エッチな目で見るな!!女神を!! 作:GNTNTN
守護女神が代替わりした国は四ヶ国のうち三ヶ国ある。
ラステイション、リーンボックス。そしてルウィー。
そのうちルウィーには、古くから守護女神の代替わりに合わせて国名を変える習わしがあり、今はスウィーニアと名を変えていた。
「お邪魔しまーす」
「あら、いらっしゃい! ルージュなら部屋に居るわ」
デュランはシエルにパシられて、もとい頼まれて、スウィーニアの守護女神、ルージュの家にやってきた。
女神候補生のラムに出迎えられ、そのままルージュの居る部屋の前に案内される。
「入るぞー」
念のため、ノックをしてから部屋に入ると、もう時計は昼の12時になろうとしていたのに、部屋の照明はついていなかった。
そんな暗がりの中で唯一光っているのは、ベッドの枕元にあるスマホの画面だった。
ついでに小さく日本語のおかしい機械音声が聞こえてくる。
「ど、ドパガキ!」
「うわぁぁ!? い、いつの間に入ってきたんですか!?」
「たった今だよ! 何ならノックもしたろ!」
驚いて毛布の山を崩しながら出てきたルージュは目の下に隈を作っていた。
この様子だと、昨夜に眠れないからと言って、ショート動画を再生し続け、止め時が見つからないまま今に至ったのだろう。
「とりあえずカーテンくらい開けろ」
部屋の照明をつけ、カーテンを開く。その勢いのまま窓まで開けて換気する。
「うっ……眩しい……」
「というか、こんな時間まで寝てて何も言われないのかよ……」
「今日はお休みなので、一日だらだらごろごろじめじめしてようかなって……」
よほど眩しいのか、ルージュはどこぞの三猿の一匹のように目を手で覆っていた。
「休みくらい好きにしたら良いけど。シエルが何て言うと思う?」
「シエちゃんがですか?」
目を覆ったまま、ルージュが明後日の方向を向く。
ルージュの頭の中で想像上のシエル、つまり、イマジナリーシエルの言葉が響く。
『あんまり引きこもってると、無理矢理ライブをセッティングして直前まで監禁するわよ?』
多分言わない。
言わないのだが、虎視眈々と変身後のルージュにライブをさせようとしているシエルならやりかねない。
「というか、なんでデュランさんがスウィーニアに……?」
「シエルが案件で手が離せないから、代わりにお前の様子を見てこいって言われたんだよ」
「……シエちゃんに?」
意味のない期待だった。
自己評価が地中に埋まっているルージュの胸が少しだけチクリと痛む。
「そうだよ。全く、パシりじゃあないんだぞ」
「……ですよねー」
「なんだよ」
「いえ。なんでもないです」
未だに目を覆っていることも気になるが、それ以外は何時も通りなルージュに対してデュランは呆れてしまう。
「食ってない前提で聞くけど……飯は?」
「き、昨日の夜は食べました」
「じゃあ今日は食ってないんじゃん」
そろそろ簡潔な報告だけしようと、デュランが端末に触れるとちょうどシエルから企画書のデータが送られてきた。
その企画書の名前を思わず声に出してしまう。
「『レッドハート最強最可愛ライブ草案』……?」
「なんてこと考えてるんですか!?」
想像していたことに近い言葉がデュランから漏れ聞こえてきたため、思わずルージュが叫ぶ。
こんな企画、デュランとしても通すわけないので、杞憂ではあるが、レッドハートのライブの興行収入を考えれば、やり得ではあると思う。
「やらんやらん。なんでスウィーニアの守護女神をウチでやらせるんだよ。
普段から活動が盛んならやらせるけど、やるなら他国でやる前に自分とこでやれ」
コラボライブと言うのなら問題はないのだが、それではレッドハート限界オタクであるシエルの心臓が持たない可能性も考慮して、却下にチェックマークを入れて彼女に返信する。
ちなみにこのやり取りは十数回行われている。
「デュランさんは見たいんですか……? あたしの……レッドハートのライブ」
「あ? あー、レッドハートのライブチケットは競争率高いし人気もあるから見れたら嬉しいけど?」
レッドハートのライブパフォーマンスのクオリティの高さ、何よりそれに加えてルージュ本人が人前に出たがらない性格のせいで、前回のライブの倍率はなんと500倍だったとか。
「……嫌だぁ、そんなヤバイ裁判みたいな倍率で争わないでほしい。あたしなんてせいぜい湿った岩の裏でミミズに負ける程度なのにぃ」
「もっと喜べよ。人気なんだろ? てか、ミミズには勝ってくれよ」
「レッドハートが、ですけどね。ミミズに勝つのは無理です……」
ルージュの性格は今に始まったことではないが、女神がミミズ以下なのだとしたら、一般人類である自分達は何なのだろうかとデュランは問いたくなる。
「でも、レッドハートはお前だろ?」
「違うんです……女神化してる時はウェーイってなってるだけなんです」
「難儀だなぁ」
昔ならどこまでも卑屈なルージュを簀巻きにしてモンスターの群れにでも放り込んだのだろうが、今はそういう時代ではない。
新世代の女神達は平和ボケしているという人々は居るが、デュランはそうは思わなかった。
