1
とても、言いようの無いほどの快晴。子供達の家に大型の車が着いた。
「ウィル、おぉいウィル」
男は実に楽しそうにドアを叩く。ドアを開けるウィルは反対に不愉快そうだった。
「やかましいぞフラック。よりによってお前も行くのか」
「いいじゃないか。たまには安全に空を飛んでみたいんだよ」
へへっと互いに笑うウィルとフラック。子供達が我先にと家から飛び出し嬉々として騒ぐ。遅れて少女が家から出てきた時、フラックは少女に跪く。
「こんにちは、お嬢さん。ウィルの友達のフリックです」
フリックが空の手のひらを見せ握り開くと飴が溢れでた。「どうぞ」と本人は爽やかだと思っている笑顔を向け飴を差し出す。少女はウィルの後ろに隠れてしまった。
「振られてるじゃねぇか」
ウィルが飴を二つ取ると一つは自分の口に、一つを少女に手渡した。
か細い声で照れながら「ありがとう」と言う少女にフラックは「いい一日にしよう」と返した。同じように子供達に飴を配りながら手際よく車に乗せ、ウィルが助手席に座ると車を出した。
「あの子は将来美人になるぞ」
「女を見る目だけは一級品だからな。ありがたく受け取っとくよ」
「バルキリーの操縦だって一級品だろうが」
「だったら俺の仕事も減るんだけどな」
子供達に負けない笑い声を上げる二人と子供達の乗った車は遊園地に向かう。
遊園地に着くとウィルの見知った顔がかなりの数いた。ウィルを見付けたストレンジが駆け寄ってくる。子供達に挨拶をしている彼は最年長の子と同年代に見えた。
「僕に隠れてこんなかわいい子達と暮らしてたんですね」
「普段は暮らしてませんよ。友人の代わりです」
ストレンジの顔はどこか悪戯めいており、それをわかってはいたウィルだったが真面目に答えてしまう。
「各機の調整は済ませてあります。今日は一曲お願いしますね」
ストレンジが指さす先にはウィルの機体があった。残りの二機がウィルと同じカラーリングになっていた。
「同じ機体にはできませんでしたが、と言うよりウィルさんの機体は改造され過ぎていて同じ機体を作るのは無理でした。フラックさんとルカンさんが一緒に飛んでくれますよ、彼等ならウィルさんの飛行にもついていけますから」
ルカンも。辺りを見渡すとすでに子供達に懐かれたルカンの姿があった。熊の様な巨体に伸ばされた髭、されどその朗らかな物腰は子供達から見れば遊園地のマスコットに見えるのだろうか。
「すごい人気ですね。私達からみたら怖いおじさんですが、何か惹かれるものでもあるのでしょうか」
マイクローン化した純血のゼントラーディである彼だが子供達と戯れる姿は戦闘種族と呼ばれる事に違和感を覚えるほどである。
「ルカンはいいヤツだからな」
「それは知ってますが」
「一緒に遊んでる一番ちっちゃいのがいるだろう。アイツはあの中で一番臆病で人見知りなんだ。それがあの様子だ、だからいいヤツなんだよ」
ストレンジは可笑しそうに笑うと子供達の輪の中に入っていく。ウィルもそれを追いかける。
2
「デフォールド反応。Eー67地区に向け降下しています」
パトロール中のセシルに通信が入る。瞬時に飛行ルートを切り替え速度を上げる。
「少尉、また例の機体だったらどうします」
カーティスの冷めた口調がセシルに向かう。
「なんだ、自信が無いのか」
「ええ、まったく」
「自信なんか後から付いてくる物だ。守りたい人の事だけ考えて飛べ」
三機はさらにスピードを上げる。
「少尉は精神論が強いですよね」
家鴨がこっそりとカーティスに通信を送る。
「ああ、だがそれに伴う努力や鍛錬を知っている。信頼してますよ」
カーティスは通信をオープンにしていたらしく、セシルに筒抜けだった。
「家鴨、帰ったら腕立てだ」
機体は空を飛ぶ。
3
お昼時は食べ物の露店がガヤガヤと活気付く。香ばし香りとジュワっと焼ける音が遊び倒した体に食欲を芽生えさせる。
