食蜂操祈に転生したけど世界が違う。   作:のうち

1 / 5
はじめまして、作者です。

今回から新しく、食蜂操祈に転生した主人公が、MARVELの世界を舞台に「恵まれし子らの学園」を経営しながら、X-MENとしても活動する物語を始めます。

基本は学園での先生たちと生徒たちの日常を中心に、時々長編の事件やオリジナルエピソードを描いていく予定です。

原作やロリババ世界とは独立した少し違った世界観になりますので、そのあたりも楽しんでいただければと思います。

それでは、第一話をどうぞ。


第一話 恵まれし子らの学園

第一話 恵まれし子らの学園

 

 朝の光が、ウエストチェスターの森を抜けて学園の敷地へ差し込んでいる。広大な庭園、古い屋敷を改装した校舎、その周囲に建てられた近代的な研究棟や体育施設。そして、校舎から少し離れた場所に並ぶ、生徒たちの暮らす寮。ここは、恵まれし子らの学園。特殊な能力を持って生まれた子供たちを受け入れる、全寮制の学校である。そして、その学校の校長を務めているのが、私――食蜂操祈だ。

 

「……今日も、いい天気ねぇ」

 

 私は校長室の窓から外を眺めた後、机の上に置かれたタブレットへ視線を落とす。長い金髪を背中へ流し、黒を基調とした服に身を包んだ私の目の前には、今日の授業予定、教師たちの勤務表、寮の連絡事項、生徒たちの面談予定などが並んでいる。学校の朝は早い。生徒たちが起きるより前から教師たちは動き始めているし、もちろん校長である私も例外ではない。

 

「……午前中だけで面談が三件。午後は教師会議。その後に能力訓練の視察……」

 

 予定表を眺めながら、私は小さく息を吐く。

 

「戦うより、こっちの方が疲れるのよねぇ」

 

 世界を救う。悪党と戦う。能力者同士の戦闘を止める。そういった仕事なら、まだ分かりやすい。敵を倒せばいい。人を助ければいい。けれど学校経営はそうはいかない。成績、生活指導、寮のトラブル、保護者への連絡、教師同士の調整、設備の修理、予算、生徒たちの進路、能力による事故への対応……毎日毎日、何かしらの問題が起きる。

 

 それでも、私はこの仕事を嫌いにはなれなかった。

 

「校長先生!」

 

 廊下から声が聞こえてきた。

 

「……はいはい。今行くわよぉ」

 

 私は校長室を出る。廊下の向こうから、一人の少年が走ってきた。私はその姿を見て、すぐに眉を上げる。

 

「こら」

 

「……あ」

 

「廊下は走らない」

 

 少年がぴたりと止まった。

 

「す、すみません」

 

「朝から転んで怪我でもしたら、先生たちが大変でしょう?」

 

「はい……」

 

「それで? そんなに急いで、どうしたの?」

 

 少年の表情が明るくなる。

 

「昨日の能力訓練、最後までできました!」

 

「本当?」

 

「はい!」

 

 嬉しそうに頷く少年を見て、私も自然と笑みを浮かべる。

 

「昨日まで途中で集中が切れていたでしょう?」

 

「でも、今日はできました!」

 

「そう。それは偉いわねぇ。担当の先生には報告した?」

 

「まだです」

 

「じゃあ、朝のうちに伝えておきなさい。先生も喜ぶと思うわ」

 

「分かりました!」

 

 少年は元気よく返事をすると、今度こそ走らずにその場を離れていった。その背中を見送りながら、私は小さく笑う。こういう瞬間があるから、私はこの学校を作ったことを後悔していない。

 

 

「おはようございます、校長」

 

 振り返ると、ジーン・グレイが立っていた。

 

「おはよう、ジーン」

 

「今の子、昨日からずっと訓練のことで悩んでいたんですよ」

 

「そうだったわねぇ」

 

「今日はずいぶん嬉しそうです」

 

「ええ。ああいう顔を見るのは、校長としても嬉しいわ」

 

 ジーンが微笑む。

 

「午後の訓練、少し様子を見ておきます」

 

「お願いするわ」

 

「はい」

 

 ジーンは軽く会釈すると、そのまま教室の方へ向かっていった。私はその後ろ姿を見る。この学園では、私だけが教師ではない。多くの教師がいて、それぞれが自分の専門分野を持ち、生徒たちを支えている。

