1
2012年、宇宙移民計画発表。人類が新たな故郷を求め旅立った、歴史的な時であった。
2013年、グルームブリッジ恒星系にて初の移住可能惑星の発見。エデンと称され移民が開始された。
2014年、地球統合政府の体制に批判的な一部ゼントラーディ人によるテロ活動が過激化。これにより正規軍の拡大、傭兵組織の出現、軍需産業の飛躍に繋がる事になる。さらに地球への防衛ラインとして太陽系内惑星の地球化開発の後押しともなった。
2017年、各軍事企業の資金援助により火星の地球化計画が開始される。地球再生計画によるクローニング技術の流用により都市イサクが開発される。同時に旧サラ基地の復旧、改修が行われ火星開発は当初の予定よりも手早い結果であった。
2020年、イサクへの移住開始。地球での文化摩擦、一部地域での迫害なども手伝い多くのゼントラーディが移住した。
2026年、クローンによる遺伝子疾患の増加、他惑星からの外来種密輸により火星環境の変化。火星各地に都市も広がり、良くも悪くも火星の発展に拍車をかける。
2030年、第二次マクロスシティ防衛線。以後、巨人サイズのゼントラーディの地球居住が認められず、その一部が火星へ移り住むこととなる。先立って問題視されたクローン計画が終了される。
2047年、火星でウィルのピアノの音が今日も聞こえる…
2
ガヤガヤと騒がしい食堂の中、銀色の長い髪を揺らし歩く女性が、昼食をとる男の隣にキチリと立ち敬礼の後続ける。
「宇賀神大尉、午後からのVR訓練を新人を同伴したパトロールに変更してもよろしいでしょうか」
大尉と呼ばれた男がゆっくりと水を飲むと笑顔を向け答える。
「ああ、いいぞセシル。ところで昼は食べたか。今日の陸海豚のステーキは格別に…」
「ありがとうございます。では」
言い終わる前にセシルは一礼して去って行ってしまった。
「いいんですか大尉。あんな好き勝手にやらせて」
「んん…」
大尉と同席していた若い軍人が尋ねると、たっぷりとソースがかかるステーキを頬張りながら大尉が答える。
「いいんだよ。あいつはあれがいいんだ。最近の若いやつらは、やれVRや座学だの。大体パイロットってもんは…」
分厚いステーキを頬張りながらの説教が始まり、若い軍人は耳に痛い昼食になってしまった。
セシルが格納庫に着いた時、すでに新人二人がセシルを待っていた。片や小慣れた敬礼を、片や緊張を露わにする敬礼をセシルに向けていた。セシルが二人の前に立ち敬礼した後、緊張を露わにする青年に向け「名前は」と端的に問う。
「か…家鴨ナズです」
「自分は…」
小慣れた敬礼をする青年が名乗ろうとすると「お前には聞いていないぞ。CUCKOO」そう言われ青年が押し黙る。
「家鴨ナズ、カーティス・オーツ。今日から昨日までの事は忘れろ。お前達はここに飛ぶ為に来た。では、行くぞ」
機体に乗り込み各自発進準備を始める。
「ところで少尉。先ほどのCUCKOOとは」
オーツはそれに慌てた様子も見せず誤魔化そうともせずにいて、セシルが答える。
「前の部隊でのあだ名だそうだ。ずいぶん阿呆な飛び方したみたいだな」
オーツは淡々と準備を進める。
「だが、大尉はそこが気に入ったそうだ。準備は出来たか、コントロール」
「こちらコントロール。発進を許可します。お姉様、今度デートしてくださいね」
「ありがとう。暇ができたらね」
セシル発進時のお決まりの会話に、新人二人のみ違和感を感じつつ三機の戦闘機が火星の空を飛び立つ。
3
都市の発展というものは善悪どちらの手も加わるものである。新しい土地に新しい市場を見出し様々な者が腰を降ろす。ここ火星を例にとれば汚染された地球から農地を求め、地価の安さから一部企業が火星に進出し、人が集まれば衣食住の需要も高まる。しかしこの発展はいわゆる表の発展である。発展の騒乱に隠れ、裏の根もしっかりと火星に張り巡らされた。地球からも近く新体制の火星統合軍の緩さから密輸組織の拡大。反政府組織の拠点ともなり、正規登録されていない者の数も正規の者と比例して増えた。今こそあからさまに顔を出さないが、確かにそれはそこに存在した。
パトロールのルートを少し外れ飛ぶ三機の戦闘機。
「中尉、ルートから外れてますが」
「これでいいんだ」
真面目を人の形にした様な家鴨は不安そうに問うが、それを気にせず二人を先導するセシル。様々な木々が生い茂る異様な森が広がる地区に来たところでセシルの機体が速度を上げる。
「ついてこい」
新人二人を試すように森すれすれを飛ぶ。所々突き出る背の高い木をパイロン代わりに小刻みにすり抜けながら抜けていく。そのまま森を抜け反り立った山をなめるように飛び上り、ガウォーク形態で山頂から二人の機体を見下ろす。家鴨はまさに教科書通りな癖の無い実に丁寧な飛行であった。反面、カーティスは機体を傾け時には回転しながら飛行する。危ない飛行に思うが次の障害を前提に飛行しているのだろう、阿呆だがある種の優雅さを感じる。二人とも大尉が気に入るはずだと思っていると、はるか南に森すれすれを飛ぶ機体が目に入った。二人がセシル同様に山頂に着くと「不審な機体を確認した。行くぞ」と到着したばかりの二人を連れ不審機に接近していく。そこにはヌージャデル・ガーが一機で飛行していた。それを三機で囲みセシルが問う。
民間飛行区域以外に飛行船または各飛行可能機体が飛行する場合、許可証とそれにともなう信号の発信が義務でありそれに当てはまらない場合、多くは後ろめたい事である。最近ではこのようにあからさまな者は稀であるが。
「所属は。許可証の提示を」
だが、不審機からの返答はなくしばしの沈黙が空間を包む。各機の機体の音が響く中、森から鳥が飛び立った。その瞬間不審機が上空に飛び上り、銃撃を下にばら撒く。同時にセシルは銃撃の雨をすり抜けながら逃げる不審機を追う。新人二人は回避動作により出遅れる。そのまま最高速度で逃げ追うセシルと不審機。セシルのショック弾が不審機を襲うがそれをかわす。セシルの機体が民間飛行区域に突入したと警告する。荒々しい飛行はできない。速度を緩めたその時、白い機体がピアノの音と共に二機と交差する。
「危ねぇだろうがっ」
ウィルが不審機に回り込もうと追いかける。その時、振り向きざまに銃撃をばら撒き煙を色濃く噴射するミサイルがウィルとセシルの機体を包む。そのまま飛び去る不審機を二人は見続ける事しかできないでいた。
「貴方、まだそんな事をやってるのね」
「お前こそ」
そのまま沈黙が続く中、新人二人が追い付いてきた。
「そんなものでは、どうにもならないって分かっているでしょう」とウィルに残すとセシルは二人を連れ基地へ向かって行った。ウィルは何も言わずピアノを弾き続け、セシル達を見つめていた。
「知り合いですか」
そう問う家鴨に一呼吸おいてセシルが答える。
「そんなものじゃない。帰ったら今回の報告書が山のように待っているぞ」
先ほどのウィルのピアノの音に色々な感情が溢れるのを感じながら、セシルが基地へ飛び戻る。