マクロスX   作:七式 07

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デブリ

「しかし、まあ。なんというか、腐っても統合軍様って感じだよな」

 ノーザンプトン級戦艦が三隻、そのどれもに目立った改修がなされており、一目には元が同じ物には見えない。HGウエルズシティから南に80キロほど離れた荒野にその三隻と多数の軍人が作業している。ウィル達三人はそれをただ眺めていた。

「しかし同じ組織の人間だとは思えんな、各艦ごとに別々に作業をしている様に見えるぞ」

「俺らが乗る艦は火星の持ち物だが、残りは月か地球から来たみたいだからな。同じ組織、同じ作戦でも指揮系統が違うんだろう」

「マイクローンとは面倒なものだな」

「そうでもないさ」

 フラックの視線の先には愉快そうに談笑する軍人の集まりがあった。

「部隊章が違う。手前のは月のヤツだな、いくら上が違ってもこういう事がある。同期か何かの作戦で一緒だったか。ウマが合えば見た限りって訳じゃないさ。ルカンと俺が今こんな風に話してるのが根拠でいいか」

「なるほど。一期一会という事か」

「ちょっと違う。そうだよな、ウィル」

 飴を転がし戦艦の一隻を眺めるウィル。

「なぁ、今度アレ調達できるか上聞いてくれよ」 

 ウィルの指さす先に大型の砲身がある。

「そんなもん調達して何に付けるんだ」

「社長のティーゲルに。この前の遊園地の借りがある」

「火力馬鹿の社長なら喜びそうだな。会社の金で買うって事じゃなければ」

「どうにかならんか」

「誕生日プレゼントにしたって桁が五つほど違うんだぞ。酒でも買っていく方が現実的だな」

 これから反政府組織の拠点を襲撃しに行く者の会話としては緊張感の足りない内容であるが、これが彼らの日常であった。何も考えず楽観的なのではなく、むしろ考えているからこそなのだ。職業軍人でも傭兵事業でも根っこの所ではバルキリー乗りで、死生観も似たり寄ったり。向こうの軍人達の会話も日常と変わらないのだろう。

 昼前から始められた作業も日が昇り切った頃には終えられ、最終的な作戦の説明が各艦で行われた。説明が終わるとウィルは外で空を見る。そこにはファボスと僅かに光るダイモスがあった。

「何か見えるのか」

 右手で光を透かしながら空を眺めるウィルにフラックは伸びをしながら尋ねる。

「ダイモスの光が強い。こんな日はあまり好きじゃない」

 どれどれといった様に空を見るフラックだったが僅かに光るダイモスを見付けられずにいる。

「おまじないか何かか」

 未だに見付けられない様子だ。

「いや、別に。好きじゃないってだけだ」

「そういうものがある時、どうするか知ってるか」

「知らん」

 見つけられない事を誤魔化す為か、それともウィルの気分を晴らす為か。フラックは満面の笑みで空からウィルに視線を移す。

「そんなもん知った事かって思うんだよ」

 思わず噴き出したウィルは「何の解決にもならんな」と大声で笑う。

「いいんだよ。ちゃんと解決する様な事なんて数えるほどしか知らないね。誤魔化したり見ない振りしながらやっていくしかないんだよ」

「何、恰好付けてんだ。似合わないぞ」

 二人して笑っているとルカンが呆れながら呼ぶ。出発の時間が来た。

 

 2

 これから三日ほどかけシャーマ星系へ飛ぶ。探索を兼ねての航宙になりウィル達の仕事はその補助である。名目上、民間と政府軍の技術向上の為と謳っているが事実は厄介事の押し付けであり危険な先陣を任される。

確かに輸送船の護衛などで慣れた仕事ではあるのだが基本的に「襲われる」仕事であり、今回の様な「襲う」仕事ではない。しかし、フラックと社長はそれを快諾しウィル達三人どこに敵が潜むかわからないデブリ群を探索する。

「何でそう、ポップな曲を選ぶのかね」

 ウィルの機体から軽快なテンポの曲が宇宙に流れる。暗い空間に不釣り合いな明るい曲調は嫌に空虚に感じる。

「敵機に見付かったらどうすんだ」

「むしろ見付かった方がいい。撤退してくれるなら、なおいい」

 どこか上の空に言い放ったウィルにフラックは溜息が出そうになるが、よくよく考えるとそうなのかもしれないと探索を続ける。久しぶりに体感する「襲う」側の緊張感にいつも通りではなかったのかもしれない。思考を普段と同じ様に、そう自分の気持ちを決めつけている時、フラックの機体は突然発砲する。

