どうも、作者です。
今回は第二話ということで、別世界からウルヴァリンことローガンが学園を訪れるお話です。
映画とは少し違う世界で、彼がどんな新しい居場所を見つけるのかを楽しんでいただければと思います。
私が恵まれし子らの学園を設立して本格的に生徒たちへの教育を始めてから、一年が経った頃
この一年は、私にとって慌ただしい日々の連続だった。校長として学校全体の運営をしながら教師として授業も受け持ち、生徒たちの能力について相談を受け、時には寮で起きた小さなトラブルの仲裁までしなければならない。最初の頃は「どうして私がこんなことまで」と思ったものだが、今ではそれなりにこの生活にも慣れてきた。
何より嬉しいのは、最初は自分の能力を恐れていた子供たちが、少しずつ学校での生活を楽しめるようになったことだ。廊下を歩けば、生徒たちが友人同士で笑い合っている。食堂へ行けば、今日の夕食について盛り上がっている声が聞こえる。特殊な能力を持っているというだけで、社会から距離を置かれていた子供たちが、ここでは普通の学生として笑っていられる。それを見るたびに、この学園を作った意味を実感する。
そんな穏やかな日常が続いていた、ある日のことだった。
私はいつものように執務室で書類に目を通していた。教師たちから提出された授業報告や、生徒の生活記録、施設の修繕に関する書類など、目を通すだけでも嫌になってくる量だ。
そんな時、突然、扉が開いた。
ノックすらなかった。
顔を上げると、そこには一人の男が立っていた。
無精髭を生やし、鋭い目つきをした大柄な男。服装もどこかくたびれており、長旅をしてきたようにも見える。何より、その目から感じられる警戒心が尋常ではない。
私はペンを置き、相手を刺激しないように声をかけた。
「それで、ローガンさん。あなたはどういった御用で?」
「お前は誰だ!」
怒号が執務室に響いた。
私は眉を僅かに動かす。
「……随分と威勢がいいのねぇ」
「チャールズはどこだ! この学校は何なんだ!」
なるほど。この学校を見つけて訪ねてきた理由は、どうやらチャールズ・エグゼビアにあるらしい。
けれど、この世界にチャールズ・エグゼビア本人は存在しない。
「まず落ち着いてちょうだい。ここは学校よ。そんな大声を出されたら、生徒たちが怖がるでしょう?」
「知るか! 俺はチャールズを探してるんだ!」
「だから、そのチャールズさんがこの学校にいると思った理由を聞いているのだけれど?」
「……」
男は黙った。
その隙に、私は彼の精神へ意識を伸ばした。
そして――次の瞬間、私の表情から笑みが消えた。
膨大な記憶が流れ込んでくる。見たこともない場所。見たこともない人々。戦場。銃声。そして、鋭い爪を持つ自分自身。
チャールズ・エグゼビア。
ジーン・グレイ。
スコット・サマーズ。
ストーム。
X-MEN。
センチネル。
そして、長い年月を生きた男が最後に迎えた静かな死。
私は思わず息を呑んだ。
……まさか。
目の前にいるこの男は、私が前世で映画を通して知っていた人物なのか。
いや、正確には違う。
映画の登場人物ではない。
この男は、本当にその世界を生きてきた。
私が知識として知っていた出来事を、彼は自分自身の人生として経験している。
その事実に、私はしばらく言葉を失った。
「……ローガンさん」
「何だ」
「少し、あなたの記憶を見せてもらったわ」
ローガンの目が険しくなる。
「人の頭を勝手に覗いたのか?」
「ええ。私にもそういう能力があるの」
「……気に入らねえな」
「でしょうねぇ。でも、あなたが何者なのかを理解するには一番手っ取り早かったのよ」
私は椅子から立ち上がることなく、彼を見つめる。
「確かに君はウルヴァリン……ローガンねぇ。少なくとも、私が知っているウルヴァリンと同じ人生を歩んできたようだ」
「なぜ俺を知っている?」
「あなたの記憶を見たからよ」
「……」
「それ以上は聞かない方がいいわ。あなたがどれだけ長い人生を生きてきたのかも、どれだけ多くのものを失ってきたのかも、私は見たから」
ローガンはしばらく黙っていた。
やがて、低い声で尋ねる。
「……ここは、俺の世界じゃないのか?」
「ええ」
私は即答した。
「あなたが知っている世界とは違うわ」
「チャールズは?」
「この世界には、チャールズ・エグゼビア本人は存在しないわ。少なくとも、私の知る限りではねぇ」
ローガンは視線を落とした。
「……そうか」
その一言には、僅かな寂しさがあった。
私はそんな彼を見ながら、少しだけ声を柔らかくする。
「ただ、この世界はあなたが思っているより複雑よ。ミュータントだけが超常的な力を持っているわけじゃないし、人類側も能力者に対抗するための技術をいくつも持っている」
「……まさか、センチネルか?」
「いいえ」
私は首を横に振る。
「この世界にトラスク博士はいないもの。あなたが知っているようなセンチネル計画も存在しないわ」
ローガンは少しだけ安心したように息を吐いた。
「アポカリプスは?」
「まだ目覚めていないわ」
