マクロスX   作:七式 07

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何かを理解するという事

「つまり、資料にある様にここ近年の反政府組織の、、、」

 火星統合軍イシュマエル基地、その一室にはフラックとルカン、そしてウィルの三名と多数の軍人が席に着いている。キチリとした軍服が並ぶ中、これから街に買い物でも行く様なカジュアルな服装のフラック、油で汚れたツナギのウィル。さらには何処の民族の物かも分からない衣装に身を包むルカン。この場では明らかに三人は浮いた存在であった。

 淡々と資料について話す初老の軍人は、時折あくびをするウィルに視線を送る。ウィルは視線にこそ気付いていたが、つまらなそうに資料を眺めていた。この部屋では遙かに階級が上であろうその軍人も、階級の外にウィルには関係の無い事なのだろう。その軍人は扱いなれない存在に気付かぬ振りで話を続けた。

 会議が終わると皆足早に席を立ち、忙しそうな様子で部屋を出ていく。

「俺らも帰りますかね」

 部屋にいた軍人が一人もいなくなった頃、フラックがそう言いながら席を立つ。

「ほら、ルカンさん。起きてっ。帰りますよ」

 腕を組みまるで考え事をする恰好で眠っていたルカンをフラックが起こす。誰も注意をしなかったがルカンは会議中ずっと眠っていた。

「ああ、終わったのか」

「その大胆さには結構助けられてますけど。こういう時は止めてくださいね。会議中、ずっと言い訳を考えてたんですから」

 机に突っ伏したままのウィルにフラックが声を掛けようとしたその時、宇賀神が部屋に不遠慮に入ってくる。

「まだ、ウィルは居るか」

 入りながらそう叫ぶ彼はウィルの姿を見付けると満面の笑みでずかずかと歩み寄り、ウィルの持っていた資料を奪い取るとこう言った。

「メシ、食いに行こう」

 昼間を過ぎた食堂は人もまばらに落ち着いた雰囲気が流れる。それとは裏腹に一つのテーブルでは、せわしなく食器の音が鳴り続ける。テーブルいっぱいに並べられた皿はみるみる内に積み重なる。

「どうだ、ここの食事は。美味いだろう」

「ああ、美味い。、、、けど」

 パインサラダの最後の一口を食べフォークを抛ると三色のアイスを目の前に持ってきたウィルは言う。

「なんでこれは種類が少ないんだ」

「仕方ないだろう。そういった注文をするヤツはここにはいないからな」

 湯気の立つ熱いスープを皿を傾け流し込んだ宇賀神は、ふぅっと一息つくと珈琲を持ち窓から見える景色を眺める。

「今日の話。お前はどう思った」

 宇賀神はウィルとは顔を合わさず景色を眺めながら尋ねる。

「正直、何やってんだと思った。統合軍も自分も。いつもあんな感じか」

「お前みたいな小僧でもそう思うか」

「うちの子供達に今日の事を話してみろ。そんなの何年も前からそうでしょ、そう言うに決まってるさ」

 会議の内容はいたって単純だった。最近テロ組織の活動が活発です、先日も民間の施設が襲われました。だから掃除をしましょう。今回は民間からウィル君達も手を貸してくれます。以上。

 ウィル達火星に住む民間人から見たら反政府組織の人間などそこらにいる。戦闘が行われたか、そうでないか。いわゆる実害が無いと言うだけで、隣人を最近見かけないと思ったら組織の工作員で捕まっていた。そんな話が笑い話として通用する位なのだから。

 会議の内容もそうであった。テロやゲリラの殲滅や和解ではなく、沈静化が主な目的なのだと分かる内容であった。それほどに闇は深く手の付けられない状況なのだ。今頃軍の上層部は今回の責任の押し付け合いの為に必死に動いているのだろうと、ウィルは感じていた。

「あんた位だよ、軍人らしい人って思えるのは」

「そうか。俺の所に来てくれる気になったか」

 宇賀神はようやくウィルと顔を合わせ、そう言いながら笑う。冗談だろうとウィルも笑う。

「、、、それと、ルイは元気にしているか」

 そう言うと今度はウィルが窓の景色を眺めながら話す。

「親父はいつもの様にグラスを磨いてるよ。母さんがいなくなってからずっと」

 ウィルは物悲しくもどこか怒った様に話す。アイスにも手を付けずに。

「食事の後に話すような事でも無いと思ったんだがな。それでも話しておきたかったんだよ。おまえ、遊園地で歌ったんだろう、どうだった」

「いつも通りだ。観客は正体不明のテロリストだったけど」

「違う、そうじゃない。メリルと同じ様に歌って、どう思ったって事だよ」

 一瞬、全身に力が入るウィル。しかし、直ぐにその力を抜き景色を眺めたままゆっくりと話す。

「正直分からない。子供達が危ないってなった時、あいつらをぶん殴ってでも止めたいって思った。けど歌った。母さんがそうしたからなんかじゃなくて、それがその時自分の出来る事だったから。そしてアイツが言ったんだよ。それはなんだって」