「じゃ行ってくるぞ」
食事もそこそこにウィルが席を立つ。食事と言っても甘味の類であったが。
「こんなにかわいい子供達の前でへましないように」
同じように席を立った琴音がウィルの襟元を正す。
「いつか聞こうと思ってたんだが。なんで社長の服装は咎めないんだ」
「社長はあれがいいの。逆に考えてみなさい、あの社長がパリッとしたスーツに整えた髪型。想像できる」
「ああ、納得した」
琴音がウィルの背中を叩く。
「行ってきなさい」
ウィルは「おお」と手を振って機体に向かう。
「琴音さんはウィル兄ちゃんの事が好きなの。奥さんみたいだった」
女の子が琴音に尋ねる。年頃の女の子らしい話題だった。
「ちょっと違うわね。勿論好きよ、けど恋人だったり結婚したりって事じゃないのよ」
女の子がよく解らなそうな顔をしているのを琴音は微笑ましく見つめる。
「アナタはウィルが恋人になって欲しい」
「ウィル兄ちゃんはみんなのウィル兄ちゃんだよ」
「ふふ、そうよね。けど大好きでしょう。そういう事よ」
機体に乗り込んだウィルにガビーが話しかける。
「随分楽しかったみたいね。顔が緩んでるわよ」
ウィルは不可解そうに首を傾げる。
「冗談。こうでも言わないと腑抜けた操縦しそうだったからよ」
ウィルは機体のチェックを進めている。
「ちょっと、聞いてるの」
「ああ、今日はちょっと激しくいくぞ」
そう言って顔付きが変わる。
『それではタチカホフによりますフライトショーの時間です』
簡素なアナウンスと共にウィルを含めた三機が大空を飛ぶ。ウィルは通信をオープンにするとそっと鍵盤を撫でる。ダダンっと軽快なピアノの音と共に戦闘機が空に舞い、ウィルの機体が雲を引いていく。その雲をなめる様にフラックとルカンが続き雲をぼかしていく。聞きなれたピアノの音を子供達は空を見上げながら聞く。空に描かれる戦闘機の軌跡をウィルが作っているのだと不思議そうに、そして誇らしげに思う。
曲が途切れた。
その瞬間、ウィルの機体は活動を止め空からひらりと落ちる。観客達はハッと声を上げる。ひらりひらりと落ちる機体がドーム状の建物に激突しそうになった瞬間。機体は目覚めガウォークからドームの曲面をなぞる。
ホッとする観客。その反応を予想してへへっと笑ったウィルだったが。
「統合軍より通信。未確認の機体がそちらに向かっている、直ちに避難を」
ウィルの通信から遊園地に響いたそのアナウンスは、観客を混乱に落とすのに容易であった。曲が止まり遊園地には悲鳴が上がる。琴音達は逃げ惑う人から子供を守るのに必死だった。手持ちの通信機でウィルに通信を送る。
「何してるのウィル。早く離脱しなさい」
「いや、無理らしい」
ウィルの機体が建物を庇うように立ち塞がると轟音が遊園地に響く。ピンポイントバリアで機体の損傷は無いが、ウィルの目の前には数機のバルキリーとヌージャデル・ガー、クアドラン・ローの姿も見える。
「俺たちで時間を稼ぐ。早く非難を」
「そんな事言っても、武装もしてないんでしょう」
「フラック、ルカン」
「フライトショーにそんなもん積んでるわけないだろう」
「機体がいつも通り動けば問題じゃない」
「だそうだ。はやく非難しろ」
「いいけど、この子達を悲しませないでよね」
「当たり前だ」
ウィルがゆっくりと深呼吸をすると敵機が遊園地に距離を詰める。
「ガビー、相手のチャンネルに潜り込めるか」
「何言ってるの。出来るかかじゃなくてやれでいいのよ。出来ないと思ってるわけ」
「そうだったな。フラック、ルカン。出来るだけ時間を稼ぐぞ」
「お前が仕切るのかよ。まあいいさ、たまには安全に飛びたいもんだ」
フラックとルカンが左右に散開し敵機に突っ込む。ワンテンポ遅らせウィルが並びの濃ゆい箇所に突っ込む。
セシル達の到着まで後、160秒。