 

 そして、その中には、私が前世の記憶で知っていた名前を持つ人物もいた。もっとも、この世界の彼女たちは、映画の登場人物そのままというわけではない。私が知っているのは、あくまで前世で見た映画の物語。この世界には、この世界の歴史がある。だから私は、自分の知識を絶対視しないことにしていた。

 

「校長」

 

 別の声がした。

 

 今度はスコットだ。資料を抱えてこちらへ歩いてくる。

 

「おはようございます」

 

「おはよう、スコット。授業の方は?」

 

「予定通りです。ただ、一年生の能力訓練について、一部変更を提案します」

 

「見せて」

 

 私は資料を受け取り、内容に目を通す。

 

「この子は、まだ実戦形式には早いんじゃない?」

 

「私も同意見です」

 

「なら変更しておいて」

 

「分かりました」

 

 スコットは頷いた。それから、一瞬だけ私を見る。

 

「……それと」

 

「なぁに?」

 

「昨日、また遅くまで校長室にいたでしょう」

 

「……どうして知ってるの?」

 

「職員室から見えました」

 

「まあ」

 

「少し仕事を減らしてください」

 

「無理ねぇ」

 

「即答ですか」

 

「校長という仕事は忙しいのよぉ」

 

「それは分かっています」

 

 スコットは真面目な顔のままだった。

 

「だからこそ、倒れないでください」

 

「……分かったわ」

 

 私は小さく笑う。

 

「あなたがそこまで言うなら、今日は少し早く切り上げるわぁ」

 

「お願いします」

 

 それだけ言うと、スコットは教室へ向かった。私はその背中を見送りながら、少しだけ肩をすくめる。

 

 まったく。教師というものは、生徒だけではなく校長まで指導したがるらしい。

 

 

 少し歩いた先では、ストームが生徒たちを集めていた。

 

「本日の授業では、能力の出力ではなく制御を重視します」

 

 穏やかな声に、生徒たちは真剣に耳を傾けている。

 

「力が強いことが、優れているという意味ではありません。自分の力を理解し、必要な時に必要なだけ使えること。それが大切なのです」

 

 私は少し離れた場所から、その様子を眺めていた。ストームは教師として優秀だった。強大な能力を持つからこそ、力に振り回される危険性を生徒たちに伝えることができる。

 

 授業が始まる直前、ストームが私に気づいた。

 

「おはようございます、校長」

 

「おはよう、オロロ」

 

「本日は午後から能力訓練の監督ですね」

 

「ええ」

 

「無理をなさらないように」

 

「……今日はそれを何人から言われるのかしらねぇ」

 

 ストームが小さく笑う。

 

「皆さん、校長を心配しているのですよ」

 

「分かってるわぁ」

 

 私も笑いながら、その場を離れた。

 

 次に向かったのは体育館だった。

 

「おーい! そこ、もっと腰を落とせ!」

 

 大きな声が響く。鏑木・T・虎徹。この学園では体育と実戦訓練の指導を担当している。

 

「校長先生、おはようございます!」

 

 こちらに気づいた生徒が声を上げる。

 

「おはよう」

 

「今日の訓練、きついです!」

 

「それは先生に言ってちょうだい」

 

 私が虎徹を見る。

 

「俺に振るんですか?」

 

「だって先生でしょう?」

 

「まあ、そうですけど!」

 

 周囲から笑い声が上がる。

 

「ただし、無茶はさせないでねぇ」

 

「分かってますって」

 

 虎徹は胸を張った。

 

「俺は生徒を怪我させるために鍛えてるんじゃありません。自分の力を、自分で守れるようにするためです」

 

「それなら安心ねぇ」

 

「任せてください」

 

 虎徹は笑った。こういうところは、教師として頼りになる。

 

 

 保健室では、ミッドナイトが生徒の健康状態を確認していた。

 

「昨日の訓練で少し疲労が出ていますね」

 

「大丈夫ですか?」

 

 私が尋ねる。

 

「休めば問題ありません」

 

 ミッドナイトはそう答えた。

 

「能力を使えるからといって、身体が無限に耐えられるわけではありませんから。そこは生徒たちにも繰り返し教えています」

 

「お願いねぇ」

 

「もちろんです」

 

