社会のクズとなり果てた彼は、おかしなデスゲームの世界へと放り込まれる。
対戦相手として現れたのは全身が鋼のように鍛えられた、八頭身で文武両道のイケメン「ガッド・バンザック」だった。
-バンザック登場-
「これは何かの間違いだろ!俺が何をしたって言うんだよ!!家に……家に帰らせろよ!!畜生!!」
鐘梨慎吾(かねなししんご)、20歳、無職。大学を2学年の前期に中退。その後、就職もアルバイトもせず実家にて両親の収入で暮らしている。にも関わらず、両親には暴力暴言を放つ事も多々ある。そんな彼は今、黒服の男達に取り押さえられ、都内のとある地下施設に連れてこられている。慎吾は黒服達によって椅子に縛られた。何とか抜け出そうと力強く身体を捻らせるが、その縛りは大変強固で抜け出せる気配は全く無い。諦めた慎吾の目の前には巨大なモニターがあった。そちらに目を向けた瞬間、モニターの電源が起動し、モモンガの仮面をした謎の男が映る。モモンガ男の物と思われる声が、モニター横のスピーカーから流れる。
「ごきげんよう……ゲームマスターのミスターモモンガだ。もう分かってるとは思うが、君には命を懸けたゲームに参加して貰おう」
ミスターモモンガと名乗った男は慎吾へとそう告げた。慎吾はわけも分からない状態で、黒服達に「お前にゲームから逃げる拒否権は無い!」などと怒鳴られながらこの地下施設へやって来たのだ。慎吾がモモンガに怒鳴りつける。
「てめぇなんなんだよ!?ゲーム?そんなの知らねぇよ!!早く家に帰らせろよ!!」
「まだ覚悟が出来ていないのかい?ただね、帰らせる事も……待つ事すらも、もう出来ないんだよ。君が苦しむ姿を見る為に、2万人もの視聴者達が画面の前で待っているんだ」
「視聴者だと!?」
「はぁ……わざわざ説明するよりも、実際に体感して貰った方が適応出来るだろう。それに、そうした方がきっと、エンターテインメントとしての質も良い」
モモンガは、声を荒らげる慎吾を軽くあしらうと、指をパチンと鳴らした。その瞬間、モモンガが映るモニターに「始まったわ」「1コメ」「キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!」「wktk」「ザクザクしてきたな」「挑戦者側初勝利に500ペリカ」などと言った文字が流れる。モモンガは声のトーンを上げ、語り始めた。
「お待たせ致しました。第4回ガッドバンザック/バッドバラエティーショーのお時間です!!」
慎吾は何が起きているかなんとなく理解した。自身の様子は今、モモンガによって約2万人の人々に、インターネットを通じて配信されている。そして今からこの2万人を楽しませる為、命をかけたゲームに、自身が参加させられる事。モモンガが更に語り出す。
「チャレンジャーには、死と隣り合わせのゲームに挑んで貰います!!もし、クリアする事が出来れば、賞金2億円を贈呈!!」
慎吾の目の前にやって来た黒服が目の前でアタッシュケースを開く。そこには大量の一万円札の束が敷き詰められていた。慎吾の目の色が変わった。慎吾の表情は、怒りから徐々に喜びへと移り変わる。
「今回のチャレンジャーを紹介しましょう!!4thチャレンジャー!!鐘梨慎吾!!職業!!無職!!とある悲しい理由で大学を中退し、両親の脛を齧り、暴力を振るう生活を送っている青年です!!一体何が彼をそうさせたのでしょうか!?今回のゲームに勝利し、見事人生逆転なるのでしょうか!?」
モニターに、椅子に縛られた慎吾の姿が映される。自分自身の情報まで把握されているとは、やはりこのゲームのバックには何処までも大きな存在が動いているのでは無いか。そういった恐怖と、これ程の力がある者ならば2億円贈呈も嘘では無いという希望を、慎吾は同時に抱いた。心臓の鼓動が高鳴る。モニターには「普通にクズで草」「親不孝」「悲しい過去とかそういうのいらないから……」「挑戦者に相応しいわw」「良いヒール役になりそう」といったコメントが流れる。しかし、慎吾は気にしなかった。大金を手に入れるチャンスの前にはどんな罵倒も霞む。
「そして、今回のゲームにてチャレンジャーを蹴落とすのは、勿論この男!!2mの96kg、全身が鋼のように鍛えられた……8等身のイケメン!多くの国家資格を持つ完璧な男!!ガーーーーーーーーーーッド!!!バンザァァァァァック!!」
画面が切り替わり、豪華なボクシングのリングを思わせる空間が映る。そこに激しいスモークがシュー!!と迸り、巨体のシルエットが浮き出る。スモークが薄くなり、そこには……2mの96kg、全身が鋼のように鍛えられた8等身のイケメンの姿があった。モニターには「これを待ってた」「バンザック!」「俺たちのヒーロー」「うおおおおおおおおおおお!!」「今回も右フックあるか?」「この為に生きてる」等といったコメントで溢れかえっている。慎吾はこのコメント達を、自分に対する反応と比べ不快になる。それと同時に、コイツを絶対に負かす、という覚悟を決めた。コメントが落ち着くと、モモンガが語りを再開する。
「今回のゲームは……DEATHMAD動画製作対決です!!」
-セッティング-
DEATHMAD製作対決……慎吾はニヤリと笑った。この戦い、勝機は大いにあると。慎吾の数ある趣味の中には、MAD動画製作があった。彼が作った作品は50以上、その中での何作品かは100万再生越え、いわゆるミリオン達成をしていた。命を懸けたゲームと聞き、ただ単にMAD動画の再生数を競うような事はしないと慎吾には分かっていた。それでも、これから始まるゲームでは自分の得意分野を活かせる事は確かだと確信していたのだ。モモンガはルール説明を始める。
