マクロスX   作:七式 07

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乱気流

 1

 ウィルがボルガンへ向かう三日前。

 火星統合軍基地内で、静かな重い空気に満たされた部屋があった。

「私達に出撃命令はいつ出るのでしょうか」

 普段とは見違えるほど真剣な表情で書類を眺める宇賀神に対し、セシルは感情も込めず静かに尋ねる。セシルの後ろには家鴨とオーツの姿もあった。

「大尉は、この様な作戦にさく人員は少ないと仰いました」

「だから統合軍総出での作戦だ。人員は足りている」

 書類から目を離さずに答えた宇賀神にセシルも食って掛かる。

「足りてる。なら何故民間からも、それも、、、」

 言葉の途中で言い迷ったセシルに宇賀神の言葉が割り込む。

「ああ、小僧のトコに協力を仰いだ。それに可笑しな事でもあるのか。あそこは金で飛ぶ連中が集まっている。上官からの命令や自分本位な思想で飛ぶヤツよりも、幾分信頼できる」

「身内よりも、随分と評価されるのですね」

 吐き捨てる様に言ったセシルに宇賀神は初めて書類からセシルに視線を向ける。いつもの朗らかな表情ではなく、書類を眺めていた真剣な表情で。

「そんなに人殺しがしたいのか」

 今までの会話から飛び出した問いにセシルは反射的に答えてしまう。

「そんな事、したいわけないでしょう」

 語威が強くなる。

「ああ、そうだろうな。俺だってそうだ。だが、お前はそうならない様に出来るか。的確に敵機のコックピット以外を打ち抜き無力化させる。テロリスト共が二度とテロリストとして生活しなくてもいい舞台を整える。犠牲者だけが犠牲者では無いんだよ」

 重く、緩やかで、ハッキリとした口調。

 家鴨は委縮し、オーツは目を閉じ手に力が入っている。

「そうでなければ人を簡単に殺してしまうぞ。そんなつもりじゃなかったでは済まされない。死んだ人間の家族や友人は済ませてくれない。そして、お前は自分で自分を許せなくなる。、、、そういう事がしたいのなら、自警団や傭兵にでもなるんだな」

 セシルからは言葉が出ない。

「お前は何をしに軍に入った」

「、、、人を、守る為です」

「知っている。銃弾から守った人間の飯は、寝る所は。銃弾を撃った人間はお前の守るべき人では無いのか。答えが出て俺が納得したら出撃させてやる」

 宇賀神が書類に視線を戻すと、一呼吸置いて「失礼します」と敬礼の後セシルは退出する。家鴨とオーツも続いて退出しセシルを追いかける。

「何も、あんな言い方はないと思います」

 家鴨はセシルの背中に言うが、セシルは振り向かずただただ歩く。

「自分は、大尉の言わんとする事は分かる。むしろ正しいとも思う。ナズはそう言うがあそこまで言ってくれる人も珍しい」

 オーツもセシルの背中を見つめる。

「そうだな。あの人は、そういう人なんだ」

 セシルは振り向かずただただ歩く。格納庫へ。

 オーツと家鴨が顔を見合わせ何か確認をする様に微笑むとセシルに付いて行く。

「行くぞ」

 セシル達は今日も飛ぶ。

 

 2

 ボルガンを発った三日目。ウィル一行は実に緩やかな航宇で地球圏に進路を進めていた。出発当初、統合軍の中で浮いていたウィル達だったがパイロット同士の親近感か、今では待機中に冗談を話せるまで溶け込んでいた。中には未だウィル達「金で飛ぶ者」に嫌悪感を抱く者もいたがフラックの人懐っこさやルカンの任務への姿勢、ウィルの整備やピアノの腕にある種の信頼の様な物が芽生えていた。

