1
たった一発。そう、たった一発の銃弾は沢山の物を壊す。思い出の場所も大切な人も。
ウィル、フラックとルカンはただただ弾丸の雨を防ぎ躱しつ続ける。迎撃する事も撤退する事も出来ない彼等はひたすらに敵機のかく乱と施設の防御を避難が終わるまで続けなければならないでいた。
「いつまで続けんだ。そろそろ辛くなってきたぞ」
それほど時間が経っている訳ではない。けれど、減らない敵機と銃弾。遙かにも永く感じる一分を全力で動くのは精神を削る。
「いつまでも続けるんだ。いつもの事だろう」
ルカンの通信から聞こえる銃声とフラック自身に飛び込む銃声が重なる。一機ごとの技量はさほどでもないが物量に跪きそうになる。
「チャンネル繋いだわよ。早く、早く早くしなさい」
ガビーが捲し立てる。ダラララと鍵盤を撫で弾いたウィルは銃弾の連射に合わせたテンポでピアノを弾き叩く。
「お前は熱気バサラじゃないんだぞ」
「やってみないとわかんねぇだろ」
怒鳴るフラックに怒鳴り返すウィルは一つ深めの呼吸をした後に歌い始める。
「…For example」
歌いながらも操縦の手は止めない。曲に合わせる様に旋回し敵機の隙間をくぐり抜ける。ヌージャデル・ガー数機の動きが鈍るが、ほんの僅かな鈍りである。その僅かな瞬間、ルカンがアサルトナイフをヌージャデル・ガーの右腕関節部を襲う。そのまま蹴飛ばし腕付きのマシンピストルで敵機密集地に向け発砲する。
「流石。弱音吐いてた俺が惨めに見えるね」
「お前はいつでもそうだ。心配いらない」
僅かにウィル達に戦況が傾くかと思われた時、クアドラン・ロー三機が車を襲っていた。シェルターに避難せず車で逃げ出した者がいたのだ。
「おいおい、やばいぞ」
いち早くそれを察知したフラックが急加速で向かう。ルカンが加勢しようと体勢を変える時、一機のバルキリーがウィルに張り付く。
「何なの何なのこいつ。ひっ付いてくるんじゃないよ。あっちいけ」
ガビーがやかましい。べったりとウィルに張り付く敵機に気付いたルカンに取れる行動は施設の防衛だけであった。
べったりと張り付く敵機はウィルの変則飛行にも難なく着いていく。敵機の銃弾を縫い飛ぶ様に飛行すると邪魔だと言わんばかりに仲間に発砲する。
何なんだこいつは。
それでも他と比べ明らかに卓越した操縦技術にウィルは手を抜けない。
「ねぇ。それなに」
聞きなれない声の通信がウィルの耳に入る。こいつか。張り付く敵機からの通信だと気付き、そのまま遙か上空まで機体を登らせる。遊園地が霞むほど上がった所で曲を止め、敵機と対峙する。
「ねぇねぇ、それはなに」
若いと言うよりは幼いといった声と口調でそのパイロットが尋ねる。子供なのか、通信は音声のみで真意は解らない。
「何なのって聞きたいのはこっちなのよ」
ガビーがたまらず口を挟んでくる。まさにウィルの聞きたい事であったが相手が答えるわけがない、ウィルはそう考えていた。
「僕、僕はただ人間を連れてこいって言われただけだよ。あれ、言ってよかったのかな」
「何なのそれ。アナタ自分のやってる事よくッ…」
ガビーがやかましく捲し立てていた時、左から銃弾が飛んでくる。それを感知していたらしく敵機はウィルの目の前から即座に離脱する。
「今度は私が追い回す番だ」
セシルの機体が敵機に張り付く。ウィルもそれに着いていく。
「何なんだそいつは」
怒鳴るウィルにセシルは答えない。答えないと言うよりも聞こえていない様であった。
「ああもう、面倒だな。お兄さんまた来るよ」
通信が開いたままの向こうから幼い声が届くと敵機が急速に止まり、ガウォーク形態に変形しながら後方に飛ぶ。
「そこだッ」