「インターネットの深淵にてこの配信を見つけた皆様に、説明する必要は無いかも知れませんが形式として失礼いたします。MAD動画とは、ゲームやアニメなどの映像や音楽の一部を切り抜き、それらを面白可笑しく繋ぎ合わせた物です。では……DEATHMAD動画とは何か?それは、死に関する映像のみを使ったMAD動画の事でございます」「おいおい!!それってただの死亡シーンまとめMADじゃねえかよ!」
慎吾は思わず、ツッコミを入れてしまった。すると、慎吾の元に瞬時に黒服が2人やってきて、彼の眉間に拳銃を突きつける。説明中は黙っていろと言う事だろう。慎吾は一瞬死を感じたが、すぐに口を閉じた。モニターには「いきなり叫ぶなゴミ」「ビックリした」「!?」「黒服ニキナイス拳銃」「ルールは最後まで聞こうね^^」と言ったコメントが流れる。黒服は去って行き、モモンガが説明を続ける。
「各プレイヤーにはゲーム開始後、DEATHMADを製作し、ニコニコ動画に投稿して貰います。作品数は問いません。質の高いMADを1作品作っても良いですし、数秒のMADを複数投稿しても問題ありません。ゲーム開始から240時間後、すなわち10日後に全作品の合計マイリスト数が多かったプレイヤーが勝利となります」
命を懸けたゲームと聞いて身構えた慎吾だったが、死亡シーンまとめMADのマイリス数を競うだけの勝負という事に安堵した。実は慎吾は死亡シーンまとめMADを製作した事がある。有名な曲である「トンカツマニア」に合わせて「ピエロアルヨ」という、海外のホラー映画の死亡シーンを流すMADである。慎吾は自身が勝利し2億を手に入れるビジョンを既に想像していたのだ。モニターには「歴代で一番長い配信になりそうやな」「バンザックってMADも作れるの?」「MADが延びるかなんて運ゲーやろ」「マイリス数だから再生伸びんでもいい、結局母数は大事だけど」「今来た、今回はMADか」などと流れている。
「食事はこちらから提供します。動画制作用のPCとネット環境がある、風呂付きのお部屋も用意してございます」
待遇が良すぎる。どんなデスゲームが始まるのかと思ったら、拍子抜けだ。大袈裟な演出と、危険な態度の黒服達のせいで身構えてしまっていたようだ。いつものように部屋に引きこもりながら、ただネトゲや6ちゃんねるを我慢してMAD製作だけに集中すれば良いだけだ。対戦相手のバンザックとか言う奴も到底良質なMAD動画を作れるとは思えない。明らかに趣味はアウトドアだろう。慎吾は余裕の笑みを浮かべる。モニターにも「今回バンザック不利では?」「4回目にして初の敗北説」「草」「バンザックがんばれ!!」「慎吾を潰せ!!」とバンザックを負けを危惧し、応援するコメントが多い。
「ルール説明は以上になります。各プレイヤーはロビーの中心のスタートエリアへと向かって下さい」
慎吾は黒服達によって縄を解かれイスから立ち上がる。ロビーというのは今いるこの場所の事らしい。立ち上がった慎吾が振り向いたモニターの反対側には、地面に半径3メートル程の黄色い円の形に引かれた線があった。これがスタートエリアである。そこには既にバンザックの姿があった。慎吾もエリアの方へと向かう。モニターには「ネタバレ:結局バンザックが勝つ」「どんなMADが出来上がるか普通に楽しみ」「あえて慎吾推すわ」「10日ぶっ続けの配信のせいで夜しか眠れない」「フロリダ、定期的に戻ってくる」などと盛り上がっている。慎吾がスタートエリアへと足を踏み入れる。バンザックが声を掛けてくる。
「俺とお前、どっちがバズるか、勝負だ!!」
そう言い、バンザックが慎吾へと手を差し出す。慎吾はバンザックの巨体と声の圧に一瞬萎縮したが、彼の爽やかな挨拶を無視する訳にはいかないと、手を取り握手した。
「……ッ!!」
バンザックに手を握られた瞬間。死を感じた。先程、黒服達に拳銃を突きつけらた時の何倍もの恐怖、終わり、破滅……全てを内包したドス黒い何かが心の中で渦巻く。「よろしく」と声を出そうとしていた慎吾だったが、声が出ない。腹部が痙攣する。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。目眩がする。まだ生きている?死んでいる?そんな思いが一瞬にして過ぎった。バンザックが手を離す。慎吾は半分過呼吸になりながらも意識を取り戻した。
「ハァハァ……ハァ……畜生……」
息を整えながら、ゲーム開始の合図を待つ慎吾。出来るだけバンザックを視界に入れないように背を向ける。一方バンザックはスクワットを始めた。MAD動画制作に足の筋肉は必要ないだろう。しかし、慎吾はその動きでさえも警戒している。もしかしたらスクワットをしながらいきなりこちらに攻撃してくるかもしれない。とっととスタートエリアから出て、バンザックから離れたい。用意された部屋に入ってMADを作りたい。慎吾は冷や汗をかいている。ファンファーレかと思われるBGMが流れ始めた。ついに、始まるのだ……DEATHMAD製作対決が……
-ゲームスタート-
「準備が完了しました。これより、第4回ガットバンザック/バッドバラエティーショー、DEATHMAD製作対決を開始します。視聴者の皆様、カウントダウンをよろしくお願いします」
スタートエリアで慎吾とバンザックは背中合わせになる。それぞれが自分自身の部屋の方向へと向いているのだ。モモンガがカウントダウンを始め、それに合わせてコメントでも数字が流れていく。
「「「「「10!」」」」」
「「「「「9!」」」」」
「「「「「8!」」」」」
「「「「「7!」」」」」
「「「「「6!」」」」」
「「「「「5!」」」」」
「「「「「4!」」」」」
「「「「「3!」」」」」
「「「「「2!」」」」」
「「「「「1!」」」」」
「「「「「ガッド!バンザック!!レディ!!GO!!」」」」」
バンザックのみを応援するようなゲーム開始時の掛け声に苛立ちを感じながらも、慎吾は思いっきり駆け出す。バンザックも長い足を活かした大きなストロークで、ダイナミックに走り出した。モニターには「始まったな」「今回のバンザック節にも期待だぜ!!」「バンザックの走行フォーム綺麗すぎる」「慎吾応援しとるやついるー?」「ニコニコ開きつつ視聴」と、やはりバンザックを賞賛し、応援するコメントが多かった。
