新しい肉体に魂を移してからの初めての朝。ここは月にある悪の組織フリームの拠点である月の城。朝日が顔を出すわけでも我々の上を昇るわけもない。起きてすぐに今までのことが夢でないことを自覚する。服は全て自身の細胞を変化させているため、古い細胞を捨てて新しい細胞を生み出せばそれだけで着替えは完了する。
「これ裸と一緒なのでは?」
しかし今は肌の上から細胞を纏っている状態なので完全な裸かと言われたら違うような気もする。そんな服か全裸の話は隅に置き、昨日のことを思い出す。
確か陛下は会議に参加するようにと言っていた気がする。だが会議の場所を知らなければ幹部の人たちも知らない。入って1日の新人が出ても大丈夫なのだろうか。
ハルがそう一人ベッドに座り考えると部屋の扉が開き、フードを深く被る座ったハルよりも小さい小柄な存在が現れた。その存在は即座にハルを見つけ、袖から手が出きっていない腕を大きく振る。
『キミが新人くんかな?』
ハルはその小柄な存在の声に驚く。当然だろう。小柄な彼の者の声が合成音声かのように男、女、子供、老人と複数の年齢の人間の声に変わっていくのだから。最初は子供のような呂律が回っていない声だと思ったら成人男性のような低い声に、そこから女性のような高い声、老人のような掠れた声に変わっていく。
『この声に驚いているのかな?仕方ないよ、だって余り表に出ないもの』
まるで自分の問いに自分で答えてるような、複数の人格を持っているかのような彼の者はハルの手を取り、月の城を歩く。道中で資料のようなものを渡される。それは昨日の夜に見た変身アイテムについてだった。
昨日目で見た詳細とほぼ同じ内容が載っている。これを量産すればヒーローに対抗できると考えているのだろう。
『聞いたよ。キミの部屋にこれの試作品置きっぱにしてたんだって?全く、ちゃんと確認してよね!』
「ええっと、なんで自問自答を?」
ハルは先ほどから気になっていた文字通り自問自答を繰り返すことを聞いてみる。フードを被った男は何も応えず、いつの間にか着ていた大きな扉を開く。
扉の先は会議室のようで円を作るように6の席と1つ豪華な席、魔王ユメナシの席があり、それぞれ幹部のような人達が座っていた。それぞれ幹部の怪人は特徴的な姿をしていた。
『よく来た。みな、紹介しよう。我々の新しい仲間ハルだ』
魔王ユメナシの紹介され、全員の注目を一斉に浴びる。ここは何かしたほうがいいだろうか、とりあえずお辞儀をしよう。礼儀というのは大切だ。そこから各々の軽い自己紹介が始まる。
『ボクはここで戦闘員やアイテムの製造をしてるドクターサウイ、よろしくね。ドクターと呼んでくれ』
ここまで案内してくれた人物はサウイというらしい。サウイはやはり手が出きっていない右手を差し出してくる。素直に握手をしたところで魔王ユメナシは会議を再開させる。ちなみに席は用意されていないため立ちっぱなしだ。
会議は中々に難航していた。民間人を洗脳して魔法少女に変え、ヒーローたちと戦わせるという案になりそうだが、魔王ユメナシに忠誠を誓えないヤツはダメだという派閥と魔王ユメナシが許可したからいいだろうの派閥で争っていた。
『え、あっあの、え、』
先ほど変身アイテムについて民間人を使うと宣言した魔王ユメナシはなぜ会議が続いているのか理解できていないのか、資料を見直すふりをして何度も1枚と2枚の間を行き来している。それに気付かない幹部達は変身アイテムの話から段々と話がそれて等々悪口の言い合いを始めた。
「あのー1個いいですかね?」
魔王ユメナシ含めた幹部連中の視線が再びハルに集まる。ハルは資料を見て1つ疑問に思ったことがあり、幹部達に聞いてみることにした。
「民間人が誰でもいいわけじゃないですよね。これ下手をすれば変身アイテムの魔力に耐えれなくて変貌とかしないんですか?」
魔王ユメナシは確かにという顔をして再び資料に視線を落とす。そうして魔王ユメナシは再び意見を言おうと立ち上がろうとした時だった。
サウイが心配いらないと魔王ユメナシの前にハルの問に答える。
『戦闘服や攻撃に使う魔力は変身アイテムを通って具現化する。直接本人を通らないから誰でもいいんだ』
であるならば本当に誰でもいいのでは?と思ってしまったが一度深呼吸をして幹部に聞く。魔王ユメナシや他幹部の視線が変わらず自分に向いているのを確認する。
「これ知能がある怪人じゃダメなんですか?」
それだけだった。下っ端の彼が思ったのがそれだけだった。別に人間を犠牲にしなくてもいいんじゃないかと。だが幹部達の反応は人それぞれだった。
確かにと怪人なら忠実だという意見、幹部並みに強い怪人ならまだしも、ぽっと出の怪人に扱い切れない可能性があるという意見も出た。
『こういうのはどう?変身アイテムに自我を持たせるとか』
自我持たせても変身する時の苦労が増えるのでは?そんなことを思っているとドクターサウイは最終的に変身アイテムには自我を持たせ、変身アイテム自体を怪人にすることで会議が終わった。変身アイテムに自我を持たせることで指示無しで動けるようになれば侵略活動も楽になるのではないか。
「変身アイテムに自我持ってもロクなヒーローをテレビで見たことないんだよなぁ」
会議が終わり各々各部屋へと戻っていく。ハルも戻ろうとしたところで幹部に呼ばれる。背中まで伸ばした赤髪に日焼けしたような肌、足は鷹など猛禽類のようで下半身は毛で覆われ、上半身は布を1枚肩からかけている身長は2メートル行かないぐらいの男。確か名前はヒートグリフォ。脳筋系の幹部だ。
「どうされました?」
ヒートグリフォは先ほどの会議でアイテムで変身してパワーを底上げし、ヒーローを叩き潰すという案を出していなかった。そんな人が何のようなのだろうとハルは少し身構えるが必要のないことだった。
『お前、新人なんだってな?戦闘経験は積ませたいが…支援系のほうが得意だったりするか?』
脳筋と言ったのは謝罪しておこう。この幹部はパワー・イズ・パワーではないようだ。ヒートグリフォが言うには明日、街に襲撃をかけるとのことだった。そのために怪人が必要とのことだったがドクターサウイは変身アイテムの設計に没頭しており、怪人不足で困っているということだった。
『こう、いい感じにヒーロー達がこれて街にもそこそこ被害を出す怪人とか作れたりしないだろうか』
これはいい機会なのではないだろうか。自分の怪人がどれだけヒーローに効くのか、そしてヒーローというのを実際に見てみたい。ハルはヒートグリフォの襲撃に同行することに決めた。