てきた頃だった。
そして二人はビルのすぐ目の前──歩道脇の花壇に腰掛ける上杉へ何とも言えない視線を向けた。
上杉は腕を組み、ビルの入り口から一切視線を逸らさないまま大きな鼻ちょうちんを作っていた。
「完全に目を開けたまま寝てる……怖……」
一花がそう呟きながら歩み寄ると、上杉の鼻ちょうちんがパンッと勢いよく弾けた。
「ッ! え? 寝てないけど? 目を閉じてただけだけど?」
「どこから指摘したらいいのか……」
一瞬ビクッと肩を震わせて垂れたよだれを拭う上杉に、髭のおじさんが呆れたようなツッコミを入れた。
「そ、それより、オーディションはどうだったんだ?」
追加の言及から逃れるように、上杉は立ち上がりつつ話題を変えた。
「うーん、どうだろ……?」
「どうも何も、最高の演技だった。私は問題なく受かったと見ているね」
「そ、そうか、よかったな」
一花の曖昧な返事に、髭のおじさんがしみじみといった感じで絶賛した。
「一花ちゃんがあんな表情を出せるなんて思わなかったよ……それを引き出したのは、恐らく君だ。私も個人的に、君に興味が湧いてきたよ、
そう目配せをしながら上杉に投げキッスを送る髭を生やした中年男性……そのあまりの強烈さに、一花に目線で助けを求める上杉だったが、彼女もまた、ただただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「それにあの、もう一人の少年……スカウトマン上がりである、この私の目が言っている……あの子はそこらの芸能人と比べても遜色がないほど──って、あれ? い、いい一花ちゃん?!」
物思いに耽っていた男性は、一花と上杉がその場からいなくなっていることに大分遅れて気が付いたのだった。
◆◇◆◇◆
街灯の灯りと微かな月明かりだけが照らす人通りの少ない住宅路を、一花と上杉が歩いていた。
「フータローくん、どこに向かってるの?」
「近くの公園だ。アイツらが待ってる」
上杉の回答を聞き、一花の瞳が不安げに揺れた。
「……みんな、怒ってるよね……花火が見られなかったこと……」
「そうだな……だが」
上杉がそこで一度言葉を切ると、住宅路沿いにある小さな公園の入り口で足を止めた。一花も上杉の隣に並び、公園の中へ目を向けた。そして……。
「──諦めるにはまだ早いんじゃないか?」
そう続けて紡がれた言葉と、視界の中に飛び込んできた色鮮やかな光源に、一花は驚愕に大きく目を見開いた。
「あっ、一花に上杉さん! おかえりなさーい!」
光源を囲むように輪になってしゃがんでいた四人──一花を除く五つ子──の内、二人にいち早く気付いた四葉がそう笑顔で迎えた。
その手には、色鮮やかに煌めく小さな花火が握られていた。
「……っ!」
「打ち上げ花火と比べると、随分と見劣りするがな」
未だ衝撃が抜け切れていない様子の一花に、上杉は自嘲気味に笑った。
「上杉さん、準備万端です! 我慢できずにおっ
四葉が花火を持った手をブンブンと勢いよく振り、先端の煌めきが暗い公園に軌跡を残す。
「お前が花火を買ってたおかげだ。助かったよ」
「しししっ」
上杉のお礼の言葉を受けて、四葉は歯を見せて嬉しそうに笑った。
「それに、らいはの面倒も」
上杉はそう言葉を続けながら少し離れた公園のベンチへと視線を向けた。そこには遊び疲れたのかぐっすりと眠るらいはと、そんな彼女に膝枕をしてあげている黒瀬の姿があった。
視線に気付いた黒瀬が笑顔で軽く手を振った。
「あぁ、いえ……どちらかと言うと、私が面倒を見られていたような……しししっ」
四葉はそう言って、今度は苦笑をこぼした。
実際、時計台付近で待機している最中、屋台に釣られてフラフラとどこかへ行こうとした四葉を、らいはは姉のように窘めて止めていた。子供のように無邪気な高校生と面倒見の良すぎる小学生……どちらの方が面倒を見られていたかは、言うまでもなかった。
「キミ!」
ちょうど会話が途切れたタイミングで、二乃が声を上げながら立ち上がった。
彼女は自身の持っていた花火の残骸を水の入ったバケツに入れると、上杉に向かってズンズンと迫って来た。
「五月を置いてどっか行っちゃったらしいじゃない! この子、半べそだったって聞いたわよっ!?」