「よっしゃぁ!!待ってろよ……2億!」
慎吾は用意された部屋にたどり着く。モモンガの解説の通り、部屋内の設備は豪華であった。1LDK程の広さの部屋には大きな作業机があり、その上には30万相当のゲーミングPCセットと、MIDIキーボードを初めとしたDTM用の機材が用意されていた。更にその隣には冷蔵庫が置いてあった。慎吾はすぐさまPCの電源を起動しながら、冷蔵庫の中を開いた。中には天然水、麦茶、スポーツドリンク、コーヒーの2Lペットボトルが冷やされている。その他には洋式トイレ、ユニットバス、冷房、素材集め用であろう画面キャプチャーがついたゲームハードと大量のソフトが入った棚。また、その棚の側面には「全映像系、音楽系のサブスク完備」というシールが貼られている。慎吾はニヤリと笑った。この最高の環境で歴史に残るDEATHMADを作り、MADクリエイターとしての名誉と2億円を手に入れてやると。
「うし、早速始めるか!!」
雲のような座り心地のゲーミングチェアに一瞬寝そべり、身体を起こそうとする慎吾。その瞬間ある事に気がつく。部屋の天井近くには二つの監視カメラとスピーカーが用意されていると。一瞬ビクッとした慎吾であったが、自分達の様子を配信する為のものだと直ぐに理解し、2万人に観られている事に少し気持ち悪さ感じながらも、マウスに手を添える。慎吾の作戦はこうだ。自分が視聴済みの有名アニメの素材を使った短編のDEATHMADを複数作成し、ひたすら投稿し続ける。ゲーム映像をキャプチャーする為の設備は十分に整っているが、ゲームを操作しなければいけないという点で素材集めに時間がかかる。慎吾はアニメよりもゲームの知識の方が豊富だが、内容の一部を切りとるだけで素材集めが完了するアニメMADの方が効率が良いと感じたからである。慎吾はサブスクを開き「魔法少女†ボルテックス†よすが」のアニメを流し始めた。
「少ない素材で尺は1分以内、インパクトがあるシーンを反復する!!」
慎吾はアニメ6話にてサナエというキャラクターが「私は全く悪くなぁーい!!」と叫びながらブラックホールに吸い込まれ消滅するシーンを切り抜いた。そして更に音楽サブスクにて、MAD動画にてよく使われている「DEADZONE」という曲をダウンロードした。机の右方面にスポーツドリンクのペットボトルを置き、作業を開始する。
「ゲーム開始から10時間が経過致しました」
モモンガが室内アナウンスをする。それと同時に、慎吾は1作品目の「私は悪くないZONE【ボルよすMAD】」の投稿を完了した。達成感に浸った表情で高級ゲーミングチェアに寝そべりながら、慎吾はアナウンスの続きを聞いた。
「また、午後8時を過ぎた為、各プレイヤーの部屋に夕食を配膳致します。どうぞお召し上がりください」
アナウンスの直後に、慎吾の部屋のドアからノックが聞こえてくる。こんなにも早く夕食が届くとは思わず、一瞬だけ驚いた慎吾だったが、直ぐにドアの方へと歩いていき開く。すると、黒服の男二人が部屋に入り。ご飯の乗ったおぼんを机のスペースへと置き、すぐに去っていく。
「毒とか入ってないだろうな……まあここまで大丈夫だったし。それは無いか」
メニューは以下のようだった。
・米
・鶏もも肉のムニエル
・マグロの刺身
・牛乳
・プロテイン
ボディビルダーが好みそうな、筋肉がつくメニュー。慎吾は、このメニューはバンザックを喜ばすためのメニューだ。別に自分が嫌いな物では無いが、少しだけ気に食わなかった。とは言うものの腹が減っていたので何も言わずに黙々と食べたのだった。食事と共に机の上の飲み物を全て飲み干し、風呂場へと向かう。
「命をかけたゲームとか言って、ほんとになんにもねえじゃねか……負けたら殺されるってか?まあ負けそうもねえけど。あのバンザックって奴に悪いが、この勝負、俺が頂いたぜ」
湯船に浸かりながらブツブツと慎吾が呟く。疲れからか、そのまま風呂場で10分ほど意識が飛んでしまうが、その後は直ぐに風呂を上がり、用意された寝間着に着替える。部屋に戻ると、そこには布団が準備されていた。
「なんだよw旅館かよw」
あまりの待遇の良さに乾いた笑いが出る。慎吾はこれ以上の活動はせずそのまま寝るつもりだ。最後にPCをつけDEATHMADが上手く投稿されているか改めて確認しようとする慎吾。ゲーム開始時に、自分のスマホが無いことに気づいていた為、何かをする際は全て用意されたPC頼りになるだろう。食事前にスリープ状態にしていたPCを立ち上げ、ニコニコ動画を開く。
私は悪くないZONE【ボルよすMAD】
投稿:1時間前再生回数:1138コメント:24いいね:37マイリスト:8
「マジかよ……1時間でここまで行ったなら……俺が起きた頃には……この勝負、俺の勝ちだぁぁぁぁあああああ!!」
慎吾はガッツポーズをし、勝ち誇った表情で布団に入り横になった。
-リバーサル-
【ゲーム開始から19時間、二日目午前五時】
「ファーワ……」
慎吾がこんな早朝に起きるのは何ヶ月ぶりだろうか。無職生活を送ってきた彼の生活習慣は崩壊しており、好きな時に寝て好きな時に起きるのが当たり前だった。そんな彼が、夜の九時に寝て、朝五時に起きたのだ。体調を崩しそうなものだが、慎吾の状態は良好だった。
「さてと、どんなもんかな」
慎吾はすぐさまPCを起動し、前日投稿したDEATHMADをチェック。
「私は悪くないZONE【ボルよすMAD】」
投稿:10時間前
再生回数:1.2万
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全ジャンル内ランキング:4位
「おいおい!一作品目でこれとか……マジで勝ち確じゃねえかよ!」
