やりたいことを全力でやる   作:SGMY

6 / 6
全力出さずに勧誘する

東京某所、夜のように陽の光がない暗い路地裏。中が見えない黒いビニール袋、ゴミ袋が積まれた場所がガサゴソと物音を立てながら揺れていた。1つ、また1つと袋が明後日の方向へと投げられる。袋の山からゴミ袋が減り、袋を漁っていた人物がその姿を現す。

 

「ない…」

 

黒髪を1つのゴムで結び、動きやすい半袖半ズボンの青いジャージ姿の彼女は外靴とは思えない室内用の靴を履いている。汗を拭いながら次のゴミ袋へと手を出す。袋を開けた彼女は苦虫を噛んだかのような顔をする。彼女がそのような顔をするのには理由があった。

開けたゴミ袋から取り出すのは使い古された鞄とゴミで汚れてしまった服だ。それは彼女にとって大切なもののようで、汚れなど気にしないかのように抱き締め、そこにあることを確かめる。

 

「よかった…!」

 

 

それは遡ること数時間前の出来事だ。若手のアイドルが多くが集う事務所に所属する彼女は先輩や同期のアイドルから虐めを受けていた。

理由はファンからの人気、一番若いくせにセンターを陣取る彼女への嫉妬だった。最初は小物が少し失くなったり無視だけだったが、最近エスカレートしていき今回の鞄や服の廃棄まで着ていた。

 

「わたしが悪いのかな…?」

 

アイドルになるためと親元を離れ、家族の応援を背に頑張ってきていた彼女は限界だった。SNSに書かれる心ない誹謗中傷、仲間からの攻撃。もうすぐ大きなライブがあるというのに今の彼女にはライブステージに立つ勇気がなくなっていた。

これ以上表舞台に出ればまた虐めがエスカレートする。少し前だって衣装にまち針を刺され、腕に傷が出来てしまった。このままでは命が奪われる可能性だってある。

 

「もう、諦めるべきかな…」

 

彼女は汚れてしまった服と鞄を持ち、ゴミ置き場から離れようとした。しかし一歩踏み出した彼女はすぐに止まる。彼女の目線の先には1人の少女が立っていた。年齢は15歳ぐらいの少女はゆっくりと彼女に近付く。

 

「ボクはハル。ねぇ、アナタの夢ってなに?」

 

それが彼女にとって、そして彼(・)にとっても人生の運命を左右する大きなわかれ道になることをこの時は彼も彼女も知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

月の城にて前回の怪人の余りの弱さに遺憾の意を示す幹部達にしっかりと怒られたハルは怪人の素をドクターサウイに改良するためという没収を受けた。代わりにと陛下からかの魔法少女になれる変身アイテムをハルに託す。ドクターサウイが改良している間、仲間になりそうで魔法少女に出来そうな存在を探せとの命を出されたハルはこうして地上に降りて魔法少女探しをしていたのだ。

だが、降りてきてすぐに物凄い負のエネルギーを持つ存在を見つけてしまったのだ。路地裏で。

 

「だ、だれ…?え、浮いてる!?」

 

いきなり現れたハルに驚き、一歩一歩と距離を取るその少女。周りに散らかった物を見ればだいたい何があったのか創造が着く。と言いたいところだが、候補は2つあり、1つは虐めで物を捨てられ、それを探していた。もう1つはホームレスでゴミ袋を漁っていた。ちょっと汚れたジャージ姿なため、ホームレスなりたての可能性はあるし、汗を流すほど何かを探していた可能性もある。

 

「キミの夢を教えてくれないかな?夢を叶える手伝いをしよう」

 

ハルは目の前のゴミを漁る彼女へと手を差し伸べる。彼女は迷っているのか、空いてる右手で彼の手を取ろうと手を伸ばす。しかし何を思ったのか伸ばしていた手を引き、彼女は走り去ってしまった。

当然だろう、突然現れた変な男から夢を叶えるから教えろと言われてはいっと手を取る人間など少ないだろう。

 

「警戒されるわな…ん?」

 

