私、メリーさん代行業者 今、あなたのご依頼お待ちしております   作:メリーさんは小さくてモチモチ派

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私メリーさんになりました 今、借金をしています

 

 

 死んだ。死因は自殺?凶器となったのはホームセンターで買った割引の縄。レシートに50円引きと書いている。

 

 自殺なら疑問符をつける意味はないだろと思われるかもしれないが、私に自殺した記憶はない。なのに目の前の私にしか見えない肉塊は部屋の中で首を吊って死んでいる。

 目や口から透明な液体を垂れ流し、首吊り死体の真下には黄色い水溜りが作られている。幸い大きい方はしていないようなのでセーフ。……いや、恥ずかしいよ。もう大人なのに……。

 いくら絶望先生が好きだからと言って首吊り自殺するつもりはなかった。それに自殺するなら私の理想はベジータみたく家族を思いながら自爆する。

 

 そして今の私自身は足元がなく、透明な体。世間一般で私は幽霊と呼ばれるものになっていた。

 重力の影響がないものなので、生前ではできなかった倒立をして遊びつつ、自室を出ることもできないのでブレイクダンスも踊って時間を潰した。だいたい3日ほど経った頃。

 

「お、ねえ……ちゃん?」

 

 一人暮らしをしていた私のアパートに来た妹が真夏の暑さで腐って、原型が崩れかけた私の死体の前で膝を崩す。臭いを感じれない私にはわからないが、とんでもない悪臭だというのに、それを気にしないのか何分も座り続けていた。

 そして案の定、私の姿(幽霊)は生きている人間には見えていないようで、目の前でゲッタンを踊ってみても反応がない。せっかく妹に見せるため、この3日で習得したのに虚しさを覚えただけだった。

 

「う、ぁ……うぅ……」

『……流石に心にくるなぁ』

 

 泣いている妹の涙を拭ってあげることも、抱きしめてあげることもできない。良いお姉ちゃんやってなかったけど、最期ぐらい姉らしいことしたかったな。

 ふざけても現実逃避しても現実ってのは残酷に引き戻してくるのだと思い出した。

 

 

 

 それから両親やら、警察やらが来て、私の死体は回収された。

 それに引っ張られるよう幽霊の私も引きづられる。車の勢いに引き摺られたせいか、体はないのに疲れた。

 

『はえー、すごいですね』

 

 死化粧というのをご存知だろうか?

 亡くなった方の顔や髪を整え、生前のような穏やかな顔立ちに見えるように化粧を施すことなのだが、私も初めて見る。なんなら自分の顔で見ることになるなんて思いもしなかった。

 

 こうして葬式の準備が進むたびに、自分が死んだのだと思い知らされていく。空元気で何日も能天気でいられるほど私のメンタルは強くなかった。

 棺桶に入れられた自分の姿はどうにも現実離れしているように見えた。

 

『死にたくなかったな……』

「それを聞きたかった」

『ブラックジャックですか?』

「貴方が小さい頃に一緒に観たでしょ」

 

 誰にも聞こえないはずの私と会話した声のする方を見る。そこは棺桶の中。私(死体)のそばに置かれた可愛らしい人形から聞こえていた。

 

『いや、人形が喋るわけないですよね』

「幽霊なんて非科学的なものになってる貴方がそれを言うの?」

『キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!』

 

 人形が普通に喋り始める。あまりにも自然すぎて一瞬わからなかったが、私はその人形に見覚えがあった。

 この子は私が幼稚園の頃に祖父に貰ったぬいぐるみ。祖父の中古ショップで2980円で売られていたゴスロリメカクレお嬢様だ。名前はその時の気分で変わって【サリー】とか【アリス】とか【ゴンザレス】とか。

 友達のいなかった私にとっては、友達であり、家族であり、性癖の目覚めでもあった。

 

「久しぶりね」

『あ、えっと……久しぶり?』

「何が久しぶりよ!!」

『ご、ごめんなさい!』

 