慎吾の笑いが止まらない。勝ちを確信しながら、洗面所へと向かう。適当に顔を洗い髭を剃り、パソコンの前へと座る。次の素材集めの為にサブスクやトレンドをゆっくりと調べつつ、届けられた朝食を食べているうちに朝六時を迎える。部屋のスピーカーからアナウンスが流れる。モモンガの声だ。
「おはようございます。ゲーム開始から20時間が経過しました。残り、220時間となります。また、30時間経過時点でお互いの得点の中間発表を行います。時間になりましたら、改めてアナウンス致しますので、各プレイヤーはロビーにお越しください」
慎吾が布団から出る。アナウンスが目覚ましの代わりに丁度良いなどと思いつつ、洗面所へと向かい顔を洗った。
「うし!中間発表前にもうひと作品くらい作っておくか。次もボルよすを使うか、それとも別作品を使うか。悩ましいぜ」
慎吾はニコニコ動画内のランキングを眺めた。ランキングの中でちらほら見かける「死ノ子怨怨魑魅魍魎(しのこおんおんちみもうりょう)」通称「しのおん」の動画を自分でも作ってみようと考えた。しかし、彼は「しのおん」をネットのバナー広告でしか見た事無かったのだ。
「まぁタイトル的にも絶対死亡シーンはあるだろうな。とりま今から二倍速で見てみるか。本当は等速で観たいけど、そこまで時間は使ってらんないぜ」
慎吾はサブスクをつけ、即座に「しのおん」を再生し始めた。幽霊が見れる少女が、成仏できない幽霊たちの悩みを解決して成仏させたり、時には悪霊を仲間と退治したりするアニメのようだ。一話に登場した幽霊の過去回想にて、その幽霊が死んだ時のシーンが流れた。慎吾はこれを使ってMADを作ろうと画策する。
「タイトルの割にはゆるいアニメだったな。予想通り死亡シーンはあったから良かったがな。さて、作るか」
大手ファストフード店のマスコットキャラクター「マナルド」のイメージソング「チョメ!チョメ!グー!」に合わせた、しのおんのMADを作成した。完成までおおよそ7時間程であった。昨日のボルよすのMADよりも短く、シンプルで作りやすい内容であった為、特にてこずる事も少なかった。
「はぁ、流石に疲れたな。仮眠でもとるか」
慎吾は二作品目のDEATHMADを投稿し、椅子によっかかり目をつぶった。3時間後の中間発表の頃に目を覚まそうと考えながら。
「ゲーム2日目、午後3時間50分です。ゲーム開始から30時間経過まで、後10分となりました。中間発表を行いますので、各プレイヤーはロビーまでお越しください」
モモンガのアナウンスが二回ほど繰り返される。慎吾は一度目のアナウンスにてパッと目を覚まし、部屋の掛け時計をみて時間を確認した。アナウンスされた通りの時間だ。立ち上がり、慎吾は部屋を出てロビーへと向かった。ロビーとはゲーム開始時に彼らがいた大きなモニターのある部屋である。
「まぁ、俺が勝っているのはそうだとして……奴に逆上されて殴られないかが心配だぜ……出来るだけ距離を取っておこう」
バンザックに近寄った時に感じた「死」の感覚を慎吾は未だに覚えていた。このデスゲームが暴力を用いるものでなくて心底安心した、慎吾なのであった。ロビーにやってくる。モモンガが映った大きなモニターの前には、既にバンザックが座禅をして待っていた。
「何やってんだアイツ……で、出来るだけ刺激しないようにしよう 。
慎吾はモニターがギリギリ見えるような位置に立ち、バンザックから距離をとった。モモンガは両者がやってきたこのタイミングで、語り始めた。
「さぁ、皆様お待ちかねの中間発表です。早速、各プレイヤーの合計マイリスト数を発表いたしましょう」
場を盛り上げるような口調で、モモンガが話し始める。慎吾はニヤケ始める。モニターには「慎吾はどこまでくいつけるかなw」「ネタバレ:バンザックが勝つ」「バンザック!バンザック!」「wktk」と言ったバンザックの勝利を確信するコメントが流れている。ただ慎吾だけ自分がバンザックより勝っている事を知っていた。モモンガが中間発表を始める。
「チャレンジャー慎吾の合計マイリスト数、なんと238!!」
慎吾は誇らしげな表情でモニターを見ていた。この数字を超えてみろ。超せるはずもないが、と言わんばかりだ。一方バンザックは、座禅を続けていた。
「そして、バンザックの合計マイリスト数……10714!!10714!!10714件です!!!!!」
「は?」
慎吾の表情が険しくなる。ありえない。そんなはずは無い。一日でマイリスト数1万超え?そもそも昨日のランキングには載ってなかっただろ。理解が出来ない。モニターには「バンザック最強!!」「うおおおおおおおおおおおおお!!」「バンザック!バンザック!バンザック!バンザック!!」「圧勝やんけ!!」といったバンザックを賞賛するコメントが大量に流れる。唖然としながらも慎吾はそれを眺めていた。そこで、あるコメント達が目に入る。
「視聴者パワーやな」「俺らの団結力」「バンザックが繋いだ友情!!」と言ったコメントがいくつかあった。慎吾は直ぐに察した。このデスゲームを見ている視聴者達が、バンザックのDEATHMADに大量のマイリスト登録をしたのだと。
「なんだよこれ……くだらねえ……思った以上の出来レースだ。こんなのどう足掻いたって無理じゃねえかよ……真面目にやるだけ無駄だって気づくべきだった……クソ!!なんでいつも俺は!あの時も!!畜生ォォォォオオオオオ!!」
慎吾は叫んだ。そして、それを見たモモンガは声いろを変え、再び話し始める。
「あの時もそうだった……彼は今そう言いましたね。きっと今、彼は自身の悲しい過去を思い出しているのでしょう。それを貴方達視聴者にもお見せいたします。鐘梨慎吾の過去を再現したVTR、スタート」
-トラウマ-
モモンガの映っているモニターの画面が切り替わった。そしてすぐさま、慎吾の過去を再現したVTRが流れた。
