ナイツ&シグナル   作:伊倉軍貫

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虚血性大腸炎で毎日投稿失敗したので初投稿です。
大変お待たせしました。
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第十七話 展望

 新型頭部のテストが終わり、中央の望遠用眼球水晶を展開した姿を見たエルが『「信じて!」と言いながらパイロットを投げてそうな顔になりましたね』などと言い出した以外は、何事もなく武装化試験を始める準備に入った。前世の記憶(サムズアップおじさん)が頷いてたけど知らない。

 王都カンカネンへ旅立つのも目前に迫る大事な時期に、なんでこんなスケジュールを詰め込んでいるのかといえば、このシルエットトルーパーも持ち込んで行きたいらしい。

 

 まだまだ未完成だけどいいのかと聞けば、途中経過でも報告した方が色々と楽なのだとか。

 確かにそれは事実なので、遅れないように武装化試験の準備を進める。

 

 今回の試験では、実戦で想定される全備重量を搭載した上での稼働試験になる。目的は、必要となる結晶筋肉(クリスタルティシュー)の総量と、消費魔力量の割り出しだ。

 ここで大きな問題がなければ、調整の後に仮想実戦演習を行って運用上の問題点を洗い出し、ようやく実戦を意識したシルエットトルーパー二号機の開発に取り掛かることができる。

 

「しかしまあ、チェックシートもだいぶ頼もしい見た目になったんじゃねぇか?」

「最初は、ほぼハリボテでしたからね」

 

 搭乗者が剥き出しだった胴体は装甲に覆われ、頭部としてやけに大きい平べったい頭が乗っている。搭乗者が乗り降りしやすいように、ハッチは胴体正面下部から胴体上面を頭部ごと跳ね上げる構造で、減速機構を組み込んで開閉速度を抑え、所定の位置で機械的にロックする仕組みだ。手足にも装甲が取り付けられ、短杖型に取っ手を付けただけの試作短機関銃型魔導兵装(シルエットアームズ)を右手に、左腕に打突用の爪が付いた板状の盾を持たせている。

 そしてついに、かなりの軽量化と簡素化がされた補助腕(サブアーム)が二基取り付けられたのだ。見た目は、ほぼジョイントの付いた板棒に、魔導兵装(シルエットアームズ)を挟むためのロボットアームが付いただけの代物である。

 

「そんで、なんで今まで補助腕(サブアーム)付けなかったんだ?」

「そもそもチェックシートは、動くかどうかを調べる代物だったので、実戦で動かせるかもしれないって段階にならないと無駄になる可能性の方が高かったんですよ……」

 

 なんだかんだ戦えそうな雰囲気を醸し出すチェックシートだが、そもそもこいつは仮説検証機である。

 

・幻晶騎士(シルエットナイト)に追従できる機動力を持たせられるか。

・幻晶甲冑(シルエットギア)と差別化ができるか。

・偵察装備と無線機を積んで動かせるか。

・戦闘を実現する上での課題はなにか。

・運用上の問題点はなにか。

 

 これらを調べるための機体であって、戦闘はそもそも最初の想定には入っていなかったのだ。試作型(プロトタイプ)、実戦配備型(量産機)、強化仕様型(エース仕様)の三段階で言えば最初の試作型でしかない。

 

「それに、消費魔力を考えると瞬間火力を高くしても、あっという間にマナプールが尽きて行動不能になるので、魔導兵装(シルエットアームズ)を積むのはほぼないでしょうからね」

「魔力転換炉(エーテルリアクタ)を積んでないからなぁ」

 

 今装備させている短機関銃型魔導兵装(シルエットアームズ)にしても、直射型の中級魔法を魔法術式(スクリプト)として書き込むことで消費魔力を抑え、大火力の戦術級魔法(オーバードスペル)は、補助腕(サブアーム)に搭載した魔導兵装(シルエットアームズ)で二、三発撃てるなら十分だと言える。

 なにより、大火力投射は幻晶騎士(シルエットナイト)の役割で、シルエットトルーパーは幻晶騎士(シルエットナイト)の補助と小型魔獣掃討が主目的なので、そもそも大火力を持たせることを諦めているとも言える。

 