彼女が立っていた場所にヘアピンのような物が落ちていた。先ほどの彼女は着けていなかったため、別の人のもの。もしくは彼女が持っていた鞄から落ちたか。

ひとまずここに置いたままならカラスとかが持ち去ったりしそうなので回収しておく。

 

 

 

 

彼女は自室にて鞄の中を確認していた。捨てられたものが鞄丸ごとなのか、中身を別で廃棄したのか。チャックを開けて鞄の中身を確認する彼女はあるはずのものがなく、声に出して驚く。

 

「うそっ!?」

 

それは今、ハルが持っているヘアピンだ。アレは彼女が幼少期の頃から着けていた大切なもので今ハルが持っていることを知らない彼女は何処で失くなったのか、今日起こったことを振り返る。

レッスンのためにジャージに着替える前はまだ髪につけていた。レッスンが終わった辺りで自分の鞄がないことに気付き、事務所裏のゴミ袋を探していた。そこで鞄と服を見つける。

 

「あの人なんだったんだろ…」

 

そこで出会った謎の女性、どういう原理か宙に浮いており、ジッとこちらを見つめていた。ただそれはファンが送る情熱的なものでも事務所仲間が送る嫌悪する目線でもなかった。そんなこと今までなかった。

 

「ヘアピン、交番に行ってたりしないかな…」

 

まだ外は暗くない、乾いたばかりの服に着替え、事務所に近い交番へと部屋を出ようとドアノブに手を伸ばした。しかしそれを突然現れた別の手に止められる。振り返り手の主を見ればそこには事務所の裏で出会った女性、ハルが立っていた。

ここは2階の彼女の部屋、部屋に入るには今2人の前にあるドアか窓から入るしかない。しかし窓は内側から鍵をかけており、ドアノブに関しては今現在手で握っているのだ。この部屋に侵入する方法などないはずなのにハルはいた。

 

「し、侵入―――」

 

手を振り払い数歩下がって叫んで助けを求めようとした彼女だが、ハルはすかさず背中から一本の触手を伸ばして彼女の口を狙う。触手の先端は花のように開き、彼女の口と両腕を封じる。

 

「叫ばれたら面倒だから口は封じさせてもらうぞ」

 

まずとハルはポケットから彼女が落としたであろうヘアピンを出す。ヘアピンを見て、何かを言いたそうにモゴモゴも言う彼女を尻目にヘアピンを机に乗せる。

 

「お前、夢あるかないかわからないが…今の自分そ変えたいだろう?」

 

全力と言わんばかりに首が取れそうなぐらい首を横に振るう彼女を無視し、魔法少女に変身させれるアイテムを取り出す。

陛下から託されたこの変身アイテムだがどうやらドクターサウイが改造したらしい。蝶ネクタイの形になり、着けた物は一種の洗脳状態になり、絶対な忠誠心を誓うようになるとのことだった。

 

「あ、でも悲鳴あげさせたほうがいいのか?悪の魔法少女がヒーローにどれだけ通用するか気になるし」

 

この後何をされるかわからない人間はこういう状態に陥ったら悲鳴を上げたり助けを求めたり命乞いをする。そう思っている。しかし彼女の目を見れば絶望も恐怖もかんじていない。何やらキラキラしているように見えた。気のせいではないかとハルは自身の目を擦ったり瞬きを繰り返す。だがその彼女のキラキラした目は変わっていなかった。

触手で塞がれた口をモゴモゴ動かし始めた。鼻息荒くなる彼女は恐怖で呼吸が荒くなっているのだと思いたいが目が全然恐怖を感じていない。ずっと口を動かし、何か言いたげな彼女の口を塞ぐ触手を引っ込める。触手で押し付けていた彼女は押し付けられる力がなくなってすぐにガクッと下を向く。

 

「…ぃい」

 

何か小声で言い始めた彼女。耳を近付ければ聞こえるぐらいの声量でまたモゴモゴ言い始めた。一応聞いておこうとハルが耳を近付けた瞬間、彼女は顔を思いっ切り上げる。

 

「なにそれかわいい!!」

 