 

 外から見れば理不尽にキレられる。でも理不尽というわけではない。何しろ私は彼女を捨てた。大学を卒業して、実家にある私の部屋をプラモ置き場にしたいという父の要望で部屋を片付けることになった。別に実家に自室がなくてもええかと思って掃除した時に、あまりに汚れていたのでゴミ袋に入れてクローゼットの中に放置していた。

 そんな彼女がなぜか私の棺桶の中にいて、なおかつ幽霊の私に話しかけてきた。

 

 

『どうしてここに?』

「貴方を殺そうと思って」

『もう死んでますよ?』

「そうね。ワタシが殺したもの」

『なるほど!』

 

 

 だから私は知らない間に自殺してたのか……。納得いってスッキリした!……いや納得できないよ!

 とりあえず今の彼女をメリーさん(仮)と呼ぶことを心の中で決めた。

 

『それじゃ意味が分かりませんよ』

「そうね。早くしないと焼かれそうだし、早速本題に入りましょう。貴方、ワタシになってみない?」

 

 どうして私は私を殺した人?に自分になってみないかと誘われてるんだろう。流石に2つ返事で「はい」と答えるほど馬鹿ではない。メリーさん(仮)の横に座って……浮いて黙って話を聞くことにしてみる。

 

「乗り移りって知ってるかしら?」

『幽霊とかが、生きている人間の精神を乗っ取るやつですよね?』

「その認識で十分よ。それをワタシの体で行ってみないかと聞いてるの」

『それになんのメリットが?』

「そうね。貴方は人形の身体とはいえ現実世界に干渉できる肉体を手に入れられる。コツがいるけど、飲食もできないこともないわ』

 

 

 そう聞くと利点が大きい。特に飲み食いできると言うのは食にキモイこだわりを持つ日本人としてはありがたい。

 しかしこの話には不明点が2つある。

 

 

『メリーさんのメリットは?』

 

 

 そう聞いてもメリーさんは何も答えない。人形だから表情がないので察することもできない。もしかすると目元でわかるかもしれないが、淑女としてメカクレを無理やり剥がすのはいただけない。

 答える気はなさそうなので、もう一つの不明点を聞いてみることにする。

 

『なら、私を殺したメリーさんがわざわざ私に取り引きを持ちかけた理由はなんですか? 私の体は死体だからメリーさんと交換しても動かないし、幽霊なら恨みのある私じゃなくても良いじゃありませんか?』

「そうね。当然の疑問だわ。答えるとするなら……後悔かしら?」

『なにを?』

「貴方を殺しちゃったことを」

 

 私が死んでから2週間経っていないのに後悔するにしては早すぎるのでは?いや、殺人なんてしたことない私には心情を想像できないけど。

 

「殺した後にね、殺すまで貴方は悪いことしてなかったなと思ったのよ」

『捨てたのに?泥まみれにしたことあるのに?片腕を千切れたことあるのに?初めてお酒飲んだ日にゲロをぶちまけたのに?』

「……だとしてもよ。だって家族でしょ?」

『家族なら殺さないでくださいよ』

「それはそれ。これはこれよ」

『なんですかそれ……』

 

 

 自分を殺した相手だというのに長年の親友のように会話を続けた。小さい頃に見ていたアニメの内容だとか。高校受験第一志望を落ちて数日間、彼女を抱きながら寝込んだことや。殺す時に私の体を操って、わざわざ割引の荒縄で殺してきた話など。

 気がつけば、私の葬式は始まっていた。

 

 

「小さいわね」

『死因が死因ですからね。家族葬だそうです』

「そもそも友達もいないものね」

『……無いはずの胸が痛いです』

 

 お坊さんのお経を聞き終えると家族が別れの言葉を告げて棺桶は閉じられる。両親も妹も泣いているのに私は見ているだけ。一言声をかけてあげることもできない。

 

