貞操逆転世界のメンズエステで働くことになった 作:カラスあげます
興奮が冷めやらぬまま、薄暗い部屋の空気はさらに密度を増していた。
うつ伏せでベッドに横たわる白石さんの、無防備な下半身。
その圧倒的な肉感と生々しい存在感を前に、俺の心の中では激しい葛藤が渦巻いていた。
(……やばい。本当に、このまま流されたらどうなるんだ……?)
男としての本能や性的な欲求が、脳の奥底で鈍く疼いているのは紛れもない事実だった。元々の世界と同じ肉体を持つ俺にとって、目の前に広がる大人の女性の柔らかそうな肌や豊かな曲線は、直視するだけで頭がクラクラするほどの毒を持っている。神崎さんとの研修のときは、奇跡的に電話が鳴って中断された。だが、今回はそんな都合の良いハプニングなんて起こりそうにない。
(だけど……ここは健全なメンズエステのはずだ)
雑居ビルの密室、アロマの香りに隠された異様な熱気。神崎さんが研修のときに何度も強調していた「絶対に、絶対に大声を出してはいけない」という言葉が、不気味な警告となって頭の中で繰り返す。
もし、客のペースに巻き込まれるまま一線を越えてしまったら?
もしそれが外の人間に漏れたり、警察のガサ入れでも入ったりしたら?
ただでさえ怪しいバイトに手を染めている俺の大学生活は、一瞬で崩壊する。親への申し訳なさ、社会的な死、自分の未来――ぐるぐると渦巻く思考が、熱くなった頭を必死に冷まそうと警鐘を鳴らし続けていた。
(マッサージをしながら、向こうから触られることがあっても……そういった行為を求められて応じるような真似だけは、絶対に断らないと……)
「どうしたの?♪ 次はオイルマッサージだから、もうタオルはいらないよね」
こちらの葛藤を嘲笑うかのように、白石さんは軽やかな声でそう言うと、自ら手を伸ばして腰にかけられていた大きなバスタオルをサッと取り払ってしまった。
「あ……っ!」
隠されていた光景が一気に露わになる。
間接照明の橙色の光を浴びて、彼女の滑らかな背中から、キュッと引き締まった腰、そして豊満で丸みのあるお尻から脚にかけてのラインが、何一つ遮るものなく視界に飛び込んできた。
俺は動揺を隠すように必死で視線を上へと逸らし、なるべく余計な部分を見ないようにしながら、手元に置かれたオイルのボトルを手に取った。
震える手で手のひらにオイルを注ぎ、それを温めるように擦り合わせる。そして、息を呑みながら、白石さんの太ももの裏側へと手を滑らせた。
トロリとしたオイルが彼女の肌に広がっていく。
下から上へと、揉み上げるようにぐーっと奥まで力を込めて筋肉をほぐしていく。手に伝わってくるのは、女性特有の吸い付くような肌の柔らかさと、皮膚のすぐ下に感じる温かい肉の弾力だ。居酒屋のジョッキを運ぶ手とは全く違う、生々しい触感に、指先から背筋へと痺れるような感覚が駆け上がっていく。
「あー……そうそう♪ それでさ、私、営業事務だけど外回りも多くて結構歩き回るから、お尻周りもすごく疲れてるの。鼠径部周りもしっかりお願いね?」
白石さんはうつ伏せのまま、吐息混じりの声で注文を出してきた。
(鼠径部……お尻……)
少しずつ、だが確実に露骨で危険な部位へのマッサージを要求されている。俺の頭の中で危険信号が点滅する。けれど、「まだマッサージの延長線上だ……これくらいなら大丈夫かもしれない」と自分に都合の良い言い訳を言い聞かせてしまった。
俺は開かれた足の奥へ視線が行かないよう、必死に親指に重心を置き、お尻の大きな筋肉を外側から内側へと揉み込んでいった。
指が沈み込むたび、むっちりとしたお尻の肉が形を変える。大人の女性の身体をこうして直接両手で揉み揉みとマッサージしているという事実に、喉の奥がカラカラに乾き、心臓の鼓動が耳元でうるさく跳ね跳ねた。
「いいねー♪ すごい癒されるなぁ……。じゃあさ、そろそろ鼠径部周りもやってほしいから、カエル足お願いね?」
白石さんがそう言った瞬間、俺は冷や汗が背中を伝うのを感じた。
過激な部分へ、どんどん近づいていく。
それ以上に恐ろしいのは、気づけば全て白石さんの指示通りに施術が進められており、彼女の思うままのハイペースに巻き込まれていることだった。
このペースで流されたら、この後控えている四つん這いや仰向けの施術に大半の時間を奪われ、決定的な局面まで一気に追い詰められてしまう。
(ダメだ、このままじゃ……!)
