1つの家が燃え落ちるのと同時に悪の組織フリームのメイン拠点である月の城、その玉座の間で炎が燃え盛り渦を巻き、しばらくして散る。
炎があった場所に1人の男が立っていた。その男は先ほどまで家の中で炎に包まれ、魔王と話していた男だ。
『貴様なぜ我を呼び出せた?』
男が振り返ると玉座に禍々しい鎧を被る何者かがいた。いな、彼の者こそ魔王ユメナシだ。男はすぐに跪き魔王ユメナシの問に答える。夢の世界から持ち帰った謎の本、それに書かれた魔法陣を描き呼び出したと。
魔王ユメナシは男が言い終わるまで何も言わずただ聞き続けた。
『なるほど。して貴様が申したユメ、アレは真か?怪人を作りたいだと?』
「怪人や怪獣です陛下!」
ふむ、と魔王ユメナシは手を顎に当てて考え始める。男は顔を上げず静かに魔王が口を開くのを待つ。静寂が何分か流れた後に魔王ユメナシは口を開いた。
『貴様、具体的にはどのような力が欲しい。ただ作るだけなら知識か?怪人を作る施設事態はもうある』
研究所のような場所があることは男も考えていた。そこに所属すれば怪人や怪獣を作れるだろう。しかし今男が欲しいのは知識ではなかった。
「肉体を改造できる力でございます!」
『なに?』
男は魔王ユメナシに話す。肉体を改造する力がアレばどのような事が可能なのか。例えばここで1から怪人を作るのではなく、攫った民間人を怪人に改造しヒーローと戦わせることでこちらは被害なく戦える。それに民間人を怪人に変えることで普段誰もしない人間への擬態が可能になり隠密行動が可能になる。
そこまで話したところで魔王ユメナシは男に肉体を改造する力を分け与えた。
『明日、すぐに幹部会議がある。貴様はそれに参加しろ。その後は己がやりたいことをやれ。活躍次第では幹部まで上げよう。しかし貴様は下っ端戦闘員よりも上だが幹部より下だと言うことを忘れるなよ』
「ハハッ!」
男は早速その力を使い自身の身体を改造する。身長はやや下がるが大差ない大きさに変え、髪色や長さを変え、骨格や目の色など全てを変える。
魔王ユメナシは自身が与えた能力と男のその想像力に感心した。
男だった者は見た目は女子高校生―――いやギャルのような見た目になり、足や腕も細くなり女性よりの体へと変わる。
『貴様、アレはついているのか?』
魔王ユメナシはそんなことを聞く。男だった者はハッと忘れていたものを思い出したかのようにソレを排除する。
「わたしは今中性でございます陛下。男でも女でもないためソレはついておりません」
『そうか…』
魔王ユメナシは変わりすぎた男に今更ながらと名前を訪ねた。男はしばらく考え、前の名前を捨てて新たな名前を名乗ることにした。
「Unknownからとりノウンなんてどうでしょう」
『こういうのは頭文字から取るのではないか?』
「陛下のご命令とあれば…アンノにしましょうか?」
『やっぱりやめよう。ふむ、では男でも女でも捕らえられるハルなんてどうだ?』
ハルと名付けられた男は再び膝をついて魔王に感謝を述べる。話は以上だと魔王は奥の部屋へと消えていく。最後に魔王に渡された地図を頼りに城の内部を歩く。
説明もなしにここで一人にされたアンだったが部屋は案外簡単に見つかった。
「ここかな?」
デカデカと倉庫と書かれた部屋へと入ると使われていないベッドが1つだけ置かれ、その上や床に箱が大量に置かれていた。箱で隠れているが一応時計なども設置されているようだ。だが掃除してくれよと愚痴を溢しそうになりすぐに手で口を抑える。この部屋は誰かに聞かれていないと断言できない。
仕方ない、と男はベッドの上の箱をどけ、そのまま埃だらけのベッドにダイブする