「じゃあワタシともお別れね」

『そうですね。死体を焼かれたら魂も成仏するんでしたっけ?』

「ワタシも成仏するかは知らないけど、繋ぎ止める楔がなくなってしまうらしいわ」

『お経の意味とは……』

 

 まあ、そもそもなんでお経をするのか知らないんだけどね。勝手な予想から成仏させるためと思ってるけど、違ったら仏教関係者の皆さんごめんなさい。

 

『それで、体の乗っ取りはどうやるんですか?』

「ワタシの体に手を合わせなさい」

 

 メリーさんの指示通り、幽霊体のまま触れようとするので避けるかと思ったが、意外にも触れることができた。フニフニと綿の感触を楽しむ。

 

「真面目にやりなさい。死ぬわよ」

『すでに死んでますけどね』

「なら消滅するわよ」

 

 叱られながら、進めていく。心を落ち着かせ、お風呂に浸かるように自分の周りに自分以外の何かを纏う感覚がしたかと思えば、体を得られると感覚が訴えかけてきた。

 

「そのままワタシの体を乗っ取りなさい」

『……そうしたらメリーさんは』

「えい!」

『えっ、ちょと痛い!』

 

 

 目の前が真っ白になると、逆に今度は真っ暗になる。ガタガタ揺れる感覚と久々に感じる重力が私に肉体を与えたのだと理解させた。

 ならこの体はメリーさんのもの。棺桶の中で私の死体を横目に何度呼びかけてもメリーさんは答えない。

 そして魂の感覚が今の体からは一つしか感じることができなかった。

 

「お別れの言葉ぐらい聞いてくださいよ」

 

 そんな愚痴を漏らしても返してくれる人はいない。

 

 

 

 メリーさんから聞いていた通りのルートで私は私の棺桶を抜け出し、家族の車に忍び込む。ぬいぐるみだからか、軽くて足音が小さい。そもそも体が小さいので多少の動かしづらさはあるが、バレることはなかった。

 

 さっそく実家に着くと元私の部屋に向かった。すでにフィギュア置き場とかしていた。今の私は混ざっていても違和感がない。

 クローゼットを開けて、使われていなかった床下収納を開けてみる。この部屋で22年間住んでいたのに開けたのは初めてだ。

 床下は下へ降る階段が続いている。人間では到底通ることができないサイズ感で、メリーさんの体でジャストフィットしている。

 その先には小さな部屋があった。人形用ベッドや、無くしたと思っていた裁縫箱などぬいぐるみには最適な環境が揃っている。

 

 

 ここはメリーさんが使っていた部屋らしい。入れ替わる前に聞いていて、入れ替わってからはここに住むように言われた。住む場所とか色々不安ではあったが、これなら困ることはなさそうだ。

 

 一安心して、部屋にあった椅子に座る。そこで目の前の机に白紙の紙が置かれていることに気づく。なにやら怪しい紙を無視するわけにもいかず、裏返してみた。

 

 それはメリーさんからの手紙だった。

 

【頑張ってね】

 

 私より綺麗な字で、それだけが書かれていた。

 なんのことだと頭を悩ませていると、チリリリと部屋に設置されていたオモチャの黒電話が鳴る。なぜオモチャが鳴るのか不明だが、元幽霊、現人形の私がいるのだから何か起きてもおかしくはない。そう考え、電話を手に取ると電話の先から丁寧で可愛らしい女性の声がした。

 

『もしもし百江さんですか?』

「はい。私は百江ですけど……」

 

 そう自分で口にして不思議に気づく。なぜ電話先の相手は私の苗字を知っているのだろう。それにメリーさんに向けてかかってきたであろう電話で私の名前をあげるのは。

 

『よかったです。それでは主人の呪殺を目的に使われた呪力のレンタル代金にいたしまして』

 

 ???????

