ナイツ&シグナル   作:伊倉軍貫

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ナイツマ技術的に可能か考えすぎて遅れました。
更新頻度の遅い小説ですが、いつも閲覧ありがとうございます。


第十八話 分業

 予定通りに進めばチェックシートの役割は、この仮想戦闘演習の後、王都カンカネンで行われる国立機操開発研究工房(シルエットナイトラボラトリ)との模擬試合を経て、研究成果発表をもって終わるだろう。この試験は実質的にチェックシート最後の稼働試験であり、最後の晴れ舞台に向けた演習ということになる。

 そう思えば、私もこの試験に対して思わず張り切ってしまうものだ。

 

「それでは、幻晶歩兵(シルエットトルーパー)仮想戦闘演習を始めます」

 

 今回の搭乗者は、新しいもの好きなヘルヴィ先輩が務めている。幻晶歩兵(シルエットトルーパー)の操縦者は、私やエルのように開発に深く関わった者ではなく、一般的な騎操士(ナイトランナー)が中心になると予想される。そこで、私たち以外の意見も聞こうと参加者を募ったところ、ヘルヴィ先輩が立候補してくれたのだ。

 

「操作については事前に説明した通りですが、ひとまず自由に動き回って操作感覚を覚えてください。そして、不明な点があれば無線で聞いてください。送れ」

[こちらヘルヴィ。了解!]

 

 いつも通り、非常停止役も兼ねる幻晶騎士(シルエットナイト)から初期魔力注入が行われ、ひとまず二刻ほど自由に動き回ってもらい、操作感覚を掴んだ後、再度魔力を注入して本格的な試験に入る。

 ちなみに今回エルは、アディに拉致されて血涙を流しそうな表情をしながらトイボックスの最終調整に入っているため、ここにはいない。

 

 まずは降着姿勢状態からの搭乗、直立姿勢への変形からである。搭乗席のハッチ開閉は、意図的に低速化しているためにゆっくりだが、重量物である装甲と頭部を上に持ち上げる構造上、急速落下するとギロチンになりかねない。歯車を組み合わせた減速機構で動作を低速化し、末端部では魔獣の革と金属の筒を加工して作った簡易式エアダンパーで衝撃を和らげ、所定の位置になると機械的に固定される仕組みで安全性を高めている。

 降着姿勢は、通常の幻晶騎士(シルエットナイト)や幻晶甲冑(シルエットギア)とも大きく異なる部分なので、姿勢制御以外の大部分の動作を、エル謹製の魔法術式(スクリプト)を小型魔導演算機(マギウスエンジン)に書き込むことで自動化している。初めてに近いヘルヴィ先輩の操縦でも変形そのものは問題なく、立ち上がる時に後ろに転びそうになる程度で済み、それも転倒防止も兼ねて延長した踵部で持ちこたえることができた。

 

[この降着姿勢っていうの? 乗り降りしやすいのはいいけど、もうちょっと立ち上がるのが早いと現場としてはありがたいかなぁ]

「まだ安全重視の設計ですからね。でも改善項目として記録しときます」

「どこまで高速化するかは、あとで詰めないとな」

 

 こういった現場目線の意見も拾えるあたり、既に実戦(ベヘモス事件)を経験しているヘルヴィ先輩に任せたのは大正解だと思える。

 

[踵のアンカーは転びにくいように付けたんだろうけど、格闘戦するならちょっと重いかも]

「そこは、設計段階で十分な打撃力を持たせられないのが分かっていたので、法撃重視の設計にする予定です。盾に打突用のクローは付けますけどね」

[ふーん…。それだと盾で防御しながらクローで攻撃するのは難しくない?]

「………あっ」

 

 法撃重視の幻晶歩兵(シルエットトルーパー)の場合、盾を使う=既に近接の間合いということになるので、盾で攻撃を受け流しながら短機関銃型魔導兵装(シルエットアームズ)で近接法撃を食らわせ、盾に付けた打突用のクローで突く方針だった。

 だが、まだそこまで高度な火器管制システムが存在せず、幻像投影機(ホロモニター)に投影した照準線(レティクル)を頼りに、騎操士(ナイトランナー)の感覚で法撃を行うことになる部分が大きい現段階だと、色々とリスクが大きい。

 つまりどういうことかと言えば、普通に外すか、誤射する可能性が高い。そして、片手で防御と近接攻撃を同時に行うのも難しい。あえてやるならシールドバッシュか?

 

「緊急用とはいえ、幻晶歩兵(シルエットトルーパー)用の近接武器も必要ですね……」

[なんか……やっちゃった?]

「いえ、問題点が見付かったのはいいことです。今まで操作していたエルがだいぶ外れ値なのを思い知っただけなので」

 

 こういった問題点は、ある程度広く情報を集めないとわかりにくいものだ。改善項目として記録して、試験を続ける。

 

 結果として、動作試験自体は問題なかったものの戦闘試験に入ると、一気にヘルヴィ先輩の動きがぎこちなくなった。曰く「同時にやることが多すぎる」とのことで、移動、観測、現在地確認、無線、回避、攻撃の六つを挙げ、常にそのうち四つほどを並行して処理し続けなければならないらしい。ここから更に望遠観測、武器補給、無線中継器の位置取り確認の作業がのしかかってくるので、騎操士(ナイトランナー)のキャパシティオーバーに陥るようだ。

 

 

――――――

 

 

 という訳で、稼働試験を終えると対策会議の始まりである。

 

「気休めだとしても、盾とは別の近接武器を持たせないと誤射が怖いですね」

「二号機の開発要件、近接攻撃の威力担保が難しいっつーから盾で殴る方向で考えてたんだったか?」

「はい。なにも持たせないのも問題でしたし、とりあえず持たせて損がない盾に近接攻撃用の機能を持たせたものを装備させていましたね。……とりあえず小型の片手斧を持たせて多少打撃力を盛りたいですが、必要な威力出せますかね?」

