ヴァーチェを狙う者たちが、ついに学園へと襲来する。
生徒たちを守るため、操祈たちはX-MENとして迎え撃つことに。
果たして、ヴァーチェを追う者たちの正体とは――。
ヴァーチェが私を訪ねてきた日の翌日。目を覚ました彼女は、再び私の前へやってきた。昨日、突然「私を殺して」と頼んできた少女。その理由を聞き出すこともできないまま眠らせてしまったけれど、少なくとも私は彼女を殺すつもりなど毛頭ない。だからこそ、改めて彼女と向き合うことにした。
「ヴァーチェ、なんでも相談に乗ると言った手前悪いけれど、私は君を殺すことはしたくないわ。何か困ったことがあるなら、私たちも一緒に手伝う」
「駄目、巻き込めない」
「昨日、あんなことを言われた時点で、もう十分巻き込まれているわよ」
私がそう返した、その直後だった。学園中にけたたましい警報が鳴り響いた。私は反射的に顔を上げ、ヴァーチェもまた警報の意味を察したように表情を強張らせる。
「な、まさか……」
「来た……きっと、あいつらだ」
昨日から彼女が恐れていた追手が、とうとうこの学園まで辿り着いたらしい。私はすぐさまテレパシーを学園全体へ飛ばした。
『皆、学園内に侵入者よ。先生たちは子供たちをシェルターへ避難させて。X-MENは侵入者への対応をお願い。私もすぐに向かうわ』
私からの指示を受けた教師たちは、すぐさま行動を開始した。授業中だった生徒たちを教室から連れ出し、混乱が広がらないように声を掛けながら地下シェルターへ誘導していく。私も生徒たちの様子を確認しながら、必要な指示を次々と飛ばした。
「さあ、皆。今日の授業は中止よ。先生の指示に従って、シェルターへ避難してちょうだい。年長の子は小さい子たちを気にかけてあげて。スコットは虎徹と一緒に皆をまとめて。ナイチンゲールとジーンは、他の上級生にも声を掛けて人数確認をお願い。ボビーは私と一緒に学園の設備を確認するわ」
「了解!」
教師たちがそれぞれの役割へ散っていく。普段なら生徒たちの声で賑やかな校舎が、今は緊張した空気に包まれていた。けれど、教師たちも生徒たちも慌ててはいない。ここで働く者たちは、こういう非常事態にどう動くべきなのかを理解している。それだけでも、学園を作った意味はあったのだと思う。
その一方で、ローガンたちX-MENも侵入者の探索を開始していた。敵がどこから入り込み、どれほどの数がいるのかはまだ分からない。ローガンは他のメンバーと合流するために別行動を取りながら、周囲を警戒して校内を進んでいた。私もヴァーチェと行動を共にしながら、敵の位置を探っていく。
「操祈、あっち」
ヴァーチェが廊下の先を指差した。どうやら彼女には、アギトの気配を追跡することができるらしい。私は彼女の案内に従いながら、テレパシーで仲間たちの位置を確認する。すると、どうやら美琴――マグニートーが、すでに侵入者の一部と接触したらしい。
「ヴァーチェ、どうやら美琴の方が先に客人と合流したみたいよ」
「そうみたい」
ヴァーチェは短く答えると、その場で身構えた。次の瞬間、その身体が大きく変化していく。人間の少女だった姿が異形へと変わり、エクシードギルスへと変身した。
「行くわよ」
「うん」
私たちは敵のいる方向へ向かって走り出した。
やがて廊下の先から、複数の足音が響いてくる。姿を現したのは、昨日も見た異形――アナザーアギトだった。私はすぐさま能力を集中させる。学園には非常時に備えた防衛設備がいくつも用意されている。その中には、マグニートーとして戦う美琴が能力を最大限に活用できるよう、各所に大量の砂鉄も備蓄されていた。
私はその砂鉄を一気に引き寄せる。黒い粒子が廊下を埋め尽くすように舞い上がり、次々と鋭い刃へと姿を変えていく。
「行きなさい!」
無数の砂鉄の刃が高速で回転しながら敵へ襲い掛かる。アナザーアギトが回避しようとしても、刃は軌道を変えて追いすがる。その隙を逃さず、ヴァーチェもまた敵の群れへ飛び込んだ。エクシードギルスの背中から伸びた四本の触手が自在に動き、一体を貫いたかと思えば、別の一体を薙ぎ払い、さらに別の敵へと襲い掛かる。私とヴァーチェの攻撃によって、廊下にいたアナザーアギトは次々と倒れていった。
最後に残った一体へ、私は能力を集中させる。近くの理科室から机を二つ引き寄せ、それを敵の左右から凄まじい勢いでぶつけた。鈍い衝撃音が響き、机の間から赤黒い血が飛び散る。床へ崩れ落ちたアナザーアギトは、もはや原形を留めていなかった。