「まだ、か」
「そして、私からわざわざ起こしに行くつもりもないわねぇ」
「……そりゃそうだ」
ローガンは腕を組んだ。
しばらく沈黙した後、彼はふと顔を上げる。
「この世界にも、ミュータントはいるんだな?」
「ええ。たくさんいるわ」
「X-MENは?」
その問いに、私は少しだけ笑った。
「もちろん、いるわよ」
「……誰が?」
「何人か、今この学園にいるわ」
ローガンの目が僅かに細くなる。
「知っている奴は?」
「そうねぇ……あなたの知っているジーン・グレイやスコット・サマーズも、この世界には存在しているわ」
ローガンが反応する。
「ジーンとスコットが?」
「ええ。ただし、あなたが知っている二人とは違う」
「どういう意味だ?」
「まだ子供なの」
「……子供?」
「そう。まだX-MENとして活動する段階にも達していないわ。ストームについても、私はまだ見つけられていない」
ローガンは何とも言えない顔をした。
自分が知る仲間たちが、この世界にも存在している。
しかし、その人生は自分の知るものとは全く違う。
その事実を理解するには、少し時間が必要なのだろう。
「……そうか」
やがてローガンは、静かに息を吐いた。
「俺はこれからどうすればいい?」
「それは君が決めることよ」
私はそう答えた。
「ただ、帰る場所がないのなら、しばらくこの学園に滞在しても構わないわ」
「俺は生徒じゃないぞ」
「知っているわよぉ」
私は苦笑する。
「でも、ここは行き場を失った能力者を追い出すような場所じゃないもの。あなたがこの世界でどう生きるのかを考える時間くらい、提供してあげるわ」
ローガンはしばらく私を見ていた。
やがて、短く頷く。
「……世話になる」
「ええ。部屋を用意させるわ」
ローガンが扉へ向かう。
しかし、そこで足を止めた。
「……そういえば」
「なぁに?」
「この世界のX-MENを見せてくれ」
私は少しだけ目を細めた。
「見たいの?」
「ああ」
私は机の引き出しから一枚の写真を取り出した。
そこに写っているのは、現在正式にX-MENとして活動している仲間たちだった。
教師として学園で生徒たちを教えながら、必要な時には共に戦う者たち。
ローガンは写真を受け取ると、黙って眺め始めた。
そこに、彼の知っている仲間たちの姿はない。
当たり前だ。
これは別の世界のX-MENなのだから。
「……知らない顔ばかりだな」
「そうでしょうねぇ」
「こいつらが、この世界のX-MENか」
「ええ。私の仲間たちよ」
ローガンは写真をもう一度眺めた。
長い戦いを経験してきた彼だからこそ、写真に写る者たちがまだ若く、そして自分の知るX-MENとは違う存在であることが分かるのだろう。
「……随分と若い」
「そうね」
「本当に、こいつらが戦ってるのか?」
「必要な時にはねぇ。でも、ここではそれ以上に大切な仕事があるわ」
「仕事?」
「子供たちを教えることよ」
ローガンが学園の外へ視線を向ける。
そこからは、廊下を走る生徒たちの声が聞こえていた。
「……教師、か」
「ええ」
「俺にできると思うか?」
「あなたならできるんじゃない?」
「根拠は?」
「あなたの記憶を見たからよ。少なくとも、あなたは長い人生の中で嫌というほど人間とミュータントを見てきたでしょう?」
ローガンは黙った。
私は続ける。
「歴史を教えるには、教科書に書いてあることだけが必要なわけじゃないもの」
しばらくして、ローガンは小さく笑った。
「……悪くないかもな」
「でしょう?」
こうして、異世界からやって来たウルヴァリンは、しばらくの間この学園に滞在することになった。
そして数日後。
新しい歴史教師を紹介すると告げられた教室では、生徒たちが興味深そうに教壇を見つめていた。
その前に立ったのは、もちろんローガンだった。
「今日から歴史を担当する。ローガンだ」
教室の中から、おずおずと手が上がる。
「先生、どこの国の歴史が専門なんですか?」
ローガンは少し考えた。
「……全部だ」
「全部?」
「ああ。長く生きてりゃ、嫌でも色々見ることになる」
教室が静かになる。
その様子を、廊下から偶然眺めていた私は思わず口元を緩めた。
どうやら、新しい教師は思ったより早く学園に馴染みそうだ。
こうして、恵まれし子らの学園に――新たな教師が加わった。
かつて別の世界でX-MENとして戦った男。
ウルヴァリンこと、ローガン。
彼の新しい人生は、戦場ではなく、この学園の教室から始まることになった。
第二話は、ローガンがこの世界の「恵まれし子らの学園」にやって来るお話でした。
別世界を生きてきたウルヴァリンと、この世界のX-MENがどう関わっていくのか。そして歴史教師となったローガンが、子供たちにどんな授業をするのか。
今後は学園の日常を中心にしながら、時々大きな事件や長編エピソードを挟んでいく予定です。
感想や「このキャラクターを登場させてほしい」などのご意見がありましたら、活動報告などにコメントをいただけると嬉しいです。
それでは、次回もよろしくお願いします。