ナイツ&シグナル   作:伊倉軍貫

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第十九話 補給

「うーん、難しいですね……」

「魔力転換炉(エーテルリアクタ)を一基使うのが問題だからなぁ」

 

 王都カンカネンへ出発する前、魔力補給車(マナ・サプライヤー)の作製に必要な魔力転換炉(エーテルリアクタ)を使用する許可を得るため、団長であるエルのもとへダーヴィドと共に向かった。概要を話すと、エルは難しい顔をして考え込んでしまった。判断としては本当に正しい。

 この問題を難しくしているのは、魔力転換炉(エーテルリアクタ)が非常に貴重な部品であり、検証もされていない補給装備に使うより新しい幻晶騎士(シルエットナイト)を建造すれば、確実に戦力増強に繋がる点である。

 

「ただ、実現すれば有用な装備であることは予想できるんですよね」

「テレスターレの出力上昇で稼働時間が半減した問題も、ある程度は緩和できるのがデカいな」

「補給車本体を作ったとして、幻晶騎士(シルエットナイト)に魔力を補給する方法は、幻晶歩兵(シルエットトルーパー)で実績のある銀線神経(シルバーナーヴ)を介した方法になりますかね?」

「確実なのはそれだろうな。魔力の移動云々は錬金術科の連中に聞いた方がいい」

 

 今更説明するのも妙な話だが、錬金術科は結晶筋肉(クリスタルティシュー)や銀線神経(シルバーナーヴ)の製造を担当している。そのため、魔力に関する基礎知識は、騎操鍛冶師(ナイトスミス)を上回る部分が多いという話だ。

 素材の製造方法や細かい理論を知らなくても、活用する側としてはあまり問題にならないということでもある。

 

「仮に実現したとすれば、一台で何機の幻晶騎士(シルエットナイト)と幻晶歩兵(シルエットトルーパー)を補給できるかも問題になってきますね」

「まだ設計を詰めてないとはいえ、魔力転換炉(エーテルリアクタ)一基にでけえ板状結晶筋肉(クリスタルプレート)の塊でしかないからな」

 

 そうなのである。魔力転換炉(エーテルリアクタ)は、稼働させれば継続的に魔力を供給できるが時間当たりの魔力供給量に上限がある。前世の記憶(ACはいいぞおじさん)曰く、ジェネレーター出力(魔力供給能力)とコンデンサ容量(マナプール総量)、エネルギー消費量(機体の魔力消費量)と余剰出力(実際の魔力回復量)の関係になるらしい。

 幻晶騎士(シルエットナイト)は、静止中なら魔力供給量が消費量を上回り、その差分が魔力貯蓄量(マナ・プール)に蓄積されていく。反対に、戦闘行動による魔力消費が供給量を上回ると、不足分を魔力貯蓄量(マナ・プール)から補うことになる。つまり、戦闘中は魔力貯蓄量(マナ・プール)に蓄えた魔力を消費しながら稼働しているわけだ。

 前世の記憶(ACはいいぞおじさん)曰く幻晶騎士(シルエットナイト)は、余剰出力カツカツの容量特化型ジェネレーターを積んだEN兵器ガン積み短期決戦型アセンブリ、つまりは、息切れするまでは強いが、息切れすると途端に辛い構成という分類にあたるようだ。

 

 では、魔力転換炉(エーテルリアクタ)に手を加えて出力を上げればいいかといえば、そうもいかない。魔力転換炉(エーテルリアクタ)の製造方法は完全に秘匿されており、加工を行おうにも内部に手を加える手段もないのだ。もし魔力転換炉(エーテルリアクタ)そのものの出力を自由に引き上げられるなら、ツェンドルグも双発式魔力転換炉(エーテルリアクタ)を採用する必要はなかったはずだ。

 

「関節部や可動部が少ないので、必要な強化魔法(ハードスキン)も最低限で済み、常時消費する魔力は少なそうですが……」

「魔力転換炉(エーテルリアクタ)一基で幻晶騎士(シルエットナイト)三機分の魔力貯蓄量(マナ・プール)を満たす時間を考えると、再充填まで相当な時間がかかりそうですね」

「金属内格(インナースケルトン)と魔導演算機(マギウスエンジン)を積まなくていいなら、魔力貯蓄量(マナ・プール)的には幻晶騎士(シルエットナイト)四機分近くまで行くんじゃないか?」

「板状結晶筋肉(クリスタルプレート)保護と魔力転換炉(エーテルリアクタ)保持を担う内部構造が必要ですが、大体その辺りになりますね」

 