 じゃあなんのために補助腕(サブアーム)を取り付けたのかと言えば、いわゆるハンガーユニットとしての性格が強い。戦闘で武器を失った幻晶騎士(シルエットナイト)に魔導兵装(シルエットアームズ)を届けることもできるし、短機関銃型魔導兵装(シルエットアームズ)を持たせて予備とする。あるいは、今回追加した短機関銃型魔導兵装(シルエットアームズ)を両手と二基の補助腕(サブアーム)に持たせて、四門斉射なんてことも可能だろう。消費魔力を考えるとあまりやりたくはないが、できないと可能だがやらないは別物である。

 

「なんにせよ、ちゃんと形になってきたのが嬉しいですね」

「確かにな」

 

 実戦配備を想定したシルエットトルーパー二号機の開発は、王都での模擬試合には間に合わないだろう。それでも、距離を詰められている。

 

 

――――――

 

 

 今までの試験同様、初期魔力注入役兼緊急停止役の幻晶騎士(シルエットナイト)が一機付き、稼働試験は滞りなく進んだ。全備重量を載せた上での結晶筋肉(クリスタルティシュー)総量は若干必要量に届いていない感じがあるが、それでも重い鎧を着用した歩兵の範囲に収まっている。

 

「今後作るシルエットトルーパー二号機は、装甲を薄くして、蓄魔力式装甲(キャパシティブレーム)に置き換えてもいいかもしれないですね。小型魔獣相手だと囲まれないように動く方が結果的にダメージを抑えられそうです」

「本当に装甲薄くして大丈夫なのか?」

「生身の騎士が使うどの鎧よりも、装甲自体は厚いですからね。決闘級魔獣以上の攻撃に耐える装甲を持たせると、今度は稼働に必要な魔力不足と機動力不足で本末転倒になってしまいますし……」

「……それもそうか」

 

 シルエットトルーパー二号機では、脚部出力に余裕を持たせて急速離脱が可能なようにするのもありだろうか? 腕部は最悪魔導兵装(シルエットアームズ)の反動を抑え込めるならそれでいい。胴体は装甲を厚めにして保護優先、頭部は今の構造を洗練して、光学レンズを外注して制式版望遠装備として組み込めば十分だろう。そして、組み込んだ私物の遠眼鏡を取り戻せる。

 

 今のフレメヴィーラ王国で主流となっている遠眼鏡と双眼鏡は、前世の知識に照らし合わせれば、いわゆるガリレイ式と呼ばれる簡素な構造のものらしい。実用上の最大倍率は四倍程度だそうで、プリズムと呼ばれる透明な物体を組み込むことで、光路を折り畳んで小型化できるらしいが、どうやって作るのかは分からない。相変わらず肝心なところで役に立たない知識である。

 

 閑話休題、試験中でも気になってはいたが、やはり稼働試験だけでも消費魔力量の増加は避けられなかったようで、試験後の会議では軽量化と出力調整が課題だと確定した。

 

「降着機構も期待通りに動いて一安心ですね」

「最初は重量に耐えられるのか不安だったが、なんとか無事に使えそうだ」

「ここまでくると、『なにをしたいか』より『なにを捨てるか』を考える段階だと思うんですよね」

「それが、試験中に言ってた装甲を削るあれか」

「そうなります。シルエットトルーパーは軽装歩兵の役割を担うものになるので、足の速さと最低限身を守れる法撃火力と装甲があれば十分機能しますからね」

「僕としても、シルエットトルーパーはできることとやることが多い割に、マナプールという明確な活動限界があるので、マナプールを増やして活動限界を伸ばすのは賛成です」

 

 今後作る予定のシルエットトルーパー二号機の開発要件として上がったのは――

 

・全高四メートル前後の機体であること。

・マナプール容量と脚力を重視した設計であること。

・装甲は必要最低限に抑え、重量を軽くすること。

・近接戦闘で重要な腕力と機体重量を確保できないため、攻撃手段は法撃に偏ること。

・降着機構、望遠装備を必ず組み込むこと。

 

 以上の五点が開発要件としてまとめられた。

 

「最初は実現可能かどうかを調べる代物だったのに、実用するための課題が集まりましたね」

「リヴァ、まだ仮想戦闘演習が残ってますよ」

「その前に、この要件にあったチェックシートの調整だな」

 

 ゆっくりとではあるが、着実に進んでいる。

 そして始まった仮想戦闘演習で、多くのことができるからこその問題点が露呈したのである。




2026/10/01 当小説内での誤字修正しました。
筋肉結晶を結晶筋肉に修正。
魔力炉心を魔力転換炉に修正。
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