はて?頭の中が真っ白になる。彼女はいったい何を言っているのだろうか。ハルの頭の中にはそれしかなかった。彼女が言うソレとはなんなのか。今手元にあるのは魔法少女への変身アイテム。だが彼女のキラキラした目は変身アイテムではなくハルの体の一部を見ていた。うねうねと蛇のように動く触手。勘違いではないかと触手を平行や垂直に動かす。すると彼女の顔は触手を追いかけるように動く。

 

「それ!それわたしも!わたしも欲しい!」

 

普通得体のしれない物を見れば恐怖を感じるものだが彼女は違ったらしい。よくよく見ればこの彼女の部屋に飾られている物もタコやイカなど触手を持つ生物ばかり。

 

「さっき夢あるか聞いたよね!?」

 

最初にあった時は別人かのようにハキハキ喋る彼女に押される。好きなものに対して物凄い熱量を持つ人間は何人もいる。だが得体のしれない存在を前にしていることを理解しているのだろうか。

 

「わたし!触手って言うのを欲しかったの!触手って腕や足とはまた別で動かせるのよね!?タコはそれぞれ別々で脳があるとか聞いたしアナタのも根本に脳があるの?触手は何処まで伸びるの?どのぐらいまで持て―――」

 

ハルが路地で見つけた彼女は変態だった。嫌な予感がするとハルは変身アイテムを無理矢理彼女の胸に着ける。一瞬目を大きく開いて驚愕した声を上げるが彼女にとってこれは幸運だろう。この変身アイテムは装着者が一番欲しいもの、夢によって姿や能力が大きく左右される。変身アイテムが形状を変ええ、蝶ネクタイだった物から細長いつるのような物を4本生やし、両脇を1本ずつ、肩を1本ずつ跨ぐように通り背中側で交差する。交差したつるは彼女を隠すように黒い霧を噴出する。この霧にどのような効果があるかわからない。でも彼女の体そのものが変化していることだけわかる。バチバチと白い閃光が黒い霧の中を走る。

しばらくして黒い霧が消える。霧の中から姿を現した彼女はハルの幼馴染とはまた別、ところどころ怪人のような人間らしからぬ姿になっていた。青白い長髪、耳を避けるように二本に別れる側面の髪、途中から髪先まで一本の触手となっている。白いゴスロリのような服、背中にはまるで服を締めているかのような大きなリボンが上下2つ、スカートは太腿の半分が見えるぐらいの短さ、膝上まである白い靴下。

悪の組織とは思えない白さ。コレを見た幹部達がどう思うかはわからない。しかし悪の組織の戦力の増強は成功。彼女がどれだけの強さなのか、今すぐにヒーローと戦わせたい。しかしドクターサウイからの帰還命令がくだされ、悪の魔法少女となった彼女を連れて月の城へと向かった。

 

 

月の城を軽く跳ねながら廊下を移動する。月の城自体はけして広いとは言えないが通路が数え切れないほど存在し、迷ってしまう可能性がある。ハル自身、一度迷った。

 

「そう言えばキミ名前は?」

「名前…ですか、確かに必要ですよね。確か2人の正義の魔法少女はルイスとルーノなのでル、ル―――」

 

幼馴染2人のヒーローの名前を初めて知る。しかしハルが聞きたいのはその名前ではない。出会ってから一度も名前を聞いていない彼女自身の名前だ。建物の路地で何かを探していた彼女の名前をまだ知らない。

 

「え、あ!そう言えばまだ名乗っていませんでしたっけ。わたし、東雲アカツキって言います」

 

その名に聞き覚えがあるハルは首を傾げる。一度だけその名を聞いたことがあるハルだが彼自身の記憶力は余り宜しくない。ゆえに考えるのをやめ、幹部達が待つ会議室の扉を開ける。

 

その扉の先は余りにも見たくない光景が広がっていた。幹部達が何かの飲み物を片手に目が悪くなりそうな距離で資料を読み漁っていた。扉を開けたことにも明けてすぐにした東雲アカツキの挨拶も気付いていなかった。

 

『ん?おぉ〜!ハル!ちょうどいいところに帰ってきた!』

 

