「情報管制官って……なにをするのかはなんとなくわかるけど、なんで今?」
「研究成果の発表で魔力式無線通信機のこともお伝えするので、その担当を決めないといけなかったんです。魔力式無線通信機の運用に一番慣れているのは、間違いなく僕たちです。それは分かりますね?」
エルの言葉に、頷いて応じる。
ある意味当然ではある。前世の記憶由来で完成形の知識がある分、迷走しにくい。だからこそ、銀鳳騎士団の構成員の中でも魔力式無線通信機の運用に関しては、私たちが頭二つ分ほど突き抜けているのは事実だ。
「魔力式無線通信機は新しい技術で、騎士団員も慣れるために訓練はしていますが、新しい技術だけあって習熟まで時間がかかります。そして、情報を必要な場所に送るのは、リヴァの得意分野です。それも分かりますね?」
「……つまり、銀鳳騎士団では魔力式無線通信機で情報を的確に扱える人材が私かエルの二択で、地図の扱いと情報整理に長けた私に任命したと」
「身も蓋もない言い方ですが、そうです」
任命理由を聞けば、まあ納得である。納得ではあるのだが……。
「もうちょっと早めに言ってほしかったなぁ……」
「お前の立ち位置、俺たち騎操鍛冶師から見ても宙ぶらりんだったからな」
「騎士団所属の騎操士なのに、中隊所属じゃなくて工房付きみたいな感じだったからね……護衛対象なのに」
「細かい理論や法整備草案は、既に報告書を送っているので、リヴァは運用面での話が主になります」
「うわぁ、隅々まで掘り返されそう……」
魔力式無線通信機は、未だ完成とは胸を張って言えない代物である。それでも情報技術革新を引き起こせる代物であるため、王家に情報を上げて、法整備や禁止事項の制定を進めてもらった方がいいだろう。ひとまず、関係者以外への情報流出は、重罪に問われることになりそうだ。……基礎研究を手伝ってもらっている教官たちにも、情報管理の責任が及ぶのだろうか?
「まあ、唐突だけど理解はした。……情報管制官、拝命します」
――というわけで、宙ぶらりんだった私に役職がついたのだ。
「ところで、この任命は騎士団全体に伝えなくていいのか?」
「「……あっ」」
王都カンカネンへ向かう直前に、この任命は全体に伝えられた。急遽書き上げることとなった報告書と運用計画書でふらふらになった私は、大半の団員からまたしても憐れみの目で見られることとなった。
――――――
さて、王都カンカネンへと移動し、今は観戦席から模擬試合を見ているところだ。
銀鳳騎士団陣営は、オルター姉弟が駆るツェンドルグが騎兵突撃戦法を繰り返し、エルが駆るトイボックスは、開幕と同時に魔導噴流推進器で飛翔して観戦者の度肝を抜いて以降、魔力切れなのか、国機研陣営の陣地で沈黙している。エドガー先輩とディートリヒ先輩が駆るテレスターレは、それぞれ選択装備で特色を持たせた構成で奮闘している。
相手側である国機研陣営は、以前送ったテレスターレの資料をもとに量産向けの調整を施した、カルダトア・ダーシュという次期量産型試作機を投入してきた。操縦するのは、アルヴァンズという精鋭の騎操士集団だそうだ。
試合運びとしては、装備の質というか、奇抜さと基礎性能の高さで銀鳳騎士団陣営が初動は優勢だった。しかし、戦闘経験豊富な騎操士を擁する国機研陣営が装備の性質を見抜き、堅実に巻き返してきている。
言うまでもないが、長期戦になると銀鳳騎士団陣営は非常に弱い。単純に学生を中核とした騎士団であることから来る騎操士の経験不足も大きいが、新技術を盛り込んだ銀鳳騎士団の機体には、運用面で共通する課題もある。
銀鳳騎士団陣営の機体は、基礎的な膂力ではカルダトア・ダーシュを上回っている。白いテレスターレが鍔迫り合いで相手をかなり押し込んでいることからも、それは明らかだ。しかし、最後には受け流されている。
一方のカルダトア・ダーシュは、過剰な追従性や燃費の悪さといった問題を抑えるため、性能を多少犠牲にしてでも扱いやすさを優先しているように見える。
正直、私個人としては、流石は長年にわたり幻晶騎士を建造し続けてきた国機研の知見が詰まった仕事だと感心してしまう。
前世の記憶曰く、昨日までカルダトアに乗っていた騎操士に、反応速度と筋力が高すぎるテレスターレを与えても機種転換訓練を経て、慣れるまでに相当な時間がかかってしまう。それくらいなら、突出した高性能を追わず、操作感を維持したまま堅実に性能を強化したカルダトア・ダーシュを作るのは、量産機として極めて当然とのことだ。
そうこうしているうちに、強襲できるだけの魔力を回復させたトイボックスが、背後から国機研陣営の隊長機を襲撃。こうして模擬試合は、銀鳳騎士団の辛勝に終わった。国機研側は、沈黙しているトイボックスよりも、戦闘を続けているツェンドルグやテレスターレへの対処を優先していた。その判断の隙を突いた、奇襲による一点突破の勝利だ。正直、二回目があれば順当に負けそうだ。
……さて、ここからが私の本番だ。
――――――
「それでは、銀鳳騎士団が開発した幻晶甲冑の発展型、幻晶歩兵の紹介に入ります」
エルが観戦席に集まった人たちの前で、説明を始める。その面子はそうそうお目にかかれない天上人だらけだ。
アンブロシウス・タハヴォ・フレメヴィーラ先王陛下。銀鳳騎士団の後ろ盾となっている重要人物だ。
リオタムス・ハールス・フレメヴィーラ国王陛下。言うまでもなく国王陛下である。
ヨアキム・セラーティ侯爵。テレスターレ関連の開発責任者として、後ろ盾になっている。銀鳳騎士団で大変お世話になっている小型魔導演算機の導入にも関わりがあった人物らしい。
ガイスカ・ヨーハンソン第一工房長。国立機操開発研究工房でカルダトア・ダーシュの開発を率いる人物だ。
オルヴァー・ブロムダール工房所長。国立機操開発研究工房所属の技術者でもあるが、どちらかと言えば責任者として折衝を担当している人のようだ。
……なんでこんな天上人の群れの中に、商家の娘が紛れ込んでいるんですか?