 そして寮へ向かうと、ディズィーがいた。何人かの生徒と話している。

 

「昨夜、少し眠れなかった子がいるんです」

 

「原因は?」

 

「新しい環境に慣れていないみたいで」

 

「そう」

 

 私は生徒を見る。

 

「学校には慣れてきた?」

 

「……まだ、少し」

 

「そうよねぇ」

 

 私は穏やかに笑った。

 

「急がなくていいわ。ここはあなたの家でもあるんだから」

 

「……はい」

 

 少女が少しだけ笑う。

 

 ディズィーがこちらを見る。

 

「私も、しばらく様子を見ておきます」

 

「お願いするわ」

 

「はい」

 

 彼女は頷いた。

 

 ディズィーは、他の教師とは少し違う。生徒たちの気持ちを理解するのが上手い。自分自身が周囲とは違う存在として生きてきたからこそ、なのかもしれない。

 

 私は彼女を見ながら、ふと思う。

 

 この世界には、本当にいろいろな人間がいる。生まれつき能力を持つ者、後天的に力を得た者。そして、私のような人間。前の人生とは違う人生を歩んでいる者。

 

 ……いや。

 

 私だけではないのかもしれない。

 

 そう思うことが、時々ある。

 

 けれど、今はそれを考える必要はない。目の前には、生徒たちがいる。私が守るべき日常がある。

 

 

 昼休み。

 

 私は食堂へ向かった。校長室で一人で食べてもいい。けれど私は、なるべく生徒たちの近くにいるようにしている。校長だからという理由だけではない。

 

 私は、この子たちの日常を知りたいのだ。

 

「校長先生!」

 

「こんにちは」

 

「今日の宿題なんですけど!」

 

「ちゃんとやった?」

 

「……半分」

 

「正直でよろしい」

 

 笑い声が起きる。

 

 別のテーブルでは、生徒同士が喧嘩していた。

 

「返してよ!」

 

「嫌だ!」

 

「はいはい」

 

 私はそちらへ向かう。事情を聞くと、どうやら片方が、もう片方の私物を勝手に持っていったらしい。

 

「……ごめん」

 

「ちゃんと返して」

 

「うん」

 

「よろしい」

 

 それだけ。大げさに叱る必要はない。

 

 子供たちは失敗する。問題は、その後だ。失敗したことを認めて、次にどうするか。それを教えるのも教師の仕事だ。

 

「校長先生」

 

 今度は別の少女が聞いてきた。

 

「どうして、この学校を作ったんですか?」

 

「どうして?」

 

「はい」

 

 私は少し考えた。

 

「昔、困っている子を見たの」

 

「能力者の子ですか?」

 

「ええ」

 

 私は窓の外を見る。

 

「その子は、自分の力が怖かった」

 

 それは、私がまだ若かった頃の話だ。能力を持っているというだけで周囲から距離を置かれた子。家族にさえ、自分の力を恐れられていた。

 

 その子は言った。

 

 ――自分は普通になりたい、と。

 

 その言葉が、ずっと心に残っていた。

 

「だから、作ったの」

 

「この学校を?」

 

「ええ」

 

 私は笑う。

 

「特別な力を持っていても、普通に笑える場所をねぇ」

 

 少女はしばらく考えて、それから小さく笑った。

 

「……ここ、好きです」

 

「そう」

 

「はい」

 

「なら、校長としては満足よぉ」

 

 

 午後。

 

 授業が終わり、生徒たちが寮へ戻っていく。私は校長室で書類を処理していた。

 

 いつもの一日。何も特別なことはない。それでいい。

 

 そう思っていた。

 

 ――ピッ。

 

 机の上に置いていた端末が鳴った。私は手を止める。

 

 通常の校内通信ではない。

 

 緊急回線だ。

 

「……何かしら」

 

 通信を開くと、スコットの顔が映った。

 

「校長」

 

「ええ」

 

「ニューヨークで能力者による事件です」

 

 私の表情が変わる。

 

「規模は?」

 

「現在確認されているだけで、民間人が多数巻き込まれています」

 

「警察は?」

 

「対応しています。ただ……能力の規模が大きすぎる」

 

 私は画面を見つめる。

 

「生徒たちには?」

 

「まだ伝えていません」

 

「そのままで」

 

「分かりました」

 