「斧? 剣じゃないのか?」

「剣より使用する鉄の量を抑えやすく、比較的軽量でもそれなりの打撃力を確保できる。ついでに、工具としても使えるのが理由になりますかね。……なにより、幻晶騎士(シルエットナイト)用の剣、振れると思います?」

「……無理だな。持つのと運ぶまでは行けても、振るうとなると体格差で両手剣になって、途端に筋力不足が出てくる」

「可能なら幻晶騎士(シルエットナイト)用の武具とも規格を同じにして、兵站の負荷を軽くしたいんですけどね……」

「チェックシートの手が妙にデカいの、それが理由だったのか……」

 

 今現在のチェックシートは、魔力消費量を抑えるために、意図的に腕の結晶筋肉(クリスタルティシュー)を減らして蓄魔力式装甲(キャパシティブレーム)に置き換えている。比較対象としてはやや不適切だが、モートリフトと腕力はそう変わらない。その腕力では、幻晶騎士用の剣、特に長剣を振るうのはかなり難しい。

 そこで代案として出したのが片手斧。右側の補助腕(サブアーム)に懸架し、必要な時に主腕が掴める位置まで展開する。主腕が柄を握って振り下ろす動作に合わせて、補助腕(サブアーム)が斧を上方へ押し上げ、初期加速を補助することで打撃力を確保する構想だ。

 

「それに、幻晶歩兵(シルエットトルーパー)は補助役なので、資材は可能な限り幻晶騎士(シルエットナイト)の方に回したいんですよね」

「あくまで主役は幻晶騎士(シルエットナイト)ってわけね」

 

 生存に関わる部分は出し惜しみしないが、攻撃面はある程度捨ててもいい。近接武器を積極的に振るうのはリスクが大きすぎる。

 

「次に、幻晶歩兵(シルエットトルーパー)やること多すぎ問題について」

「もうちょっと言い方ない?」

「分かりやすくていいんじゃねーの?」

 

 実際問題、これは重要な問題である。前世の記憶(深刻な顔のおじさん)も『ワンオペは人間を壊す』としきりに頷いている。

 

「ここはまあ、仕事を分けましょう。実戦では複数機で組んで動かす予定だったので、観測役、無線役、護衛役くらいに分けて一分隊として動かすのはどうでしょうか」

「銀鳳騎士団(うち)だと、防御の第一中隊(エドガー隊)、攻撃の第二中隊(ディートリヒ隊)、遊撃の第三中隊(うちの隊)みたいな感じね」

「理解が早くて助かります」

 

 つまるところ、兵科を作る。仕事を分けて専業化すれば、少なくとも作業量で忙殺されるのは減るはずだ。

 

「分業化する際には、テレスターレの機能拡張で作った選択装備(オプションワークス)の発想も取り入れられそうですね」

「素体と専業装備で兵科を分けるってことか。仕事が増えるな」

「いつも発想を形にしてくれて、ありがとうございます」

 

 本当に、ダーヴィドだけでなく工房全体には頭が上がらない。

 

「では次、実際に法撃を交えて動いてもらったわけですが……魔力消費量が酷いですね」

「全力稼働させるとマナプール満杯でも四刻持たないとはな……」

「さすがに命を預けるには、ちょっと頼りないわ……」

 

 魔力転換炉(エーテルリアクタ)を持たない設計が牙を剥いてきたというか、現状の構成では運用上の限界が見えた試験結果であった。実用上でも、頻繁な充電……ではなく、蓄魔力を行わないとならないとは考えていたが、頻度がかなり多くなってしまう。そしてなにより――

 

「この問題を放置すると、幻晶騎士(シルエットナイト)の方にも負担が掛かりますよね」

「一回の初期魔力注入で、テレスターレの魔力貯蓄量(マナ・プール)が三割持っていかれるからな」

「戦闘中でも小休止でも、三割消費はちょっと重すぎない?」

「重いですね。対策考えないと……魔力補給…………ん?」

 

 前世の知識が囁く。内燃機関が広く流通した前世において、その原料となる燃料補給の手段は数多く考えられてきた。補給基地、燃料輸送網、燃料補給車――そう燃料補給車である。

 

「……親方。ツェンドルグが牽くキャリッジって、今どれだけ載せられますか?」

「なんだ唐突に……。確か、輸送用だと幻晶騎士(シルエットナイト)三機分の重量はいけるな」

「では、その積載重量の全てを、一基の魔力転換炉(エーテルリアクタ)と、板状結晶筋肉(クリスタルプレート)に割り当てることはできますか?」

「補修部品でも運ぶのか……? いや、待て、お前、魔力を運ぶのか!?」

「えっ、どういうこと?」

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)は当然重い。外装(アウタースキン)、金属内格(インナースケルトン)、結晶筋肉(クリスタルティシュー)、魔力転換炉(エーテルリアクタ)、魔導演算機(マギウスエンジン)、そして武装。これら全ての重量がのしかかっている。

 だが仮に、最小限の外装(アウタースキン)と一基の魔力転換炉(エーテルリアクタ)を備え、残りの積載重量を板状結晶筋肉(クリスタルプレート)に割り当てて、魔力貯蓄量(マナ・プール)を最大限に確保したキャリッジがあれば――

 

「魔力補給専門のキャリッジ。仮に命名するなら、魔力補給車(マナ・サプライヤー)ですかね。マナプールが少なくなった幻晶騎士(シルエットナイト)も、幻晶歩兵(シルエットトルーパー)もまとめて魔力補給できる兵站装備です」

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