マクロスX   作:七式 07

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1日

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 光もぼやける白色の通路に固い靴音が響く。開け放たれた扉からは明るい笑い声や話し声が聞こえ、騒がしいくない賑やかさで溢れている。通路の奥、閉じた扉を開くと部屋から光が伸びる。部屋には日が差し、ベッドには女性が一人窓を眺めていた。扉に立つセシルに目を向けると「何か御用でしょうか」と。

「お嬢さんに頼まれまして」

 セシルは荷物を机に置くと花瓶の花に手を掛ける。女性はそれをただ受け入れ、また窓を眺めた。

「あの子は全く。大人にも迷惑かけて」

「私は迷惑だと思っていませんよ。それよりお加減はいかがですか、お嬢さんに伝えておきますよ」

 花瓶の花を取り換え終えたセシルはそう言いながら椅子に腰かけ女性を正面に据える。

「そうね、身体に何かあるわけでは無いのだけれど。どうしてかしらね、手に力は入らないし、立つのもやっとなのよ」

 話す女性には焦りや戸惑いがあるわけではなく、自分への諦めの様な喪失感が浮かんでいる。セシルは柔らかく話を聞いている。

「それより、貴方軍人でしょう。セシルとは」

「ただの気の合う友人ですよ」

「そう。あの子は。あの子はね、あの人がいなくなってから変わってしまってね。それはこんな私の所為でもあるのでしょうけど。一人で生きていこうとしているのよ。ウィル君達と仲良くなってからそれも変わったと思ったのだけれど。初対面なのにこんな事を頼むのも変かもしれないけれど、セシルと仲良くしてくださいね」

 そう言う女性に少し困った表情で微笑むセシルは黙って頷く。

「貴方もメルトランでしょう、分かるのよ。だからセシルも貴方と仲良くできたのかもしれないわね」

「お嬢さんは誰とも仲良く出来ていますよ」

「そうね、あの子はマイクロンの子でもあるから。それでもね、変えられないモノもあるのよ。ここはそうでもないけれどね。マイクロンはマイクロン。私達はマイクロンには成れないのよ」

 女性はまた力なく窓を眺め、セシルは何か言いたげに口を開くが声を出さずに表情を整える。

「また、来ますよ。今度はお嬢さんの頼みではなく」

 女性に反応はない。セシルは固い靴音を響かせながら部屋を後にし、すれ違う看護師に軽い挨拶をしながら歩き続けた。

若い看護師が恰幅の良い看護師に尋ねる。

「あの方ほとんど毎日お見舞いに来てますけど、恋人でも入院されてるんですか」

「新人はそんな事気にするんじゃないの。目の前の患者さんに集中しなっ」

 慌しく駆けていく若者と颯爽と出ていく若者、恰幅の良い看護師はどちらにも溜息をつく。

 夜、多種多様な民族がやかましい火星も夜は静かだ。

「やあ、今日は来ないかと思ったよ」

 扉を開けたセシルに陽介はにこやかに笑う。セシルはキョトンと顔をしかめるが、そのまま陽介の隣の座ると準備されたグラスを撫でる。

「どうして来ないと思ったんだ」

「ウィルが任務中に消えたそうだよ」

 グラスを回しながら冗談を言う様に話す。座りなと言う様にテーブルにグラスを置く陽介はボトルを握る。

「ウィルは…関係ない」

 陽介はセシルのグラスにボトルを傾けながら「関係あるさ」と声を搾る。酒がグラスになみなみと注がれていく。

「関係ない…」

「関係あるね。昔のセシルなら今頃、ウィルを探しに飛び出していたさ。見付からないと分かっていてもね」

 セシルが感情任せにグラスを取った時、グラスは揺れ酒が手を濡らす。それがセシルの動きを止めた時、陽介はセシルを見ず真っ直ぐを見つめ話す。

「今の君はまさにそんな感じだよ。なんでもかんでもしょい込んで、下手に動くと溢してしまう。悪い事じゃない。けどね、昔のセシルなら溢すのも関係なくそれを飲めていたさ。笑いながらね」

「私がウィルを探しに行かない事に怒っているのか」

 セシルの言葉に陽介から深いため息がでる。その態度に答える様に、セシルはグラスを一気に飲み干す。

「そんな事をしたらね、僕は本当に怒ってたよ」

 ーッッ

 声にならないまま机が叩かれる。激しい沈黙が続くと上から声がする。

「どうしたの」

 女の子が降りてくる。

「ごめんね。起こしちゃったね」

「わあ、セシルおねいちゃん」

 女の子はぎゅうと優しく抱き着く。ふわりと抱き返すセシルに先の険しさは無く、ただただ優しさに満ちる。

「なんでおきてる時に来てくれないの」

「ごめんね。次はちゃんと来るから、今日はもう寝なさい」

「ホント?やくそくだよ?」

 頭を撫で、背中をポンと叩くと女の子を抱きかかえた。

 おでこにキスをすると、階段から見えなくなるまで女の子を見つめていた。

「約束は僕も覚えておくよ」

「お前は覚えていなくていい」

「そうはいかないよ。破ったらウィルとお仕置に行くさ。あの頃みたいにね」

 陽介はにししと笑う。

「変わらないなお前らは。私は帰るぞ」

 静かにドアを閉めたセシルに、まだ笑いながら「変わちゃったさ、」そう言いながらまたグラスを傾けた。

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