ベッドに飛びついたことで埃が舞い、部屋中に拡散される。まず先にやることはこの部屋の掃除だろう。勝手に箱を触ってもいいのかと考えるが陛下の意見に逆らう輩はいないだろう。ハルはそこまで深く考えず箱を開けて中を見る。
「んだこれ」
そこには1つの石がハメられたアクセサリーのような物だった。ハルは左目を手で覆い、目を改造し能力を与える。
魔王ユメナシから授けられた能力は体を細胞レベルで改造する能力、体の部位を変化させることができる。怪人・怪獣を創造・変化・乗っ取りができる能力、これは怪人などを作り出す、自身より弱い怪人、怪獣、生き物(人間含めて)を別の怪人などに変化させる、同じく弱い怪人や怪獣、生き物の体を乗っ取ることができる能力。
それからこれが今1番いる能力、能力を作り出す能力。と言ってもそこまで強い能力は作れないようだ。だが、もしかしたら能力を重複できる可能性もある。また今度試してみよう。
「変身アイテム?」
これはどうやら人間を魔法少女やヒーローのように変身できるアイテムらしい。作り主はフリームの武器や怪人などを開発してる誰かのようだ。
この首から掛けれるアクセサリーは中央のボタンを押すことで魔法少女になれるようだ。仕組みはアクセサリーと月の城に貯蔵された魔力をリンクさせ、魔力を服の形状に纏わせる。仕組みはシンプルだが魔力で服ができるのだろうか。
「あとで陛下に聞いておこう」
しばらく他の箱などを見て回っていると陛下が大急ぎで部屋に突撃し、箱などを持って何処かへ向かっていった。
「なんだったんだろう」
掃除を再開し、箱がなくなったことで広く感じる床の埃を取り除き、布団などを新品に変えてこの部屋の掃除を終わらせた。
掃除を終わらせ、少し落ち着いた辺りでハルは自分の体について疑問に思う物を発見した。それは先の掃除中に起きたことなのだが。
「人間の体って脆くないか?」
箱を開ける時や布団を引っ張ったりした時、指先が切れたり低音やけどなどを起こした。多少のケガは瞬時に再生できるよう細胞の活性化や再生力を改造した。だがそれは悪魔で怪我をした時でこの程度は体が怪我だと認識しなかった。
「新しい肉体が欲しい」
ハルは改造して早々、15年間の付き合いがある自身の肉体を手放したくなった。しかしせっかくの15歳の誕生日だ。今日が終わるまでは一緒にいたい。そう思っていたがふと壁に掛けられていた時計を見るにもう12時を超えていた。
もう誕生日は終わったことを知る。ハルはすぐに肉体のことを考える。
「人間ではダメだな、やはり肉体に限界がある」
それはどれだけ改造して強化しても超えられない壁。肉体的疲労と劣化。そもそもその壁を超えるためにここに来たのだ。
ハルは試しにと今の自身と全く同じ見た目の怪人を作り出す。しかし初の怪人制作ともあって思い描いた怪人とは程遠い、肉が爛れているなんともグロい怪人を生み出してしまった。
「次に肉体の乗っ取りだ」
怪人に触れて自分の意識を相手に流し込む。中が空っぽの怪人ではあっさりと体に入ることができた。目を開け、部屋に飾られていた鏡で自分の体を見る。その鏡には先ほどの自身の肉体を改造してできた体、ハルとしての姿がそこにあった。
「は?」
振り返り、先ほどまで入っていたであろう肉体を見た。そこには15年間見ていた男の体がベッドに横たわっていた。どうやらこれは魂ごとその体を乗っ取ることが可能のようで自身の体を調べる。この目でわかることは生年月日、身長体重、名前、症状。しかし名前は前の名前のままで、症状に(魂無)と書かれていた。これは魂がない空っぽの状態だからだろうか。
「とりあえず寝ようか」
新しい肉体になり初の睡眠、それはどれほど違うのだろうか。
なんて考える暇もなくハルは鼾を出すことも無くすやすやと眠りについた。今後、自分がどうなるかも知らず―――