俺は必死にブレーキをかけようと、擦り切れた声で言葉を絞り出した。
「こ、このままですと……時間が余ってしまうので……もう少しだけ、お尻のマッサージを続けますね……」
「えー? いいのに♪ でも、丁寧にやろうとしてくれてありがとね」
白石さんはくすりと笑い、あっさりと俺の提案を受け入れた。
俺はほっと胸を撫で下ろし、「丁寧さ」を言い訳にして時間を稼ぐことに決めた。なるべくゆっくりと、時間をかけてお尻のコリをほぐしていく。彼女のペースを乱し、時間を稼ぐことが、今の俺にできる唯一の防衛策だった。
時間をかけ、十分にお尻をほぐし終えた後、俺は覚悟を決めて口を開いた。
「じゃあ……カエル足、お願いします……」
「はーい♪」
白石さんは軽い返事とともに、右脚を横へと大きく曲げ、膝を折りたたむように開いた。
何も履いていない下半身の右側が、完全に開放される。
ぽっかりと剥き出しになった大事な部位の存在感に、一瞬で視線を奪われそうになる。俺は必死で意識を逸らし、彼女のお尻とベッドの間にできたわずかな隙間へと手を滑り込ませた。
鼠径部――太ももの付け根から股関節にかけてのリンパを流すマッサージ。
手のひら全体を密着させ、下から上へと優しく撫で上げていく。
だが、慣れない施術と尋常じゃない緊張のせいで、指先が微妙に狂う。滑らせた手のひらの端や指先が、ほんの少しだけ、彼女の一番繊細な中心部の近くをかすめてしまった。
「んっ……」
白石さんの口から、小さく可憐な艶っぽい声が漏れる。
その反応に俺の心臓は飛び出しそうになり、指先が跳ねるように強張った。
「す、すみません……!」
「ううん、気にしないで……続けて?」
試すような白石さんの声に背中を押され、俺は冷や汗を流しながら、なんとか右足と左足のカエル足施術を終えた。
「じゃあ次は、四つん這いになってもらってもいいですか……?」
「はーい♪」
白石さんはベッドの上で身を起こすと、そのまま四つん潰いの姿勢をとった。
目の前に、丸く豊かなお尻が、まるで突き出されるような格好で向けられる。無防備に開かれた太ももの間から、奥の光景が覗いている。
(うっ……これは、効く……)
圧倒的な視覚的毒性に圧倒されつつも、俺は開かれた足間に正座するように座り直した。手のひらにたっぷりとオイルを垂らし、お尻の肉を下からすくい上げるようにして揉み込んでいく。さらにお尻の脇から太ももの裏、無防備に開かれた足の間、周りから鼠径部周りを触れていった。
ふと、ベッドのすぐ横に配置されている大きな全身鏡に視線が吸い寄せられた。
鏡には、四つん這いになった白石さんの身体の側面のシルエットがはっきりと映し出されていた。
キュッと引き締まったウエストから、豊満で丸く突き出されたお尻への美しく艶やかな曲線。そして何より目を奪われたのは、彼女の胸元だった。
小さめの紙ブラジャーを身につけてはいるものの、四つん這いになったことで重力に逆らえず、ポタリと下に垂れ下がっている豊満な胸。その重みと柔らかさを想像させる生々しいシルエットが、薄暗い部屋の光の中に浮かび上がっていた。女性特有の肉感的な体の美しさに、息を呑んで見入ってしまう。
その時だった。
鏡の中で、白石さんの瞳と俺の視線が、カチリとまっすぐにぶつかった。
(あ……!)
彼女は俺が鏡越しに自分の体や垂れた胸を盗み見していたことに気づいていた。逃げ場のない鏡越しで、白石さんはすべてを見抜いているかのように、口元を妖しく歪めて誘惑するようにニヤリと微笑んだ。
その笑みに俺の動揺は頂点に達し、顔が爆発しそうに熱くなった。
「あー……いいね……すごく気持ちいいよ……。それでさ、お腹の横あたりから手を入れて、お腹周りとか、おっぱいの方もしっかりマッサージしてね?」
四つん這いの姿勢のまま、白石さんが背中越しに囁く。
神崎さんとの研修で言われた手順が頭をよぎった。俺は膝立ちの中腰になり、片手で彼女の太ももや鼠径部を支えながら、もう片方の手を彼女のお腹の下へと滑り込ませた。
滑らかな腹部の肌を滑り、そのまま上へと手を押し上げていく。
手持ちの布地で収まりきらないほどの豊かな胸の重みが、俺の手のひらにズシリと乗っかる。柔らかい果実を包み込むように、お腹から胸へと撫で上げ、優しく揉みほぐした。
「んふふ……いいよいいよー。じゃあ、そろそろ仰向けかな♪」
白石さんが体勢を変えようと身を翻した瞬間、俺の緊張感はピークに達した。
(ついに来た……!)