「俺の名前は鐘梨慎吾、何の変哲もないただの大学生だ」
黒髪で、目がぱっちりとした青年がそう語る。このVTRにて慎吾の役を担う役者だ。モニターの中で満面の笑みを浮かべる慎吾を本物の慎吾は苦痛で歪んだ表情で見た。VTRは続いていく。
「今日は俺が入っているゲーミング戦国武将サークルの飲み会の日だ」
ゲーミング戦国武将とは、歴史に名を残す戦国時代の武将達を育成し、仲間と共に協力して戦うアーケードゲームである。武将のキャラクター達が強くなるほど虹色を帯びていき、最終的には1677万7216色にまで輝く。慎吾は大学に入学してから少しして、このサークルに入った。サークル内でチームを組んでゲームに取り組んだ。チームは勝利に勝利を重ねていき、全国ランキングトップ10に入った。その記念も兼ねた飲み会が開催されたという訳だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「よっす」
居酒屋「ちやる」の看板の下で挨拶をする慎吾、そこには既に、十五人程のサークル仲間達が既に集まっていた。
「よし、飲むべ」
慎吾が到着してすぐ、残りのメンバーも集まり、居酒屋の中へと入って行った。サークル長の浜田がすぐに受付を済まし、部屋へと入っていく。畳の上に二十枚の座布団がしかれており、それに続々と座っていく。
「……あれ?何かがおかしい……」
サークルの人数は全員で十八人のはずが、余っている座布団は一つだけだ。数え間違いだろうか。そんな事は無い、誰かが二枚持って行ってるわけでも無い。
「ウィー!じゃんじゃん飲もうぜぇw早速テキーラ行くか?なんつってwやっぱりまずはビールっしょ!へぇ!」
一体何者だろうか……このような人間はサークルにいない。縞模様のロングTシャツの上に黒いジャケットを羽織った金髪の男が一人、空気を読まずに騒いでいた。
「先輩……あの人一体なんなんですか」
慎吾は隣でメニューを見ていた鈴木に話しかけた。鈴木は金髪の男を横目に見ながら小声で話し始める。
「三年の最上(もがみ)君だよ……あの子、色々なサークルの飲み会に勝手に参加しては、雰囲気悪くしてるんだって……まあ、無視でいいよ」
最上の様子をさり気なく見る二人。両隣の人にしつこく声をかけている。その内の1人であるサークル長の浜田は近くのそれを上手くスルーし、淡々とほかのメンバーから注文を確認しながら、注文用のパットに入力している。それでも最上は喋り続けている。もう片隣の清水さんにも話しかける。少し引いたような表情を見せながらも、最上の話に軽く反応してあげているようだ。その後も周囲の人に話しかけてはダルそうにいなされていた。本人はそれに気がついていないのだろうか。
「なんだっけこのサークル?戦国ゲーミングだっけ?おもろいん?織田信長とか召喚!して戦わすん!?うわー!陰キャのヲタクって感じのゲームだわ!まぁ安心しろよ!お前ら陰キャのヲタクの暗い飲み会を俺が明るくしてやんよ!ウィー!」
最上が左右の人達の背中を強めに叩きながら大声を上げる。慎吾の眉間に皺が寄る。慎吾は立ち上がり最上の方へと向かおうとするが、鈴木
が静止する。
「無駄っぽいよ。何回か話に聞いたけど、注意してもヘラヘラ返事されるだけだし、追い出そうとしても頑なに帰ろうとしないらしいんだ」
鈴木の言葉によって、慎吾は冷静さを取り戻したと同時に、彼をどうすればここから追い出せるかを考え始めた。がしかし、何も思いつかない。鈴木は、もう一つの注文用パットを手に取り、周囲の人から確認を取る。
「鐘梨は?どうする?」
「それじゃあ焼酎で!うっし!今日はいっぱい飲むぞー」
慎吾は、二十歳になるまで酒は試しにも飲んだ事が無かったが、初めて飲んだその日からハマりにハマり、二日に一回晩酌をする程の酒好きとなった。
「焼酎!おめぇやるじゃあん!じゃあ俺も、テキーラ……頼んじゃおっかなぁ!!ストレートで!」
最上が慎吾の言葉に反応する。机の端の辺りと端の辺り、慎吾と最上はほぼ対角線の位置にいたが、反応されてしまった。そして最上は立ち上がり、慎吾の元へ向かってくる。
「え……?」
皆が座布団に座っている中、歩くのには中々狭い個室にて、皆の背中を跨ぎながら慎吾の隣へとやってきた。慎吾が先程抑えていた殺意が、再び湧き上がる。
「ウィーw勝負しようぜw俺とお前、どっちが酒に強えか勝負だ!!」
「そういうのいいっす。普通に飲みましょう」
「えー?ビビってんのぉ!ビビってんだべ?んだよ、その程度って事だなぁ!」
「勝負とかまじでいいですから。何になるって言うんすか」
「ったくノリワリィなぁ……まあ仕方ねえか!俺に勝てる奴なんていねえもんなぁ!みんなの前で恥かきたくないのも分かるぜー!んじゃお前の負けって事な!不戦勝ウィーw」
「は?分かりましたよやりますよ」
「お!?お!?」
乗ってしまった。このまま流しておけば最上は元の席に戻っていたかもしれない。しかし、乗ってしまった。慎吾は煽りに弱いのだ。勝手に不戦敗判定をされた慎吾の血管はキレ、酒飲み対決を受けてしまった。お通しの葉野菜がやってくる。そしてその野菜を食べ終わる間もなく、注文した酒とつまみ達がやってくる。
「さぁ!始めようぜ!」
最上の目の前にテキーラショットが置かれる。その後遅れて焼酎瓶がやってくる。最上を睨みつける慎吾。しかし最上はそのトゲのある視線に全く気がついていない。
「はい終わりおかわり」
慎吾は740mlの焼酎瓶を一気に飲み干す。周りの仲間達は心の底で慎吾を確かに応援しているが、その中の数人は余りにも異常な飲みっぷりを見て引いてしまった。口が動きっぱなしだった最上も一瞬沈黙をチラつかせた。
「ほらてめえ最上、早く飲めや」
「ッギ……」
威圧する慎吾。酒の力を借りての発言ではあるが、大して酔っているわけでもない。ただ少し素直になっただけだ。酒を免罪符にし、ほぼシラフで最上に攻撃しているのだ。最上も慎吾に対抗し、テキーラショットを一気飲み!と思いきや……