 

 

『えー、14日の存在維持とのプランでしたので』

「ちょっと待ってください!あ、あの少し記憶が曖昧になりまして、色々と説明いただけるとありがたいのですが……」

『わかりました。では契約プランのおさらいをさせていただきますね』

「お願いします」

 

 

 電話先の相手の話を聞く限り、メリーさんみたいな弱い人形は人を殺すほどの力を持っていないため、本来なら嫌がらせ程度しかできない。しかしそんな人形たちのために呪いの力を貸し与え、代わりの対価として何かを差し出す契約を売っているそうだ。

 そこでメリーさんは私を殺すための力と会話する期間の追加プランを結んだらしい。そして現在、その対価の支払いが体の持ち主である私に押し付けられている状況にある。

 

 もしかしてメリーさんは対価を払うのが嫌で身代わりとして身体をくれたのでは?

 

 なんて疑惑……というか確信に至る。

 

「対価って何ですか?」

『呪力でお支払いいただくことになっております』

「もしも呪力を返さなかった場合ってどうなるんですか?」

『……』

 

 電話越しだと言うのに肌を突き刺し、魂が凍えそうになる無言の圧。

 本当に何されるんですか?最悪殺される?最低でもウシジマくん(動詞)される?

 他人の借金、それも私を殺すために作られた物を返済することに納得はいかないが、2度目の死を味わいたくないので支払おう。

 

「呪力が無いから借りたのにどうやって支払えば?」

『疑問はごもっともです。ですので呪力を稼ぐための方法をお教えします。三つのプランを提示するので選んでください』

 

 そう言って、電話の隣に置かれていたオモチャのファックスから3枚の紙が印刷される。それぞれのプランが大雑把に書かれている。裏にはわかりやすく4コマ漫画で説明してくれている。おそらく作った人はそこそこお茶目。

 

『まずは呪物換金プラン。言葉通り呪いの品を探して回収していただき、専門ショップで売ることで呪力を稼ぐプランです』

「呪いの品ってなんですか?」

『呪物は呪われた物、もしくは呪いによって生まれた物を指します。有名どころだと妖刀やコトリバコなどですね。私たち動く人形も前者に分類されるかどうかは今でも学会で議論されています』

 

 学会ってどこだよ。と言いかけた口にチャックをする。

 資料で見た限りでは呪物は廃屋敷や因習村で見つかることが多いそうだ。そういう場所には化け物や神もいるケースがあるらしく死亡率が高いと書いてある。

 これだけは無いと思いながら次の話を聞く。

 

『次にお仕事プランです。私のように雇われ人形として様々な仕事をして、お給金として呪力を稼ぐプランです。私どもからお仕事の斡旋を行なっておりますので就職先はご安心ください』

 

 人形の世界にも社会はあるんだろう。呪力はそっちの世界ではお金と同じように使われながら、人形の体を動かすには必要不可欠な力らしい。

 1番安全そうであるが、死んだ後も働くというのも億劫なものである。

 

『最後に我が社の拷も……呪い回収装置に入っていただく』

「それは無しでお願いします」

『……そうですか。わかりました』

 

 電話越しに残念そうな声だと理解できるほどテンションが落ち込んだ。

 最後のプランだけはありえない。資料でも怖いことは書いていないし、4コマ漫画でも可愛らしい人形が遊んでいるだけである。

 私たちの感情を呪いとして生産する。そのために1番効率の良い方法は拷問だよね。的なことを言っている。

 言葉って怖いね。

 

 

 ここまで三つのプランを聞いて、私の選択肢は決まっていた。というか選択肢は一つしか残されていなかった。

 

「お仕事プランでお願いします」

『わかりました。では詳しい話は対面で話しましょう。明日の10時に迎えな者を寄越しますので』

 

 そう言って電話が切れる。

 受話器を置いて、大きく息を吸う。厳密に言えば呼吸はいらないのだけど、吸った気分で。

 

「……働きたくないでござる!絶対に働きたくないでござる!!」

 

 そんな私の嘆きは誰にも聞こえず、実家の秘密部屋で消えてしまった。

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