昼休み。
蒼天魔導騎士学園の中庭は、木漏れ日と生徒たちの談笑で賑わっていた。大きな樹の木陰で、迅、氷華、あかり、結衣、宵の5人は昨日の今日で仲良くテーブルを囲んでいる。
「——でさ、今日こそは氷華に一発入れてやるつもりなんだよ」
「ふふ、期待して差し上げますわ」
「おうよ! 楽しみにしてな!」
迅と氷華の軽快なやり取りに、あかりたちが楽しそうに笑う。
連日のように放課後、二人は闘技場で拳と刃を交えていた。迅は氷華に連戦連敗を喫しながらも、彼女の圧倒的な技術と身体の使い方をその身で必死に吸い上げようとしていたのだ。
「てかさ〜、迅って毎回倒されてるのにホント懲りないよね〜」
「ホントそれなー」
「……じん、お肉食べて早く強くなって」
あかりが身を乗り出して笑い、結衣が呆れ顔で手をひらひらして、宵が自分の弁当から唐揚げを迅の口へ放り込む。
(ふふっ……楽しい、ですわ……)
だがその穏やかな空気は唐突に破られた。
「おい、北村迅」
声をかけてきたのは鋭い三白眼をした男だった。制服をだらしなく崩しており、しかし背が高く筋肉質なその体からはとても威圧感がある。
「ん? 誰だ?」
「俺は1年D組の
「よろしくな! んで、何か用か?」
「放課後、闘技場へ来い。決闘だ」
唐突な指名に迅を除く4人が目を見開く
「は〜? 何なの急に決闘って、そんな古風な……」
「理由なんざどうでもいい。首席と仲良くして調子に乗ってるのが気に入らねえんだよ」
隼人は吐き捨てるように言うと、迅を射殺さんばかりの鋭い視線で睨みつけた。
「俺と一対一の勝負だ。逃げるなよ」
「……いいぜ。受けて立つ!」
迅は不敵に笑い、即座に立ち上がった。
◇
放課後。白亜の闘技場。
噂を聞きつけた生徒たちが観客席を埋める中、結界の内側には迅と隼人の二人が対峙していた。
「両者、《魔装》の展開をよろしくー」
審判であるスライムの声がのほほんと響く。
「かかってこい、《
「……ぶっ飛ばせ、《
迅は雷が迸る直刀を、隼人は風が舞う剣を装備する。
「迅ー! サクッと勝っちゃえー!」
「解説の宵さん、どう見ますか?」
「じんを応援する〜」
観客席のあかりたちが声を張る中、氷華は静かに腕を組んで目の前の隼人に違和感を抱いていた。
(……一対一の気迫ではありませんわね。何か、別の意図を感じます)
「では……試合、開始!」
試合が始まったまさにその瞬間だった。
「甘えぞ北村ィ!」
隼人が叫ぶと同時に、迅の真後ろの地面から2つの人影が現れる。
「——!? なっ……!?」
事前に穴を掘っていたのかゴツイガントレットの魔装をした大柄な男が現れ、もうひとりの小柄な男が持った不気味な黒いメガホンの魔装を構えて叫ぶ。
「【動くな】!!」
空気を震わせる音波。指向性の音波魔法を直接浴びた迅の身体が、金縛りに遭ったようにピタリと硬直する。
「痛めつけてやらあっ!」
それと同時に正面から隼人が駆け出し、剣を横薙ぎにして剣の腹で迅の頭を殴ろうとしていた。
姿を隠していた伏兵による不意打ち。動きを止めてクリティカルに叩き潰す——完全な三対一の卑怯な強襲。
「卑怯だぞ貴様ー!」
あかりが叫ぶがもう遅かった。
大剣が迅の肩口へと叩きつけられ——ガツゥンッ!!!
