ナイツ&シグナル   作:伊倉軍貫

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第十三話 始動

 有人人型随伴機構想。仮称『シルエットランナー』は、幻晶騎士(シルエットナイト)を重装歩兵と見立てた時、軽装歩兵を担うものになる。

 重装歩兵よりも火力も防御力もない。正面戦闘力もない。そこは幻晶甲冑(シルエットギア)ベースの機体なので受け入れる。

 必要なのは、機動力と協働戦闘力。幻晶騎士(シルエットナイト)に追従し、自衛戦闘が可能な、いわば歩く無線中継機といったところか。基本は中継機能を持つ大型無線機の運搬と観測、小型魔獣掃討が主任務で、複数で囲めば決闘級魔獣を倒せる火力を持たせたい。それ以上の魔獣は、幻晶騎士(シルエットナイト)の領分だ。

 

 設計としては、より幻晶騎士(シルエットナイト)に近い操作系統と大きさを持った幻晶甲冑(シルエットギア)になるだろうか?

 幻晶甲冑(シルエットギア)は、その名の通り甲冑を着込むように運用することで、操作系統を身体操作の延長としている。これはこれで利点も多いのだが、幻晶騎士(シルエットナイト)と共闘するとなるとその小ささが枷になる。小さいというのは視認性の低さに繋がり、大きいというのはそれだけで武器になる。良くも悪くも、敵味方双方にだ。

 要するに、視界の悪い幻晶騎士(シルエットナイト)の足元で戦うと間違って蹴飛ばしたり、最悪踏み付けてしまう危険性がある。普通に命の危機である。

 

 なので、全高四メートル前後の機体をベースに、無線機やら観測器、自衛用の武器を持たせる設計になる予定だ。操作系統を幻晶騎士(シルエットナイト)に近付けたのは、サイズ的に身体操作の延長とするには無理があったからである。

 四メートルという数字に明確な根拠があるわけではない。ただ、モートラートより一回り以上大きく、大型無線機を積んでも問題なく動き、幻晶騎士(シルエットナイト)からも認識しやすい。それでいて幻晶騎士(シルエットナイト)ほど巨大ではなく、軽快さを維持できる。そのあたりを狙った数字だった。

 

 前世の記憶(やけに上機嫌のおじさん)曰く、全高四メートルの人型歩行戦車(アーマード・トルーパー)や、採掘作業機械を戦闘用にしたもの(ブラスト・ランナー)が構想として近い代物らしい。残念ながら、重量と地面の凹凸に対応できる小型車輪や高速回転させられる機構がないので、ローラーダッシュは現時点では不可能そうだ。

 機構としては、脚部全体の消耗軽減や機動力向上に役立ちそうなので、研究の価値がありそうではある。前世の記憶(腕を突き上げるおじさん)もその利点は正しいと補足してくる。

 

――車軸と車輪を強化魔法(ハードスキン)でガチガチに強化すればいけるだろうか?

 

 そうは思ったものの、クロケの森演習で腰にダメージを与えてきた振動を考えると、衝撃吸収機構が必須だと一気に冷静になった。馬車の数倍の速度で、あの衝撃を叩き込まれ続けたらお尻と腰が爆発してしまう。……やっぱり無理そうだ。(崩れ落ちるおじさん)

 

 そして今更ながら仮称シルエットランナーは、名前被りが多すぎて現場が混乱しかねない。幻晶騎士(シルエットナイト)幻晶甲冑(シルエットギア)騎操士(ナイトランナー)と重なる名称が増えるのは、流石にまずそうだ。

 

 

――――――

 

 

 そんなこんなで時間が経ち、再設計されたツェンドルグの課題が人馬型専用の下肢制御用魔法術式(スクリプト)の書き込みだけになり、エル団長専用機の雛形トイボックスが建造された頃、今なら多少手の空いた者も出るだろうとエルとダーヴィドに有人人型随伴機構想の資料を提出した。

 

「仮称シルエットランナー、ですか」

「今のモートラートもいい機体ではあるんですけど、幻晶騎士(シルエットナイト)と共闘できる機体として考えると踏みつけてしまいそうで怖いので、もうちょっと大きい機体が欲しいと思いまして、それが実現可能なのか調べるための仮説検証機の作成をお願いしたいんですよね」

「仮説検証機ぃ?」

 

 ダーヴィドが疑問の声を上げる。

 

「小型魔導演算機(マギウスエンジン)を積んだモートラートとモートリフトは、今の段階でも十分な稼働実績があります。でも、幻晶騎士(シルエットナイト)の操作系統に近付けて大型化した機体を制御できるかは、まだ試験できていません」

「ツェンドルグも再設計前は、魔力不足の問題が発覚しませんでしたからね」

「だからまずは、動かせるか調べる機体が欲しいってわけか……」

「はい。まずは歩けるか。次に、狙った通りに動かせるか。その上で、武装や無線機を載せても問題ないか。そこまで確認できれば十分です」

 

 提出した資料に描かれた設計図は、稚拙さが目立つものの、設計思想が明らかな機体だった。

 脚が短く脛は大きく重く、腰の上に操縦席を直接置いて周囲を搭乗者保護用のロールケージで囲い、操縦席側面から腕が生えている不格好な機体だった。

 

――はっきり言って、ダサい。

 

「で、こいつは戦闘には絶対出せないが、なにをやる機体なんだ?」

「失敗を探す機体ですね。実際作って駄目だった場所を探して、改良したものが本当に改良になったのかを調べる機体です。本格的な実用機はデータを取り終えてからですね」

「なるほど。つまり、完成品を作るための試験機ということですか」

「はい。私だけでは、どこが駄目なのか分からないので」

 

 ダーヴィドが設計図を覗き込み、エルは楽しそうに目を輝かせる。

 

「……それで、これをわざわざ人型にする意味はなんだ?」

「はっきり言って、中継機搭載型無線機だけなら現在開発中のツェンドルグ用の馬車に積んでも機能するんですけどね……。人型幻晶騎士(シルエットナイト)で構成された部隊に随伴する機体とした場合、ツェンドルグの突破力を殺すのはあまりにも惜しいです。なので、人型幻晶騎士(シルエットナイト)の部隊に随伴する移動式の中継機として、人型幻晶騎士(シルエットナイト)と同等の移動能力を持たせたいんですよ」

 

 文字通り、幻晶騎士(シルエットナイト)と共に歩くための人型機だ。それに人馬型は、人馬型同士で部隊を組む方が強くなる。

 

――平原での騎兵はめちゃくちゃ怖いけど、速度を出せない森林内での騎兵は全然怖くない。騎兵の恐ろしさは、その機動力と重量を乗せた正面衝突力にあるからだ。脚の止まった騎兵はでかい的になる。

 前世の記憶が囁いてくる。全くもってその通りだからなんとも言えない。

 

「仮説検証機……では、シルエットランナー1号機、チェックシートと名付けましょう!」

 

 エルが興味を示し、チェックシートと命名された試作機開発――シルエットランナー計画は、こうして始動した。

 

「それはそれとしてリヴァ。名前の混同が起きそうなので仮称シルエットランナーは変えましょうね」

「…………はい」

 

――始動したのだ!

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