セシルの機体がほぼ同時に変形しながら下方に飛び発砲する。流れる様に一直線を描いた連射が敵機に被弾する。バランスを崩しながらも、そのまま雲に隠れる様に姿を消した。ウィルはすぐさまに遊園地に向かうとそこに敵機の姿は無く、統合軍のバルキリー二機の姿が増えていた。
「これの説明はあるのか」
「むしろこの状況の説明をしなければならないのはお前達だ。だが統合軍を代表して今回の協力に感謝する」
「感謝されるような覚えはないぞ」
ウィルが当たり前の様に言い放つとセシルが少ししおらしく答える。
「…そうね。ウィルはできる事をしただけだもの。家鴨、ククー。民間人の保護を最優先に行動しろ」
「大丈夫です。民間からの協力もあって順調に避難がされています」
ウィルにも通信が入る。
「ウィル。子供達は無事よ。今ストレンジさんの所にいるから」
子供達の無事にそっと安堵する。同じくその通信を聞いたセシルも。
「私は戻る。早く子供達に顔を見せてやれ、心配してるぞ」
言うより早く機体を飛ばしたウィルを眺めて、セシルも機体を飛ばす。
機体を降ろし足早にテントに向かう。テントにいた子供達はウィルの顔見た瞬間に泣き出してしまった。
「あらあら、さっきまで大丈夫だったのに」
「ウィルさんの顔を見て安心したのでしょう」
ウィルは子供達をギュウと抱きしめると「怖かった」「ウィル兄ちゃんが無事でよかった」とわんわん泣き、それを聞きながら頭を撫でる。事態が落ち着いた頃には夕暮れになっていた。
フラックが代表として統合軍に行く事になりウィル達は帰路に着く。子供に配慮してだろうかルカンや琴音、ストレンジまで着いてきた。よほど疲れたのだろうか、ルカンと琴音が子供達の相手をしているとみんな眠ってしまった。ルカンと琴音も一緒に。
「いつもこんなに賑やかなんですか」
ストレンジとウィルはテーブルで話していた。
「大体は、今日みたいな事は初めてだけどな」
「知られざるウィルさんの一面でした」
「あまり話すような事でもないだろう」
そう言ってテーブルにグラスを置くとピアノの前に座る。しっとりとした曲が流れる。
「言ってくれれば私達も手を貸しますよ」
そう言ったストレンジの言葉にウィルはピアノを弾きながら答える。
「たまに、気が向いた時に遊びに来てくれるのは構わん。子供達も喜ぶ。けど手を貸すってのは駄目だ。ここはそんな所じゃない」
「ふふ、怒られてしまいました。そうですね。ここはそんな所ではないですね」
ストレンジはグラスを傾け、ウィルの落ち着いた音色は続く。
2
朝、扉が開く音が響く。よほど急いで走ったのだろう、息を切らせた陽介の姿がそこにはあった。ソファで寝ていたウィルが目覚める。一直線にウィルに向かった陽介がウィルを殴る。扉の音で起きた子供と琴音が、降りる途中の階段でその光景を見てしまう。
「僕は怒ってるよ」
「だから、素直に殴られた」
陽介の口調は強く、ウィルは申し訳ない表情が滲んでいた。
「じゃ次はウィルの番だ。理不尽に怒ってる僕を殴れ」
返事もせずウィルが陽介を殴った。子供達と琴音は驚愕の顔でこの光景を見る。
「みんなは無事なんだね」
「ああ、無事だ」
陽介はへたり込むと「良かった」と絞り出した。へたり込む陽介に子供達が飛び掛かる。口々に自分達の無事と恐怖感、陽介の帰宅を喜ぶ。
「随分乱暴なコミュニケーションなのね」
琴音はウィルの隣に来ると茶化すように言う。
「分かり合えないよりはいいだろう」
そう言って子供達と同じように陽介に飛び掛かり髪をぐしゃぐしゃにする。
「ホント、男の子ってやつは」
そう言いながら寝たふりをしていたストレンジに目配せを送る。