闘技場に響いたのは鈍い打撃音ではなく、まるで重圧な岩塊を叩いたかのような鈍い金属音だった。
「なっ……!? 硬え……っ!?」
隼人の顔が驚愕に歪む。
動きを止められたのは確かに
迅は迫り来る死線の中で思考を破棄せず、『魔力による局所肉体強化』を剣が触れる頭へ集中して魔力を練り込み、岩石をも凌駕する密度へと変貌させて刃を受け止めたのだ。
「不意打ちにしちゃあ……ぬるいぜ!」
『バチバチッ!!』と、迅の全身から眩いばかりの青白い雷光が爆ぜる。強靭な踏み込み、極限まで練り上げられた雷撃が迅の全身を超加速させる。
「『迅雷』ッ!」
ドオンッ!! と空気が破裂した。
残像すら残さない速度で懐へ潜り込んだ迅の刃が、攻撃後で硬直する隼人の首を刎ね飛ばした。
「ガ、ぁ……っ!?」
一撃。
結界が隼人への致死判定を下した瞬間、強烈な衝撃波とともにその肉体が眩い光の粒子へと弾け飛び、一瞬で場外の待機エリアへと転送された。
「ヒッ……!? は、隼人が一発で転送された……!?」
「けほけほ……ど、どうしよ……」
不意打ちを完封され、頭領が一瞬で沈んだことに仲間の2人の顔が引きつる。
「あれ、なんか勝てそう?」
「止めなくてもよさそー」
やぶれかぶれになった大柄が「舐めるなァ!」とガントレットで殴りかかるが、迅が横を通り過ぎながら首を的確に刎ねる。小柄は慌てつつメガホンから声を出そうとしたところを間に合わず首を刎ねられてしまった。2人の体が外に転送される。
静寂。
試合開始から、わずか数秒の出来事だった。
「……勝者、北村迅さん!」
審判の呆然とした声とともに、観客席から割れんばかりの歓声が巻き起こった。
◇
試合後。
転送エリアで擦り傷一つない身体に戻りつつも、唖然とした隼人の手を引っ張り上げて立たせた迅は爽やかに笑っていた。
「卑怯な手まで使ったのに……なんで笑ってんだよ」
敗北の悔しさに顔を歪める隼人に迅はあっけらかんと言い放つ。
「不意打ちだろうが何だろうが、勝ちにきたんだろ? だったら俺も、それを超えて勝つだけだ!」
そのあまりに真っ直ぐな言葉に、隼人たちは二度と何も言えなくなった。
その夜。寮の自室にて隼人はスマホで誰かと話していた。
『……失敗したようだな、三人がかりの奇襲で。というかそもそも何故公の場でやった』
その声は機械音声だった。
「……いろいろすまねえ。あいつは……俺たちがどうこうできるタマじゃねえ」
『契約違反だぞ』
「金は返す! それと、もうあいつを嵌めるような真似には協力しねえ!」
隼人は通信を一方的に切ると、夜空を見上げた。
卑怯な手に手を染めてまで迅を潰そうとした自分が情けなかった。そして何より、圧倒的な強さで見下ろすのではなく、真っ直ぐにぶつかってきたあの金髪の少年に、心の底から魅せられてしまっていた。
翌日、中庭にて。
「迅、昨日のマジで凄かったんだけど!」
「あの土壇場での肉体強化と……『迅雷』っての! 超シビれたー!」
「……じん、かっこよかった」
賑やかにおしゃべりするあかりたちの中で、氷華は静かに迅を見つめていた。
(不意打ちを一瞬で見抜き、土壇場で魔力を集中させて受け止める……その能力はどうやって培われてきたのでしょう……)
氷華の胸の奥で熱いモチベーションが沸き上がってくる。そんな中、氷華は迅の視線に気づいた。
「……どうかしましたの、迅さん? そんなに私を見て」
「いや……今日の放課後こそ、絶対氷華に一発入れてやると思ってさ!」
「ふふ、望むところですわ!」
世界はどこまでも鮮やかで、そしてどこまでも熱かった。