神崎さんとの研修の際、仰向けになった彼女から強引に本番を迫られた記憶が鮮明に蘇る。
これからが、一番危険な時間帯だ。
仰向けになった白石さんは、横に座った俺に対して薄暗い部屋の中で艶やかな笑みを浮かべていた。
上には小さめの紙ブラジャーを身につけているものの、下半身は完全に全裸のままだ。
彼女は俺の顔をじっと見つめると、唐突に右手を持ち上げた。
「じゃあさ、もうそろそろこれしちゃおっか♪」
と言いながら、中指と薬指をそろえて、クイ、クイとこちらを招くような、露骨で怪しげなジェスチャーを作ってみせた。
女性経験が豊富とは言えない俺であっても、そのジェスチャーが何を意味しているか、嫌というほど理解できた。直接的な性的サービスを求める合図だ。
「い、いえ……そういうサービスは、ちょっと……」
俺がはっきりと拒絶の言葉を口にすると、白石さんの表情から一瞬で柔らかさが消えた。
彼女はスッと手を伸ばすと、俺の手首を強い力で掴み、そのまま自分の豊満な胸の上にぐっと押し当ててきた。
手のひらに伝わる、ダイレクトな胸の熱と鼓動。
「ねえ、コウ君さ」
白石さんの声のトーンが、低く、大人の女の生々しいものへと変化する。
「さっきから私の体見て、興奮してるのバレバレなんだよ?
私だって、もう我慢できないんだからさ……本番まではしなくてもいいから、ちゃちゃっとやっちゃってよ。お金も追加で払ってあげる。3000円とかでどう?」
目の前に広がる圧倒的な誘惑。
脳が「3000円追加」「ちょっとくらいなら」と甘い声で囁き、踏み留まろうとする理性を強力に揺さぶってくる。グラグラと足元が崩れそうになる感覚。
だが、俺は歯を食いしばり、必死で踏みとどまった。
「だ……ダメです。そういうのはできません……。でも……少しくらいなら、触ってきてもいいので……マッサージだけにさせてください……!」
自分が差し出せる限界ギリギリの妥協案を、震える声で差し出す。
部屋の中に、重苦しい沈黙が落ちた。
白石さんは真顔のまま、じっと俺の目を見つめ続けている。怒らせてしまっただろうか、それとも通報されたり店にクレームを入れられたりするのだろうか。冷や汗が全身から吹き出し、息が詰まりそうになった。
その時――
「あはは! うん、大丈夫そうだね♪」
白石さんが突然、弾けるような笑顔を浮かべて手を放した。
「え……?」
呆然とする俺の前で、彼女はベッドの上でくすくすと楽しそうに笑っている。
「ごめんごめん! 実はね、私、ここに来る前に店長さんと電話で話していてさ。『新人の男の子が入るんだけど、すごく気が弱い子だから、ちゃんと嫌なことを断れるかどうかテストしてあげて』って頼まれていたんだよね」
「え……て、店長が……!?」
「そうそう。だから今の、全部冗談! 試すようなことしてごめんね? ちょっと詰めすぎちゃったし、強引に触らせちゃって怖かったでしょ?」
白石さんは申し訳なさそうに眉を下げて、俺の顔を覗き込んできた。
その言葉を聞いた瞬間、俺の全身から一気に力が抜け落ちた。
恐怖と緊張でガチガチになっていた身体に、温かい安堵感が広がっていく。
「よ……よかった……! 本当に、びっくりしましたよ……!」
「あはは、本当ごめんって! でも、ちゃんと断れて偉かったよ。合格!」
白石さんは爽やかに笑うと、「とりあえず余った時間は、接客のコツとか他のマッサージのやり方を教えてあげるからさ」と言って、再びうつ伏せになってくれた。
そこからの時間は、まさに夢のような平和さだった。
白石さんは最初の上品で朗らかな「頼れるお姉さん」に戻り、接客中に客の心を掴む会話のコツや、押しが強い客へのあしらい方、疲れに効くツボの位置などを丁寧に教えてくれた。俺も必死でメモを取るように彼女の言葉を聞き、真面目に施術を続けた。
ピピピ、ピピピ。
室内にお知らせのタイマー音が鳴り響いた。
「あ……お時間です。それじゃあ、シャワーを浴びてもらってもいいでしょうか?」
俺は立ち上がり、脱衣かごから新しいバスタオルを取って彼女に差し出した。