「そして、どうした」

「わからん。ただ正体不明のテロリストが俺の歌に興味を持った人間になった。それだけは感じた」

「そうか」

 ウィルはようやく向き直りアイスに手を付ける。

「母さんもこんな気分だったりしたんだろうか」

「さあな、それは自分で答えを出すしかないだろう」

 そう言って宇賀神も珈琲を啜る。

「そうだ、この前新型のYFー23が来たんだ。羨ましいか」

「うちの会社に回してくれるってんなら羨ましくないな」

 そう言って二人で笑い合う。そのまま二人でYFー23についての熱い討論が続いていると銀色の髪をなびかせながらセシルが割って入る。

「その新型の事ですが」

 突然のセシルの登場に驚く二人。しかしセシルは淡々と続ける。

「あれはピーキー過ぎます。家鴨など早くも泣き言が漏れてます」

「俺から言える事は一つだ。慣れろ。そうすれば旧式のバルキリーに遅れはとらん様になる」

 かぶせる様にウィルも口を挟む。

「俺なら完璧に調整して見せる自信がある」

 お前達が悪いんだといった口調の二人に溜息が出るセシル。

「戦闘機馬鹿が二人」

 

 2

 セシルとウィルは並んで夜の街を歩く。たまには家に帰れと半ば強引にウィルにセシルをまかせ、宇賀神は食堂を後にした。

「いつ以来かしらね。こんな風に並んで歩くのって」

「そんな懐かしむような前じゃなかったと思うが」

 そう言って舗装路を歩く。

 二人の会話は続かず、どこか途切れ途切れだ。

「そういえば、あの曲。まだ完成して無かったのね」

「なんだ聴いてたのか」

「全部のチャンネル開けて流してたら嫌でも聴こえるものなのよ」

 そう言ってくすくすと笑うセシルにウィルは何と無しにホッとする。陽介はまた昔の様に戻りたいと言っていたがセシルはセシルじゃないか、そう思えた。

 その後も他愛のない話は続く。

 帰路も半ば、その時二人を遮る様に子供が立っていた。

「やっと見付けた」

 ウィルは声に反応して身構えた。身構えた後に声の主を理解した。遊園地を襲撃したバルキリー、ウィルを追いかけまわしたあのバルキリー。

 ウィルに遅れそれを理解したセシルも身構えた。

「やだな。そんなに怖い顔をしないでよ。今日はただ挨拶に来ただけなのに」

 ウィルは少年の言葉を聞きとっさにセシルを見る。セシルの表情は今までウィルが見た事の無い怒りを露わにしたものであり、ウィルには少年の存在や夜の暗がりよりも印象的なものだった。

「なんのつもりだ。何をするつもりだ」

 先ほどとは別人である様な物言いにウィルの方がたじろぐ。少年はいたって普通に話す。

「僕はお母さんに言われた事をするだけさ。ただ、お兄ちゃんの顔を見たくて寄り道しちゃっただけ」

 明るく話す少年は、子供特有の無邪気さだけの雰囲気しか感じられない。とてもバルキリーに乗りテロ行為を行っているとは信じがたい雰囲気である。

「用も済んだし帰るよ。じゃあねお兄ちゃん。次はアレも聴かせてね」

「、、待てっ」

 少年に掴みかかろうとしたセシルをひらりと躱しセシルを後ろに蹴飛ばしながら、少年は暗がりの路地へウィルを横切りながら駆けていく。ウィルは何もせず何も言わず、それを見送る。

「なんで捕まえないの」

 転んだままのセシルは言う。ウィルはセシルに手を貸しながら少年の消えた路地を見つめそっと呟いた。

「アイツ、遊んで欲しいのか」

 誰に言ったわけでも無いその言葉にセシルは何を思ったのか、何も言わず手を借り立ち上がる。

「帰るか」

 ウィルはそう言いながら先を歩く。セシルもそれに着いていくが、それから二人が交わした言葉は別れの言葉だけだった。

 ウィルはセシルのあの表情を思い出す。セシルは変わった。いや、変わっていっているのかもしれない。昔の様にと陽介は言ったが、それは無理だ。セシルも陽介も昔のままじゃない、勿論自分も。

 なんだ、今日は随分難しい事を考えているじゃないかと、昔とは違う事を実感しながらウィルは帰路を歩く。

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