「二乃!? どうしてそのことを……ッ!? って、まさか黒瀬くんですか!?」
慌てて二乃を止めようとした五月だったが、すぐにバッとベンチの方へ視線を向けた。
そんなことは話していないと自信を持って言える黒瀬だったが、五月の驚愕と羞恥を含む視線に多少の罪悪感を抱いて、彼は気まずそうに顔を逸らした。
実際、黒瀬は二乃に五月が泣いていたとはひと言も話していなかった。
二乃は黒瀬の言った『また迷子になってたかも』という言葉に脚色を加えただけで、それはいわば大袈裟に近い言葉だった。しかしそれは、16年以上もの間共に過ごしてきた姉妹に対する、ほぼ確信に近い言葉でもあった。
二乃に詰められた上杉が一歩足を引く。
「わ、悪い……」
「アンタにひと言言わなきゃ気が済まないわ!」
そう言って、二乃は上杉の顔をキッと鋭く睨み上げると、そのまま口を開いた。
「お! つ! か! れ!」
「紛らわしい……」
「フンっ」
言うだけ言うと、二乃はすぐに踵を返して上杉から離れて行った。
二乃は決して上杉と黒瀬を認めたわけではない。しかし、二人が今回『五人で花火が見たい』という自分たちの願いを叶える為に奔走してくれていたことも、彼女は理解していた。
アレは、そのことに対する彼女なりの労いと感謝を籠めた言葉だった。
その様子をベンチから静かに眺めていた黒瀬は、「ふふっ」と小さく笑みをこぼした。
「五月……」
「一花も花火しましょうよ。三玖、そこにある花火取ってください」
「うん……」
不安げに声を掛ける一花に、五月は笑顔で返しつつ、線香花火の火を注意深く観察している三玖に声を掛けた。
三玖の結んでいた髪は既に解かれており、いつもの愛用のヘッドホンが首に掛けられていた。それは、また姉妹の誰かと間違えられるのを防ぐためでもあり……。
──『これからは…………『三玖』って……名前で、呼んでほしい……』
──『じゃあ、改めてよろしくね、三玖さん』
──『(褒めて、くれるかな……?)』
──『その髪型、似合ってるね』
既に
そうして、三玖が近くの花火セットからいくつかの花火を取り出し、みんなに配り始めた頃……。
「みんな……ごめんっ」
一花が深々と頭を下げた。
全員の視線を一身に受けながら、彼女は続ける。
「私の勝手でこんなことになっちゃって……本当にごめんね」
「そんなに謝らくても……」
「まあ、反省してるんだし……」
「──全くよ」
改めて謝罪の言葉を口にする一花に、五月と上杉が慰めにも似た言葉を掛ける中、その場に二乃の硬い声音がピシャリと響いた。
「なんで連絡くれなかったのよ……今回の原因の一端はアンタにあるわ」
「…………」
二乃の言葉を、一花は頭を上げることなく黙って受け入れていた。そして……。
「……あと、目的地を伝え忘れたアタシも悪い」
「っ……!」
続けて紡がれた二乃の言葉に、一花が僅かに顔を上げた。そうして目に入った二乃の顔は、恥じらいを隠すように背けられ、口先は不満げに尖らされていた。
「私は、自分の方向音痴に嫌気がさしました……」
「私も……今回は迷惑掛けてばかり……」
「よく分かりませんが、私も悪かったということで……屋台ばっかり見てしまったので……」
「みんな……」
二乃に続くように、五月、三玖、四葉が自身の今回の反省点を挙げていく。一花は顔を上げ、みんなの顔を見ながらただ呆然と呟いた。
「はい、アンタの分」
そう言って、二乃は三玖から受け取った一本の花火を一花に差し出した。呆然としていた一花だったが、すぐにふっと表情を緩めてその花火を受け取った。
それを確認して、五月が口を開く。
「お母さんがよく言ってましたね。誰かの失敗は五人で乗り越えること……誰かの幸せは五人で分かち合うこと……」
三玖の持った数本の手持ち花火を、受け取り、渡し、みんなに回していく。
五人がそれぞれ一本ずつ花火を持てば、ひとつの蝋燭の火を囲むように立ち、火に花火を近付けていく。
「喜びも──」
四葉が。
「悲しみも──」
三玖が。
「怒りも──」
二乃が。
「慈しみも──」
一花が、それぞれ言葉を紡いでいく。
「──私たち、全員で五等分ですから」
五月のその言葉を最後に、寄り集まった五本の小さな花火が、一輪の大きな花を咲かせるのだった。
