ナイツ&シグナル   作:伊倉軍貫

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第十四話 試作型

 ツェンドルグの整備やトイボックスの研究開発の隙間時間にちまちまと製造され、実際に建造された旧称シルエットランナーこと、シルエットトルーパー1号機『チェックシート』は、大体提出した資料通りの姿で組み上げられた。

 

 短い脚に太く重い脛。腰の上に操縦席を直接載せる構造。操縦者を転倒から守るために剥き出しになったロールケージ型の内部骨格(インナースケルトン)。搭乗席の上に申し訳程度に乗せられた偽装頭部。操縦席の横から生えた腕――予想していたことではあるが、やっぱりダサい。

 

 前世の記憶(はしゃぐおじさん)が『ほとんどハービーだよこれ!』と囁いているが、試験機として機能を最小限、安全策を最大限積んでもらった。特にシートベルトの実装は、衝撃で飛び出して身体を打ち付ける事故を大幅に減らせるだろう。

 

「しかしまあ…ほんと最小限の機能しかない実験機だな。こいつは」

「ローラーダッシュとかしたら格好良さそうですねぇ……」

 

 ダーヴィドとエルが、建造されたチェックシートを見て感想を述べる。

 

「ローラーダッシュは計画段階では検討したんですが、荷重と衝撃に耐えられる車軸、軸受け、車輪の三点と、高速回転させられる機構の開発。それらの停止機構、なにより衝撃吸収機構の実用化がされないと、搭乗者の腰に多大なダメージが予想されます」

「あー…それがないときっついですねぇ……」

「車輪周りの必要部品はまあ分かるが、衝撃吸収機構?」

 

 エルは露骨にがっかりした。ダーヴィドがより突っ込んだ質問をしてくる。

 

「親方がモートリフトを着込んだまま馬車に乗って、馬車を全力で走らせる想像をしてください」

「……絶対腰に来るな」

「その衝撃を瞬間的ではなく、大きな揺れとして分散させるのが衝撃吸収機構です。壺にパンチしたら割れますが、ゆっくり押すだけなら割れないみたいなものです。良い馬車に搭載されている板バネの発展版とも言えますね」

「なるほどな。そりゃ必要になる」

 

 ダーヴィドも納得したところで、いざ搭乗し試験開始――といったところで、早速問題点が見付かった。

 チェックシートの高さは四メートル。直立時の搭乗席までの高さで言えば、約三メートル三十センチ。身体強化(フィジカルブースト)を使って飛び乗る高さである。

 

騎操士(ナイトランナー)が乗るならまだしも、負傷者を乗せたり降ろしたりする時とかを考えると、もっと乗り降りしやすい方がいいですね」

「この高さだと、足を滑らせて転落事故が怖いな」

「野外使用を考えると、梯子が常に付いてるなんて都合のいい話もないですしね」

 

 この課題は動作試験を終えてからじっくり検討するとして、今回は梯子で搭乗者が乗り込んでいく。今回のテスト操縦者はエルだ。

 

『新型機のテストパイロットなんて、そんな楽しい役割見逃せません!』

 

 と、団長権限で搭乗者の席を取られてしまったのだ。いやまあ、騎操士(ナイトランナー)としての腕前は私より遥かに上で、幻晶騎士(シルエットナイト)幻晶甲冑(シルエットギア)の知識に明るいのでテスト搭乗者として適任ではあるのだ。

 

 あるのだが……最初くらい私が乗りたかった。

 

 

――――――

 

 

 観測員と記録者、緊急時に停止させる役割の幻晶騎士(シルエットナイト)を配備して、いざテスト開始である。最初は幻晶騎士(シルエットナイト)からの視認性を確認してもらい、腕の動作試験、静歩行試験、動歩行試験、走行試験とどんどんクリアしていく。一番の課題だった幻晶騎士(シルエットナイト)との並走も問題はない。

 

「今回は割と急造だったので腰を捻る機能を付けていなかったんですが、ないと動歩行試験以降のテストは操縦者が左右に振られて大変そうですね」

「あの少ない空間で腰の動き全てを実現するのは、ちとキツイぞ」

「上下方向は最悪股関節と首、それに連動した腕でなんとかするので、横捻りだけで大丈夫です」

 

