そこで出会ったのは、操祈たちの知らない力――「アギト」に関わる少女、ヴァーチェ。
果たして彼女との出会いは、どんな事件へ繋がっていくのか。
それでは、第四話をどうぞ。
その日は、珍しく何も起こらない一日だった。
朝から授業は滞りなく進み、昼休みになれば生徒たちは中庭や食堂へ集まり、午後になれば校舎の中も少しずつ静かになっていく。
恵まれし子らの学園を経営する私にとって、こういう一日はありがたい。
何しろ私の周囲では、普通なら一生に一度遭遇するかどうかも分からないような事件が、妙に頻繁に起こるのだから。
ミュータント。
転生者。
前世の記憶。
元々は物語の中にしか存在しなかったはずの能力。
そして、この学園に集まってくる特殊な子供たち。
私は彼らが安心して暮らせる場所を作ったつもりだった。
けれど最近では、「特殊な子供たちを守る学校」というより、「特殊なものが次々と集まってくる場所」になっているような気がする。
まあ、今さら気にしても仕方がない。
少なくとも今日くらいは、校長として平穏な仕事を終えられるだろう。
――そう思っていた。
その数時間後までは。
⸻
「校長、ちょっといいか?」
執務室の扉が開き、ローガンが顔を出した。
私は書類から顔を上げる。
「どうしたの、ローガン先生? 授業ならもう終わったでしょう?」
「ああ。だが、授業とは別の話だ」
彼の表情は、いつもの授業が終わった教師の顔ではなかった。
少しだけ険しい。
ローガンがこういう顔をするときは、大抵ろくな話ではない。
「何かあったの?」
「ニュースを見ろ」
「……嫌な予感しかしないわねぇ」
私はリモコンを手に取り、壁際のモニターを起動させた。
映し出されたのはニュース番組だった。
ニューヨーク州から離れた地方都市。
道路には規制線が張られ、警察車両や救急車が集まり、上空には報道ヘリが飛んでいる。
画面下には、物騒な見出しが表示されていた。
『地方都市で謎の大型生物が大量発生』
映像が切り替わる。
建物の壁を這い回る、黒い外殻を持った異形。
四本、六本。それ以上の脚を持つ個体もいる。
人間ほどの大きさを持ち、金属のような光沢を帯びた外骨格。
鋭い顎。
そして何より、ただの野生動物とは思えない統率された動き。
「……巨大な蟻?」
「ああ」
ローガンが短く答える。
「警察が対応しているが、通常の装備じゃ止められていない。軍も動き始めているらしい」
「被害は?」
「まだ詳しくは分からん。ただ、住民の避難が始まっている」
私は画面を見つめた。
こういう事件を見たとき、まず考えることがある。
――ミュータントなのか。
私の精神能力なら、ある程度のことは探れる。
人間なのか。
意思疎通が可能なのか。
それとも単純な生物なのか。
けれど、画面越しに見ているだけでも妙な違和感があった。
あれは、私の知っているミュータントの能力とは何かが違う。
だが、それが何であろうと、すでに一般人が巻き込まれている。
ならば、私たちが動く理由は十分だった。
「ローガン」
「ああ」
「準備をお願い」
「分かった」
「今回は私も出るわ。ディズィー、我愛羅、美琴にも声をかけて」
ローガンは頷くと、すぐに部屋を出ていった。
私はもう一度、ニュース映像へ目を向ける。
画面の向こうでは、巨大な蟻が道路を横切り、逃げ惑う人々を追っている。
「……まったく」
私は小さく息を吐いた。
「平和な一日って、どうしてこう長続きしないのかしらねぇ」
⸻
◇
数十分後。
私たちは現地へ向かっていた。
今回の出動メンバーは、私、ディズィー、ローガン、我愛羅、そして美琴。
まだ正式な組織として完成したばかりの私たちにとって、これが最初から理想的な任務になるとは思っていない。
だからこそ、今回は互いの能力を活かして、とにかく市民の安全を最優先にする。
「操祈」
向かい側に座っていた美琴が口を開く。
「なぁに?」
「今回の相手、本当にミュータントじゃないの?」
「分からないわ」
「操祈でも分からない?」
「私だって万能じゃないのよ?」
私は苦笑する。
「ただ、少なくとも今まで見てきた能力者とは少し違う。だから、最初からミュータントだと決めつけるのは危険ね」
「了解」
美琴はそう答えると、窓の外へ視線を戻した。
隣では我愛羅が静かに目を閉じている。
ディズィーは今回の情報を確認しながら、救助を優先するための動きを考えているようだった。
そしてローガンは、黙ったまま前方を見ている。
教師として教壇に立っているときとは違う。
彼がこういう顔をすると、長い戦いの経験を持つ戦士なのだと改めて思わされる。
