「部活どーしよーかなー」
放課後の中庭。迅はいつもの面々と一緒に勧誘の波を見ていた。
学園の規則により全生徒へ義務付けられた部活への所属。迅は強くなれそうな、それでいて楽しめそうな、どうせなら稼げそうな部活がないものかと眺めていた。
「部活……今まで所属してなかったですから、どんなことができるか楽しみですわ……!」
白銀の髪をなびかせた氷華がニコニコと笑顔を浮かべながら迅の隣に立っている。
「ウチたちは中学の頃はバレー部やってたなー」と健康的な笑みを浮かべるあかり。「全国行けたよね」とクールに補足する結衣。「ふふふ、私のスパイクは世界を取れる」とエアでかなり飛んでスパイクを撃つ宵、大きな胸が跳ねる。
「あかりと結衣はともかく、宵って意外と動けたんだな」
「ふっふー、私は動けるタイプのダウナーなのだー」
「ともかく色々見て回ろうよ!」
「それが一番ですわね! まずは……あ、あそこなんてどうでしょう!」
最初に訪れたのは料理部だった。
「うひょー! すっごい美味しそう!」
「当然! 高級な食材ばかり使ってるからね!」
部室では高級食材をふんだんに使った豪華な料理が並んでいたが、迅が残された食材に目を光らせる。
「おいおい、この野菜の皮も肉の端材も捨てちまうのか!? もったいねえ!」
腕まくりをした迅は余った端材を手際よく調理していく。
「よっしゃ完成! 俺特製かき揚げ丼だ!」
「なっ、残った食材から一品できてしまった!?」
「意外……じん、料理上手」
「そして見た目と同じかそれ以上に美味しい!」
「タレがいいわねこれ」
「それでも残ったのはゴミ行きだけどな」
「ごみをたべるよ」
「あら、スライムさん。あ、スライムさんと言えば……」
続いてやってきたのはスライム研究部。
「ごみをたべたよ」
「きれいになったよ」
「おりゃ、まそうごっこ」
「おー、可愛い〜」
学園の環境美化を担うプルプルとしたクリーンスライムを世話する部室で氷華の瑠璃色の瞳がキラリと輝く。
(小動物みたいで……とても、とても愛らしいですわ……!)
実は大の生き物好きである氷華の心がキュンキュンと鳴り響く。そっと指先でスライムをツンツンと突き、密かに癒やされていた。
「ぷよぷよするよ」
「ふふっ……」
事件が起きたのはその直後だった。
「俺もやりた——うおっと!?」
「わーい——ぐえ、ふまれたよ」
足元にいた元気なスライムを思いきり踏んづけてしまった迅。ツルッと勢いよく足をとられ、床の上を豪快に滑り倒れてしまう。
「いてて……!」
スライムが飛び跳ねるほど派手に転んで仰向けにズザーッと滑り込んだ迅の視界……その真正面に立っていたのは、あかり、結衣、宵の三人だった。
下からのアングル。迅の眼前に飛び込んできたのは——あかりの元気なピンク色のレース。結衣の清楚で控えめな白いフリル。宵のミステリアスな漆黒のシルク——視界を埋め尽くす、三者三様のアンダーウェアだった。
「きゃっ」「あっ」「むっ」
「あ————っ!!?」
静寂。一瞬で顔が爆発したように真っ赤になった迅は、跳ね起きるように土下座の姿勢をとった!