「うん♪ コウ君もお疲れ様~! いやぁ、めちゃくちゃ癒されちゃったよ。ありがとね」
白石さんはバスタオルを身体に巻きつけると、満足そうに微笑んだ。
「いえいえ……こちらこそ、色々と教えていただいて、本当に勉強になりました。ありがとうございます」
俺が心からの感謝を込めて頭を下げ、油断しきっていた、その瞬間だった。
背後から、ぬくもりのある柔らかな身体が、ぬるりと俺の背中に密着してきた。
「っ!?」
白石さんが後ろから俺の胴体に腕を回し、ぎゅっと抱きついてきたのだ。
背中に押し当てられる豊かな胸の感触。上が全裸でブーメランパンツ一丁の俺の肌に、彼女の温かい体温がダイレクトに伝わってくる。
「でーもさぁ……ちょっと気になるんだけど?」
超至近距離。俺の耳元に、彼女の甘く湿った声が吹き込まれる。
「私の体に、すっごく興奮してたのは……事実だよねぇ?」
「あ……そ、それは……!」
体が完全にフリーズした。
言い訳の言葉すら出てこない。
「それにさぁ……『少しくらいなら触ってきてもいい』なんて言ってたよね?」
白石さんの手が、俺のお腹から胸元へと滑り、肌を撫でまわすように上がってくる。
「ダメだよ? そんなこと言ったら、本当に変な客に襲われちゃうんだから。気をつけないとね?」
「は……はい……気をつけます……」
「ふふ、良い子♪ それじゃ、シャワー浴びてくるねー」
白石さんは満足したように身体を離すと、クスッと笑って軽い足取りでバスルームへと向かっていった。
パタン、とドアが閉まる。
残された俺は、強烈な気疲れと嵐のような感情の渦に呑まれ、その場にしばらく呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
◇
それから十分後。
着替えを終えた白石さんが、玄関のドアの前に立っていた。
私服のブラウスとタイトスカートに戻った彼女は、どこからどう見ても品のある綺麗な会社員そのものだった。
「じゃあ、ありがとねー♪」
笑顔で手を振る彼女を見て、俺は何とか無事に送り出しまで漕ぎ着けたのだと、心からホッとしていた。
「こちらこそ、本当にありがとうございました。お気をつけてお帰りください」
深々と頭を下げた俺に、白石さんは玄関を出る直前、ふと足を止めた。
そして、「はい♪」と可愛らしく両腕を大きく広げて見せた。ハグを要求するジェスチャーだ。
(……最後まで油断できないな……)
今までのイタズラやセクハラを思い出し、少し警戒しながらも、俺はおずおずと彼女の胸の中に収まった。服越しとはいえ、彼女の豊かな胸の柔らかさが伝わってくる。
「今日は本当にごめんね。怖がらせちゃって」
白石さんは優しく俺の背中を撫でながら、耳元で語りかけてきた。
「ねえ……またコウ君のこと、指名してもいいかな……?」
「も、もちろんです! また色々教えてくださいね」
俺が素直に答えると、白石さんは俺の肩を少し引き離し、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ふふ、ありがとう」
彼女は顔を近づけると、声を潜めて囁いた。
「次はフルオプションでさ……もっと色々、楽しいことしようね……?」
「え……」
固まる俺の頬に、チュッと軽やかで温かい唇の感触が残された。
「じゃあねー♪」
白石さんはひらひらと手を振りながら、今度こそ軽快な足取りでマンションの廊下へと去っていった。
カチャン、と重いドアが閉まり、部屋に静寂が戻る。
残された俺は、頬に残る濡れたような感触と、耳元に残る妖しい余韻に、ただただ立ち尽くしていた。
情緒を徹底的にかき乱され、頭の中はぐちゃぐちゃだ。
弄ばれた現実に対する敗北感。
極限まで煽られた、処理しきれない性的な興奮。
そして、なんとか一線を越えずに終えられたという安息感。
色々な感情が重く混ざり合う中で、俺は深く、深く息を吐き出した。
波乱に満ちた俺のメンズエステ初出勤は、こうして幕を閉じたのだった。