最初に気付いたのは陛下だった。陛下の言葉でようやく2人の存在を認知した幹部達。ドクターサウイは資料をほっぽり出して東雲アカツキの肩に手を置く。どうやら自らの手で作り上げたアイテムで魔法少女が生まれたことにかなり興奮しているようで鼻息荒く彼女を舐め回すように見る。

 

「し、東雲アカツキです!よろしくお願いします!」

 

東雲アカツキは行儀よく挨拶するがドクターサウイはそれどころではないと彼女から目を離さなかった。それを見兼ねた陛下はドクターサウイに一撃加え、物理的に静かにする。

 

陛下はモニターを操作し彼女の情報を表示する。年齢14歳、7月7日産まれ、身長体重その他細かい物まで表示する。それに異議を唱える存在がいた。それは彼女自身だ。プライバシーだ、個人情報だと文句を言うがここは悪の組織ゆえ人の権利など知らないと説明を続ける。

彼女の情報に1つ気になる物を発見する。

 

「アイドル?」

 

ハルの隣に立つ彼女はドヤと多少あるであろうその胸を張る。しかしそんな彼女を裏切るようにハルはアイドルだったことに驚く。

 

「ここの事務所って確か有名な…あ!」

 

何かを思い出したかハルは手を叩く。ハルは彼女を知っていた。なぜならCMやドラマ、映画などに俳優として、アニメやゲームなどの主題歌などを歌う超有名アイドルだからだ。

 

「今まで気付いていなかった!?」

 

目を丸くして驚く。仕方ないだろう、遊園地やデパートに行った時、変装していても通りすがりのファンにバレて大きな話題になってしまうほど自分自身でも誰もが知る有名だと思っていたからだ。

ごめんごめんと軽く謝るハルを差し置いて幹部の一人が急接近する。見るからにThe陽キャなイケメン幹部。名前は確かカルフォリス、短いツンツンの金髪にところどころ花のような物が生えている植物の幹部。

 

『へぇ、アイドルをスカウトするなんてやるじゃないか新人』

 

目の前に現れたイケメンに警戒しているのか東雲アカツキはハルの後ろへと周り込む。それが何を伝えたいか、幹部はわかったようで何も言わずに席に戻る。

そこから会議は順調に終わりへと向かった。今回の会議で難航していたのはヒーローに負けすぎていると言うことだった。聞けば1つの地方に必ずいるヒーロー集団、彼ら悪の組織はこの8地方がある日本で全てのヒーローと戦っているらしい。ヒーローは年々強化されていくのに悪の組織は強化どころか退化しているらしい。

 

『しかしここで新戦力だ!』

 

陛下は机を叩いて立ち上がり、ここから巻き返すと強い意志を示す。しかし現状は悲惨だ。現在組織のまともな戦力は幹部を除けば新人の東雲アカツキ、ハルが作り出す怪人だけだ。量産の戦闘員はヒーロー達にワンパンされる。かといって量産型とはいえ1から作り出される人造怪人や人造怪獣は悪の組織としてコストが高すぎる。

 

『とりあえず魔法少女を出すのはどう?』

「あまりオススメしないですよ。だって戦いとは縁がない人ですから」

 

なに、とドクターサウイが驚きの声を出す。その理由は彼らの世界のアイドルは踊って戦って歌う戦女神のような存在らしい。アイドルという概念がまず癒しや崇拝の対象ではなく、軍の士気を上げたり外交に使われたりするそうだ。

 

「えっと…流石に戦い方は教えてくださいよ?」

 

ほったらかされたアイドルは戦うことを嫌う清き存在だと思われていたが。どうやら血の気があるアイドルらしい。会議は早急に終わらせられ、ヒートグリフォの案内で東雲アカツキはフリームの実験場へと案内されることになった。実験場という名の訓練所のようなもの。ここは新たな怪人の能力などを測ったりするそうだ。

 

『ハル待て、お前はこっちで話がある』

 

ハルは実験場ではなく陛下と共に会議室に取り残された。初めての後輩の力は見せてもらえないらしい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。