 私は一度、窓の外を見る。夕暮れが近づいている。寮では、今頃夕食の準備が始まっているだろう。生徒たちは、今日も一日を終えようとしている。

 

 だったら、その日常を壊させるわけにはいかない。

 

「スコット」

 

「はい」

 

「先生方を集めて」

 

「了解しました」

 

 

 数分後、校長室には教師たちが集まっていた。スコット、ジーン、ストーム、虎徹、ディズィー、ミッドナイト。誰も騒いでいない。学校で何か問題が起きた時と同じように、落ち着いて状況を確認している。

 

 ただし、今度の問題は生徒同士の喧嘩ではない。

 

「現場はマンハッタン」

 

 スコットが説明する。

 

「能力者が暴走。現在も被害が拡大しています」

 

 ジーンが目を閉じる。

 

「……かなり混乱しています」

 

 ストームが尋ねる。

 

「避難は?」

 

「進行中です」

 

「なら、私は避難支援に回ります」

 

「お願い」

 

 私は頷いた。

 

「ジーンは民間人の把握」

 

「分かりました」

 

「虎徹は現場の制圧支援」

 

「任せてください」

 

「ミッドナイト」

 

「私は学園に残ります」

 

「ええ。生徒たちをお願い」

 

 最後にディズィーを見る。

 

「あなたも学園をお願いするわ」

 

「分かりました」

 

 ディズィーは静かに頷いた。

 

「何かあれば連絡します」

 

「お願いねぇ」

 

 私はスコットを見る。

 

「現場の指揮は任せるわ」

 

「了解しました」

 

 そこで一度、全員が沈黙する。

 

 さっきまで私たちは教師だった。今も教師であることに変わりはない。

 

 けれど、この世界には学校の外にも能力者がいる。そして、その力が誰かを傷つける時、私たちにはもう一つの役割がある。

 

「それじゃあ」

 

 私は通信機を手に取った。

 

「授業の続きをお願いしてくるわぁ」

 

 スコットがわずかに笑った。

 

「校長らしい言い方ですね」

 

「何か問題?」

 

「いえ」

 

 彼は答えた。

 

「行きましょう」

 

 私は頷いた。

 

 校長室を出る。その先には、学園の地下施設へ続く道がある。普段、生徒たちが目にすることはない。学校を守るための設備。そして、もう一つの顔を持つ私たちが、必要な時に使う場所だ。

 

 私はそこで一度、足を止める。

 

 振り返れば、校舎が見える。ここには子供たちがいる。笑って、学んで、悩んで、少しずつ成長している。

 

 私が守りたいもの。

 

 私が、この場所を作った理由。

 

「……行きましょうか」

 

 スコットが頷く。

 

 ストームが続く。

 

 ジーンも歩き出す。

 

 私たちは、学園を後にする。

 

 学校では、明日の授業が待っている。だからこそ、私たちは今日のうちに、この事件を終わらせなければならない。

 

 恵まれし子らの学園。

 

 そこに暮らす子供たちの日常を守るために。

 

 教師たちは戦場へ向かう。

 

 そして、その先で彼らを待っている名前は――。

 

 X-MEN。




最後まで読んでくれてありがとうございます。

今回は第一話ということで、食蜂操祈として転生した主人公の現在の立場と、「恵まれし子らの学園」の日常、そして彼女と共に生徒たちを守るX-MENの教師陣を中心に描いてみました。

まだまだ紹介できていない教師や生徒もいますし、この世界には映画版の知識だけでは説明できない、独自の歴史や転生者たちも存在します。

基本は学園での先生としての日常を描きつつ、時々X-MENとして事件に関わる長編エピソードを挟んでいく形にしていく予定です。

特に今回は、最後に「X-MEN、出動」というところまで持っていきましたが、次回以降は実際に彼女たちがどのような活動をしているのかも描いていきたいと思っています。

まだ試行錯誤しながら作っている作品ですので、「ここはこうした方がいい」「このキャラクターを出してほしい」「この設定についてもっと見てみたい」など、簡単な感想やご意見がありましたら、ぜひ活動報告の方にコメントをいただけると嬉しいです。

追加メンバー

  • 厨房責任者 セツ婆
  • 養護教諭 ナイチンゲール
  • 研究者 プレシア・テスタロッサ
  • 生徒枠 鏑木楓
  • 学園のペット バトルウルフのハンク
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。