「ッス……ウィーw」
一滴?否、それ以下だ。霧吹きで吹かれた水の雫の一つほどしか飲んでいない。それを見た仲間たち。呆れすらも超えた虚無の顔を見せる浜田。ドン引きする鈴木。薄ら笑いをうかべた、サークル内で慎吾と一番の仲の拓也。他のサークルメンバーも飲み会を普通に楽しみながら対決を横目に見ていたが、この瞬間全ての動きを止めた……慎吾が口を開く。
「え?なに?あんだけ煽って対決までして……これ……?お前何がしたいの?」
「いや焼酎とか弱い酒だべぇ!テキーラ飲んでみ?やべぇかんな?」
グビッ。ゴンッ。
「はい」
慎吾は最上のテーブルに置かれたテキーラショットを力強く奪い取り。一口で飲みきった。コン、と空のカップを置く。周囲の会話は静まり、皆が二人に視線を向ける。
「最上さん、あんたなんなんすか?」
「いやいやいや!!冗談だって!!」
「何がですか?先輩の飲みっぷりがですか?」
「この対決自体だよ。ムキになって飲む酒なんて美味しくねぇぜ!?お酒は笑って飲むのが1番だぜ?」
慎吾を煽ってまで酒飲みバトルを仕掛けておいて酒が飲めないとは……そして、このどうしようもない言い訳である。慎吾は奴が周りの言う以上にどうしようもない、面倒くさい、何がしたいのか分からない、不愉快な存在だという事を改めて理解した。
「いいですから、取り敢えず元の席に戻って下さいよ」
「んだよーw悲しい事言うなよーw」
「早く」
「うっ……うぉーい!浜田ー!!お待たせー帰って来たぞー!!俺が行っちゃって寂しかったよなぁ浜田?」
酒を飲んでいないのに酔っ払ってしまったのだろうか???????ここまで言われても明るく浜田にだる絡みしながら、その隣の席へと戻っていく。浜田がそれをガン無視し、ハッと思い出したように話し始める。
「そういえばまだ乾杯してなかったね。それでは改めてチーム【Q.E.D.】全国ランキング10入りを記念して……」
「ウィーwウィーwかんぱぁーい!!さぁ飲もうぜぇ!そして早速『王様ゲーム』でも始めようぜ!おーい!誰かくじ引きアプリ入れてるヤツ、いるー!?」
全員が乗り気じゃない。誰も王様ゲームなどしたくないようだ。特にこのサークルのメンバーは真のガチ勢なので、飲みの場でもゲーミング戦国武将の話がしたいのである。最上が周囲をチラチラ見る。
「いやーくじ引きアプリ入れてる奴誰もいねぇのかよー!使えねー!大学生ならくじ引きアプリくらい入れておくべきだろ!分かった、俺が開くわ!」
どういう理論なのだろうか?と考えるのも面倒くさい。既に全員が最上の事をスルーしていた。くじ引きアプリの設定をする最上。他のメンバーは飲みながら楽しくゲームの話をし始める。
「D・EVAとのコラボくるやん?俺は個人的にはD・EVA好きだからいいけど、結構ツーイターとか荒れてたよね」
「まぁ、戦国武将関係ねぇしなD・EVA。でも中々強そうよな。武将複製のスキルが壊れだろ。ヌケモンでいうメガバナーナみたいな?」
「それ。しかも複製されたユニットのステータスも0.8倍の補正がかかるだけで後は複製元と性能同じになるらしい」
慎吾と拓也はこれからくる新キャラの性能について語り合い始めた。攻略サイトやネット掲示板の評価などを見つつ議論を交わす。D・EVAを使った新しいユニット編成や対戦環境の話などで盛り上がり、酒もどんどん進んで行った。しかし、二人の会話が盛り上がって来た所で、またしても奴が割り込んでくる。
「D・EVA?俺も知ってるわぁー。一億と二千年前から恋してるー♪って奴だろ?拓也お前こんなん好きなんだぁ?キメェー!」
「うるせえな、キメェのはお前だろ」
「え?」
煽りを受け流そうとする拓也だったが、またもや怒りを抑えられなかった慎吾が代わりに言い返す。酒が回ってきているのか、酒を飲んだという事実を免罪符として使い最上を罵倒したかったかは定かではない。
「は?俺がキモいってどういう事だよ?」
「そのまんまの意味だろ、お前気持ち悪ぃよ。入ってもないサークルの飲み会に参加して、邪魔な事ばかりして雰囲気を壊してよ。皆が楽しんでる事馬鹿にしてさぁ……マジで気持ち悪ぃ」
「んだよ……つまんねぇ冗談」
「冗談なわけねーだろ。ここにいる全員そう思ってるだろ」
「何言っちゃってんの?そんな事ないよな!?みんな!」
沈黙……少し間を置いて、浜田が口を開く。
「いやお前キモイよ」
それに対して何人かが頷く。最上の顔が青ざめていく。ついに最上の忙しなく動き続ける口が完全に止まった。テーブルにうつ伏せになり動かなくなる。流石に言いすぎたかと冷静な顔になる浜田。しかし、慎吾の怒りは未だ収まっていないようだ。慎吾が更に何かを言おうとした瞬間、最上が再び口を開く。
「ケッ!!陰キャどもがよぉ!!ゲーム馬鹿にされてピキってやがんのー!!俺の事が羨ましいんだろ?だから妬みで虐めてんだろ?ダッセー!!陰キャでキモくてダサいとか終わってんな?ゲームしか取り柄ないんだろ?でゲームしか取り柄がないヤツらで群がってやんの!?本当しょうもねぇなぁ!!」
最上が涙目で笑いながら早口で話す。これを聞いた浜田、拓也、鈴木は完全に諦めた。コイツに対しては本当に何を言っても無駄だと。慎吾だけは、もっともっとまだまだ何か言いたげな顔をしている。だが、そんな慎吾の顔を見た最上は、彼に近寄る。
「特に慎吾?お前はマジで俺の事を敬えよ。ゲームしか出来ねぇ雑魚が調子乗んな!!」
そう言って、最上は慎吾の肩を思いっきり叩く。その振動は慎吾の全身に響き渡り、ついに彼の怒りは限界突破したのであった。
「お前はもうキモイだけじゃねえ、どうしようもない最悪のクズだ。今ここで消えろ」
