一方、ヴァーチェは一族との因縁に決着をつけるため、故郷へと向かう。
そして彼女の前に、これまでとは異なる新たな力が目覚める――。
『よし、美琴。私が合図したら、学園の壁でも何でもいい。大きなものを動かして、この包囲をこじ開けてちょうだい。どれくらい持つ?』
『持って一分ってところね』
『十分よ。皆、美琴を守って。ヴァーチェをこの包囲網から突破させるわ』
私が指示を飛ばすと、美琴――マグニートーが能力を発動した。学園の建物を構成する金属や周囲に存在する大量の金属が一斉に動き出し、巨大な壁となってアナザーアギトの群れを押し退けていく。敵の包囲が強引に分断され、ほんの一瞬だけ、外へ続く道が開いた。
「今よ! ヴァーチェ、行って!」
「俺のバイクを使え!」
ローガンが叫び、自分のバイクのキーをヴァーチェへ投げ渡す。ヴァーチェはそれを受け取ると、迷うことなくバイクへ駆け寄った。
「ありがとう!」
ヴァーチェが跨った瞬間、バイクの車体が異様な変化を始める。機械的な変形音とともに、その姿はただのバイクから、ギルス専用マシン――ギルスレイダーへと変貌した。
ヴァーチェはハンドルを握り、アクセルを大きく捻る。
「いい子。行くよ!」
エンジンが唸りを上げる。ギルスレイダーは一気に加速し、開かれた包囲網を突破していった。その目的はただ一つ。この襲撃を引き起こした元凶を、自分自身の手で終わらせることだった。
「……さあ、行ったわね」
私は遠ざかっていくヴァーチェの背中を見送った。そして、すぐに周囲の敵へ意識を向ける。
「操祈、これでどうする?」
美琴が尋ねる。
「もう少しだけ時間を稼いでちょうだい。こいつらについて、確かめたいことがあるの」
私は目の前のアナザーアギトたちへ精神を集中させた。これまで戦ってきた敵は、確かにアギトの力を持っている。しかし、彼らの精神から感じられるものは、通常の人間とは明らかに違っていた。理性がほとんどなく、ただ命令された獣のように動いている。
それでも、アギトはアギトだ。
私は慎重に一体ずつ精神状態を探り、彼らの中に人間としての意識が残っていないかを確認していく。
「……解析できたわ」
私は息を吐く。
「少なくとも、ここにいる分体の中には人間は存在しない。思いっきりやっていいわよ!」
『了解!』
私が一斉に敵の動きを停止させる。だが、これだけの数を同時に精神能力で拘束するのは、想像以上に負担が大きかった。
幼い頃から能力を自覚し、長年にわたって精神能力を鍛えてきた原作のチャールズとは違う。私が本格的にこの力を使い始めてから、まだそれほど時間は経っていない。
まして相手は、理性のない獣とはいえアギトだ。
一体ならともかく、大量のアギトをまとめて押さえつけるとなれば、今の私には限界がある。
「……っ」
視界が揺れる。
頭の奥が焼けるように痛い。
それでも、ここで解除するわけにはいかない。
「お願い……もう少しだけ……」
仲間たちが動く気配を感じる。動きを封じられた敵を、皆が一斉に掃討していく。やがて最後の一体が倒れたところで、私はようやく能力を解除した。
その瞬間、身体から力が抜けた。
「……あ」
目の前が真っ暗になる。
そのまま私は、意識を手放した。
◇
その頃、ヴァーチェは一族の集落へ向けてギルスレイダーを走らせていた。荒野を駆け抜けながら、彼女の頭の中に浮かんでいたのは、先ほど別れてきた操祈たちの姿だった。
(操祈……どうして、あんなふうにしてくれるんだろう)
彼女が操祈たちと初めて出会ったのは、一年前だった。最初の出会いこそ、自分から彼女たちへ襲い掛かるという最悪のものだったが、それから何度か共闘する機会があり、ヴァーチェは少しずつエグゼビアスクールへ顔を出すようになった。
そこで食事をご馳走になったこともあった。大怪我をしたときには、何日も付きっきりで看病してもらったこともある。夜中に一人で街を歩いていて警察官に補導されそうになったときには、操祈が何度も助けてくれた。きちんとした身分証を持っていなかった自分のために、学校の生徒だと説明して守ってくれたことさえあった。
読み書きや計算を教えてもらった。アルバイトのやり方まで教えてもらった。振り返ってみれば、ヴァーチェは一年間で操祈たちに数え切れないほど世話になっていた。
一年前、現在の里長によって両親を殺され、部族の集落から逃げ出したヴァーチェにとって、操祈はいつの間にか親代わりのような存在になっていた。
(私は……操祈が大好きだ)
その気持ちは、もう隠す必要もないほど大きくなっていた。
けれど、それでも忘れたことはない。
ママとパパを殺された恨みだけは、一日たりとも消えたことがなかった。
だから、今日で終わらせる。
自分の一族との因縁も。
両親を殺した者への恨みも。
そして、アギトを巡るこの争いも。
(この部族に生まれるアギトは、私で最後にする)
ヴァーチェはギルスレイダーの速度をさらに上げた。
やがて、見慣れた一族の集落が視界に入る。
だが、そこにはすでに大勢の戦士たちが待ち構えていた。
先ほど学園を襲撃した分体たちとは違う。
彼らは、本物のアギト。
ヴァーチェと同じ一族に生まれ、アギトの力を受け継いだ者たちだった。
ギルスレイダーを停止させ、ヴァーチェはゆっくりとバイクから降りる。
周囲を取り囲む戦士たちを見渡し、静かに拳を握った。
「……ここで終わらせる」
覚悟を決め、ヴァーチェは変身しようとした。
その瞬間だった。
いつもとは違う感覚が身体を駆け抜けた。
「……何?」
腰の辺りに、これまで感じたことのない力が集まっていく。
次の瞬間。
ヴァーチェの腰に、一つのベルトが現れるアギトの力を象徴するベルト。
それを見たヴァーチェ自身も、何が起きているのか理解できなかった。
それでも、不思議と身体はその使い方を知っていた。
ヴァーチェは自然に構える。両手を腰の前で交差させ、そのまま拳を握って両腰へ移動させる。続いて左手、右手の順番で顔の前へと動かし、再び交差させる。
腰に現れたベルトへ手を伸ばす。
そして、そのスイッチへ指を掛けた。
目の前には、自分を取り囲む一族の戦士たち。
背後には、もう戻れない過去。
そして脳裏には、最後まで自分を信じてくれた操祈の姿が浮かんでいた。
ヴァーチェは拳を握り締める。
「……操祈」
小さくその名を呟く。
「行ってくる」
そして――。
「…………変身!」
ヴァーチェの身体を、凄まじい光が包み込んだ。
今回は、操祈たちがヴァーチェを守りながら敵の包囲を突破し、彼女を一族の待つ故郷へ送り出す話となりました。
そして最後には、ヴァーチェの中でこれまでとは違うアギトの力が目覚めます。
果たして、彼女は一族との戦いに決着をつけることができるのか。そして、彼女が最後に選んだ「変身」の先に待つものとは――。
次回、ヴァーチェの戦いが始まります。