平和になったのなら、平和な時代に合わせて女神の在り方も変わればいい。
争いの時代を終わらせて、共存共栄の時代に移り変わろうとする今のゲイムギョウ界で無理に変わる必要もないと思っている。
「まぁ、俺からしたらどっちも大差ないけどな」
ルージュの女神化前後のギャップは勿論あるが、先代の時代から、変身前後で大きく印象の変わる女神を何人も見てきたデュランにとって、性格どころか体格まで大きく変わることなど今さら驚くようなことでもない。
「……じゃあ、デュランさんは……レッドハートじゃないあたしでも……」
「ん? なんて?」
「な、なんでもないです……」
ルージュの声が小さすぎてデュランは思わず聞き返してしまったが、なんでもないらしい。
アニメや漫画にありがちな誤魔化しだが、いざ本当に使われると反応に困ってしまう。
「あっそう。じゃあ、そろそろ飯行くぞ」
「えっ?」
「今日何も食ってないんだろ?」
今朝の内に今日の分の仕事を終わらせるために、食事は軽食で済ませていたデュランも流石に腹の虫が鳴っていた。
わざわざスウィーニアまで来て、一人で食べるのも寂しいものがある。
「……デュランさんも一緒にですか?」
「俺もまだ昼食ってないし」
「シエちゃんに、言われたんですか?」
様子を見てこいとは言われたが、飯を食わせろとまでは言われていない。
そもそも、そこまで面倒を見るのはスウィーニア側の仕事だ。シエルだって、ただ友人として心配しているだけだろう。
だから、ここから先はデュランのお節介と言っても差し支えはない。
「飯については何も」
「し、仕度するので、出ていってください!」
言われずとも外で待つつもりなのだが、ルージュがデュランの背中に回り込み全力で追い出されてしまった。
仕方がなく部屋の外で待っていると、ラムが様子を見に来た。
「追い出されちゃったの?」
「飯に誘ったら、な」
「じゃあ、待ってる間に遊びましょう!」
最近のラムは、アニメ化を控えた作家になってしまった姉のブランの身の回りの世話を、双子のロムと交代でしている。
そのためロムとは離れていることが多く、遊び相手に困っていた。
ルージュは引きこもりで外で遊ぼうと言っても乗ってくれないため暇な時間はとことん暇で仕方ない。
「腹減ってるんだけど……まぁ、いいや──ラム、大人を舐めるなよ」
三十分後。
「ごめん。ほんまごめん。もう足腰ガタガタだから一旦鬼ごっこ止めよう。止めさせてください」
「えー、まだ一時間も経ってないよ?」
開始前の威勢はどこへやら。
そこにはデスクワーク漬けで身体が鈍っていることも忘れ、よりにもよって女神候補生相手に体力勝負を挑んだ憐れな雑魚大人の姿があった。
「あ、あの~、お待たせしましたって……何してるんですか?」
「ルージュ! 助かった! 一番女神らしく見えるよ!」
「は、はい?」
ようやくルージュが出てきてこの過酷な鬼ごっこを切り上げる理由が生まれた。
「ラム、悪い! 俺たち飯行かなきゃならないから!」
「えー、もう終わり?」
「残念だなぁ! 本当に残念だけど先約だからなぁ!」
生まれたての小鹿のように足を震わせながら立ち上がるデュランに二人は少し心配になる。
「というわけで飯行くぞ!」
「ちょ、ちょっと待ってください。そんな足ガクガクで行くんですか?」
「大丈夫。歩いてれば治る」
「むしろ、悪化するんじゃ……」
安定しない軌道を描きながら歩くデュランに冷や汗をかきながら、ルージュは良い感じの飲食店を検索する。
結局入ったのは、タブレット注文可能で配膳もロボットが行い、会計もセルフレジで行うファミレスだった。
「あ、あのさっきの……大差ないって話、なんですけど」
「あー、したな」
ルージュの話を聞きながらデュランはタブレットを弄る。
デュランとしては大した意味はなく、単純なことだった。
「っと、悪い。通話だ。先にメニュー選んどいてくれ」
「あっ、はい……」
話を切る形になってしまうが、デュランの端末に着信が来るとしたら、無視できない案件であることが多く、出ざるを得なかった。
「はい、こちらデュラン」
『なんでさっきの企画が却下なのよ!!』
「なんでって、自分の国で他国のシェアを増やすなよ」
基本的に信仰は自由とされており、他国の女神を信仰することも許されてはいる。
しかし、信仰から得られるシェアは多いに越したことはない。
それに、国の予算を盛大な推し活に使わせるわけにもいかない。
『うっ……じゃあ、スウィーニアでやるのは?』
「論外。この話はよっぽどこっちに有利じゃなきゃやらん。諦めろ。
てか、今ルージュとファミレス来てるから切るぞ」
『は? なんでルーちゃんとご飯行って──』
長くなりそうだったので、デュランは容赦なく端末の電源を落とした。
後々面倒なことになるが、自分だけが被害を受けるなら問題はない。
「悪い。で、何の話だっけ?」
「今の大丈夫だったんですか?」
「いや、後で折檻だなぁ」
「えぇー……」
それからは普通に食事をするだけだった。
本当なら今日は一日、部屋でだらだらごろごろじめじめしているつもりだった。
それでも、たまには外に出るのも悪くないかもしれない。