第一章 第四話
地図
野外演習。つまるところクロケの森実習初日である。
こんな日でも、なのか。こんな日だからこそ、なのか。私はいつも通りの携行品――つまるところ、いつもの地図関連満載に銃杖、銃剣部分は危ないので鞘を付けて、背嚢に食糧水筒予備の下着に靴下その他諸々を詰め込んで準備万端。
護衛であろう新品ピカピカの幻晶騎士が門から出てくるのを見届け、馬車に乗り込みいざ出発である。
――――――
移動中、早速暇を持て余した私は、同じ馬車に乗った子に断りを入れた上で地図を広げ、現在地をトレースしていた。移動速度は急ぐものではないからかゆったりとした速度で、時々石や枝でも踏むのか馬車から尻と腰に衝撃を叩き込んでくる。
(サスペンションとか作れたらお尻痛くならないんだろうけど、作り方なんて知らないからなぁ)
前世の記憶は発想を与えてはくれるが、構造や作り方なんて細かい所を憶えていないのだ。パンという完成品を知っていても、材料と作り方、どれだけ焼けばいいのがまるで分からないようなものである。
名前とどんな効果があるのか、どんな使い方かが分かっても、肝心なところで役に立たない脳内サムズアップおじさんはごめん寝をしていた。
そんなこんなで馬車に腰を叩かれながら地図を見ていると、気になったのか同じ班の子が話しかけて来た。
「リヴァ。今どのへんだ?」
「ちょっと待って……今はヤントゥネンまでの道を四割進んだとこ」
同級生の男の子が聞いてきたが、道の泥濘もないし、尻と腰へのダメージを除けば実に順調な行程である。
「…クロケの森に付くまで、あとどれくらい?」
「一度ヤントゥネンで補給してからクロケの森で、この調子だと騎獣の休憩も挟まないといけないから……んー、休憩時間にもよるけど、明後日の昼過ぎかな」
そう告げると、その子は両手で顔を覆ってしまった。
気持ちは分かるけど速度的には最高に近いよ。そう言わないだけの優しさは私にもあった。
――――――
それから馬車に揺られ続けて大体一日が経った頃、ほぼ予測通りの時間にクロケの森に到着し、馬車から這い出した腰を破壊されかけたゾンビたち…もとい、同級生達が森の精気を吸って人間へと生き返っていく。私も次があるなら必ず良いクッションを持ち込むと固く誓いながら馬車を降りる。
教官の号令で、私達中等部一年生はテントの設営を開始する。テントの設営が終われば今夜の夕食を自ら作るのだが……。
「リヴァは食材切るまでだからな?味付けはするんじゃないぞ?」
「………わかった」
私が言うのも何だが、私の料理は味が雑と大変不評なのである。
『食べられなくはないし飲み込めないほど不味くはないけど、一口食べるごとに食欲が無くなっていく』
なんて言われたこともある。父もこれだけはフォローのしようが無かったのか、無言で頭を撫でてきた。娘はその優しさが辛いよ、父よ。
きっとこの料理下手は、『お湯を注いで三分は手料理』とか言い放つ
そうやって
移動中は塩漬けされた干し肉や、ガチガチに焼き固めたパンのような物体を食べていたからか、温かさに飢えた身体が、同級生が整えた具の切り方が不揃いの温かいシチューを最高の料理へと変貌させ、班員である四人全員が無言で掻き込む。
食べ終えた頃にはすっかり日は落ち、人心地ついたところでテントの中へ潜り込む。夜警は上級生の担当だ。
――獣の遠吠えが聞こえる。
思わず地図を広げて、退路を確認したくなる。
同級生達もざわついている。外には夜警をしてくれている先輩達がいる。大丈夫な筈だ。
いざという時の退路は、馬車の中で何度も確認した。方位磁針があるから、現在地を見失っても方位までは見失わない。
ざわつく一年生達を宥める上級生の声を聞きながら、そんなことを考えていた。
夜の森は獣の領域だ。人は明かりがなければ視界が大きく制限されるのに、森は明かりがあっても遠くまで届かない。
逆に獣は夜の闇に慣れている。見えなくても鼻が利く。耳だって良い。
そんなネガティブな思考を振り払い『そんな装備で大丈夫か?』と囁いてくる
長い一日が終わる。終わってしまったのだ。
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原作には登場しない本作オリジナル魔法。
詳細は前話通り低攻撃力。低消費魔力。中度行動阻害能力を持つスタンガンモドキ。感電による痺れで人間相手であれば一秒程度の隙を作り、その後も痺れの影響で一定時間力が上手く入らない状態にも出来る。そんなものが視認困難な状態で飛んでくるので嫌われた。
熟練したことと銃杖を手に入れたことで、無詠唱で放ちつつ銃剣に纏わせて斬り掛かってくるようにもなった。ボロクソ言われるのも当然の魔法である。