ウマ娘達の萌芽 作:ワナシ
日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称『トレセン学園』。
全国各地に存在するウマ娘教育機関の中でも、最古の歴史とそれに見合った規模を有している学園である。
各地方で育ったウマ娘達はこの学園に入学し、レースでの華々しい活躍を夢見るが、現実はそう甘くない。
地方でトップクラスだった者が、トレセン学園では下位に甘んずるといった事態は珍しくないのである。
そんな強者ひしめくトレセン学園には、最高の設備、最高の環境、そして最高のトレーナーが揃っている。
トレーナーもまた、選りすぐりに選りすぐりを重ねたエリートしか、トレセン学園に選ばれない。
難関大学にも劣らない筆記試験を突破する知能、栄養学や医学やスポーツ運動力学といった専門的な知識、ヒトより遥かに膂力を持っている存在に寄り添うための運動能力、そして何より────その人格や精神性が大いに問われることになる。
トレセン学園の生徒であるウマ娘は皆、多感なお年頃である。
レースやトレセン学園主催のイベント等に参加する関係で、同じ年頃のヒトよりメディアへの露出や大人とのコミュニケーションが多く、大人びていたり精神が成熟していることもあるが、その年齢がティーンであることに変わりは無い。
そんな多感なお年頃であるウマ娘が、トレーナーという大人と数年間を共にするのである。
しかもそれが、『担当のウマ娘の事を第一に考え、行動し、時に寄り添う』といった内容付きだ。
トレーナーが男女どちらであるかに関わらず、これをされるウマ娘側が、影響を受けないという事は不可能に近い。
故に大人であるトレーナー側に、相応の振る舞いが求められる。
友情を育んでも良い。
信頼を築いても良い。
何ならそこに愛が生まれても構いはしない。
だがトレーナーとして、一人の大人として。
担当であるウマ娘に、未だティーンである彼女達に。
一線を越えるようなことも、それを匂わすような行動を取ることも、決して許されはしない。
その常識を携えた者だけが、トレセン学園のトレーナーという狭き門をくぐる。
例えその他の試験が満点に近くとも、人格や精神性を探るテストによって不合格となる者は少なくない。そして逆に、他の試験で劣っていても、その人格や精神性によって合格を勝ち取る者も居る。
トレセン学園のトレーナー達は皆、『良き大人』なのである。
そのおかげか、トレセン学園においてトレーナーと生徒間でのそういったスキャンダルやトラブルは、今もなお『0件』。
これは教育機関として至極当然のことであり、わざわざ口にすることでも無いと分かっているのだが、トレセン学園運営本部の職員達は、この事実を密かに誇っている。
なお生徒の卒業後については個人の話であり学園の関与するところでは無いので、元トレーナーと元担当ウマ娘がどうなろうとノータッチである。
例え在学中にどこか外堀を埋めているような雰囲気が有ったとしても、それが良識あるべき大人側であれば大問題となるが、ウマ娘側が行っているのであれば、これもまたノータッチである。
そういうところもまた、ある意味では『大人』なのである。