それからしばらくして、上杉と黒瀬は二つ並んだベンチに腰掛けながら、公園の中心ではしゃぐ五つ子たちの様子を眺めていた。
「黒瀬も悪かったな。こんな遅くまで付き合わせちまって」
「ううん、大丈夫だよ。親にも遅くなることは連絡してあるし、うちは門限とかもないしね。それに僕が残りたくて残っただけだから、上杉くんが謝ることじゃないよ」
そう言って、黒瀬は上杉へ軽く笑い掛けた。それに対し上杉は、信じられないといった表情を浮かべて大きく肩を落とした。
「はぁ……お前のその人の良さは、一体どこから生まれてくるんだ……? 俺だったら速攻帰って勉強を……ハッ!」
「? 上杉くん?」
仕事疲れのサラリーマンのような雰囲気を纏う上杉だったが、突然何かに気が付いたようにバッと顔を上げた。
「待てよ? アイツらは花火をしている……らいはは満足して寝てる……俺帰ってもいいんじゃね?」
「ま、まあまあ……後ちょっとなんだしさ、ね?」
「俺にはその『後ちょっと』の時間が惜しいんだ、黒瀬。なぜなら俺は折角の日曜日だというのに、これっぽっちも勉強ができていない……っ!」
悔しそうに拳を握る上杉に、黒瀬は苦笑いを浮かべた。
「──いくよー!」
そして、四葉のひと際大きな声に釣られるように、二人は彼女らの方へ視線を戻した。
直後、ドッと小さな破裂音と共に何かが夜空へ打ち上がった。
──ヒュ~~~……パンッ。
それは小型の打ち上げ花火だった。
「……しょぼい花火」
「だねぇ~……」
それは花火大会のものとは比べ物にならないほど、小さな、小さな花火だった。
しかし、少し視線を下げればそこには、花火大会の時と比べ物にならないほどの笑顔を咲かせる五つ子たちの姿があった。
「……もう少しだけ見ておくか」
「ふふっ……うん、そうだね」
人付き合いを忌避していた親友の確かな変化に、黒瀬は小さく笑みをこぼすのだった。
◆◇◆◇◆
花火が終わりに差し掛かった頃、一花は公園のベンチへと向かって歩いていた。
目指すのは上杉の座るベンチの前。隣のベンチをチラッと見れば、らいはを膝枕している黒瀬も静かに寝息を立てているのが見えた。
一花は、ただ座ってじっと正面を見ている上杉の前で足を止めた。
「まだお礼言ってなかったね。協力してもらった分、私も君に協力しなきゃ……パートナーだもんね。私は一筋縄じゃいかないから、覚悟しててよね」
そう言って、一花は上杉に笑い掛けた。
しかし上杉からの返事はなく、ただじっと真っ直ぐ前を見つめているだけであった。
そして、一花は気付く。
──上杉が鼻ちょうちんを膨らませていることに。
「…………」
まさに、絶句……一花の表情はそのひと言に尽きた。
「っもう!」
勇気を出して言った言葉を無かったことにされた。そのことに対しての不満と羞恥を隠しもせず、一花は上杉の隣にドカッと腰を下ろした。
そして、一花は上杉の頭を優しく自身の腿の上に導いて、彼の開いたままの瞼をそっと撫でるように下ろした。
「……頑張ったね……ありがとう」
そう言って、一花は上杉の頭を優しく撫でた。
「今日は……おやすみ」
彼の頭を見下ろす一花の表情は、慈愛と感謝で満ちていた。
そうして何度か上杉の髪を指で優しく梳いた後、自身のスマホを取り出して一枚だけ写真を撮った。
「ふふっ……(美少女の膝の上でぐっすり寝ちゃって……フータローくんってば贅沢者だねぇ)」
一花は撮れた写真を眺めながら、先ほどとは違って悪戯っぽい笑みをこぼした。
そしてスマホをポケットに仕舞おうと上体を軽く傾けた時、視界の端にあるものを捉えた。
動きをピタリと止め、ギギギギとそちらへ顔を向ける一花。そうすれば、自然とこちらを見て微笑む黒瀬と真っ直ぐ目が合った。
「…………えぇ、っと……い、いつから……?」
「あぁ……うん。パートナーがどうとかって所から、かな」
「~~~っ!」
ほぼ最初から見られていたという事実に、一花は顔を真っ赤に染めた。今すぐ大声で叫んでしまいたい衝動に駆られる一花だったが、寝ている上杉兄妹のことを気遣ってギリギリの所でそれを呑み込んだ。
「えっ、と……ごめんね? なかなか言い出せる雰囲気じゃなかったから、つい……」
