貞操逆転世界のメンズエステで働くことになった 作:カラスあげます
遮光カーテンで外光が完全に遮られた施術ルームには、どこか冷ややかな静寂が充満していた。
アロマディフューザーから立ち上る微かな霧が、橙色の間接照明に照らされて揺らめき、ラベンダーの甘い香りと、先ほど振りかけられたパウダーの微粒子が混ざり合った独特の匂いが部屋の空気を満たしている。
その部屋のただ中で、俺は全裸のまま、アイマスクで目元を完全に覆われた状態で四つんばいにさせられていた。
視界が根底から奪われていることの恐ろしさは、時間が経てば経つほど増していく。
自分の身体が今、どういう空間の配置の中にあり、どんな歪な姿を晒しているのかを、脳内の想像力だけに頼らざるを得ないからだ。
しかも、パウダーマッサージによって頭から足の先まで際限なくじらされ、愛撫され続けた結果、俺の皮膚の表面は、まるで剥き出しの神経そのもののように鋭敏化していた。肌をかすめる微風すら、波紋のように過剰な刺激となって脳幹を揺さぶってくる。
自分がどのような格好で固まっているのかを自覚するたび、猛烈な羞恥が胸を締め付けた。
完全に素っ裸の男が、ベッドの上で両肘と両膝をつき、お尻を持ち上げているのだ。
紙パンツすら履いていない後ろ姿は、隠すべき秘部や股間のすべてを無防備に晒し出している。
「コウさん……本当に可愛いですよ……♪」
俺の真後ろ――ベッドの端に腰を下ろしているであろうコトネの、低く湿った声が耳に届いた。
彼女の呼吸は、先ほどからどこか荒く、甘い熱を帯びている。普段のおしとやかで完璧なお嬢様としての仮面が剥がれ落ち、その奥に潜む怪しい歓喜が吐息となって漏れ出していた。
直後、お尻の肉の柔らかい部分に、コトネの指先が触れた。
滑らかな皮膚の感触。しかしそれは単なる手掌の接触ではなく、彼女の長い爪の先をほんの少しだけ立て、肌の表面をかすかに撫で擦るような、極限のフェザータッチだった。
「ひっ……!!?」
ゾクゾクっとした電撃的な快感と強烈なくすぐったさが、お尻の皮膚から腰の骨を通して脊髄を一気に駆け上がった。
四つんばいの姿勢のまま、俺は耐えきれずに思わずお尻を後ろへ引き、彼女の手から逃れようとしてしまう。
だが、腰を引いたことで、コトネの手は一度お尻から離れたものの――。
「ダメですよ……? 私の許可なく逃げようとしたら……」
冷ややかな、しかしどこか弾んだ声が頭上から降ってきた。
次の瞬間、引き戻された俺の太ももの裏側と、足の裏の窪みに向けて、コトネの両手が素早く伸びてきた。
さわさわさわ……と、パウダーの粒子を介した微細な愛撫が、容赦なく繰り出される。
「あはっ……! ひ、ひゃああっ……!」
足裏と太もも裏という、身体の中でもトップクラスに過敏な部位を同時に刺激され、俺の身体はイモムシのように大きく跳ね上がった。
膝をぎゅっと固く閉じ、逃げるため引いていた腰を、今度はくすぐったさに耐えかねて反射的に前へと突き出すように元の位置へ戻してしまう。
「ふふ……まるで操り人形みたいですね……♪ 逃げようとしても、結局は私の思い通りの位置に戻ってきてしまうんですから……」
コトネの愉しげなクスリという笑い声。
「でも……操り人形にしては、ここがあまりにも熱すぎますけれど……?」
その囁きと同時に、コトネの両手が、太もも裏から一気に股間の裏側へと滑り込んできた。
「っ……!?!?」
四つんばいに開かれた両脚の間。その真下で重力に逆らえず怒張し、熱を帯びて反り返っている俺の最頂部と玉に、彼女の温かい両手が包み込むように触れてきたのだ。
あまりの直接的な刺激と衝撃に、四つんばいの姿勢を維持している俺の腰が、ガクガクと激しく震え始めた。
手首と膝にうまく力が入らず、ベッドのマットレスへと崩れ落ちそうになるのを必死で耐える。
「あ……ぁ……っ、コトネ……さん……っ!」
「あんなに可憐なふりをして……女性に好き放題触られて、こんなに大きく興奮しちゃって……♪ コウさんは、とんだ変態さんだったんですね……?」
耳元で繰り出される、容赦のない言葉の暴力。
清楚なお嬢様であるはずの彼女の口から吐き出される、歪んだ蔑みの言葉。それが、目隠しをされた全裸の俺の脳内に、恐ろしいほどの背徳感となって突き刺さる。
「私にあんなに好き放題していた時の、余裕たっぷりなセラピストのコウさんは、一体どこに行っちゃったんですかー? ん?」
コトネの指先が、怒張した茎の筋に沿って、パウダーの滑らかさを利用しながら、ゆっくりと、しかし確実に擦り上げていく。