「見えてきました」
ディズィーの声が響いた。
遠くに黒い煙が上がっている。
やがて、道路を封鎖している警察車両が見えてきた。
その向こう側。
建物の影から、巨大な蟻が姿を現した。
「……あれか」
ローガンが呟く。
「ええ」
私は精神を集中させた。
周囲にいる人々の意識が流れ込んでくる。
恐怖。
混乱。
助けを求める声。
そして――。
「……ちょっと待って」
私は眉をひそめた。
「どうした?」
「怪物が、もう一種類いるわ」
⸻
その瞬間だった。
建物の屋上から、何かが飛び降りてきた。
地面が大きく揺れる。
土煙の向こうから姿を現したのは、黒と緑を基調とした異形の戦士だった。
昆虫を思わせる頭部。
鋭い爪。
そして背中から伸びる、異様な触手。
「……あれは何?」
美琴が身構える。
我愛羅の周囲に砂が集まり、ディズィーも武器を構えた。
ローガンはすでに両手の爪を展開している。
「分からない」
私は相手を精神的に探った。
――人間だ。
少なくとも、完全な怪物ではない。
しかし、その精神構造はミュータントとも違う。
そして私は、その姿を見た瞬間、前世の記憶を思い出していた。
「……嘘でしょう」
思わず声が漏れる。
この姿。
この力。
そして、前世の記憶にある物語。
「まさか……エクシードギルス?」
「知っているの?」
ディズィーが尋ねる。
「名前と姿だけなら」
私は答えながら、相手から目を離さない。
仮面ライダーアギト。
前世で私が見た作品の一つ。
その世界に存在したギルス。
ただし、私が知っているのはあくまで映像作品としての知識だ。
この世界のギルスが、前世で見た物語と同じ歴史を辿っている保証などない。
むしろ、同じだと考える方が危険だ。
「……でも、厄介な存在であることだけは確かね」
ギルスがこちらを向いた。
次の瞬間、背中から伸びた触手が唸りを上げる。
「来るぞ!」
ローガンが叫ぶ。
触手がこちらへ伸びてくる。
私は精神波を放った。
――だが。
止まらない。
「操祈さん!」
ディズィーが前へ出た。
彼女の攻撃が触手を弾き飛ばす。
「ありがとう」
「まだ来ます!」
再び触手が伸びる。
今度は我愛羅が手を上げた。
砂が地面から噴き上がり、ギルスの身体を包み込む。
「動きを止める」
しかし、ギルスは身体を捻り、触手で砂の拘束を引き裂いた。
「速いな」
我愛羅が目を細める。
「なら、これで!」
美琴の電撃が走った。
ギルスの身体を雷撃が直撃し、その身体が大きく吹き飛ぶ。
「効いた!」
美琴が声を上げる。
しかしローガンが低い声で言った。
「まだだ」
ギルスがゆっくりと立ち上がった。
身体から煙を上げている。
それでも、戦意は衰えていない。
「……頑丈すぎない?」
美琴が呟いた。
⸻
その直後。
背後から巨大な蟻の群れが迫ってきた。
「……今度はあっち?」
私は振り返る。
ギルスだけではない。
まだ大量の蟻怪人が残っている。
「操祈、どうする?」
ローガンが尋ねる。
「市民の救助を最優先。ローガンとディズィーは右側。我愛羅と美琴は左側をお願い」
「了解」
「分かった」
「任せて」
X-MENが散開する。
私は精神能力を広げた。
逃げ遅れた人間を探す。
三人。
建物の中。
さらに、その建物には蟻怪人が一体。
「見つけた」
私は怪人の精神へ干渉する。
一瞬だけ、その動きを止めた。
「今よ!」
ローガンが壁を切り裂く。
ディズィーが瓦礫を吹き飛ばし、中にいた三人を救出する。
その一方で、美琴の電撃が複数の蟻怪人を吹き飛ばし、我愛羅の砂が別の怪人たちを拘束していく。
ローガンは逃げ遅れた怪人へ飛び込み、その身体を切り裂いた。
しかし。
地面に倒れた怪人が、再び動き始めた。
「……再生?」
ディズィーが驚く。
「面倒だな」
ローガンが舌打ちする。
⸻
その瞬間だった。
ギルスが動いた。
触手が伸びる。
しかし、その先にいたのは私たちではなかった。
再生した蟻怪人だった。
「え?」
ギルスが怪人を持ち上げる。
そして、そのまま首を引きちぎった。
蟻怪人の身体が地面に落ちる。
再生しかけていた身体は、今度こそ完全に動きを止めた。
「……なるほど」
私はギルスを見る。
「この子、私たちを狙っていたんじゃない」
「蟻の怪物を追ってた?」
美琴が聞く。
「たぶんね」
ギルスは残った蟻怪人へ向かって走り出した。
今度は私たちは止めない。
むしろ、その進路を空ける。
ギルスが蟻怪人の群れへ突っ込んだ。
触手が舞い、爪が閃く。
そして私たちも、それぞれの能力を使って残った怪人を倒していく。
しばらくして。
最後の一体が倒れた。