 外部から見える改善点を記録しながら、ふとマナプールについての観察を忘れていたことを思い出す。チェックシートの方式としては、本体内部の隙間に板状筋肉結晶(クリスタルプレート)の増槽を取り付け、初動時は幻晶騎士(シルエットナイト)から銀線神経(シルバーナーヴ)を通して魔力を充填し、搭乗者の魔力と本体マナプールの両方を消費しながら動く形式にした。今回はマナプール分だけで動けるか確認するため、エルからは魔力補給をしないように指示している。

 今回はこれもテストが必要と、無理を言って取り付けた大型じゃない方の無線機に向かって話しかける。

 

「エル。こちらリヴァ、今のマナプール残量はどのくらい? 送れ」

[こちらエル。今は一割消費といったところですね。やはり搭乗者から魔力供給をしないと戦闘では厳しいです。送れ]

「了解。その辺もあとでじっくり話し合おう。終わり」

 

 音声通信機を実際に搭載して動かせるかどうかのテストも終わり、その後も基礎動作テストを続けた結果は、構造に改善点があるものの概ね問題なし。テスト操縦者をしていたエルも大満足な顔をしていた。

 

 さて、ここからは対策会議だ。

 

「最低限腰を捻る機能は必須ですね。操縦者が左右に振られるのは事故の元になりかねないです」

「課題だった動作試験は概ね問題なしだな。関節の消耗も予想範囲内だった」

「魔力消費は思ったより重いですね。編式筋肉結晶(ストランド・クリスタルティシュー)の量を見直す必要性がありそうです」

外部装甲(アウタースキン)の胴体部や脚に手摺りや梯子を溶接するのもありですね」

「それだと、負傷者が自力で降りるのは難しそうですね……」

 

 次々と改善すべき点が出てくる中、どうしても搭乗席の高さ問題が気になる。その時、脳裏に前世の知識がイメージを送り込んでくる。

 脛部分が前方向に分割されながら折れ曲がり、上半身の角度を変えないまま足裏、膝、太腿、股関節部下面を接地させる変形――

 

「脚を折り畳んで、搭乗席そのものを低くするのはできますかね?」

「正座とか胡座、三角座りなんかか?」

「いえ、上半身の角度を変えないまま、下半身だけ伏せるようなイメージです」

「なんだそりゃ……」

「……降着姿勢ですか!」

 

 エルがイメージに気付き、猛烈な勢いで絵を描いていく。それを見たダーヴィドは、嫌な予感がしたのか顔をしかめる。幻晶騎士(シルエットナイト)を人体の拡張と考えていると、この発想はまず生まれないから嫌な予感は実に正しい。

 そして書き上がったイメージ図を見て、やっぱりダーヴィドは顔をしかめた。

 

「なんだこれ。脚が複雑骨折してやがる……」

「まあ、そうなりますよね……」

 

 実際、この構造を最初に見た時の反応としてダーヴィドは真っ当である。それはそれとして絵を読み込んでいくと、そこに秘められた合理性に、ダーヴィドは気が付いた。

 

「これ、乗り降りだけじゃなくて整備も楽になるな?」

「高い位置の整備は、やっぱり大変なんですね」

「そりゃあな……構造の問題で幻晶騎士(シルエットナイト)には付けられないが、シルエットトルーパーとやらの構造ならいけるだろう」

「変形用の魔法術式(スクリプト)と、変形時の安定性確保に爪先と踵の延長も試しましょう!」

「そこら辺の構造の詰めは、私では役に立たないので、訓練に行ってきますね」

 

 こうしてチェックシート初期型は、建造から数日で改造のために下半身をバラバラにされることになったのだ。




シルエットランナー改め、シルエットトルーパー1号機
『チェックシート』
 幻晶甲冑(シルエットギア)モートラートの派生型としてリヴァが基礎設計を行った仮説検証機。そもそも動くかどうかを調べるための機体なので、戦闘能力は最初から度外視されている。
 外見は作中の通り不格好な機体だが、多くの情報と教訓をもたらした失敗することを前提にされた成功作。現在は操縦席から下を分解され、改造を施されている。
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