「んんっ……! ぁっ……! あぐっ……!」
返事をする余裕など、ミリ単位すら残されていなかった。
声を出せば、そのまま情けない喘ぎ声や悲鳴になって漏れ出てしまう。
俺はアイマスクの下で目を固く閉じ、歯を食いしばりながら、彼女の一挙手一投足に翻弄され、ただ身体をビクビクと揺らすことしかできなかった。
屈辱と、興奮と、圧倒的な快感と、全身を苛むくすぐったさ。
それらの感情と感覚が混ざり合い、脳の容量をオーバーして激しいパニックが襲いかかる。
もう限界だった。これ以上この体勢で攻め立てられたら、理性が跡形もなく吹き飛んでしまう。
俺は半ば自棄になり、再びガクガクと震える腰を大きく後ろへ引き、彼女の拘束から逃れようと体をよじった。
「あら……」
コトネの手が股間から離れる。
「本当に、困った方ですね……。せっかく可愛がってあげているのに、何度も逃げようとするなんて」
暗闇の中で、衣擦れの音と、床のマットを踏みしめる小さな足音が聞こえた。
コトネが、俺の身体の真後ろから、お腹の横――左側の側面あたりへと移動した気配が伝わってくる。
「も……もう限界です……っ! 許してください……コトネさん……っ!」
俺は荒い息を吐き出しながら、掠れた声で必死に許しを請うた。
顔をベッドに擦り付けるようにして、情けなく命乞いをする。
だが、頭の片隅で、冷や汗とともに恐ろしい思いつきが首をもたげていた。
(……やばい。俺は、取り返しのつかないことをしてしまったんじゃないか……?)
この一連の過激すぎる愛撫、言葉攻め、そして俺の反応を心底楽しんでいるような彼女の態度。
間違いない。俺は前回の施術と、今回の脅迫を通じて、この慶明大学の超絶美少女・コトネの中に眠っていた「サド性癖」を、本格的に目覚めさせてしまったのではないだろうか。
お店という建前が存在し、施術ルームという空間で、形式上はセラピストと客という関係を維持している今ですら、ここまでの責め苦を与えられているのだ。
もし……施術前に俺が浅はかにも考えていたように、店を介さない個人間の「セフレ」なんて関係に移行してしまったらどうなる?
プライベートな密室で、何の制約もなく彼女と二人きりになったとき、一体どんな恐ろしいことをされるというのか。
想像するだけで、背筋に氷を押し当てられたような猛烈な戦慄が駆け抜ける。
(セフレになれば問題解決かも……なんて考えていた数十分前の自分を、本気で殴り倒したい……!!)
自分の思慮の浅さと楽観主義に、猛烈な後悔が押し寄せる。
この女は、俺がどうにかコントロールできるような生ぬるい相手ではないのだ。
そんな俺の内心の絶望を余所に、横に位置取ったコトネの指先が、静かに動き出した。
「ふふ、許してほしいなら……もっと可愛い顔を見せてくださいね♪」
直後――。
カリッ。
「ひっ!?!?!」
鋭い刺激が胸元を襲った。
コトネの整えられた爪先が、無防備に放り出されていた俺の左乳首を、弾くように細かくピンポイントで刺激したのだ。
全身が跳ね上がるほどの激痛と快感。身体がビクンと大きく波打つ。
さらに、間髪を入れずに、もう片方の手が俺のお腹から脇腹、そしてお尻の横ラインへと伸ばされてきた。
その手つきは、触れているのか触れていないのかすら判別できないほど微細な、極上のフェザータッチ。絶妙な緩急をつけながら、パウダーのさらさらとした感触とともに、皮膚の最も敏感な表面だけを撫で回してくる。
「はあっ……! んぐっ……や、やめ……っ!」
俺は必死に身体をよじらせ、腰を引いて逃げようと試みた。
しかし、先ほどとは状況が全く異なっていた。
彼女は俺の横側に位置取っているため、俺が腰を後ろに引こうが前へ突き出そうが、横からの攻撃範囲から逃れることができないのだ。
「どこへ逃げるつもりですか……? 無駄ですよ♪」
せめて、最も激しく責められている脇腹や乳首の位置をずらそうと、上半身をひねり、悶絶しながら抵抗する。
だが、コトネの指先は無慈悲な精度で俺の動きを追尾してきた。
まるでこちらの骨格や神経の位置をすべて見透かしているかのように、的確に、逃げ場のない敏感なポイントばかりをかすめていく。
「ほら……こんなに身体をよじらせて。どこに触れられても、全部ビクビク反応していますよ?」
さわさわさわ……と、脇の下からあばら骨にかけて、指先が滑らかな円を描く。
「ひぁああっ! ……あっ、くすぐった……っ!」
「くすぐったいんですか? それとも……本当は気持ちいいんですか?」