「……死んだのか?」
私が確認すると、ヴァーチェは首を横に振った。
「ううん。一族の中に、噛みついた相手を自分と同じ姿に変えて操る奴がいる。吸血鬼みたいな奴」
「吸血鬼みたいな奴……?」
「多分、こいつはそいつに造られた奴ら。だから、ここにいる分をさっさと倒さないといけない。放っておけば、際限なく増えていく」
「うへぇ……」
思わず嫌そうな声が漏れる。昨日聞いた話だけでも十分厄介だったというのに、今度は感染するように仲間を増やしていくタイプまでいるらしい。前世の記憶にあるアギトの知識と照らし合わせても、これは私の知らないこの世界独自の要素だ。
「ということは、ここに紛れ込んでいる敵だけを倒せば終わり、ってわけじゃなさそうね」
「うん。外にもいると思う」
「だったら、外へ行くわよ」
「分かった」
私とヴァーチェは、そのまま校舎の外へ向かった。
外へ出た瞬間、そこにはすでに戦場が広がっていた。大勢のアナザーアギトに囲まれながら、ローガンが激しく戦っている。その爪が閃くたびに敵が吹き飛び、少し離れた場所ではバーナビーもまた敵を相手に戦っていた。そして美琴――マグニートーも、電磁操作によって砂鉄を自在に操り、巨大な刃や槍へと変化させながら敵を押し返している。
「操祈、下がってなさい!」
美琴が叫ぶ。
「あんたは直接戦うのが仕事じゃないでしょう。指示を飛ばしなさい、プロフェッサーX!」
「了解、マグニートー」
私は頷き、全員へテレパシーを飛ばした。
『いい? 我々はこれより、敵の首魁がいる場所へ向かうわ。そのために、まずこの包囲をこじ開ける』
戦いながら、仲間たちが私の指示へ意識を向ける。
『そして、この作戦の鍵はヴァーチェ。あなたよ』
「……私?」
ヴァーチェが驚いたようにこちらを見る。
『そう。私は、あなたがどうして自分の一族と争っているのか、その全てを知っているわけじゃない。でも、この問題はきっと、あなた自身が決着をつけるべきことなんでしょう』
私はヴァーチェを見つめる。
『だから私たちは、あなたを敵のところまで送り届ける。そのために全力で道を作るわ』
ヴァーチェはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと頷いた。
「……分かった」
ヴァーチェは大勢のアナザーアギトへ向かって駆け出した。エクシードギルスの背中から伸びた四本の触手が大きく展開され、一本が敵を貫き、一本が複数の敵をまとめて薙ぎ倒す。残る二本も別々の敵を捉え、ヴァーチェは四本の触手をまるで自分の手足のように自在に操りながら、敵の群れを次々と突破していく。
その背後を、私たちが援護する。美琴の電撃と砂鉄の刃が敵の進路を塞ぎ、ローガンやバーナビーが接近してきた敵を倒し、我愛羅の砂が地面から噴き上がってアナザーアギトたちを拘束する。少しずつ、ほんの少しずつではあるが、敵の包囲に穴が開いていく。
その先には、敵の気配が集中している場所があった。
「……あれね」
私が呟くと、ヴァーチェも同じ方向へ視線を向けた。
「いる……」
彼女の声が低くなる。
「私を狙っている奴が、あそこにいる」
私はヴァーチェの隣へ並んだ。
「だったら行きましょう」
「操祈……」
「ここまで来たんだもの。最後まで付き合うわよ」
ヴァーチェは一瞬だけ目を見開き、それから小さく頷いた。
「……ありがとう」
「お礼は全部終わってからでいいわ」
私は仲間たちへ意識を飛ばす。
『皆、もう一度だけ力を貸して。ヴァーチェをあの場所まで送り届けるわ』
返ってくるのは、それぞれの短い返事だった。
『了解』
『任せて』
『分かった』
『行こう』
私は小さく笑う。
「さあ、行くわよ」
ヴァーチェが敵の群れへ向かって駆け出す。その背中を追うように、私たちも一斉に前へ進んだ。
敵の数はまだ多いがそれでも、もう止まる理由はなかったヴァーチェ自身が、この戦いに決着をつけるために、そして私たちは、そのための道を切り開くために学園を襲ったこの事件の本当の戦いは、まだ始まったばかりだった。
後書き
今回は、ヴァーチェを追うアギトたちがついに学園へと襲撃してきました。
操祈たちは生徒たちを守りながら戦い、ヴァーチェ自身も一族との因縁に決着をつけるため、敵の中へと進んでいきます。
果たして、ヴァーチェを追ってきた者たちの目的とは。そして、彼女は自分の過去とどう向き合うのか。
次回も、アギトを巡る物語はさらに動き出します。