「べっ、べべ別に大したことじゃないしねっ……あ、謝るようなことでもないよっ、うん……っ! こ、これでも女優の端くれだからねっ……見られることには慣れてるって、言うか……っ?」
「そっか、よかった……流石は期待の若手女優さんだね」
「~~~っ……ゆ、ユーマくん……お姉さんをからかってるのカナ……っ?」
「えぇ~? まっさか~」
見え見えのやせ我慢をする一花に、黒瀬は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
他人をからかうことの多い一花だが、逆にからかわれることには慣れていなかった。そのことを、一花は自覚していた。
このままでは、されるがままで終わってしまう。
ならば、と一花は敢えて攻勢に転じることにした。
彼女は先のやり取りの中で、黒瀬から自分と同じ匂いを微かに感じ取っていたのだ。
──同じ、からかう側の匂いを。
「ゆ、ユーマくんこそっ……眼鏡を外して人探しできるなんて、お姉さん知らなかったな~っ」
「ぅぐふっ……! そ、それは……」
「三玖ちゃんを抱き寄せたままあんなに声を荒げるなんて、お姉さんビックリしちゃったよ~」
「あ、あの時は慌てて……っ」
「眼鏡外して髪を切ればユーマくん、めちゃめちゃモテそうなのにね~。あっ、お姉さんが切ってあげよっか?」
「か、からかってごめんなさい……」
「ふ、ふんっ、これに懲りたら、二度とお姉さんをからかって遊ばないようにっ」
「肝に銘じます。神様、お姉様、一花様」
「よろしい」
深々と頭を下げる黒瀬に、一花はまだ微かな赤みが残る頬を膨らませ、拗ねたように言った。
同類だからこそ、一花は黒瀬を黙らせる方法を即座に思い付くことができた。
──弱みを握られた相手を黙らせるには、同じく相手の弱みを握って牽制するのが一番であると。
そうしてお互いにひと息ついたタイミングで、黒瀬が恐る恐る声を掛けた。
「中野さん、そのことは……えっと……」
「一花でいいよ。心配しなくても、むやみやたらに他人に言ったりしないから。もちろん、それはユーマくんがさっきのことを黙っておいてくれるならって話だけど」
「よかった……うん、ありがとう。僕も秘密にしとくから、安心していいよ」
「なら、よし」
そう言って、一花は厳格さを身体で表現しながら大きく頷いた。
それから二人はまばらに言葉を交わしながら、花火を楽しむ彼女たちの様子を眺めていた。
一花はチラリと黒瀬の横顔を盗み見て、記憶の中にある彼の姿と照らし合わせた。
眼鏡を掛けた姿と、外した姿。耳を覆い隠すほど長い髪と、かき上げられた髪。そして、いつもの物腰柔らかな声と表情に対し、あの時の彼は感情を露わにしていた。
「(あっちの方が普通にモテそうなのに……)」
どうして変装紛いのことをしているのか、どうして秘密にしているのか、あんな不安そうな表情を浮かべて隠すのは一体なぜなのか……疑問は次から次へと湧いてくるが、一花はそれらをそっと胸の中へ押し込めた。
「(まあ、女優業を秘密にしてみんなに散々迷惑を掛けた私が、今更人の秘密にとやかく言えないんだけど……)」
一花はそう自嘲気味に笑うと、正面に向き直って彼女たちを静かに見据えた。そして……。
「(……迷惑を掛けちゃった分、みんなにはちゃんと、私の口から打ち明けないとね)」
心の中で、自分から一歩を踏み出す決意を固めるのだった。
はい、というわけで花火大会編完結です!
ぱちぱち~★
現在、ヒロインレースは三玖が独走中!!
二乃の姿は見えません! 何かトラブルでしょうか!?
このまま順当にゴールなるかー!?(実況風)
まあ正直、ボクも早くWヒロイン書きたい!(血涙)
でも、原作での展開考えると仕方ないんですよね……。
この段階で二乃の上杉への好感度を少しでも上げておかないと、次の中間試験編でパっパさんを騙してくれるルートが潰れて詰んじゃうんですよね〜。
そうなってもらっては普通に困るので、今回黒瀬くんには三玖ちゃんの方へ行ってもらいました。
だいぶ遅れを取っている二乃ちゃんですが、公式『愛の暴走機関車』の彼女ならすぐに追いついてくれる……はずッ!!
まだまだ恋の行方は分からない!!
次章、中間試験編! 乞うご期待!!