私はアギトへと変身した。
これまで使っていたエクシードギルスとは違う。身体の内側から湧き上がる力も、目の前にいる一族の者たちから向けられる視線も、何もかもが今までとは違っていた。
私を取り囲むアナザーアギトの集団から、一人の男が前へ出てくる。片目には大きな傷が走り、顎には白い髭が生えている。身体中に古い傷を刻んだその姿から、長い年月を戦い抜いてきた戦士なのだと分かった。
「ヴァーチェ、大人しく我らが族長に貴様の持つアギトの力を渡せ」
「渡すと思う?」
私はシャイニングカリバーを構え、男を睨みつける。
「そう言って、パパとママを殺して力を奪ったくせに。パパの……ギルスの原初のワイズマンモノリスを返してよ」
男は苦々しげに答えた。
「それは難しい。族長が持っている。我らアナザーの一族でも最強と呼ばれた長老ですら勝てなかった相手だ」
「そんなの、やってみなきゃ分からない」
私は自分の身体を見下ろす。
今までのギルスとは違う。
私自身、こんな姿のアギトを見たことがない。何本にも展開されたクロスホーン。胸部に浮かぶ六芒星のようなワイズマンモノリス。そして、その一角が欠けている異様な姿。
「見て。この姿……今まで、こんなアギトになった人はいなかったんでしょう?」
私はシャイニングカリバーを握り直した。
「私の力は、まだ誰にも分からない。だったら――これが、あいつを倒すためのきっかけになるかもしれない」
「無理だ」
男は首を横に振った。
「我々の力も、各部族が受け継いできた原初のワイズマンモノリスも、すべて族長に抑えられている。逆らえば力を奪われ、殺される」
「……」
「お前がギルスに変身できていたのも、ギルス一人では勝てないと分かっているからこその気まぐれだった。そして、お前がギルスとして戦えたのは、お前の母が持っていたグランドの原初のワイズマンモノリスがあったからだ」
私は息を呑んだ。
「だが、族長の支配するこの地へ戻ったことで、お前はギルスの力を使えなくなった。その結果、お前の中に眠っていた本来の力が目覚めたのだ」
「……ママが」
私は胸元へ手を当てる。
母が私に残してくれたもの。
それが今、この力となっている。
けれど、もう迷わない。
「だったら、なおさらよ」
私はカリバーを構えた。
「今日でアギトの一族は終わる。私が終わらせる」
そして、目の前のアギトたちを睨みつける。
「私が最後のアギトになる!」
「カリム」
隻眼の男の隣から、若いアナザーアギトが歩み出た。
「親父、もういいだろ。ヴァーチェは結局、俺たちとは袂を分かったんだ」
男は私を見る。
「こいつは敵だ。殺して構わねえ。あいつの持つ原初のワイズマンモノリスを奪え!」
そして、私へ向かって叫んだ。
「さあ、殺せ!」
「……上等!」
ベルトからシャイニングカリバーを取り出す。
私は二本の刃を握り、ツインモードへ変形させた。
「ぶちかましてやる!」
次の瞬間、私は敵陣へ飛び込んだ。
襲い掛かってくるアナザーアギトをシャイニングカリバーで薙ぎ払い、その勢いのまま二本のカリバーを投げ飛ばす。回転する刃が周囲の敵を切り裂く間に、私はベルトからストームハルバートを取り出した。
迫ってきた二人へ向けて、ハルバートを投げる。
その刃が二人を貫いた。
続けて背後から襲い掛かってきた敵へ、今度はフレイムカリバーを振り抜く。投げていたシャイニングカリバーが手元へ戻ってくると、それをシングルモードへ戻した。
そして、その刃をカリムへ向ける。
「へへ……久しぶりだな、ヴァーチェ。また会えて嬉しいぜ」
「私は全然嬉しくない!」
カリムへ斬り掛かる。
しかし、カリムは私の攻撃を受け止めた。
「こいつはアギトの武器だ。俺が使えないわけないだろ!」
力任せにカリバーを奪い取ると、今度はカリムが私へ斬り掛かってくる。
私は慌てなかった。
ベルトの左側にあるスイッチを押す。
「がっ……!」
次の瞬間、ベルトから飛び出したストームハルバートがカリムの身体を貫いた。
「卑怯者が……」
「武器が一本だけなんて言ってない」
私はもう一本のシャイニングカリバーを取り出した。
そして、カリムへ向かって振り抜く。
「さようなら、婿候補」
カリムの身体が崩れ落ちた。
だが、これで終わりではなかった。
「ははははっ!」
森の奥から笑い声が響く。
「婿候補から、ここにいるぞ!」
姿を現したのは、先ほどまでとは比べ物にならない数のアナザーアギトだった。
「ウィル……」
私はその名前を呟く。