「おおい。もうすぐ交代だ」

 フラックが発進準備を終え、哨戒中の隊員に信号を送る。

「もうそんな時間か、おいウィル。終わったら時間が空くだろう。また格納庫で飲もうぜ」

「いいぞ、酔って工具をぶち撒かないって約束出来るならな」

 哨戒中の隊員達は笑いながら艦に戻ってくる。

 ウィル達の機体に火が入る。

「はーい、こちらメリメロ。発進準備終わったぞ」

 フラックの呼びかけにオペレーターから許可が下りる。エンジンの音が綺麗にまとまり三機は宙に舞う。

「じゃ、待ってるぜ」

 艦に帰る隊員達は手を振りながらウィル達の脇を通り抜けた。

「さあ、仕事仕事」

 フラックが気楽そうに言うと三機は散開しながら母艦を先行し、航路を進む。

 行きは新規航路の開拓であったが、帰りは戦艦を主体に三部隊に分かれての既存航路の整備が目的であった。

「しかし、流石に何もないなオイ。やる意味あるのかよ」

「何も無いという確信の為にやっているんだ。意味はある」

 ぼやくフラックに淡々とルカンが返答する。ウィルは相変わらず鍵盤を叩く。

「ウィルよぉ。一応普通の操縦桿も付けてんだろ。使ったトコ見た事ないぞ」

「一応フラック達の機体を弄る時は触ってるぞ」

「そうじゃなくてよ」

「あーもう。いちいちウルサイ男ね。細かい男はモテないわよ。ウィルはウィルのやり方があるの、いちいち口出ししないの」

 淡々とした作業に飽いて口数の多くなるフラックにガビーの悪態強くなる。案外気が合うんじゃないのかとウィルに笑みが出る。

「ウィル下がれ」

 会話の途中でいきなりフラックが叫ぶ。

 ウィルの目前に閃光が弾ける。

「ちっ、、網が張ってある。メリメロからコントロール。敵機が来る、出せるだけ、、、」

 言い終わる前にフラックが回避する、機体がいた場所に無数のミサイルが通過するとたちまち閃光が走った。

「くっっ、、ルカンッ」

 ルカンの機体がミサイルを吐く。向かう先は大振りの岩石。

「本艦前後方にフォールド反応」

 オペレーターから通信が入ると同時にルカンの狙った岩石にミサイルが着弾、溢れる爆煙からミサイルが弾き出され戦艦に飛ぶ。 

「ピンポイントバリア急げ」

「オーベルト級敵戦艦来ました」

 やかましく通信が鳴る中、フォールドした前方敵戦艦から十数機の敵機がウィル達に向かう。

「やっと会えたね、お兄ちゃん」

 一機突出する敵機はウィルに向かい真っ直ぐ飛ぶ。戦艦に着弾するミサイルの閃光と同時にウィルは敵機に反応し回避を取る。ばら撒かれる銃弾を縫うように敵機に迫り交差する。

「ちょっと、ウィル。またアイツよ」

 交差する一瞬コックピットから互いに目線が合った。

 あいつだ。

 遊園地で聞いた声、路地裏で会った瞳。無邪気な声で澄んだ瞳。

「おいおい、まずいぞ」

 トラップのミサイルと前方の敵機に気を取られた隙に後方の敵戦艦からのミサイルが戦艦右側面に着弾した。

「出力下がってます」

「ガゼル、ラビッツ発進できません」

「後方より熱源反応、数十二」

 戦艦左後方から機体が出る。敵味方、数はほぼ同数。

「後方を止めろ。艦は前にばら撒け。羽虫はこっちで止める」

 フラックがこれでもかと大きな声で通信を送る。

「何を勝手な、」

 司令部の指示の無いまま発進した機体はフラックの指示に従い後方の機体に向かう。

「責任はお前が取れよ」

 後方に向かう隊員は口々にフラックに投げかける。

「前全部俺らが引き受けるんだ。十分な責任だろうが」

 フラックの指示で戦線が膠着し、司令部より各隊への指示がようやく飛び交う。

 ルカンとフラックは乱れ飛ぶ銃弾を避けつつ応戦する。ウィルはアイツに追われながらも一機づつ丁寧に敵機を無力化させていた。

 敵機がスティッキー弾や乱電流弾で無力化される中でも変わらずアイツはウィルを追い立てる。

「ねえ、知ってるかな」

「何がだ」

 ウィルにアイツから呼びかける。会話な中でも両機の速度は変わらない。

「もうすぐね、こんな風に火星にも行くんだ。お兄ちゃん程じゃないけどあのお姉ちゃんにも会えるかな」

「どういう事だよ」

 思わずフラックが溢すと同時にウィルの背中に熱い電流が滲み広がる。

 ウィルの機体の速度が上がる。無理な挙動から追われる側から追う側に移行し、追われた時以上に両機の距離が詰まっている。

「何やってんだっ、お前はっっ」

 ルカンも、フラックも、誰も聞いた事の無い怒号の様な声で迫るウィルがアイツを追い詰める。

「ははっ、すごいすごいすごいっ」

 目まぐるしく動く両機に敵味方問わず把握出来ていない。出来ない。援護も加勢も無しに二機だけの空間が出来る。

 しかし、一発の銃弾もミサイルも両機から放たれない。ただただ追いかけ追われ、ウィルのピアノの音と駆動音のみが響く。

「お兄ちゃん、時間だ。船を止められなかったのは残念だけどお兄ちゃんがいたからね。楽しかったよ」

 アイツはウィルの様に無理な挙動から一変、自分の艦へ飛ぶ。半数に減った敵機もフォールド範囲内に集まっていた。

「引くか」

 ルカンが溢す。戦線が維持され敵艦から淡いフォールド空間の光が発せられ、ルカンもフラックもこれからの事に意識が移った時。

「待ちやがれっ」

 ウィルの機体がバトロイドに変形しながら、追い続けたアイツの機体に激突し組み付いた。二機が慣性と運動で激しく飛び回る。

「おいっ、ウィルっ」

 フラックが発したも同時に、組み合った二機が揉み合いながら敵艦と共にフォールドした。

 静けさと、ぽっかりと抜けた空間。敵艦もウィルの姿も無い。

「どうすんだ、コレ」

 フラックが抜けた体の力と共にぼそりと呟く。

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