周囲から、ようやく戦闘の音が消える。
⸻
ギルスはその場に立ったまま、こちらを見ていた。
敵意はある。
だが、それは私たちに向けられたものではない。
やがて、その異形の身体が揺らぎ始めた。
触手が消える。
外殻のような身体が変化する。
そして、そこに立っていたのは一人の少女だった。
私たちとそう年齢の変わらない少女。
少女は私たちを一人ずつ見回した。
「……お前達は、アギトではないのか?」
美琴が首を傾げる。
「アギト?」
「あなたが言うアギトという存在ではないわね」
私は答えた。
少女はしばらく私たちを見つめる。
「そうか。なら、敵ではない」
「さっきは思いっきり攻撃してきたじゃない」
美琴が不満そうに言った。
「勘違いした」
「勘違いで電撃を食らったんだけど」
「……悪かった」
あまりにも素直な謝罪だったので、美琴の方が言葉に詰まる。
⸻
私は少しだけ笑ってから、少女へ向き直った。
「あなた、あの蟻の怪物を追っていたの?」
「ああ」
「どうして?」
「奴らが人間を襲っていたからだ」
少女の答えは簡潔だった。
少なくとも、嘘をついているようには感じない。
「そう。じゃあ、私たちは目的が同じだったわけね」
「そういうことになる」
「あなたの名前は?」
「ヴァーチェ」
「ヴァーチェ……」
名前を覚える。
「私は食蜂操祈。こっちは私の仲間。私たちはX-MENよ」
「X-MEN……」
ヴァーチェはその名前を記憶するように小さく呟いた。
「覚えておく」
「そうしてくれると助かるわ」
私は笑みを浮かべた。
「それと、もし何か困ったことがあったら、私を訪ねてきて」
「お前を?」
「ええ。ニューヨーク州ウエストチェスターにある、恵まれし子らの学園。私が経営している学校よ」
ヴァーチェは少しだけ考える。
「学校……」
「能力を持つ子供たちを受け入れているの。あなたが何者なのかを問い詰めたりするつもりもないわ」
「……分かった。覚えておく」
ヴァーチェはそう言うと、私たちに背を向けた。
そして、少し離れた場所へ歩いていく。
「……あら?」
私は目を細めた。
いつの間にか、道路の向こうに一頭の馬が立っている。
ヴァーチェは何の迷いもなくその馬へ近づき、背に跨った。
「馬に乗って帰るの?」
美琴が呟く。
私も思わず苦笑する。
「ずいぶん古風な帰り方ねぇ」
ヴァーチェは振り返る。
「また縁があれば」
「ええ。また会いましょう、ヴァーチェ」
馬が走り出す。
少女の姿は、夕暮れの道の向こうへ少しずつ小さくなっていった。
やがて、完全に見えなくなる。
⸻
「……不思議な子でしたね」
ディズィーが言う。
「ええ」
私は彼女が消えていった方向を眺めながら答えた。
「少なくとも、普通のミュータントじゃないわね」
「俺もそう思う」
ローガンが頷いた。
「あいつの身体から感じたものは、俺が知ってるミュータントとは違う」
「俺も同じだ」
我愛羅も同意する。
美琴が私を見る。
「ねえ、操祈」
「なぁに?」
「あの子、結局何なの?」
「それが分からないのよ」
私はそう答えた。
そして、もう一度ヴァーチェが去っていった方向を見る。
エクシードギルス。
前世の私が知っていた物語に登場した存在。
それが今、この世界に実在している。
だが、ここで一つ問題がある。
私が知っている『仮面ライダーアギト』の物語と、この世界の歴史が同じとは限らない。
むしろ、今までの経験を考えれば違う可能性の方が高い。
転生者が存在する。
前世とは異なる人生を歩んでいる者もいる。
私自身がその証拠だ。
ならば、ヴァーチェもまた、私の知っている物語とは別の人生を歩んでいるのだろう。
「……少し調べた方がいいかもしれないわねぇ」
私はそう呟いた。
⸻
◇
学園へ戻った頃には、すっかり日が暮れていた。
事件そのものは収束している。
現地の警察や軍への引き継ぎも済ませた。
幸い、一般人の被害は最小限に抑えられた。
X-MENとしての最初の実戦。
結果だけを見れば、成功と言っていい。
けれど私は、執務室の机に戻ってからも、どこか釈然としなかった。
机の上には今回の事件についてまとめられた報告書がある。
蟻型怪人について。
その発生原因。
生物としての分類。
そして――謎の少女、ヴァーチェ。
分からないことばかりだった。
⸻
「……エクシードギルス、ねぇ」
私は椅子に身体を預ける。
前世の記憶にある作品では、ギルスという存在には明確な背景があった。
だが、この世界ではどうなのか。
少なくとも、今日出会った少女は私が知っている物語の登場人物ではない。
彼女には彼女の人生がある。
