〔ハルSide〕
幹部や東雲アカツキのあとを追うとしたところ、東雲アカツキについて陛下から話しておくべきことがあると呼び止められた。。1つ目、彼女が変身する魔法少女は半分怪人であるということ。これは変身アイテムを通して出る月の城の魔力が彼女に触れて、身体の構造が変化したためらしい。そもそも月の城の魔力がどうやって貯められているのか知らないが、一度の変身だけで身体が変化してしまうほどの強力な魔力を彼女は扱える。
2つ目、彼女が変身する魔法少女は黒い霧を出せる。これは中々に厄介な存在になるとのことだった。あ、ヒーローにとってに話ね?
もともとヒーロー側の魔法少女が使う魔力とここの魔力は相反する性質らしく、あの霧はその魔力を付近に散布させることで魔法少女の魔法を封じると同時に視界を防ぐ事ができるという。
「なぜ陛下はそんなことを知っているのですか?」
『彼の少女がなる魔法少女の力、アレは我が考え与えた力である』
なるほど、陛下が彼女に与えた力ならば知っていて当然だ。しかしなぜ幹部がいる時に話さなかったのだろうか。
陛下は最後にと注意するべき重要なことを話した。
『あぁ〜…ドクターが1つやらかした』
ほう?あの自分で聞いて自分で答える謎の人物が?
聞けば東雲アカツキの洗脳は成功。しかし陛下に忠誠心を誓うのではなく、目の前にいた存在に忠誠心を誓うようになっているとのことだった。
陛下からその事を聞いた俺は顔を上げて天を仰ぐ。仕方ないだろう。俺は欲しくても後輩が欲しかった。部下ではなく後輩が。
この事を知っているのは陛下と今教えられた俺の二人だけのこと。
元アイドルの魔法少女が部下になるのは嫌ではないがせめて先輩後輩の関係を築きたかった。しかも上司よりも部下のほうが戦闘に長けた力を持っているという。
「陛下…俺強くなりたいです…!」
『???…良かろう。そなたにこれを授けよう』
渡されたのは飴玉のような物が1つ。陛下曰く、これはかつてヒーロー達に敗れた戦闘員、怪人や怪獣達の力が凝縮されているもの。それは常に増え続けており、彼らが倒される限り力は増すとのことだった。
なぜこのようなものが存在するのかは不明だが陛下のため、組織のために俺はこれを飲んだ。
〔東雲アカツキSide〕
幹部さん達の教えはこうだ。戦闘員を使え、怪人を使え、怪獣を使え。余程なことがない限り戦闘に加わらない。ほぼ指揮だけとのことだ。
『でも今後魔法少女であるキミには怪人と共に戦ってもらう。名前は…えっと?』
「東雲アカツキです!」
フードを被った男性か女性か分からない声の幹部さんに名前を聞かれる。元気よく返答するが違う違うと幹部さんが手を振る。幹部さが言っているのは魔法少女としての名前とのことだった。しかしわたしには名前のセンスはない。できれば幹部さんやあの人に着けてもらいたい。
『こういうのは本人がつけるべきよ。センスよりも自分が呼ばれたい名前にすればいいのよ』
今までほぼ一言も喋っていなかった女性の幹部さんが人がつけるマニュキュアよりも長い爪で傷を付けないように優しく肩に手を置く。幹部さんは蜘蛛を模した謎の…なんだろうこれ。本当になんだろうか、車のように大きい蜘蛛だということはわかる機械のような、でも生き物にも見えるソレの背に乗り、これまた先ほどの幹部のようにローブを被っている。
「あ、爪綺麗ですね。綺麗な赤色」
『あら、ありがとう。これ人間の血で染めてるの』
ヒェッ
衝撃なことを聞いてしまった。入ってすぐだけどもう抜けたくなってしまう。あ、でもあの人がいるしここでやって行こうかなぁ。
「あ、そうだ!名前、テラークルトとかどうですか?」
名前は安直すぎるかもしれない。
『テラー、恐怖ね。クルトはわからないけど、いいんじゃない?』
それじゃあと蜘蛛の幹部さんが手を高く上げる。すると下の蜘蛛のお尻から次々に戦闘員らしき存在が産まれ落ちる。テレビやネットで見る戦闘員とは少し違う。いつもはナイフのような物を持つ戦闘員だけなのに、この人の戦闘員は何処か獣のような、爪が長かったり足に人間にはない関節の部分があったり・・・
『この戦闘員達、わたしの子なのよ。短命な働き蟻と思ってくれていいわ。代わりは幾らでもいるもの』
「は、はい!」
今までマイクを、ファンの手を握っていたわたしの手は空を握る。今まで何度も握ったことはあった。でも誰かと戦うために握るのなんて初めて。わたしに戦えるのだろうか。
「行きます!」
四方八方を囲む大量の戦闘員。まずわたしがやるべきことはきっと目眩ましからに奇襲だろう。髪にある4本の触手から黒い霧を噴出。これでまず戦闘員の視界を防げるだろう。しかしこれには致命的な罠があった。
「これ…わたしも見えない…」
煙幕として噴出したわたし自身も何も見えなかった。果たしてこれはいい作戦なのだろうか。相手は数が多い。バカ正直に煙幕の中へと入り込まないだろうか。
『考え事をしていていいの?』
「へ?」
幹部さんの声が聞こえ、後ろを振り向いた時だった。わたしの真後ろにその長い爪で串刺しにしようと走る戦闘員が見えた。なぜ?視界は塞がれているはず。少なくともわたし自身は見えない。なのになぜ戦闘員は真っ直ぐこちらに来れたのか?
縦に、横に振るわれる爪を間一髪で避けながら後退する。目の前の敵ばかり集中しているせいで横から来た戦闘員に気づかず、大きな一撃を与えられ床に倒れる。魔法少女であるからか痛みは感じない。
『この子達は普通の人間と違って身体に巡る特殊なエネルギー、魔法少女で言えば魔力とか。それを見ているの』
「そ、そんなの無理じゃないですか!!」
『最初から煙幕出して逃げてたのに何を言っているの?』
煙幕はけして逃げじゃない。ちゃんとした策略があった。敵に気付かれる前に接近して叩く。これが出来れば一番楽なのに。
『戦闘員に負けるようじゃダメね』
これではあの人に失望されてしまう。それだけはダメだ。せっかくあの人がくれたこの力を簡単に手放してはいけない。
わたしはフラフラの足を押さえながら立ち上がる。それは他の幹部も蜘蛛の幹部も予想していなかったようで目を大きく開く。
「ま、まだ行けます!」
そこから蜘蛛の幹部さん達との戦闘訓練が始まった。最初こそ何もできずボロボロにされていたが、次第に煙幕の使い方も触手の動かし方も慣れてきた。触手で相手を絡み取り、身動きを封じる方法を覚えた。これで少なくともヒーローと戦うことは可能だろう。
さてそろそろいい時間だろう。明日からやらなければいけないことが沢山ある。早々に帰って準備をしなければならないだろう。
「あ、すみません幹部さん。これ、あの人にお願いできますか?―――