「ははは、俺からのプレゼントは喜んでもらえたかな、ヴァーチェ?」
「あんな大勢よこしておいてプレゼント? 迷惑もいいところよ」
ウィルは笑う。
こいつは他者や動物に噛みつくことで、その相手をアギトへ変えて操ることができる。昨日、学園へ送り込まれてきた軍勢も、こいつが生み出したものだった。
「まったく……他の奴らも相手にしなきゃいけないっていうのに」
私は武器を地面へ突き刺した。
足元にアギトの紋章が浮かび上がる。
構えを取る。
紋章が渦巻き、力が足へ集中していく。
「これで――終わり!」
私は前方へ跳び上がった。
そのまま敵の集団へ突っ込み、ウィルごとまとめて吹き飛ばす。
激しい衝撃の後、ウィルの身体が地面へ落ちた。
すると、ウィルによってアギトへ変えられていた者たちの姿が元へ戻っていく。
「……そういうことだったのね」
よく見れば、彼らの中には森の動物や、ウィルが飼っていた虫まで混じっていた。
だが、ウィルとカリムを倒しても、まだ戦いは終わらなかった。
私を取り囲むアギトは、未だに百人近く残っている。
「……まだ、これだけいるの」
その時だった。
背後から、地面を揺らすほどの大きな音が響いた。
振り返る。
そこにいたのは、巨大な白銀の狼だった。
「ファンク!」
見間違えるはずがない。
エグゼビアスクールで飼われている、あの大きな犬だ。
……いや。
「こんなに大きかったっけ?」
以前見た姿とは比べ物にならない。
白銀の毛並みを持つ巨大な身体。
「ウォォォォン!」
ファンクの遠吠えが響き渡る。
そのあまりの迫力に、周囲のアギトたちが怯んだ。特に若い戦士たちは、明らかに足が止まっている。
「怯えるな!」
隻眼のアナザーアギトが叫ぶ。
「所詮はデカいだけの犬畜生よ!」
その言葉を聞いた瞬間、ファンクの耳がピクリと動いた。
「……あ」
私は思わず呟く。
まずい。
「ウォン!」
ファンクが隻眼のアナザーアギトへ飛び掛かった。
「ぐっ……!」
男も迎え撃つが、力はファンクの方が上だった。
その身体が吹き飛ばされる。
「がっ……この犬風情が!」
ファンクは止まらない。
獲物へ飛び掛かり、その牙が男へ迫る。
男はすんでのところでファンクの顎を両手で受け止めた。
「ぐ、ぐおおおっ……!」
しかし、あまりにも力が違いすぎる。
腕から血が流れ、足も大地へ深く食い込んでいく。
それでも男は最後まで抵抗した。
「くっ……我らが一族に……栄光あれ!」
次の瞬間。
ファンクの顎が閉じた。
そして、隻眼のアナザーアギトは完全に動かなくなった。
集団をまとめていた男が倒れたことで、残されたアギトたちの戦意も一気に崩れていった。
変身を解き、命乞いを始める者まで現れる。
だが、その時だった。
「……何?」
周囲にいるアギトたちのワイズマンモノリスが、一斉に光り始めた。
光は次第に強くなっていく。
「やめて……!」
私は何が起きているのか理解できない。
そして、光が最高潮に達した瞬間。
アギトたちの身体から力が抜けていった。
一人。
また一人。
次々と倒れていく。
やがて、誰も動かなくなった。
その一方で、主人を失ったワイズマンモノリスは消滅しなかった。
まるで何かに導かれるように、その場から飛び立っていく。
私はその行き先を見つめた。
「……アギト神殿遺跡の方角」
あそこに何かがある。
私はそう確信した。
そして、遺跡のある方向へ歩き出す。
「ウォン!」
後ろからファンクがついてくる。
私は足を止めて振り返った。
「ありがとう、ファンク」
巨大な身体へ手を伸ばし、その頭を撫でる。
「私を助けに来てくれたんだね。きっと、あの人に言われたのかな?」
「クーン……」
ファンクが小さく鳴く。
「優しい子ね」
もう一度、頭を撫でる。
「ありがとう。でも、ここからはもう大丈夫」
私は遺跡の方へ視線を戻した。
「あなたは帰っていいよ。あの人のところへ」
「クーン……」
「じゃあ、行ってくるね」
私は歩き出した。
その背中へ向かって、ファンクが大きく遠吠えを上げる。
「アオーン!」
まるで、これから待ち受ける戦いへ向かう私を励ますような声だった。
私は振り返らなかった。
ただ、胸の奥に残った温かなものを感じながら、アギト神殿遺跡へ向かって歩き続けた。
ヴァーチェとアギトの一族の戦いは、ひとまず決着しかし、ワイズマンモノリスが向かった先には、まだ何かが待ち受けています。
次回、ヴァーチェはアギト神殿遺跡へ向かいます。