彼女には彼女の歴史がある。
そして、その歴史を私は何も知らない。
「……当たり前よね」
私は苦笑する。
私はMarvelの知識ですら映画が中心だ。
しかも、その知識だって完璧ではない。
そんな私が、前世で見た作品の世界について何でも知っていると思う方がおかしい。
まして、この世界は前世の世界でも、作品の世界でもない。
いくつもの物語が混ざり合い、それぞれが独自の歴史を歩いている。
「私が知っているのは、あくまで物語としての世界」
私は窓の外を見る。
夜の学園は静かだった。
寮の明かりがいくつか見える。
そこでは、生徒たちが今日という一日を終えようとしている。
その姿を眺めていると、私はふと思う。
私は、この子たちを守るために学園を作った。
そして、そのためにX-MENを作った。
ミュータントであること。
特殊な力を持っていること。
それだけを理由に、誰かが迫害されることのない場所を作りたかった。
それなのに。
今日、私は初めて気付いてしまった。
この世界には、私が想像していた以上に多くの「異なる力」が存在している。
ミュータントだけではない。
転生者だけでもない。
私が前世で「物語」として知っていた力が、この世界では誰かの人生として存在している。
⸻
「……転生特典って」
私は机の上に視線を落とした。
私たち転生者が持っている、前世とは異なる力。
私は最初、それを単純なプレゼントだと思っていた。
能力を一つもらった。
知識を少し持っている。
それだけの話だと。
けれど。
もし、その力が元になった物語と切り離せないものだったら?
能力だけではなく。
その力が存在する世界。
そこにある歴史。
そして――その物語に付随していた厄介ごとまで、一緒についてきているのだとしたら。
「……それは、ちょっと困るわねぇ」
私は深く息を吐いた。
今日の敵は倒した。
市民も守った。
X-MENとしての任務は成功した。
それでも私は、手放しで喜ぶことができなかった。
ヴァーチェという少女。
彼女が持つエクシードギルスの力。
そして、その背後にあるかもしれない「アギト」という存在。
私にはまだ何も分からない。
ただ一つ分かっていることがある。
――今日の事件は、単なる怪人事件ではなかった。
⸻
この世界に、私の知らない「物語」が存在している。
そして、その物語がいつか、この学園にまで辿り着く可能性がある。
「……お願いだから」
私は窓の外を見ながら呟いた。
「学校の仕事だけは、平和にやらせてちょうだいよねぇ」
当然のように、返事はなかった。
ただ夜風が木々を揺らしている。
私は知らない。
今日出会ったヴァーチェが、かつて転生者だった者たちの血を受け継ぐ一族に生まれた少女であることも。
その一族が、アギトという力を巡って長い歴史を歩んできたことも。
そして、その力を巡る争いが、いずれ私たちX-MENの前に再び姿を現すことも。
今の私にできるのは、ただ一つ。
分からないものを、分からないままにしないこと。
そのために、私は報告書の最後に一行だけ書き加えた。
――「ヴァーチェについて、要調査」。
それから私は、もう一度だけ窓の外を眺めた。
明日もまた、教師としての一日が始まる。
願わくば。
明日は本当に、何も起こりませんように。
第四話、いかがだったでしょうか。
今回は、いよいよ本格的な戦闘を入れつつ、この世界に「ミュータント以外の特殊な力を持つ存在」がいることを示す回にしてみました。
特にヴァーチェについては、単なる敵キャラクターではなく、アギトの力を受け継いだ一族の出身者として、今後少しずつ背景を掘り下げていく予定です。
操祈たちX-MENにとっても、今回の事件は「怪人を倒して終わり」という話ではありません。自分たちの知らない力や歴史が、この世界にはまだ存在している――そんなことを知るきっかけになりました。
ここから先、アギトに関わる物語がどのようにX-MENの日常へ入り込んでいくのか、楽しんでいただければ幸いです。
感想や「このキャラクターをこう絡めてほしい」といった意見などがありましたら、活動報告の方へぜひコメントをお願いします。
虎徹の再婚相手に立候補したい奴
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ナイチンゲール
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プレシア
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在校生 ブルーローズ