「うーん、難しいですね……」
「魔力転換炉を一基使うのが問題だからなぁ」
王都カンカネンへ出発する前、魔力補給車の作製に必要な魔力転換炉を使用する許可を得るため、団長であるエルのもとへダーヴィドと共に向かった。概要を話すと、エルは難しい顔をして考え込んでしまった。判断としては本当に正しい。
この問題を難しくしているのは、魔力転換炉が非常に貴重な部品であり、検証もされていない補給装備に使うより新しい幻晶騎士を建造すれば、確実に戦力増強に繋がる点である。
「ただ、実現すれば有用な装備であることは予想できるんですよね」
「テレスターレの出力上昇で稼働時間が半減した問題も、ある程度は緩和できるのがデカいな」
「補給車本体を作ったとして、幻晶騎士に魔力を補給する方法は、幻晶歩兵で実績のある銀線神経を介した方法になりますかね?」
「確実なのはそれだろうな。魔力の移動云々は錬金術科の連中に聞いた方がいい」
今更説明するのも妙な話だが、錬金術科は結晶筋肉や銀線神経の製造を担当している。そのため、魔力に関する基礎知識は、騎操鍛冶師を上回る部分が多いという話だ。
素材の製造方法や細かい理論を知らなくても、活用する側としてはあまり問題にならないということでもある。
「仮に実現したとすれば、一台で何機の幻晶騎士と幻晶歩兵を補給できるかも問題になってきますね」
「まだ設計を詰めてないとはいえ、魔力転換炉一基にでけえ板状結晶筋肉の塊でしかないからな」
そうなのである。魔力転換炉は、稼働させれば継続的に魔力を供給できるが時間当たりの魔力供給量に上限がある。前世の記憶曰く、ジェネレーター出力とコンデンサ容量、エネルギー消費量と余剰出力の関係になるらしい。
幻晶騎士は、静止中なら魔力供給量が消費量を上回り、その差分が魔力貯蓄量に蓄積されていく。反対に、戦闘行動による魔力消費が供給量を上回ると、不足分を魔力貯蓄量から補うことになる。つまり、戦闘中は魔力貯蓄量に蓄えた魔力を消費しながら稼働しているわけだ。
前世の記憶曰く幻晶騎士は、余剰出力カツカツの容量特化型ジェネレーターを積んだEN兵器ガン積み短期決戦型アセンブリ、つまりは、息切れするまでは強いが、息切れすると途端に辛い構成という分類にあたるようだ。
では、魔力転換炉に手を加えて出力を上げればいいかといえば、そうもいかない。魔力転換炉の製造方法は完全に秘匿されており、加工を行おうにも内部に手を加える手段もないのだ。もし魔力転換炉そのものの出力を自由に引き上げられるなら、ツェンドルグも双発式魔力転換炉を採用する必要はなかったはずだ。
「関節部や可動部が少ないので、必要な強化魔法も最低限で済み、常時消費する魔力は少なそうですが……」
「魔力転換炉一基で幻晶騎士三機分の魔力貯蓄量を満たす時間を考えると、再充填まで相当な時間がかかりそうですね」
「金属内格と魔導演算機を積まなくていいなら、魔力貯蓄量的には幻晶騎士四機分近くまで行くんじゃないか?」
「板状結晶筋肉保護と魔力転換炉保持を担う内部構造が必要ですが、大体その辺りになりますね」
魔力貯蓄量の底が見えて自壊寸前の状態から、おおよそ二刻で幻晶騎士の魔力貯蓄量は万全の状態へと戻る。そうなると、大まかな計算では八刻前後で魔力補給車の魔力貯蓄量が満杯になる。実際には内部構造や強化魔法の維持などで条件が変わるため、多少の誤差は出るだろう。
「強化魔法の維持は、銀板に刻んだ紋章術式に任せるとして、魔力貯蓄量を満タンにする前提なら、一度に供給できる魔力量は、幻晶騎士四機分。実戦では全機が魔力切れ寸前まで戦うわけじゃないので、実運用なら六機前後を支援できるかもしれません」
幻晶騎士は、魔力が完全になくなると自重を支えられずに崩壊する。そのため通常は、魔力貯蓄量が三割を下回った段階で後方に下がり、回復を待つのが基本戦術になる。その点を踏まえれば、エルが出した六機前後という数は妥当だろう。
「幻晶歩兵だと、テレスターレの魔力貯蓄量の三割を送れば満タンになるので、空の状態からなら十三機分。継戦能力を考えると、一度の補給で支援できるのは六機程度でしょうか。魔力補給車が故障しても、ある程度は戦闘を継続できる余力を残しておきたいですし」
「魔力転換炉の供給能力も加味すると、八機はいけますよ。補給中でも魔力供給は続いていますし、幻晶歩兵は、一度満タンにすれば戦闘機動をしても三刻は動けますからね。魔力補給車の蓄積分だけでなく、再充填までの時間も含めて考えれば、八機編成は十分に現実的です」
「分隊を組ませるなら、偵察分隊は二機編成。通常分隊なら四機編成で考えると八機で一台はかなり良さそうかな?」
幻晶歩兵の分業を考えた以上、部隊を組ませるのは必然である。その編成を、中核となる魔力補給車で決められるなら、規模を考えやすくなる。
「幻晶騎士本体と魔力補給車、両方の魔力転換炉を活かせれば、どちらかの魔力貯蓄量が減っていても補給と再充填を並行できる。戦線復帰までの時間は確実に短くなるな」
「魔力転換炉一基を直接戦力にしないで得られる戦力が、二倍動ける幻晶騎士六機か幻晶歩兵八機だとちょっと弱いかな……?」
「大隊規模だと、複数用意しないと効果を実感できないでしょうね」
費用対効果はかなり控えめか……? でも、ないと幻晶歩兵の実働には強い制限がかかる。他の策はあるだろうか?
「現状まともに動けるツェンドルグは一機だけで、そちらは模擬試合に出す機体の輸送に割り当てるので、カンカネンに持っていくのは無理ですね」
「そもそも作る時間もないしな」
「魔力転換炉の出力を上げられればなぁ……」
いい発想だと思ったのだが、運用上での課題が山積みだ。魔力供給能力を上げたいが、双発式にすると費用対効果がより悪化する。魔力転換炉そのものの高出力化は、事実上不可能。強化魔法の強度を下げて、余剰出力を確保するのが現状でのベストになるだろうか? ただ、構造維持に必要な強化を下回ると、振動や衝撃で壊れたり、自重を支えられずに崩壊する恐れがある。その辺りの境界を探るのも課題になるだろう。
「まあ、研究成果発表で概念を説明して、実物は戻ってから試験しましょうか」
「そうだな。まずは模擬試合に集中だ」
「あっ、作りはするんですね」
「僕たちは開発が専門分野の騎士団ですからね。量産するかの判断は、上に任せます」
「それ実質王家じゃん……」
銀鳳騎士団は王家直属である。つまり上司は王家である。お通し感覚で最高権力者を出してくるんじゃない。
「それとリヴァ。あなたを情報管制官に任命します」
「…………ゑ゙?」
そういうのはもっと早く言ってほしかった!