カリッ、と再び乳首を爪で引っ掻かれると同時に、お腹の柔らかい皮を優しく撫でられる。
「んんんっ……!!」
「あの日……私をあのベッドの上で弄んでくれた時、コウさんはどんなお気持ちだったんですか? 『このお嬢様、世間知らずで扱いやすいな』なんて思っていたんでしょうか……?」
耳元近くに滑り込んできたコトネの声が、軽蔑とサディスティックな歓喜を含んで鼓膜を揺らす。
「本当は……こうやって女性に全身を弄ばれて、惨めに鳴き声を上げるのが大好きな、いかがわしい体質だったんですね……♪」
「ち、ちがっ……俺は……っ!」
「何が違うんですか? 現に、こうして目隠しをされて素っ裸で四つんばいになって……私の指先ひとつで、こんなに情けない悲鳴を上げているじゃないですか」
言葉攻めのナイフが、容赦なく俺の自尊心を削ぎ落としていく。
そしてその言葉と連動するように、彼女の指先は縦横無尽に俺の皮膚を駆け巡った。
脇腹からお尻の丸みへ、そして腰骨の窪みから胸元へ。
パウダーのサラサラとした触感が、指先の微小な圧力を何倍にも増幅させ、過敏になりすぎた神経細胞をダイレクトに叩く。
「あ……あぁっ……! もう……もう無理……っ!」
くすぐったさと快楽の暴風雨の中で、俺は涙目になりながら、ただひたすら身体を痙攣させることしかできなかった。
四つんばいの姿勢は崩れかけ、両腕はガタガタと震え、額からはダラダラと冷や汗が垂れ落ちてベッドのタオルを濡らしていく。
目が見えない真っ暗闇の中で、どこから爪が立てられ、どこからフェザータッチが来るのか予測もつかない。
恐怖と狂おしいほどの刺激が延々と続き、俺の思考力は完全に停止していた。
どれほどの時間が経過したのだろうか。
永遠にも思える責め苦の中で、俺がただ情けない声を漏らし続けていた、その時。
「――あら」
ふと、コトネが指先の動きをピタリと止めた。
彼女の少し上ずった声が、静かな部屋に響く。
「ふふ……つい夢中になってしまいました。いけませんね、この辺にしておかないと、次の施術工程にいけないですものね♪」
パッと、全身を苛んでいた恐ろしい愛撫の手が完全に離れた。
「……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
俺はベッドの上に両肘をついたまま、ガタガタと全身を震わせ、浅い荒い息を繰り返すことしかできない。
頭の中は真っ白で、声を出そうにも喉がカラカラに干上がっていて、掠れた吐息しか漏れなかった。全身の筋肉が疲労と緊張で悲鳴を上げており、指一本動かすことすら億劫だった。
そんな満身創痍の俺を見下ろしながら、コトネは優雅に服の擦れる音を立たせ、鈴を転がすような声で次の命令を下した。
「それでは……仰向けになってください♪」
「……っ」
「ここからは……オイルでのマッサージも試させていただきますね?」
コトネの言葉に、俺の心臓がドクンと嫌な跳ね方をした。
パウダーマッサージだけで、俺の神経は極限まで磨ぎ澄まされ、完全に破壊されていたのだ。
ここからさらに、あのぬるりと温かいオイルが全身に塗られ、彼女のサディスティックな手つきで愛撫されるとなれば――一体俺の身体はどうなってしまうのか。
だが……今の俺には、反抗する余力も、言葉を発して抵抗する気力すらも残されていなかった。
(……はい……)
声にもならない承諾を心の中で呟き、俺は虚ろな意識のまま、手探りでベッドの上で身体を反転させた。
重い体を引きずるようにして仰向けになり、無防備な前面を天井に向けて放り出す。
アイマスクの暗闇の中、もうろうとする意識の中で、俺の脳裏に浮かんできたのはただ一つの猛烈な後悔だった。
(どうして……どうしてあの日、俺は調子に乗ってしまったんだろう……)
最初にコトネが来店したあの時。
お嬢様だからと、少しからかうような気持ちで、過激なオイル施術を行って彼女を悶えさせてしまったあの日。
プロのセラピストとしての矜持を忘れ、自分の技術に酔いしれて彼女を追い詰めてしまった、あの軽率な行動。
すべての元凶は、自分自身のあの一片の傲慢さにあったのだ。
その報いが、今、何十倍もの巨大な恐怖と屈辱となって、自分自身に跳ね返ってきている。
「ふふ……準備はできましたか? それでは……もっと気持ちよくなってくださいね、コウさん♪」
カチャリと、オイルボトルのキャップを開ける静かな音が響いた。
冷たい空気が全裸の胸元を撫でる中、俺はただ迫り来る次の地獄を前に、諦めと後悔の海へと沈んでいくしかなかった。