 弾に貫かれた何かの残骸は、それが壊れるには十分すぎるほどの光と衝撃を放つ。

「宇宙は相変わらず物騒だな、オイ」

 感知式の爆弾が残骸や岩屑に混じって流されていた。

 物資の確保。それが常に重い足枷になるテロ組織においてデブリの採取は僅かながらも貴重な物である。そして、わざと自分達の痕跡を残す事もある。調査に来た船を襲う、またはこの様に新しいデブリを安全に確保する為に。

 弾けた残骸のいくらかを採取してフラックが艦に通信を送る。

「今の見ました。いくらかサンプル採取したんで戻ってもよろしいでしょうか」

 反応は実に冷やかだった。

「まだ探索と安全の確保が出来ていない。続けろ」

 そのまま「ヤー」と吐き捨てた後、探索を続けた。フラックの採取した残骸は適当に見繕った物であった。あんな物が漂う空間に敵が潜む訳も無く、トラップがどれだけあるかも分からない。十分な専用の装備と然るべき人員で除去するべき物である。

「手柄は欲しいが、リスクはいらないってか。随分人間らしい意見だことで」

「あっちあっち、向こうで発信が見えるわ」

 ガビーがやかましく騒ぐ。ウィルがその方向へ進もうとするとフラックが釘を差す。

「いいかウィル。遠くからぶっ壊せ。何があるか分からんし、ご丁寧にやってやる事でもない」

 ガビーの指示通りの残骸を打ち抜くと先ほどとは違い、まともな壊れ方をした。

「発信機の類だろう。大方、獲物が掛かったら反応するんだろうな。何が嫌だって、やり方が説明できる位にこれがシステム化されてるって事だよな」

 ルカンの発砲した先でも大きな爆発が起こる。ウィル達は出来るだけ最少範囲で、出来るだけ短時間で作業が終わる様に努める。

「毎度の事だが、生きた心地がしないな」

 艦で珈琲を飲みながらソファーにドカッと座るフラック。ルカンは床に胡坐を組んで座っている。ウィルは着艦早々機体を弄り回していた。

 統合軍の機体が続々と飛び出している。最終的な探索と探査機の設置に行ったのだろう。安全を確保するのは難しい事では無い、難しいのは安全を確保し続ける事である。さらに、その安全は地道に広げるしかなく、怠ればすぐにでも安全とは言い難くなる。イタチごっこと言うにはもう言い過ぎたほど言われ尽くし、フラックもルカンもそれを口にしない。やらない選択肢は無い。これが当たり前の事になっている。

「どの位もつと思う」

「二年か、早ければ半年だな」

「また物価が上がるのかよ。ボルカンの酒好きなんだけどな」

「だからこそ狙われるのだろう」

 胡坐を組み瞳を閉じていてもルカンはフラックの冗談に真面目に返す。フラックは窓から見える統合軍の機体を見つめバツが悪そうに尋ねた。

「ルカンは今日初めてウィルと作戦に出たわけだが、どう思った」

 姿勢も表情も崩さずにルカンは即答する。

「腕の立つパイロットだ。それは普段から知っている。、、、だが、戦士ではない。もし互いに命を預ける場面に会った時。俺はウィルを信用しないだろう」

「それはつまり」

「ウィルを守る立場になるという事だ。それが戦士というものだ」

 呆れる様にルカンを見たフラックだったがまた視線を戻し、きっぱり言い放った。

「俺はあれがいいと思ってる。むしろ俺等みたいになって欲しくないと思うね」

 ピクリと眉を動かしたルカン。

「それは理想だ。戦いの場では通用しない。互いによく分かっているだろう」

 珈琲を飲み干したフラックは作業する機体の先、デブリ漂う空間の先、そのずっとずっと先を見て、ふうと一息付いた後カップに新しい珈琲を注ぎルカンの側に置く。

「ウィルを手伝ってくる。どうせ長旅なんだ、ゆっくりしようや」

 コッコッと靴を鳴らして歩くフラックに「後で行く」と簡素にルカンが言うと、それを見ずに手を振って廊下を歩いて行った。

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