「す、す、すまん! 狙ったわけじゃないんだ! スライムで滑って……本当に申し訳ありませんでしたぁぁぁっ!!」
「ぼくのせい?」
「かもしれないよ」
「ごめんだよ」
床に額を叩きつけて全力で謝り倒す迅。見られた当人の三人も、一瞬固まったのち、耳まで真っ赤にして身体をこわばらせたが……
「わ、わわ〜、迅のスケベ〜、さてはわざとだな〜?」
あかりはスカートの裾をぎゅっと押さえ、真っ赤な顔で恥ずかしがりながらも、いたずらっぽくニヤニヤと迅を指差し煽ってくる。
「意外とウブ〜、実は恋愛経験とかない?」
結衣も頬をぽっと赤く染めながら、ジト目で迅をじっと見つめて追い打ちをかける。
「ふ、ふ、ふ……感想を申してみよ……!」
宵に至っては顔を真っ赤にしてフシューと熱気を吹き出しながらも、必死に強がって煽ってみせた。
「違う! 事故なんだって! ホント許してくれぇぇぇっ!!」
謝罪を続ける迅の横で、一人だけ難を逃れていた氷華が、スライムを手の中で撫でながら呆然としていた。
「わ、私も見せた方が……?」
「いやそういうのはいいから! ほんとに事故だからぁっ!」
「この人もぷよぷよしてるよ」
そんなこんなで部活見学を巡っていき、元バレー部としての実力を発揮するあかりたちや見惚れるほどの演技を発揮する氷華、意外にもオーケストラ部に隼人を見つけたりとあれもいいなこれもいいなと過ごしていく。
「一番遠いのはここだが……」
部活見学のドタバタはその後も続き、一行は学園の奥深く、闘技場への道の隣にたどり着く。他の部室とは一線を画す無骨な巨大建造物で、重厚な鉄の扉と、その上に掲げられた重々しい看板。そこには不骨な文字で『決闘部』と書かれている。
「決闘部……? なんだか凄そうな名前ですわね」
「へえ、決闘を主軸にした部活ってあるもんなんだ」
「いや、こう見えてカードゲームアニメの世界観かもよ?」
「あ、そっち?」
「決闘と書いてデュエルと読む……」
女子たちが好奇の目で見る中、迅の目が爛々と輝き出す。
「決闘……! まさか、マジのバトルの部活か!?」
迅が勢いよく鉄の扉を押し開けると、そこには様々なトレーニング機器の集まったジムのような風貌で、無骨な外観とは裏腹に清潔感のある心地よい場所であった。
「あせをすうよ」
「あら、ここにもクリーンスライムさん」
「おや、見学客かい? いらっしゃい……お、零条氷華さんに北村迅さんだね」
「お、氷華はともかくとして俺も知ってるのか?」
「まあちょっとした有名人だね。俺は
爽やかな声とともに現れたのは金髪メカクレ褐色肌の、筋骨隆々な高学年の男子生徒だった。
「ここは決闘部。と言っても怪しい喧嘩の集まりじゃないよ。学園公式のルールに基づき、闘技場で正々堂々と戦闘を行い、個々の戦闘能力や戦術を磨き上げるための部活さ」
「闘技場で、戦闘……!」
「闘技場については授業でも説明があっただろうし実際やったこともあるだろうけど、ここでは内部で怪我をしないことを活かしての戦闘を主に行っているよ。中で鍛えるのは元に戻っちゃう性質上できないけどね」
「楽しそうで、全力で暴れられる……! これだよ! 俺が求めてたのは!!」
迅の目がバチバチと燃え上がった。料理部やスライム研究部での癒やしも悪くなかったが、やはり血が騒ぐのは圧倒的な熱量を持つバトルの世界だ。自分の力を試したい、もっと強くなりたいという本能がビンビンと刺激されていた。
「なるほど……実戦形式で鍛えられるのですね! 面白そうです!」
迅と同じくらいの熱量で興奮しているのは氷華だ。氷華の反応に部長は「零条さんとは戦ってみたいって部員も多いよ」と優しく迎え入れる。
「迅に負けてられないからね、ウチも鍛えたい!」
「闘技場ってそれでも負荷はかかるんでしょ? それなら回復役も必要じゃん? ならあたしの出番だね」
「私の無限の可能性を叶える時……!」
あかり、結衣、宵たちもやる気満々のようだ。
「迅さん! 私もここで自分を鍛えたいですわ!」
「おう! 俺も氷華に追いつくべく鍛えまくるぜ!」
氷華は白銀の魔力がゆらりと立ち上り、並々ならぬ気迫が感じられる。彼女の隠していた戦闘への情熱がここ最近全面に現れていた。
「よしっ! 決まりだな! 俺たちの部活は——決闘部だ!!」
「威勢がいいね! 歓迎するよ!」
こうして部活の決定した迅たちは目標に向けて前進していくのだった。