慎吾が最上の顔面をぶん殴り、怯んだところで首を絞める。そしてその苦しみで開いた口の中に、近くにあったワインボトルの中身を空になるまで全て注いだ。空になったボトルを顔面に叩きつける。ボトルが衝撃でバリンと割れる。白目を向いて倒れてしまった最上の頭からは血が流れ出ており、口からは大量の泡が吹き出ていた。
「慎吾ちょっとやりすぎだったんじゃねえか?」
拓也が慎吾の肩を掴み、震えた声で話す。周りの人間達が止める間もなく行われた一瞬の暴虐。慎吾はボロボロの最上の姿を見て冷静さを取り戻した。
「あぁ……」
完全にやってしまったと言わんばかりに脱力する慎吾、騒ぎを聞いて駆けつけた店員がこの状況を見て通報。慎吾は暴行罪の容疑で逮捕されてしまったのだ。裁判の結果、鐘梨慎吾は有罪。最上はボンボンの家庭で、優秀な検察を、高額を叩き指名したのもあり、裁判では為す術もなく負けた。30万の罰金に加えて最上に対する慰謝料が課せられた。長年勤めていたコンビニバイトもクビになり、新しいバイト先を探すも、採用される事は無かった。そして……
「出場停止!!?」
サークルで参加が決まっていたゲーミング戦国武将の全国大会にも、出場停止処分が下された。しかも彼だけでは無い。チームメンバー全員がだ。ゲーミング戦国武将は本格的な戦略ゲームで、2年前にはEスポーツとして認められこの大会にも多額の賞金が出る事になっている。運営としてもゲームの印象を下げたくないのだろう。
「まあまあBANされた訳でもないし、ゲーム内ランキング1位目指して頑張っていけばいいよ」
「そうだよ、あんまり気にすんな」
拓也や仲の良い先輩は慎吾を励ました。だが、それが慎吾にとっては余計心苦しかった。このサークルの目標は全国優勝だった。あの飲み会には全国に向けて士気を上げるという意味も勿論あった。皆を巻き込んでしまった罪悪感に苛まれる慎吾。苦しいがまだ仕打ちは終わらない。
「た、退学!?」
「本当にすまないと思っている」
「どうか……どうか考え直してはくれませんか!?今後絶対に事件は起こさないのは勿論、俺に出来る事なら何でも手伝いますので」
「そういう問題では無いんだ……ここまでする必要は私も無いと思っている……だが!!」
裁判から数日後、学長室にて、大きなソファから立ち上がり声を荒らげる慎吾。学長も何処か辛そうな声色で話している。校長本人が決定を下した訳では無いように感じられる素振りだ。慎吾はそれを背中に学長室を後にした。そしてそのまま階段を降り校舎の外に出る。そこに、全身のありとあらゆる所に包帯を巻き、松葉杖をついた金髪の男が意気揚々とやってくる。
「ウィーw犯罪者ちゃんヨッス!!退学するんだって?良かったじゃん!これでお前の好きなゲームやり放題だぜ?おめでとうございまぁーすwウィーwウィーwウィーwいやー本当に良かったな?お前ゲームと現実の区別がついてなくてリアルで暴力振るうレベルもんなあ?なあ!?」
慎吾は全てを察した。この退学は最上が根回しをした結果だろう。彼には人脈など全くもってなかったが、それをいくらでも覆せる程の財力があった。コイツから逃げるのは癪だが、もうどうしようもないのだ。相手をしても疲れるだけだ。慎吾はもうここを退学したのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
VTRは終わりを迎え、モニターの画面がモモンガの顔へと切り替わる。「思ったより可哀想な奴だったな」「最上をここに連れてこいよ」「バンザックー!!」「ゲーミング戦国武将俺もやってるよ」「辛ぇなぁ」「キレるのは分かるが何があっても暴力はダメだゾ」などとコメントが流れる。慎吾に同情するようなコメントが多く見られる。モモンガが話し始める。
「なんと悲しい過去なのでしょう!!あの日暴力をふるってしまったがために、彼は青春……日常……全てを失ってしまったのです!!」
慎吾が拳を握りしめる。そして、ふと横を見る。座禅を組みながらVTRを観ていたバンザックの、うっすらと開かれた眼からは涙が流れていた。
-フィナーレ-
「残り約210時間となります。それでは、ゲーム再開です」
モモンガがそう告げたその瞬間。バンザックが雄叫びを上げた。
「うおおおおおおおおおおお!!」
雄叫びを上げながら、バンザックは慎吾の腕を掴んで引っ張り、そのまま自身の部屋へと連れていく。あまりの力強さに腕が引きちぎれそうな慎吾だったが、何とか持ちこたえた。
「な!なんだよ急に!!」
「やり直すぞ!!この勝負を!!」
バンザックはパソコンを起動し、ニコニコ動画を開く。そして自分の投稿した動画の管理画面を開いた。
そこには『【バンザック切り抜き】チュートリアルで既に死にゲーの洗礼を受けるバンザック【SABURO】』というタイトルの動画が表示されていた。他にも幾つか、似たような切り抜き動画がある。バンザックはそれらの動画の再生数やマイリストを指さした。
「もう察したかもしれないが、俺は自分のゲーム配信の死亡シーンに音楽を合わせそれをDEATHMADとして投稿していたんだ」
慎吾はそれを聞いて効率の良いアイデアだとは思ったがそれはMADではなくないか?と疑問を浮かべた。バンザックが熱弁を続ける
「だが、お前の投稿した本気のDEATHMADを観て……そしてお前の過去を知って思ったんだ……俺はこんな勝ち方をして本当に嬉しいのかってな!!これじゃあVTRに出てきたクズと変わらないとな!!」
バンザックは机をドン!と殴った。テーブルは大きく振動し、音が部屋内に響き渡った。慎吾はその衝撃に身体を少し跳ねさせた。バンザックがマウスに手を触れる。
「だから俺は決めた!!今から俺はお前に、正々堂々と本気のDEATHMADで勝負を挑む!!」
バンザックは自身の投稿したDEATHMADを謳う切り抜き動画4つを全て削除した。
「よし!これで俺の合計マイリスト数は0だ!そうだ慎吾!!お前は勿論動画を消す必要はないぜ!そんな気を起こそうものなら……」
ブゥン!!