 魔力貯蓄量(マナ・プール)の底が見えて自壊寸前の状態から、おおよそ二刻で幻晶騎士(シルエットナイト)の魔力貯蓄量(マナ・プール)は万全の状態へと戻る。そうなると、大まかな計算では八刻前後で魔力補給車(マナ・サプライヤー)の魔力貯蓄量(マナ・プール)が満杯になる。実際には内部構造や強化魔法(ハードスキン)の維持などで条件が変わるため、多少の誤差は出るだろう。

 

「強化魔法(ハードスキン)の維持は、銀板に刻んだ紋章術式(エンブレム・グラフ)に任せるとして、魔力貯蓄量(マナ・プール)を満タンにする前提なら、一度に供給できる魔力量は、幻晶騎士(シルエットナイト)四機分。実戦では全機が魔力切れ寸前まで戦うわけじゃないので、実運用なら六機前後を支援できるかもしれません」

 

 幻晶騎士(シルエットナイト)は、魔力が完全になくなると自重を支えられずに崩壊する。そのため通常は、魔力貯蓄量(マナ・プール)が三割を下回った段階で後方に下がり、回復を待つのが基本戦術になる。その点を踏まえれば、エルが出した六機前後という数は妥当だろう。

 

「幻晶歩兵(シルエットトルーパー)だと、テレスターレの魔力貯蓄量(マナ・プール)の三割を送れば満タンになるので、空の状態からなら十三機分。継戦能力を考えると、一度の補給で支援できるのは六機程度でしょうか。魔力補給車(マナ・サプライヤー)が故障しても、ある程度は戦闘を継続できる余力を残しておきたいですし」

「魔力転換炉(エーテルリアクタ)の供給能力も加味すると、八機はいけますよ。補給中でも魔力供給は続いていますし、幻晶歩兵(シルエットトルーパー)は、一度満タンにすれば戦闘機動をしても三刻は動けますからね。魔力補給車(マナ・サプライヤー)の蓄積分だけでなく、再充填までの時間も含めて考えれば、八機編成は十分に現実的です」

「分隊を組ませるなら、偵察分隊は二機編成。通常分隊なら四機編成で考えると八機で一台はかなり良さそうかな?」

 

 幻晶歩兵(シルエットトルーパー)の分業を考えた以上、部隊を組ませるのは必然である。その編成を、中核となる魔力補給車(マナ・サプライヤー)で決められるなら、規模を考えやすくなる。

 

「幻晶騎士(シルエットナイト)本体と魔力補給車(マナ・サプライヤー)、両方の魔力転換炉(エーテルリアクタ)を活かせれば、どちらかの魔力貯蓄量(マナ・プール)が減っていても補給と再充填を並行できる。戦線復帰までの時間は確実に短くなるな」

「魔力転換炉(エーテルリアクタ)一基を直接戦力にしないで得られる戦力が、二倍動ける幻晶騎士(シルエットナイト)六機か幻晶歩兵(シルエットトルーパー)八機だとちょっと弱いかな……?」

「大隊規模だと、複数用意しないと効果を実感できないでしょうね」

 

 費用対効果はかなり控えめか……? でも、ないと幻晶歩兵(シルエットトルーパー)の実働には強い制限がかかる。他の策はあるだろうか?

 

「現状まともに動けるツェンドルグは一機だけで、そちらは模擬試合に出す機体の輸送に割り当てるので、カンカネンに持っていくのは無理ですね」

「そもそも作る時間もないしな」

「魔力転換炉(エーテルリアクタ)の出力を上げられればなぁ……」

 

 いい発想だと思ったのだが、運用上での課題が山積みだ。魔力供給能力を上げたいが、双発式にすると費用対効果がより悪化する。魔力転換炉(エーテルリアクタ)そのものの高出力化は、事実上不可能。強化魔法(ハードスキン)の強度を下げて、余剰出力を確保するのが現状でのベストになるだろうか? ただ、構造維持に必要な強化を下回ると、振動や衝撃で壊れたり、自重を支えられずに崩壊する恐れがある。その辺りの境界を探るのも課題になるだろう。

 

「まあ、研究成果発表で概念を説明して、実物は戻ってから試験しましょうか」

「そうだな。まずは模擬試合に集中だ」

「あっ、作りはするんですね」

「僕たちは開発が専門分野の騎士団ですからね。量産するかの判断は、上に任せます」

「それ実質王家じゃん……」

 

 銀鳳騎士団は王家直属である。つまり上司は王家である。お通し感覚で最高権力者を出してくるんじゃない。

 

「それとリヴァ。あなたを情報管制官に任命します」

「…………ゑ゙?」

 

 そういうのはもっと早く言ってほしかった!




護衛対象なのに役職なしだったリヴァ、情報管制官就任。理由は次回にでも。
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