慎吾の身体ギリギリに右フックの素振りをかました。余りの恐怖に慎吾は尻もちを着いてしまう。バンザックの腕は全く慎吾には触れていなかったが、高速の右フックによって発生した、かまいたちによって慎吾の服の一部がぱっくりと裂けてしまった。なんて恐ろしい……バンザックは続けて、部屋内に設置されたカメラの方に顔面を近づける。
「お前ら!!俺が投稿したからってなんでもかんでもマイリス入れるな!!公正に判断しろ!!俺は全力でぶつかり合いたいんだ!!慎吾の作品もちゃんと見ろ!!分かったな!?」
バンザックのマイリスト数を盛っていた視聴者に向かってのメッセージだ。言う事を聞く視聴者がどれほどいるかは分からないが、慎吾は希望を抱いていた。この恐ろしい大男が良心と慈悲を知っていたのか、はたまた今それに目覚めたのかは分からない。
「あ、ありがとう」
「お礼などいらん!!当たり前だ!!」
二人は笑顔で握手を交わした。慎吾の右手からボキボキィ!!と大きな音がしたが、幸い骨は折れていないようだ。慎吾はバンザックの部屋を出る。彼の魂の炎が再び燃え上がる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【ゲーム開始から50時間】
マイリスト数
鐘梨慎吾▶3438
ガッド・バンザック▶2769
バンザックの意思を尊重した視聴者は思ったより多かった。視聴者達は慎吾の高品質なDEATHMADを正当に評価しマイリストに追加した。この頃バンザックは切り抜き全削除後から一作目のDEATHMAD制作を終えていた。自身のテーマ曲である「全知全能バンザック」を使った静止画DEATHMADだ。音ハメや素材の加工がまだまだ拙く、モヤっとする部分はあったがこだわりを感じる完成度だ。未だバンザックに忖度する者もそれなりには残ったが、慎吾を絶望に追い込んだ、八百長じみたあの勢いはもう無いと言って良いだろう。
【ゲーム開始から100時間】
マイリスト数
鐘梨慎吾▶6350
ガッド・バンザック▶5999
慎吾は着々とDEATHMADを投稿していた。流石に疲れも感じてはいたが、質を落とさないよう集中を続けた。二作品目の死ノ子怨怨魑魅魍魎(しのおん)のDEATHMADが伸びてきたタイミングで同作品のDEATHMADをあげ、見事ヒット。しかし、バンザックも力をつけてきた。音声合成ソフトである、虚音モル(うろねもる)を使った本格的な音DEATHMADを二作品投稿。自分自身のバンザックブランドを無視した完全実力勝負に出たのだ。慎吾はその様子を認知し、バンザックをMAD製作者として認めた。
【ゲーム開始から150時間】
鐘梨慎吾▶11384
ガッド・バンザック▶10827
バンザックへの敬意と友情を込め、バンザックの死にゲー配信を素材とした音DEATHMADを制作した慎吾。このゲームを観る者の殆どはバンザックを愛している為、当然マイリスト数も大きく増やした。慎吾に点が入ってしまうが、流石にこれはマイリスせざるを得ないと言ったコメントがいくつか流れていた。一方バンザック本人は色々な作品の死を繋ぎ合わせた「一人DEATH合作」を投稿!!あまりのクオリティと情報量にバンザックの事を全くもって知らない人達すらも驚愕させた。
【ゲーム開始から200時間】
鐘梨慎吾▶14004
ガッド・バンザック▶14375
長時間ぶっ続けの制作によって慎吾は体調不良に……DEATHMADを投稿するスピードと質が落ちる。バンザックは異常な体力を持っているので当然のように健康だ。MAD制作の実力もかなり身につき、慎吾自身もバンザックに対して、自分と並んだと言っても過言では無いほどに成長を感じた。そしてマイリスト数も慎吾のものをバンザックが上回った!!ゲーム終了まで後40時間……どちらが勝ってもおかしくは無いデッドヒート!!お互いがお互いに勝利する為、全身全霊を込めて最後のDEATHMAD制作を始めた!!
そして……
「ゲーム終了でございます。結果発表を行いますので、ロビーまでお越しくださいませ……」
遂に終わった……果たしてどちらが勝利するのだろうか?慎吾もバンザックも、燃え尽きており、自分の最終的なマイリスト数の確認は出来てない。つまり、この後の結果発表で全てを知るのだ……
慎吾がロビーに到着し、そこから数秒してバンザックがやってくる。お互いを認め合う笑顔で挨拶を交わし、モニターの前に立つ。
「それでは、結果発表です……今回のゲームを制したのは……」
モニターに大量のコメントが流れる。
「どっちが勝っても俺は嬉しいよ」「バンザック!!慎吾!!バンザック!!」「慎吾じゃね?これ()」「良い勝負見られたから既に満足」「MAD動画に優劣つけるのがナンセンス」「今までで一番の神回」
バンザックだけを応援するコメントより、二人の健闘を称えるコメントが目立つ。当の本人達も勝敗などオマケだと考えているようだ。さぁ、遂に結果が発表される。
「鐘梨慎吾ぉぉぉぉおおおお!!」
「やった……」
慎吾は小さく呟いた。その様子を見ていたバンザックが慎吾に向かってゆっくりと拳を突き出す。すぐさま慎吾が己の拳をこれに合わせた
「最高の勝負だったぜ!慎吾!」
「そうなったのはお前のおかげだろ?バンザック!!お前が人気の理由がわかったよ」
「フ……フン……当たり前だ」
「なんだよいきなり、照れんなや」
慎吾とバンザックの間には、友情という言葉で表すにも足りない強い思いが芽生えていた。全力でDEATHMADと向き合った二人のかけがえのない思いが……
「勝者には賞金2億円が贈呈されます」
慎吾の前にアタッシュケースを持った黒服がやってくる。黒服はケースを開いた。正真正銘本当に2億円だ。
「俺、これで人生やり直すよ。迷惑かけた両親にも謝ってさ。なんとか生きてみるよ。また俺らしく、本気(マジ)になってさ」
「あぁ!応援してるぜ!!慎吾!!」
「バンザックも、元気でな!!」
「おうよ!!」
こうして、慎吾は理不尽で勝ち目の無いはずだったゲームを乗り越え、希望と勝利を手に入れたのであった……
え? これで終わりかって?
そんなワケないでしょう!!
「あばよ……慎吾……元気でな……」
慎吾が会場を後にするのを送り出し、バンザックは優しい笑顔でそう呟いた。
バンザックの脳内に声が響く……
ハイボクスルハ
バンザックニアラズ
ハイボクスルハ
バンザックニアラズ
ハイボクスルハ
バンザックニアラズ
「ああ、受け入れるよ……」
風船の空気が抜けるようにバンザックが少しずつ萎んで行く。全身が鋼のように鍛えられた2mの96kg、八頭身の肉体が少しずつ……少しずつ……
「ヤダッッ・イヤ!!」
「ヤァァ~!!」
「フ!!フ!!チャル!!ワァァァ」
そこに残ったのは全身が白く脆弱な、1kgにも20cmにも満たない2等身の何かであった……
ガッドバンザック/バッドバラエティーショー 終わり
最後まで読んでいただきありがとうございました。
(この作品は2024年8月2日よりnoteにて連載されていた物です)